第108話 なんとでも言えば良いさ! 私は労働という悪には屈しない!

 麗華の作業が終わった後、まだ時間に余裕があったから恭介と麗華はタワーに移動した。


『デイリークエストをやる気になったんだね』


「そんなところだ。ところで、なんで宝探しは1日に1階層だけなんだ?」


『それはね、制限をかけないと恭介君達があっという間にクリアしちゃうからだよ。私達が頑張って用意したコンテンツを連続クリアされると、仕事が増えて君達の面白いシーンを見逃しちゃうでしょ? だから、私達の時間を確保するために制限をかけたんだ』


「自分勝手な理由だな。あぁ、元々自分勝手だったわ」


『なんとでも言えば良いさ! 私は労働という悪には屈しない!』


 ニートのような発言をするフォルフォルだが、善悪を横に置いておけばかなり勤勉だと言える。


 10ヶ国から特定のパイロットを拉致し、デスゲームを開催する。


 デスゲームを開催するにあたり、10ヶ国以外の活動を停止させて10ヶ国の周囲に往来を禁じる壁を創り出す。


 拉致したパイロットにやる気を出させるべく、コンテンツやアイテムを充実させる。


 実行するには様々な力が必要だし、フォルフォル以外に実行できる者は存在しないだろう。


 もっとも、フォルフォルが勤勉だろうとそうでなかろうと恭介達にとって迷惑である事実は変わりないのだが。


 それはさておき、恭介と麗華は昇降機に乗って地下2階層に降りた。


 地下2階層の内装は洞窟であり、通路の中央には宝箱が3つ安置されていた。


『サプライズミッション! 1時間以内に本物の宝箱を探せ!』


 気になるアナウンスが聞こえたため、恭介は監視しているであろうフォルフォルに質問する。


「フォルフォル、サプライズミッションってことはコロシアムみたいに地下2階層の内容が普通とは違うってことか?」


『正解! 頑張って本物の宝箱を探し出してね!』


 時間制限のある宝探しだから、フォルフォルも質疑応答に無駄なボケは挟まなかった。


「麗華、正面の宝箱を全部撃ち抜いてくれ」


『わかった』


 宝箱探しについては恭介に全幅の信頼を寄せているから、麗華は恭介に疑問なんて抱かずに言う通りにした。


 三対の翼の銃で撃ち抜いた結果、3つの宝箱は派手に爆発した。


『これ、1つだけでもニトロキャリッジの爆発並みじゃない?』


「それな。まったく、殺意の高いトラップで困るぜ」


 恭介がスタート地点にあった宝箱を偽物だと断定した理由は2つある。


 1つ目は、制限時間が1時間もあるのに序盤で本物を用意するとは思えなかったからだ。


 フォルフォルとの会話を思い出せば、コンテンツを作るのに少なくない時間をかけていると言っていた。


 それが出オチのようなコンテンツであり、後は全て蛇足だとはとてもではないが考えにくかったのだ。


 ただし、一時の快楽のためなら後先を考えないのもフォルフォルなので、1つ目の理由は決め手にはなり得ない。


 決め手になった2つ目の理由は勘だ。


 恭介の場合、タワー探索において自らの勘を信じて宝箱を探し当てて来たから、今回も自分の勘を信じた訳である。


 派手な爆発で周囲の地面や壁、天井は焦げていたが、凹んだり隠し通路が見つかることはなかったため、恭介達は先へと進んだ。


 次に見つけた宝箱の数は3つどころではなく、縦4×横4の16個だった。


『これは私でもわかる。全部偽者だね』


 麗華がそう言った瞬間、16個の宝箱が擬態を解除してミミックとしての正体を現した。


「右半分は俺がやる」


『左半分は私ね』


 正体がバレて詰め寄ろうとするミミック達だったが、恭介達が手分けして戦えば1分もかからずに掃討できた。


 時間がないので恭介と麗華は先を急ぐ。


 三度見つけた宝箱だが、通常のものとは違って前面に髑髏マークが描かれていた。


「明らかに偽物だな。撃って良し」


『折角だから試し撃ちするね』


 試し撃ちと言ったのは、麗華がカオスビーチの報酬で手に入れた骨竜銃スケリトルドラガン翼竜砲銃ワイバーンランチャーを武器合成キットで合成した新武器を使うからだ。


 その名は切替竜銃スイッチドラガンであり、実弾とビームを切り替えて撃てる銃だ。


 ビームの出力も調整できるようになったため、オーバーキルによるエネルギーロスも減ることだろう。


 麗華は切替竜銃スイッチドラガンから実弾を放ち、髑髏マーク付き宝箱を狙撃した。


 この時、恭介と麗華が狙撃と同時に後ろに飛んだのは正解だった。


 破壊したのは1つだけにもかかわらず、ブラストキャリッジと同程度の爆発が生じており、恭介達が動かずにいたなら爆発に巻き込まれていただろう。


 もしも宝箱欲しさにまともに確認せず、その蓋を開けようものなら間違いなく跡形もなく消し飛んだに違いない。


