第122話 セクハラは止めなさい。訴えるわよ?
セラフに乗ってレース会場に来た麗華は、モニターに映るフォルフォルを見てイライラした。
何故なら、フォルフォルが何か言いたそうな笑みを浮かべて麗華を見ていたからである。
「何よ? 言いたいことがあるなら言ってみなさいよ」
『昨晩はドッキドキだったね。沙耶ちゃんに恭介君を取られると思っちゃったのかな? 寝てる恭介君に熱烈な』
「それ以上言ったら許さない」
『横暴だー。私は悪くないぞー。悪いのはこそこそしてる麗華ちゃん』
「さっさとホテルオブテラーに入場門を繋げなさい。異論は認めない」
『あっはい』
自分を見る目が冬の寒波よりも冷たかったので、フォルフォルはこれ以上何も言わずに入場門を開いた。
フォルフォルに監視されていると知っていたにもかかわらず、麗華は恭介に何をしたのかは謎のままである。
セラフが入場門を通った先はホテルオブテラーであり、洋画に出て来るような不気味な洋風ホテルだった。
スタート位置に着いた麗華だが、当然ながら順位は10位だ。
その前には1位から順番に風属性のキュクロ、土属性のモノティガー、土属性のマッドクラウン、水属性のエンジェル、火属性のニトロキャリッジ、風属性のユニコーン、火属性のジャック・オ・ランタン、風属性のライカンスロープ、土属性のアンダーテイカーが並んでいる。
ゴーレムを構成する鉱物マテリアルで見れば、ユニコーンだけが
そう考えれば、第3回代理戦争で晶が挑んだ時よりも難易度は上がっていると言えよう。
今日このコースに挑むにあたり、麗華はちゃんとシミュレーターで予習を済ませているから自信満々である。
『3,2,1,GO!』
ユニコーンがギフトを使い、全ゴーレムの位置がシャッフルされるが麗華は関係ないと言わんばかりにスタートダッシュを決めた。
セラフのスペックならば、スタートダッシュさえ決めればすぐにユニコーンの射程圏外まで移動できると判断してのことだ。
実際のところ、ユニコーンが変形して発射したビームでニトロキャリッジを仕留め、その爆発に巻き込まれてキュクロとジャック・オ・ランタン、ライカンスロープがガラクタになってしまったけれど、セラフはそれに巻き込まれたりしなかった。
ホテルオブテラーはお化け屋敷系のコースであり、幽体モンスターとギミックを避けて進まねばならない。
早速、麗華の邪魔をするべくシャンデリアが天井から落下する。
「遅いわ」
スッと躱した先にソファーが飛んで来るけれど、単発のギミックが連続で作動するくらいでは麗華のセラフを傷つけることなんてできまい。
ランプやテーブル、観葉植物、カーテンが次々に飛んで来ようとも、麗華は冷静に躱していく。
レース序盤は後ろの方でユニコーンが暴れていたようだが、今の麗華にはユニコーンのビームの音が届いていない。
それぐらいの距離が開いたのだろう。
2周目に突入した麗華は、スタート地点から少し離れた所でモノティガーとマッドクラウン、アンダーテイカーが走行不能になるまで破壊されていたのを見つけた。
(私以外に残ってるのはユニコーンとエンジェルだけね)
そんなことを考えている内に、再びコース内の調度品がセラフに向かって飛んで来るようになった。
ホテルオブテラーにおいて、ゴーストやファントム、レイスは2周目から現れるはずなのだが、スタート直後に周りのゴーレムを撃破しまくったユニコーンの進路妨害を優先しているらしく、麗華の前に1体たりとも現れない。
今更調度品が落ちて来たり飛んで来たりしたところで、大して麗華の妨害にはならない。2周目も終わる頃に撃たれたらしいエンジェルの残骸が散らばっていた。
麗華が3周目に突入したら、ラップ音や割れる窓ガラス、突き破られる壁と言った要素も増えていったが、走行妨害をする幽体モンスターの数も増えた。
それらが向かう先にはユニコーンがいて、今も多くの霊体モンスターを倒しながら増えたギミックを避けていた。
(めっちゃ撃ちたい)
的と呼べる状態のユニコーンを目にして、麗華はさっさと撃ちたい衝動に駆られた。
それでもすぐに撃たないのは、撃った後のことを考えたからだ。
もしもユニコーンを撃破したとすれば、ユニコーンに群がる幽体モンスターが一気にセラフに押し寄せて来る。
