第109話 君がそう思うならそうなんだろう。君ん中ではね

 午後になり、晶と沙耶はタワーにやって来た。


 午前はコロシアムのマルチプレイで2連戦を行い、キマイラとコカトリスを相手になんとか評価Aをもぎ取った。


 その際に2人ともギフトレベルが6に上がったが、恭介と麗華からギフトレベルアップチケットⅡを使い、更に2つレベルが上がったためギフトレベル8になった。


 ギフトレベルアップチケットⅡは、ギフトレベル10以下のパイロットのみ使用可能な消費アイテムであり、恭介と麗華にとっては無用の長物だった。


 だからこそ、昼休憩のタイミングで午前の振り返りを行った時に恭介と麗華が晶と沙耶にそのチケットを渡したのである。


『恭介君と麗華ちゃんが優しい1期パイロットで良かったね』


「その口ぶりからして、マーリンとムッシュは優しくないのかい?」


『晶君の言う通りだよ。マーリンとムッシュは自分が生き残るのに必死で、それぞれメタルクイーンとマダムFに対する優しさが感じられないね。自分が使えないアイテムは流してるようだけど、アドバイスをするというよりは命令だね。トップダウンがしっかりしてると言えば聞こえは良いのかな』


『フォルフォル、私達に他国の情報を簡単に喋りましたね。もしかして、私達の情報も他国に伝えてるんですか?』


 沙耶が気になったことを質問すると、悪びれもせずに頷く。


『まあね。でも、作戦とか隠し玉とかそういうのは言ってないよ。ネタバレ厳禁だからね。各国の私が共有できるのは、君達の各コンテンツの進捗だけだ。君達の競争意識を強くするんだったら、それぐらいの情報は開示しないと難しいだろう?』


『確かにそうですね。フォルフォルがゲスキャラだけで声をかけて来たとして、前向きに動こうとは思えませんから』


「サーヤ、火の玉ストレートだね。事実だけど」


 フォルフォルは沙耶と晶から続けて低評価を下され、モニター上で泣き真似をし始める。


『2人共酷いや。私、嫌われる要素ないと思うのに』


「君がそう思うならそうなんだろう。君ん中ではね」


『寝言は寝て言うべきです』


 今度は晶の方が早く反応した。


 沙耶がネタ発言するとは思っていないだろうが、発言が被るのを恐れて先に喋ったのである。


 それはさておき、いつまでもタワー前でお喋りしている場合ではないから、晶と沙耶は昇降機に乗って地下2階層を目指した。


 地下2階層の内装は地下1階層と同様に坑道であり、あちこちにグレムリンがいた。


『ミッション! 1時間以内にクリスタルスパナを手に入れろ!』


 フォルフォルのアナウンスが聞こえるのと同時に、晶と沙耶の乗るゴーレムのモニターには残りの制限時間とターゲットであるクリスタルスパナの画像が表示された。


 グレムリンはスパナ型メイスを装備しているのだが、そのメイスがクリスタル製の物をクリスタルスパナと呼ぶらしい。


「サーヤ、クリスタルスパナを持ったグレムリンを探そう」


『そうですね。ですが、その前に邪魔なグレムリン達を倒してしまわないといけません』


 時間との勝負であることはわかっているが、晶のリャナンシーと沙耶のラセツは空を飛べないから、前に進むために目の前のグレムリン達を掃除することから始める。


 沙耶はボムスター零式では火力不足だと感じ、それを恭介に相談して鶏蛇斧槍コッカベルテを譲り受けたから、それを振るってグレムリン達を次々に薙ぎ倒していく。


 しかも、鉱物マテリアルは余っているからという理由で黒金剛アダマンタイトになっているから、グレムリンなんてどれだけいたって問題ない。


「サーヤは良いなぁ。いや、僕も麗華さんに余った黒金剛アダマンタイトを貰ってるんだから、そんなこと言う権利はないんだけどさ」


 通信を切った状態で、晶は鶏蛇斧槍コッカベルテを使う沙耶を羨ましがったが、自分だって麗華に黒金剛アダマンタイトを貰っているので文句を言うのは筋違いだと自省した。


 恭介が沙耶に武器を譲り、晶に渡せなかったのは使う武器の問題だ。


 晶が使える武器は恭介が今使っているナイトメアぐらいなので、恭介から武器を譲ってもらう訳にはいかなかったのである。


 自分と似た武器を使う麗華は、翼竜砲銃ワイバーンランチャーを新しい武器にするのではなく合成したから、晶が翼竜砲銃ワイバーンランチャーを譲ってもらうことは不可能だ。


 そもそも、最初から譲ってもらう前提ではないし、ランプオブカースは十分使える武器なので鉱物マテリアルを木目鋼ダマスカスから黒金剛アダマンタイトにできただけでもありがたい話と言えよう。


