第142話 非殺生を意識しても身体は闘争を求めてるんだね

 戻って来た恭介を労った後、麗華はブリュンヒルデに乗ってレース会場に移動した。


『恭介君のレースを見て大はしゃぎだった麗華ちゃん、今日はどうするんだい?』


「一言余計なのよ。スカイスクレイパーに挑むわ。入場門を開いて」


『無理に非殺生ボーナスを狙わない方が良いと思うよ。麗華ちゃんなら欲張らずにさっさと撃つべきだ』


「考えておくわ」


 シミュレーターを使って予習もしているので、麗華はスカイスクレイパーがどんなコースなのかちゃんと理解している。


 それゆえ、フォルフォルの煽りに乗せられることなく入場門を通った。


 スカイスクレイパーは夜空に輝く星にも届きそうな高層ビル群が乱立するコースで、様々なギミックやモンスターがパイロットの邪魔をする。


 当然のことながら、レースに参戦する7機のゴーレムは全て黒金剛アダマンタイト製だ。


 その内訳はソロネが1機、ペンドラゴンとナイトシーカーが3機ずつだ。


 1位の位置に火属性のソロネ。


 2位~4位の位置にそれぞれ土属性、水属性、火属性のペンドラゴン。


 5位~7位の位置にそれぞれ風属性、水属性、土属性のナイトシーカー。


 (安全第一で完走しよう)


 麗華はそんなことを思いつつ、8位のスタート位置までブリュンヒルデを移動させる。


 その直後にレース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 ブリュンヒルデのスペックをもってすれば、スタートダッシュで1位になるのは容易い。


 しかし、ソロネが後ろから追いかけて来て、三対の翼の銃でブリュンヒルデに相性が良い火属性の銃弾を連射する。


 ブリュンヒルデの腰の両側にある2つずつのビットが展開し、三角錐のエネルギーバリアが形成される。


 このバリアに守られている以上、エネルギー切れになるかビットが破壊されない限りブリュンヒルデに攻撃は当たらない。


 ソロネは無駄弾を撃ち続ける内に、その後方からペンドラゴンとナイトシーカーが接近し、攻撃を仕掛けられる。


 無数の目玉模様の車輪をモチーフにした盾が両手に備え付けられていることから、その盾が後ろからの攻撃を防いでくれる。


 1位のブリュンヒルデを狙うには自分を狙う連中が邪魔なため、ソロネは三対の翼の銃で3位以下のゴーレムにターゲットを変えて攻撃し始めた。


 その隙に麗華はトップスピードに入ってスカイスクレイパーを進む。


 ビルの窓ガラスを破って銃撃されても、トップスピードのブリュンヒルデには全く当たらない。


 警官を模したポリスマトンも慌てて射撃を開始するけれど、追尾せずに直進する銃弾なんてブリュンヒルデに当たるはずがないのだ。


 仮に当たったとしても、ビットが形成する三角錐のエネルギーバリアの中にいれば、ブリュンヒルデがダメージを受けることはない。


 麗華が2周目に入った途端、スカイスクレイパー全体が停電して暗くなる。


 誰かが2周目に入った時にそうなる仕様であり、決してイレギュラーな事態ではない。


 2周目は星の光だけが光源になるため、1周目に比べて視界が悪くなることが決まっているのだ。


 更に赤外線のセンサーが張り巡らされ、それに触れたゴーレムがいるとスカイスクレイパーの迎撃ギミックの難易度が跳ね上がる。


 (エネルギーバリアがあれば大丈夫なはず)


