第135話 良いじゃん! 欲望を解き放って合体しちゃいなYO!

 恭介がランダム設計図を取り出すと、それはディーヴァの設計図に変化していた。


「ディーヴァ! これならセラフと合成できるぞ!」


「やった~! 流石恭介さん!」


 セラフとディーヴァの合成について、恭介と麗華はホームに来るまで知らなかった。


 その合成の組み合わせを教えたのは沙耶である。


 彼女はGBOにおいて検証班だったから、GBOをプレイしているパイロットの中でも収拾した情報量はトップクラスだ。


 もっとも、沙耶を上回る情報を持つのが歩くデータベースなのだが。


 それはさておき、麗華はディーヴァの設計図を受け取り、格納庫に移動してから設計図合成キットを使用した。


 セラフとディーヴァの設計図が合成され、ブリュンヒルデの設計図が完成する。


 完成した設計図をコックピットに挿入すれば、麗華の乗っている機体がブリュンヒルデに変わった。


 6枚から8枚に増えた翼はビームと実弾を切り替えて撃てるようになり、衛星のようにセラフを守っていた盾は腰の両側に2つずつのビットへと変わった。


 4つのビットはそれぞれがエネルギーバリアを発生させる盾になる上、三角錐のエネルギーフィールドを形成して全方位の攻撃を守ることもできる。


 普段は衛星のように機体の周りを回らせても良いし、省エネのために腰に付けたままでも良い。


 スピードもセラフより上がっており、総合的に見ればドラキオンまであと少しという評価のゴーレムだ。


 単機で考えてみると、リュージュやナグルファル、タラリアに勝るスペックだと言えるだろう。


 コックピットから出て来た麗華はとても満足した表情だった。


「明日に備えてシミュレーターを使ってみるか?」


「うん!」


 まだ夕食まで時間があったため、恭介は明日挑む予定のコロシアムの予習も兼ねて私室でシミュレーターを使う提案をした。


 麗華もブリュンヒルデのスペックが気になっていたため、恭介の提案に満面の笑みで頷いた。


 夕食の時間までシミュレーションしてから、恭介と麗華は食堂に移動した。


 そこには既に疲れた表情の沙耶がいた。


「沙耶、大丈夫か?」


「…兄さん、それに麗華さんもお疲れ様です」


「いや、お疲れなのはどう見ても沙耶だろ」


「そうですよ。何があったんですか? まさか、等々力さんに嫌がらせされたんですか?」


 (麗華さんや、等々力さんを警戒するのはわかるけど決めつけは良くないぞ)


 ここで麗華に注意すれば、麗華にどっちの味方なんだと言われそうなので恭介は抱いた感想を心の中に留めた。


「嫌がらせはされてません。3期パイロットの熱量がすごくて、それにてられて疲れてしまったんです。GBOではパイロットスキルで彼等に負けてましたから、すぐに追い抜いてみせると言わんばかりにコンテンツをやり込んでます。それに負けないようにと晶さんとコロシアム5連戦にチャレンジしたり、レースや宝探しにも挑みました」


