第115話 マーリンがまたまたやってくれた!

 フォルフォルが指パッチンした直後、沙耶は自分が光に包まれたことで転送されたのだと知った。


 周囲の光が消え、目を開けるようになって見えたのは映画に出て来そうな忍者屋敷の中だった。


 もっとも、ゴーレムが元のサイズに戻っている分、それが5機入っても狭さを感じない時点で忍者屋敷のスケールではないのかもしれないが。


 それはさておき、スタート位置に移動させられた沙耶はデスゲーム進捗率による調整が入り、5位の位置にいた。


「他国は誰が選ばれたのでしょうか」


 沙耶がそう呟いた直後、コックピット内のモニターにレース参加者の情報が映し出された。



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レース参加者(第4回代理戦争・NINJA屋敷)

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1位:リチョー(C国/エクスキューショナー/水)

2位:スパイダーW(A国/アラクネ/水)

3位:マダムF(F国/イフリート/火)

4位:マーリン(E国/ジャンクパラディン/風)

5位:(゚д゚)(日本/ラセツ/土)

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 (リチョーとスパイダーWは恭介さん対策をしたようですね)


 恭介が火属性のリュージュで来るだろうと予想したのか、C国のリチョーとA国のスパイダーWは水属性のゴーレムに乗っていた。


 属性的に優位に立つことで、少しでも生き残れる確率を上げたかったのだろう。


 残念ながら、今回からレース部門の参加者が2回ともランダムで決まるので、土属性のラセツに乗った沙耶が日本代表として出て来られて両者とも冷や汗をかいているに違いない。


 マダムFはイフリートに乗っている時点で火属性に縛られるし、マーリンは恭介に属性的相性が悪くとも自分が得意とする風属性のゴーレムから乗り換えたりしなかったようだ。


 沙耶は今回のレースに紛れ込んでいるマーリンを要注意人物と定め、レースに集中する。


 全員の準備ができたと判断し、フォルフォルがレース開始のカウントダウンを始める。


『3,2,1,GO!』


 レース開始直後、マーリンがギフトを使って全員の順位をシャッフルした。


 それにより、1位がスパイダーWのアラクネ、2位がマーリンのジャンクパラディン、3位が沙耶のラセツ、4位がリチョーのエクスキューショナー、5位がマダムFのイフリートになった。


 順位がシャッフルされて戸惑っていたアラクネに対し、その後ろからジャンクパラディンが接近してマシンガンを連射した。


 背後からの速攻に対応しきれず、アラクネは蜂の巣にされた後に爆発した。


『今回もやってくれた! E国のマーリンがスタート直後にA国のスパイダーWを撃墜して物的財産を没収! A国のキャプテンAはぼっち! 恨むならマーリンを恨もうね!』


 沙耶はスタートダッシュこそ成功したものの、ゴーレムのスペックの差でジャンクパラディンに追いつけず、2位をキープしたままコースを走行する。


 3位争いをしているエクスキューショナーとイフリートだが、それらを操縦するリチョーもマダムFも2期パイロットで実力もほとんど変わらないから、属性的な優劣でエクスキューショナーがイフリートを押し始めた。


 そろそろNINJA屋敷というコースについて触れよう。


 このコースは忍者屋敷のようにギミックいっぱいだが、忍者とNINJAは似て非なるものだからギミックが過激だ。


 天井からは手榴弾、壁からは手裏剣、床からは槍が不規則に飛び出す。


「うっ、ギミックだらけじゃないですか」


 沙耶は手榴弾と槍を躱し、手裏剣は躱し切れなければ鶏蛇斧槍コッカベルテを使ってゴーレムが傷つかないようにした。


 走っている途中で忍装束を纏ったコボルドが集団で現れるが、沙耶はそれらをギミックからの肉壁にしてみせた。


 2周目に突入すると、ギミックに落とし穴と釣り天井が追加された。


 油断すれば穴に落ちるか、あるいは天井と地面にサンドウィッチされて走行不能になってしまうだろう。


『遂に決着! C国のリチョーがギミックに気を取られたF国のマダムFを串刺しにして物的財産を没収! だがしかし、マダムFを討ち取って油断したリチョーは釣り天井に気づくのに遅れて走行不能だぁぁぁ! 狩人たるもの狩った後に油断しちゃ駄目だよね!』


