第116話 フォルフォルとはO・HA・NA・SHIが必要そうね

 イベントエリアでレースを観戦していた者達は、あと少しで3周目に突入する沙耶が爆発に巻き込まれたのを目の当たりにした。


『サァヤァァァァァァァアアア!』


 晶の叫び声は悲痛なものだった。


 だが、フォルフォルは沙耶が討たれたというアナウンスをせず、マーリンのゴールだけを告げるアナウンスをし始める。


『ゴォォォル! 優勝はE国のマーリン&ジャンクパラディンだぁぁぁぁぁ!』


 沙耶が撃墜されたアナウンスが流れず、イベントエリアにいる者達は一部を除いて困惑していた。


 NINJA屋敷からマーリンの乗るジャンクパラディンが戻って来た時、それと併せて沙耶の乗るラセツが日本チームの近くに現れた。


 ざわつくイベントエリアを静まらせるため、フォルフォルが生存者が全員揃ったところで説明する。


『日本の(゚д゚)が戻って来れた理由を説明をすると、スケープゴートチケットのおかげだよ。トゥモローが宝探しで手に入れたこのチケットには、所有者並びに所有者のチームの誰かが死んでしまった時、一度だけその死亡をなかったことにする効果があるんだ。だから、(゚д゚)が討たれた事実なんてなかったことになり、無傷の状態でここに戻って来たのさ。さて、全体向けの結果を発表するよ』


 フォルフォルが説明を終えた直後、この場にいる全員のコックピットのモニターに全体向けレーススコアが表示される。



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レーススコア(第4回代理戦争・NINJA屋敷)

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1位:マーリン(E国/ジャンクパラディン/28分48秒)

2位:(゚д゚)(日本/ラセツ/記録なし/緊急脱出)

3位:リチョー(C国/エクスキューショナー/記録なし/死亡)

4位:マダムF(F国/イフリート/記録なし/死亡)

5位:スパイダーW(A国/アラクネ/記録なし/死亡)

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備考:スケープゴートチケットが手に入るかどうかはラック次第

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 レーススコア発表が終わり、フォルフォルが再び喋り出す。


『はーい、スケープゴートチケットの存在に一喜一憂するのはここまで。デプストンネルで走るパイロットをランダムでコースに飛ばすね』


 フォルフォルがそう言った瞬間、麗華が乗るセラフがデプストンネルに転送された。


 前のレースがE国のマーリンの優勝だったとしても、依然として日本が進捗率で1位である状況は揺るがない。


 それゆえ、麗華のセラフは5位の位置に転送されていた。


「チッ、E国はマーリンじゃないのね」


 麗華はコックピット内のモニターに映し出されたレース参加者の情報を見て舌打ちした。



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レース参加者(第4回代理戦争・デプストンネル)

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1位:麻婆豆腐(C国/ニンフ/火)

2位:キャプテンA(A国/プリンシパリティ/風)

3位:ムッシュ(F国/ヨトゥン/水)

4位:メタルクイーン(E国/スフィンクス/土)

5位:福神漬け(日本/セラフ/風)

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 F国とA国、C国は生存するパイロットが1人しかいないから、ランダムと言いつつ選ばれる者が決まっている。


 E国はマーリンとメタルクイーンのどちらかが選ばれるから、マーリンがデプストンネルのレースに参戦する確率は50%だった。


 半分の確率でマーリンがこの場に現れなかったため、麗華はかなり苛立っていた。


 もしも日本チームの誰かが死んでしまう事態があったとしても、恭介がスケープゴートチケットを持っていることは麗華だけ知らされていた。


 沙耶と晶の知らせなかったのは、死んでも助けてもらえると考えたり自爆特攻の選択肢を与えないためだった。


 だからこそ、沙耶が復活した時に恭介だけでなく麗華も静かにしていたのである。


 スケープゴートチケットが身代わりになるとわかっていたとしても、未来の義妹を爆発したマーリンのことを許せない。


 あの爆発が起きた理由だが、マーリンが銃撃を止める前に天井から落ちて来た手榴弾の落下位置を撃って変更したために沙耶が爆発に巻き込まれたのだ。


 結果的に死ななかったとはいえ、マーリンに殺意があったのは間違いないから麗華にマーリンを許す気はない。


 それはさておき、全員の準備ができたところでフォルフォルがレース開始のカウントダウンを始める。


『3,2,1,GO!』


 スタートダッシュと共に、麗華は切替竜銃スイッチドラガンで実弾を連射した。


 それにより、麗華の前にいたゴーレムはいずれも機体のどこかしらに被弾して出遅れてしまった。


『日本の福神漬けが仕掛けた! スタート直後に他国のゴーレムを攻撃し、スタートダッシュを妨害したぁぁぁ!』


 正直なことを言えば、麗華がその気になった時点でこのレースは麗華だけのタイムアタックになり得る。


 そうならなかったのは、苛立っていても麗華は率先して人殺しをしたいとは思っていなかったからだ。


 デプストンネルは透明度100%の海底トンネルであり、コースの外では水棲モンスター達がトンネルの中にいるゴーレムに気づいて興味を持ってついて来る。


 スタート時点では海水がトンネル内に入り込むことはないから、代理戦争のように殺伐としたイベントで来ていなければ観光でもしたいところだろう。


 麗華が首位で独走状態の中、フォルフォルのアナウンスが放送される。


『F国のムッシュがやってくれた! C国の麻婆豆腐がA国のキャプテンAを撃墜した隙を見て仕留めたね! 2人の物的財産はムッシュの物になったよ! A国とC国のみんな、資源の奪い合いの始まりだよ! さぁ、醜いダンスを存分に見せておくれ!』


「ゲスフォルはやっぱりゲスフォルね」


『私の名前はフォルフォルだよ?』


「違うでしょ? フォルフォルはフォールンゲームズのマスコットキャラなんだから」


『…おっと、私としたことが自分の存在をフォルフォルに重ね過ぎてたよ』


「本物のフォルフォルに同情するわ。あと、レースの邪魔するなら消えて」


『はーい』


 10連続ヘアピンカーブを超えた先にはアクセルリングがあり、麗華は誰にも邪魔されることなくそれの中を通って加速した。


 全てのアクセルリングを通過して2周目に突入した途端、トンネルの天井のあちこちから海水が流れ込み始める。


 これにより、地面を走るゴーレムの動きは鈍ることになった。


 空を飛べるセラフには関係のない話だから、麗華は2周目もすいすいと飛んで行く。


 その途中で海水と共にコース内に紛れ込んだアングリーアングラーからの妨害はあったが、その攻撃をまんまと受けるような麗華ではない。


 麗華のセラフが3周目に突入した時、海底トンネルに流れ込む海水の量が一気に増えた。


 トンネル全体からミシミシという音が鳴り始め、着実に崩壊のカウントダウンを刻んでいる。


『E国のメタルクイーンが撃沈! ドリルノーズシャークにやられたぁぁぁ! メタルクイーンの物的財産は没収だね! F国のムッシュはなんとか走ってるけど、無事に完走できると良いね!』


 3周目に誰かが入れば、鼻がドリルになっているドリルノーズシャークがコースに現れる。


 スフィンクスは機動力が低いので、守りを突破されてただの的になってしまったようだ。


 ムッシュのヨトゥンは黒金剛アダマンタイト製ということもあり、周回遅れにされてなるものかと必死に走っていた。


 麗華はアクセルリングを全て通過し、3周目に突入したムッシュを捕捉したが、その時にはもうゴールしていた。


『ゴォォォル! 優勝は日本の福神漬け&セラフだぁぁぁぁぁ!』


 フォルフォルは麗華が1位であることを宣言し、セラフは魔法陣によってイベントエリアに転送される。


 転送中に麗華はモニターに表示されたレーススコアに目を通していく。



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レーススコア(第4回代理戦争・デプストンネル)

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走行タイム:19分3秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:10回

他パイロット周回遅れ人数:3人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×60

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv13(stay)

コメント:麗華ちゃんが殺さなかった…だと…?

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「フォルフォルとはO・HA・NA・SHIが必要そうね」


『それ、却下でーす☆』


 フォルフォルの人を馬鹿にしたような声が聞こえた直後には、麗華はイベントエリアに戻って来た。

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