第106話 据え膳食わぬは男の恥って言うじゃん
ホームに来て24日目、恭介は朝食後にリュージュに搭乗してレース会場にやって来た。
『宝探しじゃなくてレースを先にするんだ?』
「まあな。今回のレースでドラキオンのギフトレベルが20になるだろうから、レベル上げを優先しようと思ってね」
『やれやれ。タワーは最上階に行くし、コロシアムもマルチプレイでは解禁された相手全てと戦った。今日でレースもやり尽くしてギフトレベルの上限に到達するのも一番になっちゃうと、恭介君が楽しめるコンテンツがなくなっちゃうよ』
「他所の国でタワー探索が進んでるのは何処だ? 沙耶達が10階層も踏破しても代理戦争開催アナウンスは出ないとはいえ、もうそろそろ誰かが条件を満たすんじゃないの?」
恭介は今までの経験から、そろそろ第4回代理戦争の開催案内アナウンスが流れるのではないかと予測した。
その予測にフォルフォルはニヤリと笑う。
『良い読みだね。私の見立てでは、今日中にE国のマーリンとF国のムッシュが20階層に到達する。だから、ギリギリ恭介君が宝探しだけしかやることがなくなる状態は回避できるね』
「そうでないと困る。俺もやることがなくなるなんて状態に悩むことになるとは思わなかった」
『だったら、麗華ちゃんと終日部屋に籠って子供を作れば良いんじゃないかな?』
「俺と麗華はお試しの付き合いなんだ。わかってて言うな」
ゲスな笑みを浮かべるフォルフォルに対し、恭介はまだその気はないと告げた。
『据え膳食わぬは男の恥って言うじゃん。麗華ちゃんはタイプじゃないの? あぁ、わかった。恭介君はヒンニュー教じゃなくておっぱい星人なんだね!』
「お前、それ絶対麗華に言うなよ。失礼だ。俺が麗華に手を出さないのは、そういうことをしようとすると下半身直結野郎のことが頭にチラついて不快になるからだ」
『あぁ、週刊ネクステージで優秀な種馬扱いされて特集組まれてたね。まったくもう、人間って面白いよね!』
「糞喰らえ。それより入場門を開け」
自分を煽るフォルフォルに冷たく言い放ち、恭介は開かれた入場門を通った。
移動した先のコースは、現在解禁されている中では最後のミルキーウェイである。
天の川がモチーフのコースであり、空に浮かぶ光の道の上を走るようになっている。
既に7機のゴーレムが位置に着いており、恭介が位置に着くのを待っている。
1位の位置に火属性のセラフ。
純粋な天使シリーズでは最強と言われており、三対六枚の翼が銃になっているのはケルブと変わらない。
ケルブとの違いは翼のデザインが炎をイメージしたものになっており、銃は小型ビームランチャーに変わっている。
ケルブを衛星のように守る人と獅子、牛、鷲の顔を模った盾はセラフにも装備されているが、こちらは反射装甲で加工されているから生半可な攻撃だと反射されてしまう。
2位の位置に水属性のオベロン。
3位の位置に風属性のティターニア。
オベロンとティターニアは外見がそれぞれ妖精王と妖精女王になっているだけで、機能については共通している。
翅から広がる粉が特殊なチャフになっており、銃弾やビームの軌道を強引に捻じ曲げる。
また、チャフとは別に爆発する粉塵も翅から放出できるため、翅を動かして粉塵を誘導して爆発させることも可能だ。
4位と5位の位置には風属性と水属性のペガサス。
機体名の通り、ペガサスの姿に変形できるスピード特化のゴーレムだ。
6位と7位の位置には土属性と火属性のユミル。
ユミルは本来、ヨトゥンとベルグリシの設計図を合成した際に得られる機体で、両腕両脚が着脱自在のゴーレムだ。
ロボットパンチやロボットキックが可能であり、近接戦闘では間合いを見誤った者から屠っていくだろう。
8位の位置に恭介のリュージュが着いたら、レース開始のカウントダウンが始まる。
『3,2,1』
「ギフト発動」
恭介がギフトの発動を宣言し、彼はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。
『GO!』
開始の合図と共にスタート地点付近に流れ星が降り注ぐが、恭介の腕とドラキオンのスペックがあればスタートダッシュに成功した。
他のゴーレムは各々の機能を活かして流れ星を弾くなり避けるなりするが、ドラキオンのロケットスタートには敵わない。
ミルキーウェイは流れ星がどんな場所にも常時降り注ぐコースであり、モンスターは現れない。
ただし、ランダムな間隔でカメラを覆う程眩しい光が生じるから、運が悪いと光で何も見えない時に流れ星がゴーレムに直撃する。
(シミュレーターで練習したが、マジで安全なルートが何処にもないな)
