第138話 ゴーレム、売るよ!

 恭介達がコロシアムのマルチプレイ5連戦をしていた頃、沙耶と晶はタワーの13階層に挑んでいた。


 3期パイロットに舐められたらメンターの役割が務まらないため、沙耶達もまだ彼等には追いつかれないとアピールしているのだ。


 既に11階層と12階層は踏破しており、宝箱もしっかりと獲得済みだ。


 13階層は湿地帯をイメージした階層であり、偽りの空が天井を塗り潰していて天井との距離感がわかりにくくなっている。


 それだけでなく、地面の泥濘のせいで陸を進むゴーレムは動きを阻害する仕様だから、空を飛べないゴーレムに乗る沙耶と晶は泥濘による行動阻害の影響を受けない。


 天井の高さにだけ気を付ければ問題ない。


 沙耶達の進路妨害をするべく現れたのは、槍を持ったリザードマンの群れだった。


 リザードマン自体に属性はないけれど、持っている槍の色が個体によって赤青黄緑の4色に分かれており、それが対応する属性になっている。


『赤いのと緑色は任せて』


「わかりました。青と黄色は私がやります」


 晶から役割分担を告げられ、沙耶は自分が引き受けるべき敵をデルピュネの尻尾の蛇腹剣でサクサク倒した。


 自分のノルマを倒し終えた晶が羨ましがる。


『良いなぁ。デルピュネ良いなぁ』


「晶さんもこっちに残れば良かったんですよ」


『ほんとそれな。お偉方にちやほやされて圧をかけられるぐらいなら、こっちに残ってた方が良かったよ。ホームもリセットされちゃったし』


「こちらはとっても快適です」


『それが一番羨ましい』


 晶は前回のデスゲームが終わった後、さっさと日本に戻ったことを後悔していた。


 GBO時代は自分よりも優れたパイロットだった3期パイロットのメンターをしており、オフの時間を寛ぐにはホームの設備が物足りないのだ。


 その点、沙耶は恭介と麗華のお世話になっていたから、今も充実した設備で暮らせている。


 この差の大きさは日を追うごとに羨ましくなるだろう。


 雑談をしながら現れるリザードマンを倒していくと、泥の中から黄色い巨大蜥蜴が姿を現した。


 蜥蜴の背中にはあらゆる草が生えており、空を飛んでいるデルピュネとリャナンシーに並々ならぬ怒りを込めた視線を向けている。


 ウィードランは泥濘に足を取られたゴーレムを空中にかち上げ、落ちてきたところを尻尾のスイングで吹き飛ばすのが得意である。


 しかし、デルピュネもリャナンシーも空を飛んでおり、得意とする攻撃パターンを使えないから怒っているのだ。


「ここは私がやります」


『そだね。お願いするよ』


 水属性のリャナンシーでは、土属性のウィードランと属性的に相性が悪い。


 沙耶はウィードランを引き受けてすぐに接近する。


「ドラァ!」


 尻尾のスイングで叩き落とそうとするウィードランに対し、沙耶は鶏蛇斧槍コッカベルテでその尻尾を斬り落とした。


 痛みに泣き叫ぶウィードランの首を尻尾の蛇腹剣で斬り落とせば、ウィードランとの戦いは終了する。


『僕もリャナンシーを超えるゴーレムに乗りたいな。サーヤの戦いに置いてかれちゃうもん』


「先程の宝箱では設計図が当たりませんでしたからね。レースやコロシアムの報酬で狙うしかないんじゃないですか?」


『だよねー』


 晶のラックは人並みだけれど、こういう時に限って物欲センサーが仕事をするから先程の宝箱では木目鋼ダマスカスが50個出て来ただけで、強いゴーレムの設計図は手に入らなかったのだ。


