第13章 リスタート
第121話 そっとしておこう
ホームに来て27日目、恭介は快適な朝を迎えて豪華な朝食で元気に満ちていた。
昨日は第4回代理戦争が行われ、そこで手に入れたアップデート無料チケット(フリー)で私室をver.9、食堂をver.10にしたことでホームでの生活は日本での生活に比べて遥かに充実している。
ちなみに、アップデートの上限は今のところver.10だから食堂は最高ランクと言える。
食休みを取った後、恭介はリュージュに乗ってレース会場にやって来た。
そんな恭介に対し、フォルフォルがコックピットのモニターに現れて呆れた表情を見せる。
『デスゲーム開催期間じゃないから、デイリークエストの報酬もないんだよ? 少しは休みなよ』
「休んでるさ。ただ、レースは元々趣味なんだ。NINJA屋敷に挑みたい」
『やれやれ。はい、いつでもどーぞ』
フォルフォルは恭介の言葉に偽りがないとわかっているから、仕方ないと肩を竦めて入場門を開いた。
リュージュを操縦して入場門を通り、恭介はNINJA屋敷に移動した。
ジャンクパラディンは
1位の位置から順番にエクスキューショナー、アラクネ、イフリート、ジャンクパラディン、リュージュとなっていた。
全員の準備が整ったため、レース開始のカウントダウンが始まる。
『3,2,1』
「ギフト発動」
恭介がギフトの発動を宣言し、彼はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。
『GO!』
開始の合図と共にジャンクパラディンのパイロットがゴーレム達の位置をシャッフルし、ドラキオンのスペックがあればそんなの関係ないとスタートダッシュに成功した。
1位がドラキオンで2位がジャンクパラティンになるが、機体のスペックの差があってどんどん差を広げていく。
NINJA屋敷は天井から手榴弾、壁から手裏剣、床から槍が不規則に飛び出すギミックの宝庫だ。
トップスピードのドラキオンならば、飛び道具なんて纏っている風に弾かれていくから避ける理由がない。
忍装束を纏ったコボルド集団が現れても、簡単に吹き飛ばされてドラキオンの邪魔をすることができない。
あっさりと恭介が2周目に入れば、ギミックに落とし穴と釣り天井が追加された。
落とし穴と釣り天井の数だが、代理戦争の時の倍近くあった。
それでも、恭介がすいすいと進んで行くものだから、まだ1周目を走るゴーレム達だけが増えたギミックに苦戦を強いられる。
5位のエクスキューショナーが釣り天井と正面衝突してしまったらしく、ぐしゃっと歪んで走行不能な姿になっていた。
(ああなりたくはないものだ)
気を抜けば自分もあんな事故を起こしてしまうかもしれないと思えば、恭介の気持ちは自然と引き締まった。
2周目も残り4分の1の地点で忍装束のグレムリン集団がいて、アラクネが床から出た槍に道を阻まれて減速したタイミングで囲まれていた。
(そっとしておこう)
助ける義理なんてないから、恭介はグレムリンに囲まれるアラクネを追い越して前方にイフリートを捕捉した。
イフリートは追い抜かれたくないからなのか、機体の向きを反転してドラキオンに火炎放射を行う。
「当たらんよ。それよりも上を見な」
恭介がそう言った次の瞬間、天井から手榴弾が落ちて来てイフリートに命中した。
その時にはイフリートを周回遅れにしており、イフリートが爆発したことで発生した突風を追い風にドラキオンは一時的にトップスピードを超えた。
3周目に突入し、恭介が周回遅れにしていないのは2位のジャンクパラディンだけだ。
コース内の照明の点滅速度は目がチカチカするレベルまで上がっており、ちゃっかり手榴弾や手裏剣、槍が射出される速度も上がっていた。
(代理戦争の時はヌルゲーだったんだな)
難易度がエグいぐらいに上がっており、恭介は風のバリアを纏えていて良かったと心から思えた。
3周目も残り半周というところで、ドラキオンの前方にジャンクパラディンが見えた。
ジャンクパラディンの左脚は欠損して右腕がだらんと下がっていたが、壊れ方からして左脚は手榴弾にやられて右腕は手裏剣にやられたようだ。
コボルドとグレムリンの集団がジャンクパラディンの先にいて、ジャンクパラディンに攻撃を開始した。
そこに恭介が接近すれば、ジャンクパラディンのパイロットはどこからどう対処すれば良いかわからなくなり、一瞬だが思考が止まってしまった。
