第125話 世界よ、これが瑞穂の黄色い弾丸だ
ホームに来て28日目、恭介は朝食後にリュージュに乗ってコロシアムに来た。
『昨晩は混浴でお楽しみだったね。どうだった? 興奮しちゃった?』
「煩い」
『そんなにムスっとしないでよ。麗華ちゃんの水着、堪能したんでしょ? それとも貧乳じゃ物足りなかった?』
「黙れ。それとこの件で麗華のことは揶揄うな。セクハラで普通にアウトだ。わかったらさっさと入場門を開け。5連戦だ」
『あっはい』
恭介の目がゴミを見る目だったことに気づき、フォルフォルもこれ以上はいけないと判断しておとなしく入場門を開いた。
コロシアムの上空には緑色の巨大な鳥がいた。
その羽ばたきのせいで風が強く吹き荒れており、並のゴーレムでは姿勢を制御するのがやっとではないだろうか。
(ジズの相手はリュージュでやるべきだな)
ジズは色の通り風属性のモンスターだから、土属性のドラキオンと相性は良くない。
だとすれば、最初から
「ジハァァァァァ!」
その咆哮は大気を揺るがした。
見下ろしているリュージュに覚悟してかかって来いと言わんばかりの咆哮である。
しかも、咆哮がジズの前方の大気を弾いて砲弾張りの勢いでリュージュを襲う。
恭介はそれを躱しながらナイトメアを蛇腹剣に変形させ、まずは突きを放ってみた。
ジズはナイトメアのリーチでは届かないと思っていたため、何を愚かなことをと馬鹿にした表情だったが、蛇腹剣に変形したナイトメアならば伸びてジズの右翼の付け根に命中した。
「ジハッ!?」
右翼が上手く動かせなくなったことにより、ジズは驚くのと同時に地面に落下する。
地面に触れるタイミングを狙い、恭介はリュージュを機械竜形態に変形させてビームを放った。
落下ダメージに加えてビームが左翼を撃ち抜き、ジズはまともに空を飛べなくなった。
「ジハァァァァァァァァァァ!」
最初の咆哮よりも大きい声で叫び、ジズの周囲に無数の風の刃が出現する。
「やらせんよ」
無数の風の刃が放たれるよりも先にビームをもう一度放ち、今度はジズの嘴を破壊した。
その痛みでジズは創り出した全ての刃のコントロールを失い、それらは形を失って消えた。
「ジ、ジハァ!」
ジズは本格的に不味いと思ったようで、風の鎧を纏い始めた。
侮っていた敵が自分を追い詰めるぐらい強く、攻める余裕がないので慌てて守りにシフトしたのである。
守りに入ったジズなんて怖くないから、恭介は今がチャンスだと思って接近し、リュージュを竜人型に戻してからナイトメアを三叉槍に変形させて滅多刺しにした。
属性的な相性が良いことでダメージは大きく、ジズはボロボロの姿で力尽きた。
『滅多刺しにするなんて、恭介君はジズに恨みでもあるのかな?』
「別に。強いて言うなら、ナイトメアで三叉槍を使う機会が少ないから練習台にしただけだ」
『世界よ、これが瑞穂の黄色い弾丸だ』
「何言ってんだこいつ」
そんな話をしている内に、ジズの体が消えた代わりに黄色く巨大な牛が現れた。
コロシアムの3分の1を占める程の巨体の持ち主は、ベヒーモスと呼ばれるモンスターである。
「ギフト発動」
リュージュの役目はジズを倒したことで終わったため、恭介がギフトの発動を宣言した。
それにより、恭介はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移動した。
ドラキオンに乗り換えてすぐに、恭介はベヒーモスに対して攻撃を始める。
ラストリゾートをガトリングガンに変形させ、ベヒーモスの周囲を飛びながら銃弾を浴びせまくる。
「ベヒィィィィィ!」
同じ属性の攻撃とはいえ、ドラキオンのスペックから繰り出されれば痛くないはずがない。
ドラキオンの銃撃を止めるべく、ベヒーモスは尻尾を振り回してドラキオンを叩き落とそうとする。
(尻尾が邪魔だな)
ラストリゾートを大太刀に変え、恭介はベヒーモスの尻尾の先端を切断してみせた。
「ンベヒッ!?」
尻尾を斬られた痛みは想像以上であり、ベヒーモスは前に数歩動いた。
そんなベヒモスを追い詰めるべく、恭介はベヒモスを上から追いかけて尻尾の根本を切断した。
「ベッヒィィィィィ!」
涙目のベヒーモスは痛みの余り涙を流し、そのまま走り出してコロシアムの壁に激突した。