「狩人じゃなくてパイロットです」


『細かいことを気にしちゃノンノンノンでしょ~』


「気が散ります。消えて下さい」


『はーい』


 ツッコミがあって嬉しくなったフォルフォルは、レース中にもかかわらずラセツのモニターに現れた。


 沙耶に冷たく言われてしまい、フォルフォルはおとなしくモニターから消えた。


 レースに影響する範囲で干渉したとなれば、後で他のパイロット達から非難されるとわかっているからである。


 2周目からは忍装束のコボルドだけでなく、忍装束のグレムリンまで現れた。


 グレムリンに集られるとスパナによるデバフ効果が厄介だから、忍装束のグレムリンを発見して沙耶の眉間に皺が寄った。


 それでも、グレムリンをコボルドと同じようにギミックに対する肉壁にしたり、ギミックを利用して排除するやり方は有効だった。


 2周目の途中からはコース内の照明が一定のリズムで点滅し、視界に影響を及ぼすようになった。


 (NINJAはやっぱり忍者じゃありませんね)


 うっかりそんなことを口にしてしまえば、フォルフォルがモニターに現れてしまうと思って沙耶は心の中でコメントした。


 忍者屋敷で照明が点滅するなんて話は聞いたことがないし、視界に影響を与えられるだけでギミックを躱すのが難しくなる。


 これは陰湿なギミックと言えるが、沙耶にとって中途半端なタイミングで点滅が始まったのはマーリンが3周目に入って点滅のギミックが解禁されたからだ。


『マーリンがまたまたやってくれた! 釣り天井のせいで動けないC国のリチョーを撃墜して物的財産を没収! マーリンの弱い者いじめは留まることを知らないね! C国の麻婆豆腐はマーリンを恨もう!』


 (マーリンが周回抜かしするペースとは不味いですね)


 フォルフォルがマーリンに対するヘイトを集めている一方で、沙耶は自分がピンチであることを悟った。


 マーリンは曲がりなりにも1期パイロットであり、おそらくゴーレムを構成する鉱物マテリアルは黒金剛アダマンタイトと考えて良いだろう。


 沙耶のラセツは木目鋼ダマスカス製であり、レアリティで言えば黒金剛アダマンタイトの2つ下だ。


 しかも、ジャンクパラディンはGBOの瑞穂サーバーにおいて、レース中にガンガン攻撃して敵を倒していく蟹頭が愛用するゴーレムであり、ラセツよりも強いことは沙耶も把握している。


 誰かが3周目に突入してもモンスターの種類が追加されることはないようだが、照明の点滅が地味に厄介であり、バトル部門のことも考えると沙耶はラセツの耐久度が落ちるような走行は避けたいところだ。


 ギミックのせいでトップスピードで突っ切るのが難しい現状では、自然とスピードは抑えざるを得ない。


 そうすれば、後ろから迫り来るマーリンのジャンクパラディンと沙耶のラセツとの距離はどんどん縮んでいくことになる。


『面白くなって来たね! 不敗の日本チームにE国のマーリンが一矢報いることができるかな!? 弱い者いじめばかりしてたマーリンには是非とも(゚д゚)との戦いから逃げないでほしいな! 戦え!』


 2周目も残り4分の1というタイミングで、沙耶は後ろからジャンクパラディンがやって来たことを知った。


 何故なら、沙耶は後ろからマシンガンで狙われ始めたからである。


 ギミックに加えてマーリンの妨害まで加われば、沙耶が無傷で完走する難易度は更に上がった。


 ここまで来たら切り札を使うしかないと判断し、沙耶はそれを実行に移す。


「ギフト発動」


 未来幻視ビジョンを発動して沙耶は24秒先の未来まで瞬時に把握し、マーリンによる銃撃もギミックも完璧に躱してみせた。


 しかし、沙耶の見た未来ではまだ自分が3周目に突入できておらず、最後の直線は自力でどうにかしなければならない。


 追い抜くことを優先したのかジャンクパラディンの銃撃が止んで、ラセツとジャンクパラディンの距離がゴーレム1機分まで縮まった。


 (逃げ切らせて下さい!)


 沙耶が祈ったその時、ラセツの体は3周目を目前にして爆発に包み込まれた。

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