第136話 狙い撃つわ

 ホームに来て31日目、恭介と麗華は朝食後に各々のゴーレムに乗ってコロシアムにやって来た。


『これはこれは、ほぼ全裸で情熱的なキスをかましたご両人じゃないですか~』


「『黙れゲスフォル』」


『あらあら息までぴったりで私はとっても嬉しいゲス』


「語尾なんとかしろ」


『粉々に吹き飛べば良いのに』


 恭介達から怒りしか込められていない視線を受け、フォルフォルはこれ以上2人をおちょくるのを止める。


『さて、今日はコロシアムだよね。デイリークエストは2連戦だけど、君達はどうせ5連戦でしょ。はい、どーぞ』


 フォルフォルはそう言いながら入場門を開き、やることはすべてやったと逃げるようにしてモニターから姿を消した。


「麗華、気持ちを切り替えて行こう」


『うん』


 深呼吸して気持ちを落ち着けた後、恭介と麗華はコロシアムの中に移動した。


 コロシアムの中心には緑色の蜻蛉型モンスターの群体が待ち構えていた。


「焼却!」


 虫嫌いな恭介はリュージュを機械竜形態に変形させ、ビームでそれらを焼き払った。


 この群体はタクティクスドラゴンフライというモンスターであり、全て倒し切らないと勝利したことにならない上、群体ゆえにフォーメーションを変えて柔軟な戦闘を行うことで知られている。


 しかし、個体ごとで見れば大して強くないから、属性的に相性の良い火属性のリュージュであれば、ビームを放って焼き払うだけでタクティクスドラゴンフライを倒せる。


 それゆえ、1戦目はあっという間に終わってしまった。


『恭介さん、落ち着いて。もう虫はいないよ』


「…そうか。見せ場を奪ってすまん」


『ううん、大丈夫。ここからが本番だもの』


 麗華は恭介に謝られ、それを気にしていないと告げた。


 恭介が虫嫌いであることに理解があるから、麗華は元々1戦目で出番はほとんどないと予想していたのだ。


 2戦目の相手として現れたのは、大きな青色の魔導書だった。


 これはバトルグリモアというモンスターであり、敵に対して有利な属性に変化して魔法攻撃を使う特性を持つ。


 今回は恭介がタクティクスドラゴンフライを独力で倒したことにより、リュージュに対して有利な水属性の状態で現れたようだ。


「今回は麗華に譲る」


 そう言って恭介はゴーレムチェンジャーを使い、リュージュからナグルファルに乗り換えた。


 バトルグリモアはそれを察して黄色の土属性に変わる。


 狙いはあくまで恭介の乗るゴーレムらしい。


 だが、それこそが恭介の狙いだった。


 風属性のブリュンヒルデは土属性のモンスターに対して相性が良いから、麗華はニッコリと笑う。


『ありがとう。試し撃ちさせてもらうね』


 四対の翼の銃と切替竜銃スイッチドラガンから合計9本のビームを放ち、それが土属性になったバトルグリモアに全て命中する。


 効果は抜群だから、バトルグリモアは全身がボロボロに崩れてそのまま光になって消えた。


『やだー、連続で一人一殺じゃないですかー』


 モニターに現れたフォルフォルは両手を頬に当てて戦慄しているけれど、恭介も麗華もそれを放置して次のモンスターの出現を待つ。


 すぐに3体目のモンスターであるデモニックブレードが現れた。


 デモニックブレードとは、悪魔の翼を模った大剣の見た目をしており、柄の中心にぎょろりとした目玉が埋め込まれている。


 自身が出現するのと同時に魔法陣を展開し、デモニックブレードはそこから無数の剣を召喚する。


 それからすぐに召喚した全ての剣を鎧のように纏い、集合することで巨大な大剣になってみせた。


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はナグルファルのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


「俺がデモニックブレードを剥き出しにする」


『私がそれを狙い撃てば良いのね。了解』


 手短に作戦を決めたら、恭介はラストリゾートをビームランチャーに変形させてビームを薙ぐように放つ。


 群体あるいはそれに類する特性を持つモンスターの場合、個体に注目すると大したことはない。


 したがって、恭介のビームでどんどん召喚した剣が消えてしまい、あっさりとデモニックブレードが剥き出しになる。


『狙い撃つわ』


 四対の翼の銃と切替竜銃スイッチドラガンから合計9本のビームで狙撃し、デモニックブレードの目玉が破壊される。


 その瞬間、デモニックブレードが纏っていた剣がボロボロと剥がれて地面に落ちていく。


「とどめは任せろ」


 大ダメージを与えたのは間違いないが、まだ倒し切れていないとわかったため、恭介はラストリゾートをビームソードに変形させてデモニックブレードを真っ二つに斬った。


 デモニックブレードに再生する特性なんてなかったから、そのまま光の粒子になって消えてしまった。


 3戦目も順調に終わり、次のモンスターがコロシアム上空に現れる。


 それは三つ首のワイバーンだった。


『ギフト発動。トリニティワイバーン死すべし。慈悲はない』


 恭介が止める暇もなく、四対の翼の銃と切替竜銃スイッチドラガンから強化された9本のビームがトリニティワイバーンの全ての頭と両翼、胴体を撃ち抜いた。


 (昨日のことがよっぽど恥ずかしかったらしい)


 ワイバーンの肉によって大胆なことをしてしまった麗華としては、ワイバーンと聞いてカッとなってしまったようだ。


 ブリュンヒルデの高いスペックと金力変換マネーイズパワーが掛け合わさり、トリニティワイバーンは見せ場らしい見せ場もなく退場する羽目になった。


『あァァァんまりだァァアァ』


「『煩い』」


『あっはい』


 泣き叫んでいたはずのフォルフォルだったが、恭介と麗華に冷たく注意されておとなしくモニターから消えた。


 果敢にチャレンジすることは良いことだが、それが他者の邪魔になることならば自粛してほしいものである。


 トリニティワイバーンが消え、5連戦最後のモンスターがコロシアムに現れる。


 それは巨大な青い出目金と呼ぶべき見た目のくせに、トリニティワイバーンと同様にコロシアムの上空に現れた。


 (あれがデメムートか。見た目だけで言えば弱そうに見えるんだがな)


 図体ばかりの出目金ならば、大して強くなさそうである。


 そんなイメージを払拭するように、デメムートは大きく口を開けてドラキオンとブリュンヒルデを吸い込み始める。


「やらせるか!」


『食べられる訳にはいかないわ!』


 恭介はラストリゾートをガトリングガンに変形させて連射し始め、麗華は9本のビームを放った。


 それら全てが凄まじい吸引力によってデメムートの口内に吸い込まれる。


 ところが、相性の悪いドラキオンの銃弾を飲み込んだせいでデメムートの顔色が悪くなり、その動きがぴたりと止まった。


「今だ!」


『私達のターン!』


 恭介達の攻撃がデメムートの全身に命中し、空中で姿勢を制御できなくなったデメムートは地面に墜落した。


 落下ダメージでヒクヒクしているデメムートに対し、恭介は容赦なく接近して大太刀に変えたラストリゾートで一刀両断した。


 デメムートの体が光になって消えたため、5連戦は終わりを迎えた。


 ドラキオンのモニターにコロシアムバトルスコアが表示され、恭介はそれを確認し始める。



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コロシアムバトルスコア(マルチプレイ)

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討伐対象:①タクティクスドラゴンフライ②バトルグリモア

     ③デモニックブレード④トリニティワイバーン

     ⑤デメムート

部位破壊:①全個体②全身③目④頭(全て)/翼(左右)

     ⑤目(左右)/鰓/鰭(左右)/尾鰭

討伐タイム:18分34秒

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総合評価:S

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報酬:100万ゴールド

   資源カード(食料)100×10枚

   資源カード(素材)100×10枚

ファーストキルボーナス:設計図合成キット

            アップデート無料チケット(医務室)

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

デイリークエストボーナス:黒金剛アダマンタイト×60

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv26(up)

コメント:なんでこの5連戦を20分かけずに戦ってるの? おかしいよ

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 (できるんだから仕方ないだろうが。そんなことよりボーナスが気になる)


 恭介はキャプテンプログラムの説明を読み、こんなものまで手に入るのかと驚いた。


『恭介さん、ギフトがレベルアップしたよ。それとトレーニングルームのアップデート無料チケットもゲットした』


「俺もギフトがレベルアップしたぞ。こっちは医務室のチケットだ。設備がどんどん充実するのは良いことだな」


『そうだね。早く帰ってアップデートしよう』


「そうしよう」


 恭介はギフトを解除した後、麗華と共に格納庫に帰還した。

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