第95話 宝箱置いてけ
19階層に移動した恭介達は、依然として墓場の中にいた。
ゾンビの代わりに現れた
グールはゾンビよりも肉体ががっしりしており、動きが俊敏で狂暴だった。
機敏な動きで恭介達に接近するグール達だったが、麗華が三対の翼の銃でサクサク倒していく。
『難易度が上がってもこの程度? 全然大したことないわね!』
(麗華のテンション高くね? 俺にどんなわがままを言うつもりだ?)
可能な限りとはいえ、麗華が帰還してから言うであろうわがままに恭介は嫌な予感がした。
ゆっくり動くグールなんていないけれど、麗華が現れては撃ち、現れては撃つのを繰り返すので恭介に出番が回って来る気配はない。
それでも、分かれ道の両方からグールの群れが現れたため、ようやく恭介もリュージュのビームで迎撃した。
「麗華、そっちの道は何体いた? 右の道は14体いた」
『左は12体。右の道に進むんだね?』
「その通り。これまでの経験からして、楽して進んだ道に宝箱はない」
『恭介さんが言うなら間違いないね。だってラッキーマンだもの』
宝箱探しは恭介に一任した方が効率は良いと判断したらしく、麗華は恭介の選択を支持した。
選んだ道にはグールがわらわらと現れたが、2人にとってグールは厄介な敵ではない。
近づかれる前にさっさと倒し、ちょっとした違和感も見落とさないように先に進む。
その途中で恭介は気になる墓石を見つけた。
形は十字架で周囲の墓石と変わらないのだけれど、刻まれている文字が気になったのだ。
(代理戦争戦死者達の墓? なんでまとめられてるんだよ)
弔うならせめてそれぞれ分けて弔ってほしいものだが、フォルフォルにとって代理戦争で亡くなった者はモブキャラ扱いらしい。
恭介も戦死者のことを全員覚えている訳ではなかったが、この扱いはあんまりだと思った。
『恭介さん、何か見つけたの?』
「前から2列目の右端から3つ目の墓石をよく見てみろ」
『…扱いが酷い』
麗華も恭介が見つけた墓石に刻まれた文字を確認したらしく、通信で恭介に聞こえる声には怒りが感じ取れた。
勿論、恭介達が挑んでいるタワーの19階層にしれっと代理戦争の戦死者の遺骨がまとめられているとは思っていないため、何かしら隠されていると結論付けて麗華が墓石を狙撃した。
それにより、墓石が壊れて代わりにキョンシーが出現する。
「宝箱置いてけ」
恭介はリュージュの口からビームを発射した。
ビームがキョンシーの体の中心を狙っていたこともあり、避け切れなかったキョンシーの右肩が吹き飛んだが、痛みを感じないのかそのままリュージュに接近する。
しかし、リュージュが空を飛べばキョンシーに空を飛ぶ手段がないため、リュージュの真下で飛び蹴りを当てようとするが全然届かない。
『私を無視するとは良い度胸ね』
麗華がケルブの三対の翼を操作し、全ての銃でキョンシーの体を撃ち抜いた。
動きが鈍ったところで恭介がもう一度ビームを発射し、キョンシーが耐え切れないダメージを負ったことで光になって消えた。
キョンシーのドロップアイテムがコックピット内のサイドポケットに転送されたが、倒れた場所には何もなかった。
宝箱がないはずないだろうと恭介は麗華が狙撃した墓石を調べてみると、そこには宝箱が現れたため、安堵して麗華に声をかける。
「麗華、宝箱があったぞ。開けてごらん」
『やった! 開ける開ける!』
麗華が宝箱を開ければ、その中身はケルブのサイドポケットに転送される。
「何が出て来た?」
『5万ゴールド。ハズレじゃなくて良かった。他に入ってたのはシーサーの設計図だね』
「シーサーか。俺達が使うような設計図じゃないな」
『うん。後で沙耶さんと晶さんに要るか訊いてみる。それにしても、恭介さんみたいに役立つ物が手に入らないなぁ』
宝箱の中身が麗華の期待に沿ったものではなかったから、通信越しに聞こえる麗華の声はしょんぼりしていた。
「19階層で手に入ると考えればシーサーも決して悪い引きじゃないんだが、どうしてもレースやコロシアムで手に入るアイテムと比べると見劣りするよな」
『だよね。恭介さんのリアルラックには勝てなかったよ』
