第113話 違う、そうじゃない

 タワーの昇降機に乗って地下3階層に移動したところで、恭介と麗華の耳にアナウンスが届く。


『ミッション! レッドキャップとサファギンから宝を横取りしろ!』


 (サプライズミッションじゃなくて良かったが、制限時間がないのは気になるな)


 地下1階層と地下2階層では、制限時間がどちらとも1時間とされていた。


 それにもかかわらず、地下3階層のミッションでは制限時間がない。


 これには2つの解釈が思い浮かぶ。


 1つは制限時間なんて設けずともさっさと終わると判断して設けていない。


 もう1つは制限時間を設けてしまうとクリアが厳しくて設けていない。


 どちらの解釈が正しいのかと恭介が考えていると、通路の先から戦闘音が聞こえて来る。


『恭介さん、行こう。王冠は争いの渦中にあるはず』


「そうだな。横取りの定義がわからないから、とりあえず見つけたレッドキャップとサファギンは片っ端から倒そう」


『わかった!』


 麗華が王冠と言った訳だが、ミッションが伝達された時にコックピットのモニターに映った宝が王冠だったからだ。


 地下3階層は遺跡と称するのが相応しい内装であり、壁にはレッドキャップとサファギンの戦いの歴史らしきものが記されていた。


「見つけた。俺がレッドキャップを担当する」


『お願い。私はサファギンをやるね』


 属性的な相性を考慮し、リュージュに乗る恭介がレッドキャップを狙い、セラフに乗る麗華がサファギンを狙う。


 レッドキャップとサファギンのそれぞれの集団は、第三勢力に横から攻撃されてあっさりと掃討された。


 普段ならば、モンスターを倒すとそれが光の粒子になって消え、それと同時にドロップアイテムがコックピット内のサイドポケットに転送される。


 ところが、地下3階層ではドロップアイテムの仕様こそ変わらなかったが、倒されたモンスター達が変換された光の粒子は消えず、通路の奥に吸い込まれていった。


「何かが違うみたいだな」


『そうだね。レッドキャップとサファギンを倒せば倒す程、王冠の価値が上がるのかな?』


「その可能性はある。もしくは一定数倒すことでギミックが発生するとかな」


『あー、それもありそう』


 この後の展開を予想し合いながら、恭介と麗華は通路の奥へと向かった。


 何度かレッドキャップとサファギンの戦闘している場面に遭遇したが、6体ずつ戦う程度の小規模なものばかりだった。


 通路を抜けた先には大闘技場と呼ぶべき空間が広がっており、左右に分かれてレッドキャップとサファギンの軍勢が睨み合っていた。


 それだけではなく、奥の壁には巨大な天秤が設置されており、赤い皿と青い皿の両方の皿に光が集まっていた。


「なるほど。吸い込まれた光はあの天秤の皿に乗ったのか」


『そうみたいだね。でも、王冠は何処にあるのかな? 見当たらないんだけど』


「多分、両軍の戦いがある程度進んだら現れるんだろ。天秤はその時に影響するんじゃないかな」


『適当に敵を倒してみて、あの天秤の動きを見た方が良さそうだね』


「俺もそう思う」


 恭介と麗華の意見がまとまったため、法螺貝の音で合戦を始めたレッドキャップ軍とサファギン軍に2人は攻撃を開始する。


 道中と変わらず恭介がレッドキャップ軍に攻撃し、麗華はサファギン軍に攻撃し始める。


 適当にレッドキャップの数を減らしたところで、恭介はゴーレムチェンジャーを使ってリュージュからナグルファルに乗り換えた。


 明日は代理戦争だから、いざという時に備えてナグルファルでの戦闘も練習するためである。


 ついでに言えば、暴渦双刃ツインボルテックス海蛇腹剣シーサーペントソードを武器合成キットで合成した新武器のテストも兼ねている。


 その見た目は十字架を模った青い大剣だ。


「グレートブルーの使い心地、試させてもらうぞ」


 そう言って恭介はグレートブルーと呼んだ大剣を横に薙ぐ。


 レッドキャップ達は間合いの外で何をしているんだと馬鹿にしたが、その表情は大剣の刃が伸びたことで固まったまま斬られてしまった。


 グレートブルーには水属性の大剣であることの他に、3つの特性が秘められている。


 その特性の1つが刃が伸び縮みすることだ。


 完全に間合いの外だと油断していたレッドキャップ達は、あっさりと一刀両断されて光になった。


 それらの光は天秤の赤い皿の上にある光に吸収され、赤い皿の方が傾いた。


 だが、麗華も切替竜銃スイッチドラガンでどんどんサファギンを倒しているため、青い皿が少しずつ下がっていく。


 (こっちもペースを上げるか)


