第102話 そして誰もいなくなった
恭介を労った後、麗華は自分もデイリークエストを消化するべくレース会場にやって来た。
『麗華ちゃん、恭介君のレースを見て濡れた?』
「さっさと入場門を開いて失せろ。ストームデザートに挑むわ」
『はーい』
フォルフォルは麗華に冷たい視線を浴びせられ、入場門を開いてからおとなしく消えた。
開口一番で下ネタは良くない。
それを是非とも学んでほしいものだ。
開かれた入場門を通り、麗華はストームデザートに移動した。
ストームデザートは8番目のコースであり、このコースは酷い砂嵐の砂漠を走ることになっている。
視界が悪い上にスピードが遅いと竜巻に巻き込まれて石畳のコースの外に飛ばされてしまう。
仮に砂丘に突っ込んだり砂の中に引きずり込まれても、すぐに抜け出せればリタイアにはならない。
しかし、砂に飲み込まれて地中に埋まって動けなくなるとリタイアになるから注意が必要だ。
モンスターもトラップも配置されており、一瞬の油断が命取りになる高難易度のコースだから、麗華もこのコースに挑むまで時間をかけた訳である。
レースにおいて、ストームデザートからいよいよ7機の
スタート位置は1位にドミニオン、2位~7位はイフリートとキャメルパンツァーが交互に並んでいる。
属性的にはドミニオンが水で、イフリートが火、キャメルパンツァーが土だから、風属性のケルブがいて全属性のゴーレムが揃った。
麗華の操縦するケルブが8位の位置に着いたことにより、レース開始のカウントダウンが始まる。
『3,2,1,GO!』
タイミングをピッタリ合わせてスタートダッシュを成功させたが、ケルブは1位でスタートしたドミニオンから妨害を受けて2位になった。
天使シリーズとしては2つ下のゴーレムだが、操縦の仕方によってはドミニオンでもケルブに簡単には抜かせないようにもできるらしい。
ドミニオンは初期装備のビームナイフを振るい、麗華の進路を妨害する。
その攻撃を盾で防ぎ、三対の翼の銃でドミニオンに一斉射撃する。
装備がビームナイフとランチャーであるドミニオンには盾がなく、麗華の攻撃でドミニオンの機体に6つの穴ができる。
「邪魔者は先に摘ませてもらうわ」
これでレースは7機による戦いになった。
2位~4位は空を飛べるイフリートだけで、5位~7位はイフリートにスピードで劣るキャメルパンツァーだ。
スペックが変わらない同機種での争いが始まったから、麗華は勝手に戦わせて自分だけ先に進む。
(トップスピードまでもう少しね)
麗華がスピードを意識したのは、石畳のルートにびっしりと並んで行進するデザートスコーピオンの群れを見つけたからだ。
デザートスコーピオンは殻が硬く、群れによる行進を真正面から排除するのは骨が折れるモンスターである。
だが、まとめて一列全て貫通させることは難しく、ゴーレムの動きを鈍らせる針を飛ばして来るから射線上でじっとしているのは悪手なのだ。
それなら石畳を外れて砂の上を走れば良いと思うかもしれないが、デザートスコーピオンの群れが現れる辺りの砂はとても沈みやすい。
ゴーレムが歩く度に砂の中に沈んでしまい、やがて砂の中に埋まってしまうか動きが鈍ったところでデザートスコーピオンの針に当たって身動きが取れなくなる設計だ。
それゆえ、石畳を進むデザートスコーピオンを砂地に無理矢理退けるか、高速で空を飛んでデザートスコーピオンを無視するのがこのエリアにおける正解と言える。
デザートスコーピオンの群れをスルーした後、麗華の前に竜巻が現れて近付いて来る。
だが、麗華は恭介に倣ってケルブのトップスピードを維持し、ドラキオン程ではないが風のバリアを纏っており、竜巻を迂回して先に進むことでタイムロスを防いだ。
「いつか恭介さんのドラキオンに追いつける日は来るのかな?」
恭介のレースを見て、自分でもストームデザートを走ってみるとドラキオンのスペックが段違いであることを思い知らされる。
麗華の操縦するケルブだってかなり上等なスペックではあるが、まだまだドラキオンには遠く及ばない。
2周目に突入し、麗華は再びデザートスコーピオンの群れを見つける。
あちこちにデザートスコーピオンの亡骸があり、今いる群れは無傷であることからリスポーンしたのだろう。
デザートスコーピオン達はケルブを見つけ、一斉に鋏から針をマシンガンのように発射する。
「弾幕が足りてないわ」
麗華はデザートスコーピオン達にダメ出しするだけで、特に反撃せずスルーしていった。
竜巻が出現する地点では、キャメルパンツァー3機が銃撃戦を繰り広げていた。
「後方不注意は良くない」
それだけ言った後、麗華は
『よっ、撃墜王!』
「黙れガヤフォル」
『はーい』
茶々を入れたフォルフォルも、麗華の声のトーンが冷たかったからこれ以上茶化したりしなかった。
竜巻がケルブに近づいて来たため、麗華は1周目よりも大きく迂回しなければならなかったが、これは仕方のないことだった。
3周目に突入し、デザートスコーピオンの群れがいる場所では4位のイフリートが陸戦仕様になっており、デザートスコーピオンと戦闘中だった。
空を飛べるイフリートがキャタピラで走っているということから、イフリートはスラスターを破壊されてしまったのだろう。
「そのまま囮になってね」
デザートスコーピオンの群れのヘイトを一身に稼ぐイフリートを抜き去り、このままスルーしようとした麗華だったが、イフリートがケルブを狙って火炎放射を行った。
「馬鹿なことを」
火炎放射をするりと躱し、三対の翼の銃で撃たれたイフリートは爆発した。
その爆発にデザートスコーピオンの群れが気を取られている隙に、麗華は先へと進む。
竜巻のゾーンではイフリート同士の2位争いが行われており、火炎放射と火炎放射をぶつけて戦いは均衡していた。
2機の戦闘は麗華の通ろうとしていたルートで行われていたため、麗華は短く息を吐き出した。
「はぁ。邪魔」
生き残りは麗華しかいないので、そのまま竜巻を迂回すれば邪魔されることなくケルブが全員周回遅れにした状態でゴールした。
『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ケルブだぁぁぁぁぁ!』
「はぁぁぁ…。やっちゃったなぁ」
麗華は敵を全員倒してしまったことから、レーススコアに記されるだろうフォルフォルのコメントにイライラさせられるだろうと思った。
それでも、この危険なコースから脱出しないといつまで経っても帰れないので、レース会場前に戻ってからコックピットのモニターに映ったレーススコアを確認する。
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レーススコア(ソロプレイ・ストームデザート)
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走行タイム:39分33秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:15回
他パイロット周回遅れ人数:7人
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総合評価:S
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報酬:資源カード(食料)100×5枚
資源カード(素材)100×5枚
50万ゴールド
戦闘勝利ボーナス:魔石4種セット×50
全滅ボーナス:武器合成キット
デイリークエストボーナス:
ギフト:
コメント:そして誰もいなくなった
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麗華がコメントを見て冷たい視線をモニターに向けると、そこにいたフォルフォルは敢えて腰に手を当てて胸を張った。
『私は屈しない! 麗華ちゃんにいかに冷たい目を向けられようとも!』
「威張るな。失せろ」
『あ〜い、とぅいまて〜ん』
フォルフォルは麗華をおちょくりながらモニターから消えた。
イライラした麗華が納庫に戻った後、恭介に抱き着いて甘えたのは言うまでもない。
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