第112話 念には念を入れたの

 麗華はコックピットから出て来た恭介に抱き着く。


「お疲れ様」


「ありがとう。いきなりどうしたんだ?」


「私もこの後久し振りにソロでコロシアムに挑むから、恭介さんを充電してるの」


「そうか。まあ、俺の戦いを見てる訳だし、よっぽどのイレギュラーがない限り問題ないさ。頑張って」


「よし! 頑張る!」


 気合が入った麗華はセラフに搭乗し、そのままコロシアムへと移動した。


『これはこれは、最近外国人みたいにハグを連発する麗華ちゃんじゃないか』


「煩いわね。さっさと入場門を開きなさい。ソロプレイ3連戦よ」


『麗華ちゃん、私だからそんな態度をしても良いけど恭介君にはしちゃ駄目だからね?』


「する訳ないでしょうが。恭介さんとフォルフォルの扱いに雲泥の差があるに決まってるじゃないの。勿論、泥はフォルフォルだけど」


『私、神様。恭介君、人間。どゆこと?』


「自分の胸に手を当ててよく考えてみなさい」


 それだけ言って麗華は入場門をくぐり、コロシアムの中に入った。


 鮮やかな若草色の羽毛に包まれ、嘴と翼の先が緑色に輝く金属に覆われているスチュパリデスが麗華の入場を待っていた。


「テュパァァァァァ!」


 よくも我を待たせてくれたなと鳴きながら翼を広げ、突風に自らの羽根を大量に乗せて麗華に先制攻撃を仕掛けた。


 セラフが射線から外れるように飛ぶけれど、当たり前のようにスチュパリデスの攻撃はセラフを追尾する。


「追尾するんだったわね。でも、攻略法は恭介さんに教わったわ」


 麗華はスチュパリデスに向かって飛ぶよう操縦し、ぶつかるギリギリのタイミングで上に躱す。


 大量の羽根を取り込んだ突風は大雑把なコントロールしかできないため、それらがスチュパリデスの体に命中してしまう。


「テュパァン!?」


 自分の攻撃を利用されるとは思っていなかったようで、スチュパリデスはダメージを受けてなんてことだと驚いた。


 怯んだ隙を逃す麗華ではないから、切替竜銃スイッチドラガンの実弾を連射て左翼を集中攻撃する。


 切替竜銃スイッチドラガン翼竜砲銃ワイバーンランチャー骨竜銃スケリトルドラガンを武器合成キットで合成したから、実弾とビームを使い分けられるのが良いところだ。


 左翼が穴だらけになってバランスを崩し、スチュパリデスは地面に墜落してしまう。


 反撃させる余裕なんて与えるつもりはないので、麗華は次に右翼を穴だらけにした。


「テュパァァァァァ!」


「喧しい」


 両翼を駄目にされた怒りでスチュパリデスは叫ぶが、ばっさりと言った麗華に嘴を狙撃されたことにより、スチュパリデスは嘴も破壊されて上手く鳴けなくなった。


「楽にしてあげる」


 麗華が実弾からビームに切り替えて放てば、それがスチュパリデスの心臓部を貫いて力尽きた。


 スチュパリデスの体が消滅した後、入れ替わるようにしてクレタブルが姿を現した。


 巨大な赤牛と呼ぶべきクレタブルは火属性であり、麗華のセラフは風属性だから相性は良くない。


「ブモッ」


「こいつ、相性的に余裕とか思ってないかしら?」


 クレタブルの鳴き声に舐めた態度が感じられたから、麗華はカチンと来た。


 舐めたような表情だが、攻撃方法が基本的に突撃あるのみだから、クレタブルは轢き殺してやると言わんばかりの勢いで突撃し始めた。


 麗華は迎撃するのではなく、クレタブルを壁際まで誘導してから上に回避し、全速力のクレタブルをコロシアムの壁に激突させた。


 全速力のクレタブルが壁に激突すれば、その角が壁に刺さって抜けなくなってもおかしくない。


 クレタブルの背後に移動し、麗華はクレタブルにとっておきの一撃を喰らわせるための準備をする。


「ギフト発動」


「ブモッー!?」


 金力変換マネーイズパワーで20万ゴールドを消費し、肛門目掛けて強力なビームを発射したところ、クレタブルはとてつもない痛みに声を上げてから倒れた。


『惨い! 惨いよこのカップル! クレタブルの肛門に恨みでもあるの!?』


「別にないわ。わたしはただ、属性的に相性が悪いから恭介さんが一撃で決めた方法を真似しただけよ」


『だからって20万ゴールドは払い過ぎだよ!』


「念には念を入れたの」


 フォルフォルの抗議なんて知るもんかという態度の麗華はさておき、3連戦において麗華の不安要素だったクレタブルが消える。


 最後に現れたのは、黄土色の巨大猪という見た目のエリュマントスボアだった。