「まあまあ。気を取り直して20階層に行こうぜ」
『うん』
20階層に繋がる昇降機の前には、グール達を統括するマザーグールがいた。
肥満体で横に寝そべっているマザーグールは、それを守るグール達と一緒に恭介と麗華の一斉射撃で倒された。
存在感こそあったが、昇降機を守るならせめて立っているべきだったとだけ言っておこう。
20階層は最初からボス部屋であり、その中央に待機しているのは髑髏が先端にあるロッドを持ったデーモンが2体いた。
それらはデーモンネクロマンサーであり、アンデッド型モンスターを統率して戦う特性を持つ。
『ギフト発動!』
麗華は
出番がなくてちょっぴり寂しかった恭介だが、これで麗華がスッキリするならそれでも良いやと考え直した。
21階層移動し、今はこれ以上進めないことを確認してから魔法陣に乗って恭介達はタワーから脱出する。
それと同時に、タワー探索スコアがそれぞれのゴーレムのモニターに表示された。
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タワー探索スコア(マルチプレイ)
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踏破階層:16階層~20階層
モンスター討伐数:144体
協調性:◎
宝箱発見:○
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総合評価:S
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報酬:
100万ゴールド
資源カード(食料)100×1
資源カード(素材)100×1
ボスファーストキルボーナス:アップデート無料チケット(医務室)
宝箱発見ボーナス:魔石4種セット×100
ギフト:
コメント:あのね、常識的に考えて16階層~20階層は数時間でクリアできないの
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(俺達を謎な方法で拉致した奴が常識を解くか)
モニターに映るフォルフォルに恭介が無言でジト目を向けていると、麗華の嬉しそうな声が聞こえる。
『恭介さん、ギフトが遂にLv10になった! それとトレーニングルームのアップデート無料チケットも手に入れたよ!』
「おめでとう。こっちも医務室のチケットを手に入れたから、帰ったらアップデートしよう」
恭介達はすぐに格納庫に戻り、ゴーレムの調整を終えたら
アップデートにより、それぞれの部屋に専用のロボットが現れ、部屋を利用する際のサポートをしてくれるようになった。
やるべき作業を終えた後、麗華が期待する目で見て来るから恭介は誤魔化すことなく麗華に話しかける。
「さて、麗華は俺に何を望むのかな?」
「私はお姫様抱っこを所望する!」
所望なんて言葉が飛び出たのはさておき、お姫様抱っこしてほしいという願いはわがままを言えるタイミングでなければ麗華は言えなかっただろう。
お試しで付き合うところから始まり、両親や恭子、持木内閣の前で恭介と付き合っていると発言して外堀を埋めた今、次のステップとして麗華の狙いはお姫様抱っこだった。
本当はキスしてみたいけど、そこまでがっついて引かれるのは嫌だから、個人的にキスよりもハードルが低いと思うお姫様抱っこを願ったのだ。
「わかった」
恭介も無茶なお願いではなかったから、それぐらいならお安い御用だと言わんばかりに麗華をお姫様抱っこした。
『うわぁ、恭介さんにお姫様抱っこしてもらえるなんて夢みたい♡』
「フォルフォル、勝手にアフレコしないでくれる? というか失せろ」
『あっはい』
麗華の目が怖かったので、フォルフォルは撤退しなくてはと判断してモニターから消えた。
フォルフォルが邪魔したせいで気分を害した麗華だったが、フォルフォルがいなくなってからは恭介に身を委ねてお姫様抱っこを満喫し、トータルで見れば麗華も良いことがあったと言える1日になった。
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