第98話 ええんやで? もっと苦戦したってええんやで?

 恭介達がコロシアムに挑んでいる頃、沙耶もコロシアム前に来ていた。


『デイリークエストに挑戦ってことで良いかな?』


「はい。ソロプレイでカルキノスと戦います」


 沙耶達2期パイロットの今日のクエストは、コロシアムをソロプレイして勝利することだった。


 第1回デスゲームの時とは異なり、タワー10階層を踏破せずともコロシアムに挑めるようになっただけでなく、1期パイロットに比べてデイリークエストのクリア条件が緩いのは間違いない。


 沙耶も晶も昨日は木目鋼ダマスカスを集めることに集中し、両者とも自分のゴーレムと武器を木目鋼ダマスカス製に変更した。


 木目鋼ダマスカス製のゴーレムならば、コロシアムで1回ぐらいソロでも戦える。


 それはシミュレーターでも確認してあるから、沙耶はコロシアムに挑んでいる訳だ。


『頑張って1期パイロットに追いついてね。入場門を開いたよ』


「マーリンとムッシュなら追いついてみせます」


『恭介君と麗華ちゃんは?』


「残念ながらまだ追いつけるビジョンが見えません。話はここまでです」


 沙耶は入場門を通ってコロシアムの中に入った。


 そこにはカルキノスが要るはずだったのに、何故かいたのは悪魔を模った黄色い石像と呼ぶべきガーゴイルだった。


『サプラァァァァァイズ!』


「…クソフォルめ」


 普段は丁寧な口調の沙耶だったが、イレギュラーな事態になってフォルフォルに悪態をついた。


 水属性のカルキノスが相手ならば、属性的に有利だったのに違うモンスターが出て来たことで、有利な状況がなくなってしまった。


 しかも、シミュレーターでの訓練が意味のないものになったのだから、沙耶が怒るのも当然である。


 不幸中の幸いなのは、サプライズで現れたのが土属性のガーゴイルだということだろう。


 もしもこれが風属性のモンスターだったら、沙耶は相当やりにくかっただろう。


 土属性のリュカオンと土属性のガーゴイルならば、属性的な優劣は存在しない。


「やるしかありませんね」


 沙耶が覚悟を決めた時、ガーゴイルが両腕を天に伸ばしてその頭上にいくつもの岩が現れ、リュカオンを目指して降り注ぐ。


 それが一斉に降り注いだのなら避けられなかったかもしれないが、タイミングをずらして攻撃してくれば沙耶でもどうにか対処できる。


 できるだけ機体の操縦だけで岩を避け、どうしても避けられないものはボムスター零式で迎撃した。


 岩を操っている間、ガーゴイルがその場から動けず岩の操作に集中していたのは沙耶にとってありがたいことだった。


 もしも一度発動したら自由なんてことならば、沙耶が回避と迎撃に意識が向いているタイミングで攻撃したはずだが、ガーゴイルは両腕を天に伸ばしたまま動いていない。


 沙耶は岩を回避しつつ、ガーゴイルに少しずつだが着実に接近する。


 直接殴るにはまだ距離があるけれど、落ちて来た岩をガーゴイルの方に殴り飛ばすぐらいはできる。


 ボムスター零式で殴った岩は、爆散してその破片でガーゴイルに微々たるダメージを与えていく。


 ガーゴイルはこのままだと少しずつとはいえダメージを受けるばかりだと判断し、両手を下げて攻撃パターンを変える。


 右腕を振り払い、その少し後からリュカオンを追いかけるように岩の棘が続々と飛び出し始めた。


「それぐらいなら躱せますね」


 沙耶はリュカオンを狼形態に変形させ、ガーゴイルとの距離を詰める。


 開戦直後の攻撃と同じで、ガーゴイルは岩を操作している時にそれ以上のことはできないらしい。


 それがわかれば攻撃しない手はないから、沙耶がガーゴイルにボムスター零式を命中させて即座に離脱した。


 打撃と追加の爆発でガーゴイルの攻撃は中断され、沙耶のヒット&アウェイ戦法のせいでガーゴイルは反撃することもできなかった。


 今までの戦いで遠距離攻撃が当たらないと判断したらしく、ガーゴイルは両手に岩の槍と盾を創り出してリュカオンに接近する。


「ギフト発動」


 今こそ未来幻視ヴィジョンを使う時だと思い、沙耶はそれを発動してガーゴイルの動きを把握する。


 予知通りにガーゴイルが槍を突き出したのを見て、沙耶はボムスター零式でその側面にぶつけて弾く。


 タイミングさえ合わせられれば、沙耶がガーゴイルの刺突を弾くことはそこまで難しくない。


 弾かれた槍は追加の爆発で折れてしまい、沙耶が反撃のつもりで振るったボムスター零式はガーゴイルの盾に阻まれた。


 それでも、盾だって槍と同じ岩でできていたから、追加の爆発で折れてしまう。


 武器が壊れてしまっては近接戦闘も厳しいから、ガーゴイルは一時的に後ろに退こうとする。


「逃がしませんよ」


 狼形態に変形している以上、スピードはガーゴイルよりもリュカオンの方が早い。


 後ろに退いたガーゴイルに追いつき、沙耶はもう一度ボムスター零式を振るって命中させる。


 ガーゴイルは咄嗟に両腕で体を庇ったから、打撃と追加の爆発でその両腕が砕けてしまった。


「腕がなければ岩の操作はできませんよね?」


 沙耶はニヤリと笑って逃げるガーゴイルを追いかけ、ボムスター零式で何度もガーゴイルを殴る。


 両腕が無理なら両翼で守ろうとするが、それも爆発であっさりと砕けてしまえば後は胴体を守ることができない。


 翼の次は脚を壊し、逃げられないようにしてから頭部を破壊し、最後に胴体を破壊する。


 じわじわとガーゴイルの体を破壊していく沙耶を見て、フォルフォルはモニターの隅っこで戦慄していたが、沙耶は全く気にしていない。


 落下による衝撃でガーゴイルの体はバラバラに砕けてしまい、そのまま光の粒子になって消えた。


 戦闘が終われば、リュカオンのモニターにコロシアムバトルスコアが表示される。



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コロシアムバトルスコア(ソロプレイ)

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討伐対象:ガーゴイル

部位破壊:全身

討伐タイム:28分4秒

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総合評価:A

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報酬:40万ゴールド

   資源カード(食料)100×4

   資源カード(素材)100×4

サプライズ撃破ボーナス:ラセツの設計図

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×40

デイリークエストボーナス:木目鋼ダマスカス×30

ギフト:未来幻視ヴィジョンLv5(up)

コメント:ええんやで? もっと苦戦したってええんやで?

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「わざとらしいエセ関西弁なんて使わないでほしいですね」


『思わず関西弁を使いたくなっただけだよ。特に意味はない。それよりも、ラセツの設計図が手に入って良かったじゃないか』


「それはそうですが、デスゲームに巻き込まれた以上、GBOで使ってたラセツ程度で満足してはいられません。あっちにいた時は色々検証することに夢中でしたが、こっちでは自分が率先して戦わなければなりませんから、もっと強くなる必要があります」


『ふむ。その前向きな姿勢をE国のマーリンとF国のムッシュに見習ってほしいね。弱い者虐めなんてイケてない。彼等が本気になったって勝てない相手がいるんだから、そこは勝てるまで強くなるって考えになってほしいよ』


 フォルフォルは沙耶のスタンスを知り、ダメダメな1期パイロットの2人に沙耶の爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいと愚痴をこぼした。


 前回の代理戦争では、マーリンもムッシュも恭介と麗華には挑まず、自分よりも弱い相手を倒して物的財産を没収していた。


 資源を得る戦略として確実なのはわかるし、それで救われる国民がいる以上、国が彼等に文句を言うことはない。


 フォルフォルとしても彼等の考えはわからなくもないけど、観戦している身からすれば繰り返し弱い者虐めをされるとつまらないらしい。


 せこいプレイをする2人を見て、それが人間の醜さだと思えば楽しめなくはないようだが、同じ1期パイロットの恭介や麗華みたいに見ていて楽しいプレイをしてほしいと思うのは、デスゲームの開催者だからこそなのだろう。


 それはさておき、コロシアムにこのまま残っていて次のモンスターを出されては困るから、沙耶はコロシアムから脱出した。


 そして、晶が待っている格納庫に帰還し、晶がコロシアムに向かうのを見届けた。

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