コボルドとグレムリンの集団は釣り天井が落ちて来てぺちゃんこになったが、直進できなくて横に動いた瞬間、ジャンクパラディンの足元から槍が飛び出して右脚を突き刺した。
(悪いが先に行くぞ)
勝手に自滅してくれたチャンスを無駄にする恭介ではないから、ジャンクパラディンが足止めされている横を通過した。
ゴールまで残り3分の1まで来て、NINJA屋敷のギミックが恭介に牙を剥く。
ゴーレム1機分の隙間もなく大量の手裏剣が前方から射出されたのだ。
風のバリアのおかげで大量の手裏剣を弾くことができたけれど、普通なら手裏剣でゴーレムがズタボロになっていただろう。
数々のギミックを突破してゴールラインを通過したことで、恭介の耳にアナウンスが届く。
『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』
ゴールしてからギミックに当たりたくはないから、恭介はさっさとレース会場前に移動して
リュージュのコックピットに戻った後、モニターに表示されたレーススコアを確認し始める。
-----------------------------------------
レーススコア(ソロプレイ・NINJA屋敷)
-----------------------------------------
走行タイム:21分12秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:1回
他パイロット周回遅れ人数:4人
-----------------------------------------
総合評価:S
-----------------------------------------
報酬:資源カード(食料)100×6枚
資源カード(素材)100×6枚
60万ゴールド
非殺生ボーナス:魔石4種セット×60
ぶっちぎりボーナス:イカロスの設計図
ギフト:
コメント:なんで! 武器を! 使わないの!
-----------------------------------------
(イカロスだって? これまた癖の強いゴーレムの設計図が手に入ったな)
フォルフォルのコメントなんて気に留めず、恭介はぶっちぎりボーナスで手に入れたイカロスの設計図に注目した。
GBOにおいてイカロスは操縦するパイロットを選ぶゴーレムだった。
力量が足りないパイロットが操縦すれば、操縦中にゴーレムが頭部と両腕、下半身、胴体、両翼に分離してしまうのだ。
あまりにも操縦できる者がいなかったせいで、逆にネタ動画として剣豪になってみたという動画が有名になったことがある。
これは剣を持ったゴーレムを剣豪に見立て、イカロスが分離する直前にすれ違いながら剣を何度も振り、すれ違った後にイカロスがバラバラになるというものである。
逆転の発想だとバズッた動画だったため、恭介もそれは見たことがあった。
ただし、イカロスは癖が強い代わりに完璧に操縦できればドラキオンに近い速度で移動できるスピード重視のゴーレムだ。
そのまま3機目のゴーレムとして乗るかはさておき、とりあえず恭介は貰えるのなら貰っておいた。
『私のコメントを無視しないでよ』
「すまん。イカロスのインパクトに比べて大したことない内容だったから」
『酷いや! 私との関係は遊びだったんだね!』
それだけ言ってフォルフォルはモニターから消えた。
言うだけ言って消えたフォルフォルに対し、恭介は短く息を吐く。
(遊びどころか加害者と被害者の関係なんだがな)
恭介は帰りが遅いと麗華に心配されるので、
コックピットから出て来た恭介を見て、麗華は案の定心配そうな表情だった。
「恭介さん、大丈夫? 何かあったの?」
「大丈夫だ。ぶっちぎりボーナスがイカロスの設計図だったから、どうしたものかって考えてたんだ」
「イカロス? あぁ、なるほど」
麗華もイカロスの扱いにくさをよく知っていたため、恭介の帰りが遅かったことに納得した。
「麗華もこの後レースするんだよな。気を付けてな」
「うん。ありがとう」
恭介に見送られ、今度は麗華がセラフに乗ってレース会場に移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます