第117話 お前の物は俺の物ぉぉぉ!

 麗華がイベントエリアに戻って来た時、沙耶の乗ったラセツがいなくなっていた。


『恭介さん、沙耶さんは何処へ行ったの?』


「お疲れ様。沙耶は強制的にホームに送還された。スケープゴートチケットのおかげで生還できたけど、死にそうになったショックで気を失ってな。麗華のレースが始まってすぐにフォルフォルが送還したんだ」


『…死を防げるだけじゃ心までは守れないんだね』


「ああ。ないよりは絶対にあった方が良いアイテムだが、スケープゴートチケットも万能じゃないってことだ」


 この事態にはお喋りな晶もおとなしくなっていた。


 スケープゴートチケットはもう手元に残っていないから、次のバトル部門で死んだら本当に死んでしまっても二度と奇跡は起こらないとわかったからである。


 それから少しして、苦戦した割には無傷のヨトゥンに乗ったムッシュがイベントエリアに戻って来た。


『はい、全員戻って来たから全体向けの結果を発表するよ』


 フォルフォルがそう言ったら、この場にいる全員のコックピットのモニターに全体向けレーススコアが表示される。



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レーススコア(第4回代理戦争・デプストンネル)

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1位:福神漬け(日本/セラフ/19分3秒)

2位:ムッシュ(F国/ヨトゥン/27分36秒)

3位:メタルクイーン(E国/スフィンクス/記録なし/死亡)

4位:麻婆豆腐(C国/ニンフ/記録なし/死亡)

5位:キャプテンA(A国/プリンシパリティ/記録なし/死亡)

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備考:リペアチケットが手に入るかどうかはラック次第

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 (なるほど。リペアチケットのおかげでムッシュのゴーレムは無傷になったのか)


 恭介が観戦していたレースにおいて、ムッシュのヨトゥンは間違いなくモンスターによる攻撃を受けていた。


 それなのに無傷の状態に戻っていた理由はギフトかと思っていたが、レーススコアの備考欄のおかげでリペアチケットによるものだと明らかになったのだ。


『ふむふむ。1期パイロットが全員と2期パイロットが1人強制送還と1人生存。2期パイロットは軟弱だね♪』


 パイロットの残りは日本が4人(その内1人は強制送還)で、E国とF国が1人ずつだ。


 これから始まるバトル部門では、E国のマーリンとF国のムッシュが不利なのは明らかだが、死んだ者達に対して容赦のない物言いをするあたり、相変わらずフォルフォルの性格は悪い。


『弱者の話をするのも時間が勿体ないし、バトル部門のテーマをサイコロで決めちゃうよ』


 フォルフォルが指パッチンしたら24面ダイスが突然現れ、それを放るのと同時にフォルフォルが歌い出す。


『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』


 恒例のネタの後で24面ダイスが止まった時、その面に記されていた文字はサバイバルウォーだった。


『テーマ決定! サバイバルウォーだよ! やったね!』


 サバイバルウォーのルールがそれぞれのコックピットのモニターに映し出される。



 ・各国のパイロットにランダムでトロフィーが与えられる

 ・トロフィーを奪われるか戦場にいる既出のモンスターに討たれたら負け

 ・制限時間は1時間だがトロフィーが全て集まったらその段階で終了

 ・タイムアップした時に集まったトロフィーの数が多い国の勝ち

 ・スタート位置はバラバラで国別にまとまることはない

 ・味方は同じで他国のパイロットは色違い、モンスターは色も形も違うアイコン

 ・ゴーレムのサイズはタワー探索時と同じ

 ・降参はした方とされた方の合意があって初めて成立する



 全員が8つのルールを確認し終えたら、ゴーレムの足元に魔法陣が現れる。


『いってらっしゃーい』


 フォルフォルの声が聞こえた後、イベントエリアが光に包み込まれた。


 光が収まって恭介が目にしたのは広大な森だった。


『サバイバルウォー、始め!』


 フォルフォルの宣言と同時に、リュージュのモニターの右上に制限時間がカウントダウン形式で表示される。


 モニター全体にマップが映し出されており、中心にある白三角のアイコンがあることから、恭介は自分がトロフィーを保持していないことを知った。


 今いる場所は森林の北側であり、すぐ近くには青いトロフィーのアイコンがあった。


 (俺はこのまま青いトロフィーを奪いに行こう。あっ、これを使ってみるか)


 自分がトロフィーを持っていたなら慎重に行動したかもしれないが、持っていないならば襲撃しない手はない。


 襲撃することに決めた恭介だが、ダブルボーナスチケットの存在を思い出して使ってみた。


 代理戦争のボーナスはイベントだから多いので、使ってみることにしたのだ。


 ダブルボーナスチケットを使ってから、恭介は青いトロフィーのアイコンに接近する。


 青いアイコンがE国とF国のどちらか判断できなかったが、恭介は別にどちらでも構わなかった。


 そして、青いトロフィーのアイコンは恭介の接近を知って逃げたが、恭介がリュージュを機械竜形態に変形させて空から追跡されれば逃げるのを諦めた。


 青いトロフィーのアイコンの正体はE国のマーリンだった。


『降参する。敵意はない』


「沙耶を殺す気だったんだ。降参なんて認めない」


 恭介はマーリンからの降参を拒否し、リュージュのビームで武器を下ろしたままのマーリンのコックピットを撃ち抜いた。


『ピンポンパンポーン。速報が入ったから伝えるね。たった今、日本のトゥモローがE国のマーリンを襲撃して仕留めたよ。マーリンの物的財産はトゥモローに引き継がれた。ざまぁ!』


 フォルフォルの速報により、恭介がマーリンを殺してE国のトロフィーを奪ったことが知れ渡った。


 これにより、トロフィーの数は日本が2つに対してF国が1つだ。


 後は逃げ回っているだけでも日本の勝ちである。


 だがちょっと待ってほしい。


 有利な状況を逃げ回って終わるだけの舞台バトルをフォルフォルが用意するだろうか。


 いや、絶対にそれはない。


 リュージュのコックピットのモニターにフォルフォルの声が響く。


『サプラァァァァァイズ!』


 その声が聞こえてすぐに、マップ上に大きな黒三角アイコンが現れた。


 大きな黒三角アイコンはマップ上で自分のすぐ近くにあり、恭介は空からサプライズで現れたモンスターを目視確認できた。


 それは三面六臂の有翼巨人スタイルのゲリュオンである。


 (マジモンのサプライズモンスターじゃねえか)


 ゲリュオンはコロシアムで現れるサプライズモンスターだったため、恭介はサプライズの表現に偽りはないと思った。


「トロフィーを奪ったのはお前かぁぁぁ!」


「奪ってなくても首置いてけぇぇぇ!」


「お前の物は俺の物ぉぉぉ!」


「ゲリュオンってのはジャイアニズムを発揮しないと生きられないのか?」


 コロシアムの時に戦った個体もそうだったが、中央の頭はジャイアニズムを発揮せずにはいられないのだと知り、恭介は苦笑するしかなかった。


 ゲリュオンの武器は3本の左腕に盾が2つと槍が1本、3本の右腕に槍が2本と盾が1つだ。


 遠距離攻撃は投擲しかないから、ゲリュオンはリュージュを倒すべく同じ高度まで飛翔する。


 その時には恭介もリュージュをデフォルトの姿に戻しており、ナイトメアを銃に変形して銃撃を開始していた。


「退かぬ!」


「媚びぬ!」


「省みぬ!」


 銃弾は3つの盾を使って防ぎ、ゲリュオンが3本の槍を前に突き出してリュージュに突撃する。


 (ゲリュオンのペースじゃ戦わないさ)


 恭介はリュージュを操作してゲリュオンから見て右側に回り、銃を乱射することで盾1つでは防げないようにした。


 ゲリュオンの右腕は攻撃がメインだから、1つしか盾がないせいで盾の届かない位置は撃たれてしまうのだ。


 右半身にいくつか弾丸を喰らい、ゲリュオンの全ての頭が痛みのせいで表情を歪める。


 その隙に恭介が再びゲリュオンから見て右側に回れば、ゲリュオンは右側からの攻撃に備えようと体の向きを変える。


 その繰り返しをしている内に、麗華が恭介のいる場所に合流した。


『ギフト発動』


 金力変換マネーイズパワーを発動し、麗華は10万ゴールドをコストに強烈な一撃をゲリュオンの頭上から放った。


 恭介に気を取られていたこともあり、ゲリュオンは完全に後手に回ってしまい、麗華の一撃によって中央の頭を起点に股下まで撃ち抜かれて地面に墜落した。


 墜落した時にはゲリュオンの体が消滅し、恭介と麗華はゲリュオンを完封した。

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