第94話 活躍したくてやった。後悔はしてない
午後になり、恭介と麗華は各々のゴーレムに乗ってタワーの16階層にやって来た。
午前はデイリークエストを終えた後、午後のためにシミュレーターでばっちり準備したので自信たっぷりである。
「ぶっ飛べ!」
『消えなさい!』
機械竜形態のリュージュのビームに加え、
16階層は西洋風の墓地のデザインであり、現れるモンスターはスケルトンだった。
恭介達の攻撃で次々に光になって消え、コックピット内のサイドポケットにどんどんドロップアイテムが転送される。
「麗華、ケルブの調子はどうだ?」
『ばっちり! 天使シリーズはソロネまでは乗ったことあったけど、ケルブは乗ったことなかったから乗れて大満足だよ!』
麗華はご機嫌な様子で倒してもすぐに湧いて来るスケルトンを倒していく。
しばらく進んだところで、恭介は他の十字架とは違って和風な墓石を見つけ、リュージュを竜人型に戻してから
その直後に16階層が激しく揺れ、地面の下から様々な種類の骨が地上に飛び出して来た。
それらの骨は集合して六面体になり、リュージュに向かって突撃する。
「スカルキューブと力比べか。良いだろう」
恭介は自らもスピードを上げ、
スピードが威力に上乗せされた突きだけではなく、
一度目の攻撃だけでも骨同士の結合が緩んでいたため、それに加えて二度の衝撃が入ればスカルキューブはバラバラになった。
辺りに散らばった骨は光になって消え、ドロップアイテムとは別にスカルキューブの中にあったらしい宝箱がその場に残った。
『あっ、また恭介さんが宝箱見つけた。良いなぁ』
「ベストを尽くせば運もついて来る」
『就活必勝セミナーでも似たようなことを講師の人が言ってた気がする』
「今になって思うけど、就活に勝つってどういうことなんだろう? 内定をあちこちから貰って周りにマウントを取ることか? ゼミの同期が俺が勝者だとか言ってたのを思い出した」
『恭介さん、私が言い出したことだけどこれ以上は止めよう』
麗華も恭介と似たような同期がゼミにいたらしく、それを不快に思って恭介の話を止めた。
恭介は宝箱の蓋を開け、コックピット内のサイドポケットに転送されて来た中身をチェックする。
「10万ゴールドってことは当たりの宝箱か。おっ、武器合成キットだ!」
『恭介さんのラックを分けてほしい』
「マジトーンで言われても困る」
『だって羨ましいんだもん』
麗華の声が本気で羨ましがっていたので、恭介は困ったように笑う。
「まあまあ。次に俺が宝箱を見つけたら、麗華に開けさせてあげるから元気出してくれ」
『元気出て来た!』
『現金な女だねぇ』
『出て来るな。消えろ』
『うへ~い』
変なリアクションをしてからフォルフォルは消えた。
フォルフォルの麗華をいじれる時にいじろうとする姿勢が全くブレないから、恭介も麗華も溜息をついた。
その後、昇降機を守っていたブラックスケルトンと遭遇したが、麗華がストレス解消のために放ったビームで瞬殺だった。
2人が17階層に移動すると、16階層と同様に墓場の内装である。
17階層の
「ゲーセンのシューティングゲームみたいな感じでやろうか?」
『狙撃なら負けないよ』
麗華は長く銃を武器として扱っていたから、恭介にだって狙撃では負けないと気合を入れてゴーストを撃ち抜いていく。
恭介の場合、武器攻撃ではゴーストを倒せないからリュージュを機械竜の姿に変形させ、ビームで倒さなければいけない。
何時でも撃てるように機械竜形態でいるのだが、麗華の狙撃速度には敵わないから無駄撃ちにならないよう見守っている。
短時間で大量のゴーストを倒してしまい、それに怒って現れたレイスも麗華が
昇降機前でゆらゆら漂っていたファントムも、麗華が一撃で仕留めてしまった。
「麗華さんや、この階層では俺に出番をくれなかったね」