流れ星が落ちないルートは存在せず、光のせいでセンサー頼りに流れ星を避けなければならないから、集中力の切れた者から脱落していくことだろう。
少し進んだ所でアクセルリングが設置されており、恭介はドラキオンを操縦して限界速度を一時的に超える。
アクセルリングを使うのと使わないのではタイムが大きく変わるから、ランダムに カメラを覆う程の光が邪魔で仕方ない。
それでも、恭介はシミュレーターでの経験を活かして全てのアクセルリングをくぐった。
1周目が終わって2周目に突入すると、上空からだけでなく横方向からも流れ星が飛んで来るようになる。
難易度が跳ね上がるが、恭介はゾーンに入っていて上と横から来る流れ星を華麗に避けてみせる。
最初のアクセルリングまで辿り着いた時、その枠にぶつかって走行不能なまでに壊れたオベロンと火属性のユミルの残骸が落ちていた。
どうやら、流れ星を躱すルートを誤ったオベロンがアクセルリングの枠に激突し、その際にばらまかれた粉塵にユミルが巻き込まれたらしい。
恭介がアクセルリングをくぐっていく途中には、連続してアクセルリングをくぐるのに失敗した風属性のペガサスと土属性のユミルの姿があった。
どちらもボディがひしゃげて走行不能らしく煙を上げていた。
(ミルキーウェイは自分との勝負ってことだな。集中集中)
競争相手のことを気にしていれば、視界不良で妨害がある中で超スピードを維持することはできない。
気を引き締めてアクセルリングを最後までくぐった恭介は、3周目に突入するタイミングで3位争いをしているティターニアと水属性のペガサスを見つけた。
粉塵でペガサスを攻撃し、ペガサスからの攻撃は特殊なチャフで防ぐから、ティターニアの方が優勢のようだ。
(まあ、俺が介入すれば話は変わるんだけどね)
トップスピードのドラキオンが風を纏って接近すれば、チャフも粉塵もその風に乱されてコントロール不能になり、その隙を突いたペガサスの攻撃がティターニアを撃墜した。
ペガサスはティターニアを潰して油断してしまったようで、横から襲来した流れ星に当たって吹き飛ばされてしまった。
これで残りは2位のセラフだけだが、そのセラフも恭介の前方に捕捉できている。
恭介がラストリゾートをビームランチャーに変形させれば、セラフは自分が狙われていることに気づいて直線的に進むのを断念する。
射線上にいれば、間違いなく狙撃されると思ってのことだ。
そこに不規則な発光と流れ星の妨害が加わったことで、セラフはアクセルリングをくぐれずその横を通過した。
(チャンス到来!)
追い抜くチャンスが来たため、恭介はドラキオンをアクセルリングに寄せる。
そんな恭介を邪魔するように流れ星が降り注いだが、ラストリゾートのビームで流れ星の軌道をずらしてアクセルリングをくぐることに成功する。
アクセルリングの使用有無が大きく差をつけるから、恭介は限界突破したスピードでセラフを抜き去り、そのまま1位でゴールした。
『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』
流れ星に当たるのは避けたいので、恭介はさっさとレース会場前に移動して
リュージュのコックピットに戻り、モニターに表示されたレーススコアを確認する。
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レーススコア(ソロプレイ・ミルキーウェイ)
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走行タイム:33分33秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:1回
他パイロット周回遅れ人数:7人
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総合評価:S
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報酬:資源カード(食料)100×5枚
資源カード(素材)100×5枚
50万ゴールド
非殺生ボーナス:魔石4種セット×50
ぶっちぎりボーナス:セラフの設計図
ギフト:
コメント:ゾロ目のタイムとは美しい…
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(セラフは麗華にプレゼントするか。俺は使わないし)
レーススコアを確認し終えた恭介は、格納庫に帰還して麗華にセラフの設計図をプレゼントした。
麗華が感激のあまり抱き締めたのは言うまでもない。
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