第128話 セラフより、ずっとはやい!!

 ホームに来て29日目、恭介は朝食後にリュージュに乗ってレース会場にやって来た。


『昨晩も混浴でお楽しみだったね。なんで手を出さないの?』


「しつこい。デプストンネルに行く。さっさと入場門を開け」


『は~い』


 フォルフォルは恭介に自分と話す意思がないと悟り、おとなしく入場門を開いた。


 恭介が麗華に手を出さない理由だが、手を出したら責任を取る覚悟を決めなければならないし、自分にはまだそんな覚悟がないからだ。


 筧前首相のせいで片親の家庭で育ったため、恭介には行為に伴う責任を果たせるのかすぐに覚悟は決められないのだろう。


 それはさておき、恭介はリュージュを操縦してデプストンネルに移動した。


 移動先には既に火属性のニンフ、風属性のプリンシパリティ、水属性のヨトゥン、土属性のスフィンクスが並んでいた。


 ヨトゥンだけが黒金剛アダマンタイト製であり、それ以外のゴーレムは聖銀ミスリル製だった。


 全員の準備が整ったため、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


『GO!』


 マーリンが操縦したゴーレムはこのレースにはいないので、5機のゴーレムの順位がシャッフルされることはなく、ドラキオンのスタートダッシュで恭介はすぐに1位になった。


 デプストンネルは透明度100%の海底トンネルだから、コースの外では水棲モンスター達がトンネルの中にいるゴーレムに気づいて興味を持ってついて来る。


 第4回代理戦争の時に外野として存在したモンスター達に比べ、今回のレースで姿を見せているモンスターの方が強いのは難易度が上がった証拠だろう。


 スタート時点では海水がトンネル内に入り込むことはないとはいえ、水中戦になったらどうするべきかと考えておかねばならないから、水族館にいる気分はとてもではないが味わえない。


 (前回のレースでは2周目から海水が流れ込んで来たよな)


 それならば1周目をさっさと終わらせ、2周目に入って他のゴーレムの邪魔をしようと恭介は10連続ヘアピンカーブを曲がり続けながら考えた。


 アクセルリングも順調に全て潜り抜け、ドラキオンが2周目に突入する。


 その瞬間、トンネルの天井、床、壁のあちこちから海水が流れ込み始める。


 (待て。流れ込む速度が速いぞ)


 ドラキオンは地面を走るゴーレムではないから問題ないが、第4回代理戦争の時に比べて海水の流れ込む速度は倍以上になっている。


 更に言えば、海水がどういう原理か進行方向の逆に流れているので、地面を走るゴーレムにとっては厳しい状況になったと言えよう。


 アングリーアングラーは前回も2周目から現れたが、前回は3周目から現れたドリルノーズシャークも2周目に現れたため、デプストンネルの難易度は一気に上がった。


 (この程度じゃ大した邪魔にはならないけどな)


 デンジャラスシティやスカイスクレイパー等のギミックが山盛りのコースに比べ、密度は大したことないから恭介は苦も無く進んで行く。


 10連続ヘアピンカーブに着くと、残骸になったニンフと水流に押し返されたスフィンクスがいて、恭介はそれを華麗に抜き去った。


 その先で全てのアクセルリングをくぐり抜けた先で、アクセルリングをくぐれなかったらしいヨトゥンを抜き去り、周回遅れにしていないのはプリンシパリティだけだ。


 ヨトゥンは後ろからドラキオンに攻撃するが、水流に足を取られて狙いが定まらなかった。


 結果として、ヨトゥンの攻撃は外れてデプストンネルの天井に命中した。


 それが原因で天井に罅が入り、デプストンネル内に入り込もうとする海水に耐え切れずヨトゥンが攻撃してしまった天井に穴が空いた。


 海水の流れる量が増え、恭介が3周目に入った時にはデプストンネルの半分近くが水没してしまった。


 (水中移動が可能なゴーレムにとっちゃホームだろうね。俺は違うけど)


 そんなことを思いつつ、恭介は前方から大群で飛び出すグサデプスを躱し続ける。


 グサデプスは深海に対応したグサダーツの進化先であり、流線型のボディはスピードを上乗せした突撃を実現させている。


 ドラキオンのスペックなら躱せるのだが、プリンシパリティでは厳しかったらしい。


 しばらく進んだ所で、恭介は蜂の巣になったプリンシパリティが後ろに流されていくのを見つけた。


 機体全体に罅が入っている訳ではなく、いくつもの穴だけが綺麗に空いていることから、グサデプスの突撃に無駄はなく一点集中を突き詰めていることがわかる。


 そのまま進んで10連続ヘアピンカーブを突破し、アクセルリングが見えて来た。


 (うわっ、アクセルリングがほとんど水没してるじゃん)


 アクセルリングの8割が水没しており、ドラキオンがくぐれそうなアクセルリングは残りの2割しかなかった。


 まさかアクセルリングをくぐるために水中に潜る訳にもいかないから、恭介は仕方なく水上にあるアクセルリングだけをくぐってゴールした。


 恭介がゴールすると同時にアナウンスが聞こえて来る。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 ゴールしてから水没したくないので、恭介は早々にレース会場前に移動して黄竜人機ドラキオンをキャンセルする。


 リュージュのコックピットに戻った後、モニターに表示されたレーススコアを確認し始める。



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レーススコア(ソロプレイ・デプストンネル)

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走行タイム:16分20秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:4人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×60

ぶっちぎりボーナス:エンディミオンの設計図

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv20(stay)

コメント:セラフより、ずっとはやい!!

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 (ずっと速いって言っても麗華のセラフは周回遅れにできないぞ?)


 残念ながら、恭介にはフォルフォルが言った元ネタが伝わらなかったようだ。


 コメントはさておき、今回恭介が手に入れたエンディミオンの設計図は密かに狙っていたアイテムだった。


 麗華と沙耶が格納庫に戻って来た恭介を労おうとしたが、ウキウキしていた恭介を見て先に作業をするよう促した。


 恭介は設計図合成キットを使い、イカロスとエンディミオンの設計図を合成してタラリアを完成させる。


 タラリアは翼の生えた騎士型ゴーレムであり、スピードだけならセラフに並ぶ。


 普段は一対の翼のように見せているが、実は二対の翼を収容しているので本来は三対の翼を持っている。


 セラフと同様に三対の翼には銃が内蔵されており、タラリアに近接武器を持たせれば遠距離でも近距離でも戦える。


 続いて、恭介は武器合成チケットを使い、首無大鎌デュラハンデスサイズ観測魔銃ラプラスガンを合成した。


 これにより、GBOでも知られているグリムリーパーという武器が完成する。


 ライフルと大鎌デスサイズに自在に変形する武器であり、どちらの形態でも攻撃対象にクリティカルヒットするポイントが使用者だけにわかる効果があるのだ。


 タラリアもグリムリーパーも風属性で構成したため、恭介はゴーレムチェンジャーを使って火属性のリュージュ、水属性のナグルファル、風属性のタラリアを自在に使えるようになった。


 そして、黄竜人機ドラキオンを使えば土属性のドラキオンも使えるため、恭介は実質全属性のゴーレムに乗れる唯一のパイロットになった訳である。


 タラリアのコックピットから出て来た恭介の顔はツヤツヤしており、麗華はニコニコしながら声をかける。


「満足した?」


「満足した。ゴーレムをいじるのってやっぱり楽しいわ」


「そっか。恭介さんが楽しそうで良かったよ」


「ありがとう」


 以前の麗華ならば、実戦に投入できる風属性のゴーレムが恭介の手に収まると自分が要らないのではないかとネガティブになったかもしれないが、恭介と同棲して少しずつ外堀を埋めている今、麗華はネガティブにならずに恭介と一緒に喜ぶことができた。


「恭介さん、これから沙耶さんと新しいゴーレムのテストも兼ねてコロシアムに行って来るね」


「わかった。シミュレーターで練習してるの走ってるが、くれぐれも気を付けてな」


「うん」


 恭介に送り出され、麗華と沙耶は各々のゴーレムに乗ってコロシアムに移動した。

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