第107話 最低ね。馬に蹴られてしまえば良いのに

 麗華はプレゼントされた設計図を使い、ケルブからセラフに乗り換えた。


 セラフはケルブの上位互換だったため、シミュレーターで練習することなく麗華はレース会場に移動した。


『おやおや、これは恭介君にプレゼントを貰ってウキウキの麗華ちゃんじゃないか』


 フォルフォルがニヤニヤしながらモニターに現れ、ご機嫌だった麗華が真顔になる。


「フォルフォルの姿を見たせいで気分が盛り下がったわ」


『それじゃあ早くレースを終わらせて恭介君に甘えないとね』


「…前々から思ってたんだけど、なんでフォルフォルは私と恭介さんをくっつけたがる訳?」


『そんなの私達が娯楽に飢えてるからに決まってるじゃん。デスゲームはヒューマンショーだもの。私達はデスゲームで起きたことを全て把握してる。だから、麗華ちゃんが寝てる恭介君にこっそりキスしてることも知ってれば、それ以上のことをしようとして思い止まったのも知ってるんだよ?』


 プライバシーなんてものはこのデスゲームに存在しない。


 それはわかっていたことだが、実際に言葉にされると気が休まらないし不快だ。


 それゆえ、麗華はフォルフォルに軽蔑の眼差しを向ける。


「最低ね。馬に蹴られてしまえば良いのに」


『残念。馬に蹴られた程度じゃ死なないよ。というか、馬に蹴られる前に馬がハンバーグになっちゃうね』


「本当にムカつく存在ね。さっさと入場門を開きなさい」


『はーい』


 麗華から軽蔑の眼差しを向けられるのは今に始まったことではないので、フォルフォルは特に気にせず言われた通りに入場門を開いた。


 深呼吸してどうにか不快な気分を切り替えてから、麗華はセラフを操縦して入場門の中に入った。


 移動先のカオスビーチには、アンダーテイカー、スイーパー、キュクロ、ライカンスロープ、ジャックフロスト、モノティガー、ブリキドール、エンジェル、マッドクラウンが既に並んでいた。


 セラフが10位の位置に着けば、すぐにレース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 タイミングをピッタリ合わせてスタートダッシュを成功させたため、麗華は一気に1位に躍り出た。


 E国のマーリンと似たようなギフトを使う者はおらず、麗華のスタートダッシュを邪魔できる者はいなかったのである。


 しかし、麗華のスタートダッシュに便乗しようとする者はいた。


 それはキャプテンAのギフトを使えるブリキドールだ。


 ブリキドールから粘度の高い糸が射出され、その糸がセラフを守る牛の盾に付着したのだ。


 今までのレースにおいて、キャプテンAがギフトを使うことがなかったから、シミュレーターでもこの情報は開示されなかった。


 初見のギフトではあるものの、だからといって麗華が困る訳でもない。


 何故なら、ギフトによる糸はセラフの反射装甲に弾かれてしまい、便乗に失敗したからである。


 (無駄撃ちするなんて残念ね)