「威力がおかしいだろ」


『殺意しか感じないね』


 今度の爆発では地面にクレーターができており、両側の壁と天井に罅が入っていた。


 その時、恭介は右側の壁が気になったため、ナイトメアを銃形態に変えて罅を狙撃した。


 罅に命中した銃弾により、右側の壁がガラガラと音を立てて崩れ、ゴーレムの通れそうな横穴が見つかった。


『恭介さんの勘は今日も冴えてるね』


「なんとなくだよ、なんとなく」


 今回は見抜けた理由を上手く説明できないから、あんまり褒めないでくれと恭介は苦笑した。


 恭介が先に入り、麗華が横道に入った途端に元々いた通路の天井が崩れて恭介達は元の通路に簡単には戻れなくなった。


「これは仕様なのか偶然なのか」


『わかんないけどとりあえず先に進もうよ。時間が限られてるんだし』


「そうだな。もしもこの先がただの行き止まりだったら、その時にどうするか考えよう」


 麗華の前向きな意見に賛成し、恭介は麗華を連れてそのまま先に進んだ。


 ところが、この横道は恭介達が進めば進む程後ろからどんどん崩れていった。


「偶然じゃないな。これは仕様だろ」


『私もそう思う。そうじゃなかったら、フォルフォルが私達に嫌がらせをしてるとしか思えない』


『心外だね。私はこの手の嫌がらせはしないよ』


「そうか。仕様か」


『しまった…』


 フォルフォルはうっかり喋ってしまったため、これ以上余計なことを言う前に画面から姿を消した。


 恭介達は天井が崩れる前に横穴を抜けて広間に到着した。


 その時には既に横穴が潰れており、戻ることは許されない状況になっていた。


 広間には宝箱があったが、その守護者としてインプが2体待ち構えていた。


「麗華、召喚する前に潰せ!」


『了解!』


 インプ達は早く肉壁を召喚しなければと魔法陣を展開したが、召喚が完了する前に恭介と麗華のそれぞれから放たれた銃弾に撃ち抜かれて力尽きた。


 魔法陣は主を失ったことにより、煙を上げて消滅した。


 戦利品がコックピットのサイドポケットに転送された後、恭介は宝箱に近づいてその蓋を開ける。


 宝箱の中身が戦利品とは別に転送されるのかと思ったら、宝探しのミッションをクリアした扱いになって宝探しスコアが恭介達の見るモニターに表示された。



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宝探しスコア(マルチプレイ)

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ミッション:1時間以内に本物の宝箱を探せ

残り時間:28分55秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:50万ゴールド

   資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

ランダムボーナス:スケープゴートチケット

サプライズボーナス:ギフトレベルアップチケットⅡ

デイリークエストボーナス:50万ゴールド

レアモンスターキルボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv20(stay)

コメント:宝箱を開けたからランダムボーナスは豪華になってるよ

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 (スケープゴート!? このデスゲームにもあったのか!)


 GBOにおいて、スケープゴートとは撃墜された時にそれをなかったことにする貴重な消費アイテムだった。


 大事なことなので恭介はフォルフォルに訊ねる。


「フォルフォル、スケープゴートチケットの説明を頼む」


『所有者並びに所有者のチームの誰かが死んでしまった時、一度だけその死亡をなかったことにするチケットだよ。自動で消費されるから足手まといに使われないようにしてね』


「このチケットがなくなるだけでチームの誰かの死がなかったことになるんだろ? 全く問題ない」


『あれれ~? これは私の求めるリアクションじゃないぞ~。そこはほら、なんとしても自分だけ生き残りたい的な反応が見たかったのに』


「俺は死なない」


『俺は死なない。またトゥモロー語録が厚くなるね!』


 それだけ言ってフォルフォルは逃げた。


 言い逃げされたのはイラっと来たが、それでもスケープゴートチケットが手に入ったのは嬉しかったから、恭介が不機嫌になることはなかった。


 魔法陣が現れたのを確認し、恭介と麗華は地下2階層から脱出した。

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