「3期パイロットは名の売れた連中だもんな。でも、自分のペースを見失わないようにな。メンターが悪い手本を見せたら舐められる」


「無理は禁物です。とりあえず、豪華なディナーでも食べて元気を出して下さい。今日は面白い食材を手に入れましたから」


「面白い食材ですか? 一体なんでしょう?」


 首を傾げる沙耶に対し、恭介達はワイバーンとアンピプテラの肉を手に入れたことを話した。


 沙耶もゲームをやる人種ということで、人並みにモンスターの肉に興味があった。


 それゆえ、3人でワイバーンとアンピプテラのステーキセットを注文してみた。


 雑談してしばらく待っていたら、注文した料理が配膳ロボットによってテーブルに運ばれて来る。


「「「いただきます」」」


 まずは全員ワイバーンのステーキから口に運んだ。


「美味い。なんかこう、力が漲って来る味だ」


「美味しい! 元気出て来た!」


「…美味しいですね。疲れが取れて来ました」


 ワイバーンの肉には疲労回復効果があった。


 普通の肉じゃあり得ない程の即効性は、ファンタジー食材だからなのだろう。


 続いてアンピプテラのステーキもいただいてみる。


「ワイバーンよりもガツンと来る!」


「ご飯が進むね!」


「明日も頑張れそうです」


 疲れ度合いからすれば、沙耶が一番疲れているのか恭介と麗華に比べてテンションがまだ回復していなかった。


 それでも、ワイバーンの肉とアンピプテラの肉に満足しており、沙耶の顔には自然と笑みが浮かんでいた。


 どんどん会話が減り、3人共食べることに集中してしまった。


 蟹は人を無口にさせるなんて言うが、ワイバーンやアンピプテラも同類らしい。


 デザートまできっちり食べ、食休みを終えてから恭介達はそれぞれの私室に戻った。


 恭介達がステーキセットを食べている時、実はフォルフォルが食堂のモニターに無言でニヤニヤしていた。


 それに気づいていれば、恭介はこの後ピンチに陥ることはなかった。


 ピンチになったのは、恭介が風呂に入っていた時のことだ。


 恭介も麗華も水着で混浴しているのだが、湯舟に浸かっている時に麗華が抱き着いて来たのである。


「ちょっ、麗華!?」


「恭介さん、なんだか体が熱いの」


「そりゃ風呂に入ってるから、いや、まさか…」


 恭介は素早く湯舟から立ち上がり、水を切ってから風呂場の外に出た。


「フォルフォル、お前の仕込みか」


『なんで平気そうな顔をしてるの!? 本来なら溜め込んでた欲望が表に出るはずなのに!』


「やはりお前の仕込みだったか」


『どゆこと!? くたくたに疲れてるんなら元気になるくらいで済むけど、そこまで疲れてなかったら欲望が理性に勝って行動に出るんだ!』


 狼狽するフォルフォルの声が聞こえた後、麗華が恭介の背後から抱き着く。


「恭介さ~ん、待ってよ~」


『そう、そうだよ! 麗華ちゃんの反応が普通なんだ! はっ、まさか!? 恭介君って不能なの!?』


「とりあえず、フォルフォルのせいだってことはよくわかった。余計なことすんじゃねえよ」


『良いじゃん! 欲望を解き放って合体しちゃいなYO!』


「失 せ ろ」


『あっはい』


 恭介の目が怖かったため、フォルフォルはモニターから姿を消した。


 麗華はまだ体が火照ったままらしく、恭介に抱き着いて頬擦りしている。


「恭介さ~ん、無視しないで~」


 (滋養強壮ってだけじゃないな。酔っ払ってる時に近い。ワイバーン肉は疲れた時以外禁止だな)


 アンピプテラの肉はもうなくなってしまったが、ワイバーンの肉はまだまだストックがある。


 麗華が正気に戻ったなら、恥ずかしさのあまり布団から出て来なくなるのではないかと恭介が心配する程の効果なのだから、そういう扱いになるのも当然だ。


 ここに来て、麗華は火照った感じから一転して泣き始めた。


「ぐすん、酷いわ。恭介さんってば、私に胸がないから女として意識してくれないんでしょ」


「違うんだ。麗華、風邪をひくから風呂に戻ろう」


 恭介は強引に体の向きを変え、麗華をお姫様抱っこして湯舟まで戻った。


 お姫様抱っこしてもらえたことが嬉しかったのか、麗華は静かになって恭介に体を預けた。


 湯舟に戻ったところでお姫様抱っこタイムは終わり、恭介と麗華は並んで浸かる。


 しばらく2人は無言だったが、麗華が冷静になったことに気づいて恭介は口を開く。


「あのな、俺は決して麗華を意識してない訳じゃない」


「…じゃあ、どうして手を出してくれないの? 私、ずっと待ってるんだよ?」


「麗華が悪いんじゃない。これは俺の問題なんだ」


「筧前首相とお義母様のこと?」


 恭介の口から自分の問題と聞いて、麗華はこれしか考えられないと思ったことを口にした。


「すまん。どうしても、俺から麗華に何かモーションをかけようとすると、どうにもブレーキがかかっちゃうんだ」


「わかった。だったらこうする」


 その瞬間、ズキュウウウンと何処からか音が聞こえるのと同時に麗華が恭介にキスをした。


 麗華は強引にキスをしたのである。


 恭介に拒絶されなかったとはいえ、無理矢理唇を奪ったのは事実だ。


 だからこそ、麗華はキスをした後に申し訳なさそうな顔になった。


「ごめんね。でも、私から恭介さんにモーションをかけるなら問題ないでしょ? これなら恭介さんは私に無理矢理迫ったことにはならないもの。ちょっとずつ慣れて、いつか恭介さんからキスしてほしいな」


「…ヘタレですまん。麗華の好意はわかってるはずなんだが」


「仕方ないよ。心の病気みたいなものだもの。恭介さんが私を助けてくれるように、私も恭介さんの心を助ける。だから、大船に乗ったつもりでいて良いよ」


「ありがとう」


 この日、恭介の心の問題は麗華によってほんの少しだが回復の兆しを見せた。

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