 過信するのは良くないけれど、ブリュンヒルデにあって他のゴーレムにないのがエネルギーバリアである。


 集中して操縦すれば掻い潜って進むこともできなくもないが、それをやると疲れるから麗華は赤外線センサーに触れても構わず直進した。


 その瞬間、スカイスクレイパー全体に警報が轟き、コース内にいる全てのゴーレムに数の暴力と表現すべき銃弾が放たれる。


 麗華はエネルギーバリアがあるから弾丸を防げるけれど、それ以外のゴーレム達にとっては大問題だ。


 2周目を終えるまでの間に、ペンドラゴン3機とナイトシーカー3機が蜂の巣にされた姿で見つかっており、残るは麗華のブリュンヒルデとソロネだけになった。


 ソロネにも両手に盾はあるが、それによって防ぐにも限りがあるだろう。


 3周目に麗華が突入したことで、スカイスクレイパーの難易度が更に上がる。


 スカイスクレイパー上空に夜空を覆い尽くす程の大型戦艦がやって来て、地上に向かって無差別に爆弾を投下し始める。


 ギミックによる攻撃があまりにも多いせいで、3周目はゴーレムの走行を妨害する役割のポリスマトンまで容赦なく巻き添えにされている。


 (ソロネが見つからないわね)


 恭介がスカイスクレイパーに挑んだ時は、ソロネは慎重に赤外線センサーを避けながら飛んでいた。


 シミュレーターでのレースにおいても同様だったため、全然その背中が見つからないことに麗華は困惑した。


 (まさか、今回に限って大胆なパイロットが乗り込んでるの?)


 麗華と同様に赤外線センサーなんて関係ないと考え、ソロネのパイロットが突っ切る選択をしたとすれば、ソロネの背中が見えないのも頷ける。


 まだ3周目は半分以上残っているから、麗華はブリュンヒルデのトップスピードを維持してソロネを周回遅れにしようと先を急いだ。


 巨大戦艦からの砲撃に加え、ビルからの銃撃も麗華を攻撃するが、エネルギーバリアが上手く機能してそれらの攻撃を防いでいる。


 残り4分の1というところで、ようやくソロネの背中が見えて来た。


 ソロネはブリュンヒルデが接近して来たことに気づくと、向きを反転してブリュンヒルデに突撃し始める。


「えっ、逆走!?」


 よく見るとソロネは全体的にダメージを負っており、巨大戦艦からの砲撃とビルからの銃撃に耐え切ってあと1周するのは厳しそうだった。


 それが理由なのか、ソロネはせめてブリュンヒルデを道連れにしてやろうと考えて自爆特攻をするに至ったのである。


「冗談じゃないわ!」


 ソロネと心中なんて絶対に嫌だから、麗華はエネルギーバリアを展開したままソロネにぶつかって撥ね飛ばした。


 エネルギーバリア自体に殺傷能力はないが、トップスピードのブリュンヒルデを守るように展開されているエネルギーバリアに触れてソロネがただで済むはずないだろう。


 撥ね飛ばされたソロネは、背中から地面に着いた瞬間を狙われて砲撃と銃撃の的になり、麗華が追い抜いた時には動かぬ残骸になり果てていた。


 これでもう、麗華を脅かすものはギミック以外に何もない。


 麗華がゴールした直後にアナウンスがその耳に届き始める。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ブリュンヒルデだぁぁぁぁぁ!』


 ゴールした麗華は急いでレース会場前まで脱出し、それからモニターに映し出されたレーススコアをチェックする。



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レーススコア(ソロプレイ・スカイスクレイパー)

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走行タイム:31分1秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:1 回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×50

ぶっちぎりボーナス:武器合成キット

デイリークエストボーナス:50万ゴールド

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv16(stay)

コメント:非殺生を意識しても身体は闘争を求めてるんだね

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「邪魔者を撥ね飛ばしただけよ。別に身体が闘争を求めてる訳じゃないわ」


『そうだったね。麗華ちゃんが求めてるのは恭介さんの体だもんね』


「黙りなさい」


『あっはい』


 これ以上からかうと麗華がマジギレすると判断し、フォルフォルはモニターから姿を消した。


 レース会場から瑞穂に帰還すると、麗華は恭介に出迎えてもらえた。


 コックピットから出て恭介に抱き着いた時、麗華はフォルフォルに言われたことを思い出してムッとした表情になった。


「麗華、大丈夫か?」


「大丈夫! 大丈夫だから!」


 私は卑しい女じゃないんだと心の中で自分に言い聞かせ、麗華は深呼吸して冷静になった。

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