第99話 止めてよね

 沙耶と入れ替わるようにして、晶もコロシアムにやって来た。


『晶君もソロプレイだよね。サプライズになったらどうする?』


「止めてよね」


『…フリかい?』


「違うよ。もしもサーヤと同じくサプライズになったら、僕の方が状況的には劣勢なんだから」


 1戦目~5戦目の間は、コロシアムのソロプレイでサプライズに当たった時にガーゴイルが現れる。


 ガーゴイルは土属性だから、水属性のゴーレムを操縦する晶にとって相性が悪いのだ。


 昨日、麗華から設計図を貰ってゴーレムをニンフからシーサーに変え、鉱物マテリアルもアイアンから木目鋼ダマスカスに変更している。


 通常通りにカルキノスが出現してくれれば、シミュレーターで練習した通りに戦えば良い。


 サプライズなんてノーサンキューだと言い、晶はフォルフォルが開いた入場門を通った。


 コロシアムの中にはカルキノスがおり、晶は自分がフラグに勝ったと知って安堵した。


 カルキノスは口元でブクブク泡を溜め、晶の乗るシーサーに向かって細かい泡をジェット噴射した。


 シーサーは人型形態と獣形態に好きなタイミングで自由に変えられるから、臨機応変な対策が可能である。


 それに加え、シーサーにはエネルギーを消費して敵の攻撃を防ぐ障壁を創り出せる機能がある。


 晶の堅牢動盾シールドより気軽に使えるけれど、創り出した障壁は堅牢動盾シールドに比べて弱いし自動で敵の攻撃を防ぐことまではできない。


 そうだとしても、カルキノスの開戦早々の一撃ぐらいは弾けるぐらいには障壁も強度がある。


 泡のジェットを障壁で防いだのと同意に、晶はランプオブカースで反撃した。


 (着弾は2発目か。まだまだ精進しないとね)


 麗華なら一撃で仕留めていただろうけど、晶は最初の一撃が当たらなかったのが悔しかった。


 ランプオブカースの攻撃でカルキノスの口元に当たっており、カルキノスの体がうっすら紫色のように変わった。


 麻痺でも重力でもなく、毒状態になったらしい。


「おやおやおや? さては毒だね?」


 シミュレーターを使った時は敵が毒にならなかったことから、カルキノスがランプオブカースで毒を喰らったケースは地味に初めてだったりする。


 カルキノスは自分が毒を受けたと知り、長期戦は避けるべきだと判断してシーサーに接近しながら泡をジェット噴射した。


「当たらないよ~。無駄無駄~」


 晶は挑発するような動きで躱し、煽るだけに留まらず反撃も行う。


 ランプオブカースから放たれた銃弾を警戒し、カルキノスは左の鋏で防いだ。


 今回は石化の効果が出たため、カルキノスは余計に焦って泡のジェット噴射を連発する。


「的当てが下手なのかにゃ? ほらほらこっちだよ~」


 わざと挑発するように避けるのは晶の十八番だ。


 GBOにおいてねこまたびたびは操縦の腕前こそ中の上ぐらいだが、人を煽るのが上手かった。


 その経験が今活かされており、カルキノスは煽られる度に冷静さを失って狙いが雑になっていった。


「何処狙ってるの~? プークスクス」


 晶は煽りながら銃撃し、今度は爆発の効果を引き当てた。


 爆発したのは石化していた左の鋏であり、これでカルキノスには右の鋏しかなくなってしまった。


 それはつまり、カルキノスにとって左側からの攻撃を守る手段がないことを意味する。


 その状況を晶が放置するだろうか。


 いや、あり得ない。


 シーサーがカルキノスの左側に回っては銃撃し、カルキノスが向きを変えたら左側に回り込んで銃撃することを繰り返した。


 この繰り返しはじわじわとカルキノスを苦しめ、ランプオブカースの効果でカルキノスの体は状態異常のオンパレードだった。


 毒と麻痺、火傷、石化、虚弱、暗闇が蓄積したところで、爆発の追加効果を当ててダメージがどんどん大きくなっていく。


 コロシアムでの戦いでは部位破壊も評価の対象だから、晶は右の鋏もしっかりと連射して壊した。


「鋏の次は脚だYO!」


 急にラッパー風の口調になり、晶はカルキノスの脚を狙って連射する。


 動きが鈍っているカルキノスに避ける力はほとんど残されておらず、数分の内にカルキノスは脚も破壊されて身動きが取れなくなった。


「黄泉送りシュート!」


 これ以上甚振っても仕方がないから、晶はカルキノスの口を狙撃する。


 今度はしっかり口内に弾丸が命中し、爆発の効果を引き当てた。


 それがとどめになってカルキノスの体は光になって消えた。


 戦闘が終わったため、晶はシーサーのモニターに表示されたコロシアムバトルスコアをチェックする。



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コロシアムバトルスコア(ソロプレイ)

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討伐対象:カルキノス

部位破壊:鋏(左右)/脚(全て)/口

討伐タイム:22分37秒

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総合評価:A

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報酬:40万ゴールド

   資源カード(食料)100×4

   資源カード(素材)100×4

サプライズ撃破ボーナス:リャナンシーの設計図

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×40

デイリークエストボーナス:木目鋼ダマスカス×30

ギフト:堅牢動盾シールドLv4(stay)

コメント:君の煽りには私も学ぶところがあるようだね

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「ワオ、リャナンシーの設計図じゃん!」


『ご機嫌だね』


「そりゃね。GBO時代のゴーレムに乗れると思うとテンションも上がるよ」


『沙耶ちゃんはGBOの時よりも上を目指すって言ってたよ。晶君はGBO時代で満足してて良いの?』


 フォルフォルは沙耶がコロシアムにいた時に聞いた話を思い出し、晶に君はそれで良いのかと煽った。


 その煽りは晶に刺さるものだった。


「それは負けてられないね。お姉さんとしての威厳がなくなっちゃうから」


『おやおや、君はボケちゃったのかな? 今の君はネカマじゃなくて男だよ?』


「そうだったね。つい、いつもの調子で喋ってたや。ネカマスタイルで男を釣ってたからうっかりしてたよ」


『なかなか酷いことするよね。まあ、私に言われる筋合いじゃないんだろうけど』


「その通りだね。僕の場合、ゲームは日常からの逃避と出会い厨を弄ぶための手段なんだ。強制的にデスゲームに巻き込むような存在に説教される筋合いはないよ」


 フォルフォルと比べれば晶の方がマシだが、それでももっとゲームを純粋に楽しめとツッコみたくなるのは自然なことだろう。


 ちなみに、晶は出会い厨を弄ぶと言ったが、しつこい粘着質の出会い厨パイロットだけをターゲットにしている義賊のようなプレイをしており、一般人を相手に騙したりすることはない。


 とりあえず、晶はやるべきことをやり終えたから、格納庫に帰還した。


 晶が戻って来た時、沙耶は既にリュカオンをラセツに変更していた。


 どうやら、晶がコロシアムバトルスコアをチェックしている間に済ませてしまったようだ。


 晶もすぐにシーサーをリャナンシーに変更し、それからコックピットの外に出た。


「お疲れ様です。相変わらず避けるのは上手ですね」


「サーヤ、その発言に棘があるよ」


「そうですか? 事実を言ったまでなんですが」


「くっ、誰かいないの!? 僕をちやほやしてくれる人はいないの!?」


『私が来た!』


 その時、フォルフォルがバーンと効果音もセットで格納庫のモニターに現れた。


「チェンジで」


『酷くない!? その扱いはそう、恭介君がナショナルチャンネルを使ったら筧前首相を見た時と同じ反応だよ!』


 抗議と見せかけてちゃっかり沙耶を刺激するあたり、フォルフォルは本当に性格が悪い。


 沙耶のフォルフォルを見る目は冷え切っており、沙耶が何も言わない代わりに晶が対応する。


「フォルフォル、ハウス」


『なんでさ!?』


「てめーはサーヤを怒らせた」


『あっはい』


 ネタ発言が混じっていたものの、この後沙耶の機嫌を直すために動くのはフォルフォルではなく晶なので、フォルフォルはそれを理解しておとなしくモニターから消えた。


「…すみません。頭を冷やしてきます」


「えっ、うん。あんまり考え過ぎないでね。恭介君もサーヤを憎んでる訳じゃないんだからさ」


「はい。時間を貰うのは恭介さん達と会う時までに、苛立ちが顔に出ないようにするためですので安心して下さい」


 沙耶がイライラしている時、表情どころかその雰囲気も周りを威圧してしまう。


 それを自分でも理解しているから、沙耶は一旦クールダウンするために私室に籠ったのだ。


 私室に移動する沙耶を見送り、晶はフォルフォルによる日本チームの人選に改めて悪意を感じた。

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