 恭介はペースアップするべく、グレートブルーの2つ目の特性である大剣の分離を行った。


 それにより、十字型の大剣が中心から左右対称に分離してトンファーへと形を変える。


「さあ、防げるものなら防いでみろ」


 トンファーを構えたナグルファルがレッドキャップ達に接近し、早速殴るのかと思いきや先頭の個体の鳩尾を蹴った。


 加速していた分の威力が上乗せされ、蹴られた個体は後ろのレッドキャップ達も巻き込んで吹き飛ばされた。


『違う、そうじゃない』


「一体いつからトンファーで攻撃すると錯覚していた?」


『そんなフェイントは要らないよ! 私のワクワク気分を返してくれ!』


「知らんがな」


 フォルフォルをばっさり切り捨てつつ、恭介はグレートブルーを合体させて大剣として振り回していた。


 なんのために分離させたのかとフォルフォルは目で訊ねるが、恭介はその視線を無視してグレートブルーでレッドキャップ達を次々に倒していく。


 正直なことを言えば、フェイントを挟むことで恭介はレッドキャップ達に隙を生じさせたかったのだ。


 その目論見は成功し、恭介は隙を突いて多くのレッドキャップを倒すことに成功した。


 麗華が切替竜銃スイッチドラガンのビームでサファギンの体を貫通し、コストパフォーマンスの高い戦闘を行っていたけれど、恭介もそのペースに負けじと食いついていた。


 天秤がほとんど釣り合った状態が続き、レッドキャップ軍もサファギン軍も残り4分の1を切る兵力しかいなくなった。


 生存するモンスターの数が減り、天秤の2つの皿に乗る光の量が一定の基準を満たしたことで天秤が光り出す。


「眩しい!」


『こんなに光るの!?』


 恭介と麗華はゴーレムのコックピットの中にいたから、まだマシな方だったと言えよう。


 外にいたレッドキャップ軍とサファギン軍は揃いも揃って光に目をやられ、地面をのたうち回っていた。


 彼らが立ち上がれずにいたが、そんなことは関係ないと大闘技場の中心に王冠が出現する。


「麗華、王冠を確保するから援護を頼む!」


『了解!』


 宝探しのミッションは王冠の横取りなので、恭介は両軍よりも先に王冠を回収しに向かう。


 麗華は王冠に向かおうとする敵から狙撃し、恭介が王冠を確実に回収できるようサポートした。


 そのまま王冠を回収すると、コックピット内のサイドポケットにそれが転送されて、その直後に全てのレッドキャップとサファギンが光になって消えた。


 グレートブルーの3つ目の特性は出番がなかったものの、ミッションクリアの判定が下されて恭介達の見るモニターに宝探しスコアが表示される。



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宝探しスコア(マルチプレイ)

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ミッション:レッドキャップとサファギンから宝を横取りしろ!

残り時間:18分28秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:50万ゴールド

   資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

ランダムボーナス:ダブルボーナスチケット

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv20(stay)

コメント:ダブルボーナスチケットが恭介君の手に渡っちゃった…

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 (このチケットを使った後に挑んだコンテンツで報酬が2倍か。良いね!)


 恭介がダブルボーナスチケットを使えば、代理戦争1回当たりの平均以上の稼ぎを稼ぐことも容易い。


 フォルフォルがしまったという表情になるのも仕方のないことだ。


 宝探しスコアの確認も終わり、恭介達はタワーから脱出して格納庫に帰還した。


 昼食後、恭介達1期パイロットと沙耶達2期パイロットは合流し、明日の代理戦争に向けて気の済むまで打合せと調整を行うのだった。

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