 エリュマントスボアは土属性だから、火属性のクレタブルとは対照的に風属性のセラフと相性が良い。


 麗華にとって条件が良いのは属性だけでなく、エリュマントスボアもクレタブルと同様に攻撃手段が突撃メインという点も挙げられる。


 早速突撃し始めるエリュマントスボアに対し、麗華は先程と同様に今回もコロシアムの壁に敵を激突させた。


 クレタブルの角よりもエリュマントスボアの牙の方が長く、2本の牙がコロシアムの壁に深く刺さった。


「ブォン!」


 刺さった牙を壁から引っこ抜くため、エリュマントスボアは体を捩ったり引いたり藻掻く。


 近づいてぶつかれば、ぶつかった方が吹き飛ばされかねない勢いである。


「暴れないでよ。土埃が立つでしょ?」


 迷惑そうに言うと、麗華はクレタブルの時と同じように背後へ回り込み、肛門目掛けてビームを発射した。


 風属性のセラフの一撃は土属性のエリュマントスボアによく効く。


 声を発することもできず、エリュマントスボアは力尽きた。


『ねえ、わざとなんでしょ? わざとやってるんだよね? そうだと言ってよ麗華ちゃん!』


「効率を重視した結果よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」


『恭介君、こちらフォルフォル。たった今、麗華ちゃんが尻を攻める性癖を持ってることが判明された。夜の営みの際は注意されたし』


「変な電波を発信するんじゃないわよ! 恭介さんに誤解されたらどうしてくれるのよ!」


『おっと、もうこんな時間か。パトロールの時間だから失礼するよ。遅刻遅刻~』


 フォルフォルが言い逃げした時には、エリュマントスボアの体が光の粒子になって消えていた。


 3連戦が終わったので、セラフのモニターにコロシアムバトルスコアが表示される。



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コロシアムバトルスコア(ソロプレイ)

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討伐対象:①スチュパリデス②クレタブル

     ③エリュマントスボア

部位破壊:①嘴/翼(左右)②角(左右)/内臓

     ③牙(左右)/内臓

討伐タイム:26分44秒

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総合評価:S

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報酬:60万ゴールド

   資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

デイリークエストボーナス:50万ゴールド

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv13(up)

コメント:仕方ないね

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 (ギフトレベルも上がって良かったわ)


 20万ゴールドも支払っておいて、これでギフトレベルが上がらなかったら麗華はフォルフォルに抗議していただろう。


 代理戦争を前に少しでもギフトのレベルが上がっていれば、それが切り札になるのは間違いない。


 格納庫に戻った麗華は恭介に出迎えられた。


「お疲れ様。安心して見ていられたよ」


「恭介さんの戦い方を覚えてたから、それを参考にさせてもらったわ」


「エリュマントスボアの倒し方は違ったけどな」


「…恭介さん、フォルフォルに何か吹き込まれてないよね?」


「フォルフォルに? なんのことだ?」


 首を傾げる恭介を見て麗華はホッとした。


「なんでもない。フォルフォルがまた私に余計なことを言っただけよ。それよりも、これからどうする? 沙耶さんと晶さんと合流するのは午後だよね?」


「ああ。予定通りに宝探しを行う。打合せをするのも大事だが、デスゲームのコンテンツを可能な限りクリアした方が色々と手に入るからな。時間はまだあるんだし、休憩したら宝探しに行こう」


「わかったわ。明日のためにやれることはやらないとね」


 恭介の言い分を聞き、麗華もその通りだと頷いた。


 30分ぐらい休憩した後、2人はそれぞれのゴーレムに乗ってタワーへと向かった。

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