まだ残り半周もあるのに、幽体モンスターに数の暴力で迫られるのは面倒だろう。
仕方なく、麗華は以前恭介がやったようにトップスピードを維持して接近した。
セラフのトップスピードならば、風のバリアが生じてユニコーンを弾き飛ばせる。
弾き飛ばしてルートを誘導し、幽体モンスターを使って視界を塞ぐことでユニコーンは曲がるタイミングを誤認した。
その結果、ユニコーンは壁に激突してひしゃげた。
ユニコーンさえいなければ安心して飛べるので、麗華は危なげなくそのままゴールした。
『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&セラフだぁぁぁぁぁ!』
1位でゴールインした麗華はホテルオブテラーからレース会場前に戻り、それからモニターに映し出されたレーススコアをチェックする。
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レーススコア(ソロプレイ・ホテルオブテラー)
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走行タイム:26分21秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:0回
他パイロット周回遅れ人数:9人
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総合評価:S
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報酬:資源カード(食料)100×6枚
資源カード(素材)100×6枚
60万ゴールド
非殺生ボーナス:魔石4種セット×60
ぶっちぎりボーナス:設計図合成キット
ギフト:
コメント:ゴーレムよりも自分のドッキングを考えたらどうかな?
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「セクハラは止めなさい。訴えるわよ?」
『え~? 何処の誰に~? 私は神だから法で裁けないんだよね』
「だったら恭介さんに言いつける」
『それは止めて』
つい先程まで余裕のある態度だったのだが、恭介に言いつけると言われてフォルフォルは急に真顔になった。
(フォルフォルって恭介さんに嫌われたくないって思ってるみたいなのよね)
理由まではわからないが、フォルフォルは基本的に誰に対してもふざけるけれど、恭介に対して退くのが他と比べて早い。
今回は麗華がそのスタンスを利用した訳だ。
とりあえず、レースも終わったので麗華は格納庫に帰還した。
コックピットから出ると、出発する時はいなかった沙耶が恭介の隣にいた。
「おはようございます。そして、お疲れ様でした」
「おはようございます。沙耶さん、体調の方はもう良いんですか?」
「今は大丈夫です。レースを観戦してましたが、気絶するぐらい気分が悪くなることもありませんでしたし」
「それは良かったです。それで、どうして恭介さんの袖を掴んでるんでしょうか?」
沙耶が自分だけで立てているにもかかわらず、恭介の袖を摘まんでいるのを見て麗華は訊ねた。
直感ではあるものの、沙耶の恭介を見る目が代理戦争前後で変わっていると判断してのことである。
麗華の質問に対し、沙耶は動じることなく応じる。
「レースを見るのに不安がありましたから、安心毛布みたいな意味合いで掴ませてもらいました。ですから、私が兄さんに惚れてるとかではないので安心して下さいね」
その回答を聞いた麗華は恭介の手を両手で握る。
「恭介さん」
「何かな?」
「妹も大事だと思うけど、彼女のことも大事にしてね」
「お、おう」
恭介は今まで自分を恋愛から切り離して来たため、こういう時にどんな対応を取るのが良いのかわからなくて困った。
修羅場にはまだなっていないけれど、そうならないように注意することに越したことはないだろう。
麗華と沙耶はどちらも心に傷を持っており、恭介のケア能力がこれから問われるのは言うまでもない。
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