 昇降機前でリザードマンバーサーカーをサクッと倒し、沙耶達は14階層に移動する。


 14階層は岩山の内装に変わったものの、偽りの空が天井を塗り潰していて天井との距離感がわかりにくいのは13階層と同じだ。


 晶は目の前にレッドオーガの群れが現れたのを見て、合成銃キメラガンで次々に倒していく。


『レッドオーガならじゃんじゃん来て良いよ』


「それでは私が戦えないじゃないですか」


『僕が守ってあげるよ、サーヤ姫』


 普段とは違うイケボで言う晶に対し、沙耶はジト目でマジレスする。


「私を守る騎士になりたいなら、兄さんぐらい強くなって下さい」


『恭介君と比較されたら誰だって勝てないよ。冗談のつもりで言ったのに』


「私、発言に責任を持たない人は好きになれません」


『グフッ…』


 父親が筧前首相という時点で、彼のような発言に重みを感じない人は沙耶にとって好きになれないのも仕方あるまい。


 道中で現れる4色のオーガを難なく倒していく内に、中央に宝箱がある広場に出た。


 その宝箱の前には、右半分が黄色くて左半分が緑のツインヘッドオーガが仁王立ちしていた。


「「ウォォォォォォォォォォ!」」


 ツインヘッドオーガは力強く吠え、両手に握る棍棒を振り上げて沙耶達に接近する。


『遅いよ』


 晶の放った2発の銃弾がツインヘッドオーガの両手に命中し、その痛みで2本の棍棒を落とした。


「その首、いただきます」


 沙耶はツインヘッドオーガに急接近し、鶏蛇斧槍コッカベルテを薙ぎ払うことで2つの頭を斬り落としてみせた。


 ドロップアイテムがコックピットのサイドポケットに転送されて来たため、沙耶は周囲に敵がいないことを確かめてから宝箱を開ける。


 12階層で見つけた宝箱は晶が開けたから、今回は沙耶の番なのだ。


 宝箱を開けた直後、サイドポケットには10万ゴールドと設計図が現れた。


「晶さん、設計図が手に入りました」


『なんの設計図!?』


「アイトワラスです」


『100万ゴールドで売ってくれない? 僕、アイトワラスが欲しい』


 GBOにおいて、アイトワラスとは翼を生やした猫型獣人型ゴーレムとして登場した。


 そのスペックはデルピュネに並び、尻尾は蛇腹剣ではないものの鞭になっている。


『ゴーレム、売るよ!』


「晶さん、アイトワラスの設計図を譲るのは構いません。100万ゴールドは要らないので、私が欲しい物を晶さんが手に入れたら私に譲ってくれるなら良いですよ」


『取引成立だね』


『あれー? 私は無視かい? フォルフォルは寂しいと泣いちゃうんだぞ?』


 ネタをぶっこんでも2人にスルーされてしまい、フォルフォルはスルーしないでくれと言外に訴えた。


「フォルフォル、煩いです。さっさと持ち場に戻りなさい」


『辛辣辛辣ゥ!』


 これ以上相手をしてもらえないと察したのか、フォルフォルはふざけてから姿を消した。


 15階層に続く昇降機前にはオーガシャーマンがいて、これはご機嫌な晶がさっさと倒してしまった。


『さあ、このまま15階層のデーモンもやっつけちゃおう』


「そうですね。行きましょうか」


 まだまだ余裕があったため、沙耶達はそのまま15階層に移動して2体のデーモンに挑む。


「ここが貴様等の墓場だ」


「出でよ下グェェェェェ!?」


 デーモン達が魔法陣を展開して11階層~15階層のモンスターを使用としたが、デルピュネの尻尾の蛇腹剣で片方の胴体をグルグル巻きにした。


 そのまま地面に叩きつけた後、沙耶は蛇腹剣を素早く引くことで片方のデーモンの上半身と下半身を真っ二つにした。


 もう片方のデーモンは相棒がやられたことにショックを受けたが、晶が合成銃キメラガンでガンガン撃って来るから配下となるモンスターの召喚に失敗した。


 飛び回って逃げている内に、ギフトを使った沙耶がそこに合流して残ったデーモンは一気に劣勢になる。


 逃げ道を次々に晶の銃撃によって潰され、最終的には沙耶が先読みして振った鶏蛇斧槍コッカベルテで首ちょんぱにされて力尽きた。


 戦利品回収をさっさと済ませ、昇降機で16階層に移動してから沙耶達は魔法陣でタワーを脱出した。


 それと同時に、タワー探索スコアが2人の乗るゴーレムのモニターに表示された。



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タワー探索スコア(マルチプレイ)

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踏破階層:11階層~15階層

モンスター討伐数:83体

協調性:◎

宝箱発見:○

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総合評価:S

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報酬:木目鋼ダマスカス100個

   100万ゴールド

   資源カード(食料)100×1枚

   資源カード(素材)100×1枚

宝箱発見ボーナス:魔石4種セット×60

デイリークエストボーナス:聖銀ミスリル60個

ギフト:未来幻視ヴィジョンLv11(up)

コメント:君達もなんだかんだで日本人だよね

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 (それはどういう意味で言ってるんでしょうか)


 フォルフォルのコメントを見て疑問に思ったが、沙耶はすぐに自分達が外国勢に比べてハイペースであることに気づいて納得した。


 そろそろ正午になる頃合いだったため、沙耶と晶は格納庫に帰還した。


 晶は格納庫に戻るや否や、自分の乗るゴーレムを木目鋼ダマスカス製のリャナンシーから聖銀ミスリル製のアイトワラスに変更するのだった。

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