2本の角ががっちりと壁に突き刺さってしまい、恭介はニヤリと笑う。
「牛型モンスターはマジでチョロいな」
そう言った時にはラストリゾートをビームランチャーに変形させ、恭介はベヒーモスの頭目掛けてビームを放った。
ビームは2本の角を破壊し、ベヒーモスの頭にも大きなダメージを与えた。
あまりの痛みにベヒーモスが横転してじたばたし、そのせいでコロシアム全体が揺れてしまう。
それでも、空を飛んでいるドラキオンには全く影響がないので、恭介はビームランチャーでビームを連発してベヒーモスを倒した。
そのタイミングでフォルフォルがモニターに姿を現す。
『恭介君、訂正させてほしいことがあるんだ』
「なんだよ?」
『ベヒーモスをチョロいって言えるのはごく限られたパイロットだけだから。麗華ちゃんだって勝てるとは思うけどダメージを負う可能性はあるし、F国のムッシュなら100回戦って100回負けるね』
「麗華もこの戦いを見てるんだから、危なげなく勝つだろうさ。ムッシュが弱いのは知らん」
恭介がバッサリとムッシュなんて知らないと言ったその時、コロシアムの地面が下に押し込まれて水で満たされた。
そして、水の中から巨大な青龍が姿を現した。
(リヴァイアサンの登場か。だが、ドラキオンと相性が良いから臆することはない)
土属性は水属性に強いという事実は覆らないから、ビッグネームのドラゴンが相手でも恭介はビビったりしない。
「リヴァァァァァ!」
リヴァイアサンはドラキオンを天敵と認め、早々にウォーターカッターばりの勢いで水をドラキオンに発射した。
「当たらんよ」
ドラキオンの動きを見て、リヴァイアサンは攻撃を止めずにひたすら水を発射し続ける。
自分が守りに入れば負けると考えたのか、ドラキオンに攻める隙を与えないつもりらしい。
その戦法は正しいと言える。
攻撃は最大の防御という言葉がある通り、攻めさせずにこちらから少しずつでもダメージを与え続ければいつか敵を倒すことができる。
だがちょっと待ってほしい。
やられっぱなしで恭介がおとなしく回避に専念するだろうか。
いや、そんなことはあり得ない。
ラストリゾートをマシンガンに変形させ、恭介はリヴァイアサンの目を狙って反撃し始めた。
回避しながらの銃撃ということで、リヴァイアサンの顔に銃弾が当たることはあってもなかなか目に当たらない。
そうだとしても、顔に当たって鬱陶しいのは間違いないし、土属性の攻撃はリヴァイアサンにとってダメージが大きい。
結果として、リヴァイアサンの攻撃が止んだ。
(やるなら今だ)
恭介は動きの止まったリヴァイアサンの両目を素早く攻撃する。
「リッヴァア゛!?」
変な声を出したリヴァイアサンの体がピンと伸びて止まったため、恭介は続けて角や牙、爪を順番に銃撃して破壊した。
武器となる部位を破壊されたことを受け、リヴァイアサンは水中に潜った。
「逃げたのか?」
『コロシアムには逃げ場なんてないよ』
「そうか」
フォルフォルから逃げるという選択肢は存在しないと言われ、恭介はリヴァイアサンが水中に潜ったのは何かを狙ってのことだと判断した。
その予想は的中し、リヴァイアサンの姿が見えなくなったもののコロシアム内の水が弾丸を形成して次々にドラキオンを狙って放たれた。
「そう来たか」
幸い、どの弾丸もまっすぐにしか飛ばなかったため、恭介は集中してその弾丸を躱し続けた。
反撃する余裕はあったけれど、水中に隠れているリヴァイアサンの位置を突き止めて攻撃するのは難しく、次にリヴァイアサンが姿を見せるまでおとなしく待つしかなかった。
待ち望んだ反撃のタイミングは、それから3分後にやって来た。
ずっと攻撃し続けたから、流石にドラキオンに当たっただろうと思ってリヴァイアサンは浮上して来たのである。
「的が当たりに来てくれるのはありがたいね」
ラストリゾートをビームランチャーに変形させ、恭介が首元の逆鱗を狙撃したことでリヴァイアサンは力尽きた。
忍耐力の勝利である。
リヴァイアサンが光になって消えた時、恭介は短く息を吐いて気持ちを切り替えた。
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