 ギフトで2位になる作戦は失敗し、ブリキドールは麗華に憐れに思われた。


 機体のスペックだけでレースに挑むことになるのだから、まともにやればカオスビーチでブリキドールが目立つような走りはできないだろう。


 結局、セラフ以外は木目鋼ダマスカス製のゴーレムだから、スペックが低いせいであっさりと差を広げられてしまったのだ。


 1周目から砂浜にはクラブアーミーがびっちりと配置されており、波の勢いが強くて海から色々な障害物が流れて来た。


 もっとも、空を飛んで進むセラフには大した影響がないから、妨害になるのはクラブアーミーが砂を固めた矢を放つことぐらいだ。


 その攻撃があったとしても、ケルブの上位互換であるセラフには命中するはずない。


 麗華はそのままあっさりと2周目に突入し、それと同時に砂浜のあちこちに岩がせり上がって来た。


 岩の上に乗っているクラブアーミーもおり、地上を進むゴーレムにとっては厄介なギミックが作動したと言えよう。


 クラブアーミーとの距離が縮まったことにより、砂の矢が少しばかりセラフの飛ぶ高度まで届く時間が短縮された。


 だが、砂の矢の速度も変わらなければ直線的にしか飛ばないので、麗華にとって大した影響はない。


 万が一届いたとしても、それは衛星のようにセラフの周りを回る盾が防ぐことだろう。


 2周目も残り4分の1というところで、アンダーテイカーとスイーパー、キュクロが大破して動けなくなっていた。


 その少し先にはブリキドールとマッドクラウンの残骸も散らばっていた。


「強化されてこのざまなんて2期パイロットは貧弱ね」


『貧弱貧弱ゥ!』


「ハウス」


『あっはい』


 貧弱というワードに釣られて出て来たフォルフォルだったが、麗華の塩対応を受けてすぐにモニターから消えた。


 いつでもボケられるように待機するとは暇な奴だ。


 3周目に入った時、麗華の前方でジャックフロストが海から飛んで来た珊瑚に当たり、バランスを崩したところをクラブアーミーの砂の矢で袋叩きにされていた。


 妨害も一段と激しくなり、もっと先の地点では地雷が爆発しただろう音が立て続けに生じた。


 クラブアーミーの攻撃を避けながら進んで行く内に、麗華はライカンスロープとモノティガーだった残骸を確認した。


「残りはエンジェルだけね」


 天候は雷雨に変わり、飛んでいるからといって安全とは限らなくなった。


 セラフもエンジェルも空を飛べるが、雷はゴーレムを狙って落ちるので気を付けなければならない。


 3周目も後半になれば、麗華がエンジェルを前方に捉えた。


 ゴーレムのスペックからして十分に追いつけるから、麗華はミスのない走りを意識する。


 その一方で、エンジェルは周回遅れにされる恥を嫌がり、装備しているライフルでセラフを狙って銃撃を開始する。


「前を見て飛びなさい」


 連射される銃弾を躱しながら麗華が言った時、エンジェルの正面に雷が落ちた。


 そこには地雷が仕掛けられており、爆発がエンジェルを飲み込んだ。


 爆発が前進するセラフも巻き込む勢いだったから、安全マージンを考えて迂回した麗華の操縦は適切なものだったと言える。


 目の前には邪魔するゴーレムもいなければ、雷もトップスピードのセラフには当たらなかったため、麗華は一度も攻撃することなく完走できた。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&セラフだぁぁぁぁぁ!』


「ふぅ。今回は撃たずに済んだわね」


 レーススコアでいじられるのは不愉快だから、麗華は今回のレースで撃たずに済んだことを喜んだ。


 カオスビーチから脱出したところで、レーススコアがセラフのモニターに映ったので確認を始める。



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レーススコア(ソロプレイ・カオスビーチ)

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走行タイム:23分41秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:15回

他パイロット周回遅れ人数:9人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×60

ぶっちぎりボーナス:骨竜銃スケリトルドラガン

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv12(stay)

コメント:物足りない! もっとドンパチしちゃいなよ!

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 (やなこった)


 反応すればフォルフォルが喜んでしまうから、麗華は心の中だけでフォルフォルのコメントに拒絶した。


 それからすぐに格納庫に帰還し、コックピットを出てから恭介に抱き着いた。


「お疲れ様。いきなりどうした? フォルフォルがまた余計なことでも言ったか?」


「ううん。集中してたからちょっと疲れちゃっただけ。宝探しはちょっとだけ待って」


「別に急いでないぞ。気分が落ち着くまで待機室パイロットルームで休憩しよう」


「うん」


 麗華の様子からしてただ疲れていたとは思えなかったが、フォルフォルが何を言ったかわからず、恭介はあまり深く踏み込まずに待機室パイロットルームまで麗華を連れて行った。


 ソファーに座り、しばらく恭介に甘えてから麗華は立ち上がってセラフの整備と武器の変更のために格納庫に戻った。

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