 とりあえず、昇降機前に群れていたグレムリンを殲滅し、晶達は通路の先へと進んだ。


 グレムリンは等間隔に2体ずついて、晶達は通路を走りながらノンストップでグレムリン達を倒していく。


「クリスタルスパナが見つからないね。残り30分を切っちゃったよ」


『クリスタルスパナを持ったグレムリンは逃げてるのではないでしょうか? それか、地下2階層の最奥部にあるかですね』


「追い詰められれば良いんだけど、最奥部には逃げ道があったって展開は嫌だな」


『ゲームマスターはフォルフォルですよ?』


「うん、その可能性も考えよっか。分かれ道があったら二手に分かれることも視野に入れよう」


『そうですね』


 そんな話をしていたけれど、地下2階層に分かれ道はなかった。


 ただし、何度も曲がらなければいけなかったので、最奥部に到着した時には残り時間が15分になってしまった。


「うじゃうじゃいるね」


『昇降機前よりもいます。晶さん、ここが踏ん張りどころですよ』


「そうだね。お姉さんにまっかせなさ~い♪」


『貴方は男でしょうが。いい加減GBOのネカマプレイから脱却して下さい』


 沙耶は晶にツッコミを入れた後、手前にいるグレムリンから順番に斬り捨てていく。


 晶も負けじとランプオブカースでグレムリンの数を減らしていき、3分でクリスタルスパナを持ったグレムリンを残すだけという状況まで事態を進行させた。


「これで終わり!」


 ランプオブカースから放たれた銃弾がグレムリンの胴体に命中し、グレムリンは膝から崩れ落ちた。


 その体が光になって消え、クリスタルスパナがコックピットのサイドポケットに転送された。


 これにより、ミッションをクリアしたことになり、宝探しスコアが晶達の見るモニターに表示される。



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宝探しスコア(マルチプレイ)

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ミッション:1時間以内ににクリスタルスパナを手に入れろ

回収タイム:49分58秒

協調性:◎

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総合評価:A

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報酬:40万ゴールド

   資源カード(食料)100×4枚

   資源カード(素材)100×4枚

ランダムボーナス:合成銃キメラガン

デイリークエストボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:堅牢動盾シールドLv8(stay)

コメント:物欲センサーが反応しなくて良かったね

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 合成銃キメラガンとはキマイラの獅子と山羊、蛇の頭の銃口がリボルバーのように回転する仕組みであり、一番下にある銃口から銃弾が発射される。


 発射する度に頭が回って交代するから、マシンガンのように連射が可能になっている。


 ランプオブカースのようなランダムのデバフ効果はないけれど、火力と連射性では合成銃キメラガンに軍配が上がる。


 フォルフォルは宝探しが始まってすぐの晶の呟きをばっちり聞いていたため、コメント欄で余計な一言を述べていた。


「まったくもう、プライバシーは何処へ行ったのさ」


『プライバシー? 何それ美味しいの?』


「うわっ、腹立つー」


『私を超えるウザキャラになろうなんて100年早いね』


 ウザキャラの自覚はあったのかと反応すれば、フォルフォルが喜んでペチャクチャ喋るだろうと思ってその感想は飲み込み、晶は沙耶と共に魔法陣に乗ってこの場から脱出した。


 2人が格納庫に戻って来てコックピットから降りようとした時、モニターにフォルフォルが現れる。


『パンパカパーン! E国のマーリンがタワーの20階層に到達したよ! 明後日は第4回代理戦争に決定!』


 フォルフォルの発表を聞いたことにより、晶はまた戦争が始まるのかと溜息をついた。

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