『活躍したくてやった。後悔はしてない』
「そんなことしなくても麗華は十分働いてるぞ」
『恭介さんがベストを尽くせば運がついて来るって言ってたから、私なりにベストを尽くしてみた。これで次の宝箱は私の前に出て現れるはず』
「…そうだな」
その努力が実ってほしいので、恭介は18階層か19階層では麗華が宝箱を見つけられることを祈った。
18階層に移動したら、恭介達はゾンビの群れに待ち伏せされていた。
「俺がやる!」
リュージュの口から薙ぎ払うようにビームを放ち、恭介は待ち伏せしていたゾンビを一掃した。
『ゾンビは焼くに限るよね』
「チェーンソーがここにあったら、もっとゾンビゲームっぽくなったかもな」
『GBOだと
「強そうな見た目に反して耐久度が低いからな。趣味でもなきゃ
そんな話をしつつ、恭介達は進路妨害するゾンビを倒しながら進む。
16階層で恭介が宝箱を見つけたから、この階層で宝箱があるのではないかと思って麗華がきょろきょろと探すけれど、残念ながら宝箱は見つからない。
それでも、何か見つけてやると周囲をじっくり観察していた麗華は16階層と同様に十字架の墓の中に和風の墓石を見つけた。
『見つけたぁぁぁ!』
嬉々として麗華はケルブの三対の翼の銃から一斉に狙撃した。
これが16階層の時と同じならば、モンスターが現れてその中に宝箱があるので、戦闘の準備はばっちりである。
墓石が粉々に砕けた後、地中から腐った肉の破片が不気味な動きで這い出て来た。
それだけではなく、破片が集まってオークの顔面を集めた球体が宙に浮かび上がった。
「『汚物は消毒だぁぁぁ!』」
恭介と麗華がシンクロして砲撃を浴びせた。
現れたモンスターはレギオンと言い、スカルキューブとは違って再生能力があった。
レギオンの再生能力は並のものではなく、欠片でも残っていたらブクブクと膨れ上がるように再生した。
「破片も残さず倒せってことか」
『ケルブの性能を発揮する時が来たわね』
そう言って、麗華はケルブの周囲を衛星のように回る4つの車輪をレギオンに向かって飛ばした。
この4つの車輪にはそれぞれ人と獅子、牛、鷲が中央に掘られていて周りには無数の目の模様が掘られており、敵の攻撃をある程度自動で防いでくれる。
車輪は盾以外にも役立つ仕様があり、それがレギオンに向かって飛んで行った投擲武器としての仕様だ。
風を纏っている車輪が回転することで、それに触れた者は風に切られる訳だ。
敵を攻撃する時も自動であり、パイロットが翼の銃や他の武器で攻撃しようとすれば、その脳波をキャッチしてケルブの周囲を回る盾に戻る。
そして今、レギオンが4つの車輪によって切断されていき、切断された破片に三対の翼の銃がそれぞれ銃弾を放つ。
破片が小さくなったところで、恭介もリュージュのビームで破片を焼く。
ビームを辛うじて避けた破片があったから、麗華がとどめのつもりで
破片は微塵も残らず消せたらしく、ドロップアイテムがラストアタックを決めたケルブのサイドポケットに転送された。
しかし、目当ての宝箱は現れなかった。
『フォルフォルは死んだ』
『死んでないよ!? というか、それを言うなら神は死んだでしょ!?』
麗華がショックを受けて口にした言葉を聞き、バラエティー番組のひな壇芸人よりも素早いリアクションでフォルフォルがツッコんだ。
(フォルフォルがツッコむってかなりレアじゃね?)
恭介は口にこそ出さなかったが、フォルフォルがツッコミをするのは貴重だと思った。
麗華のローテンションは昇降機を守るゾンビピエロを倒すまで続いた。
昇降機で19階層に移動している間、麗華は恭介に謝った。
『すぐに気持ちを切り替えられなくてごめんね』
「落ち込む気持ちはわかる。帰ったらご褒美に何かしてあげるから、どうにか切り替えてくれ」
『…今、なんでもするって言った?』
「言ってないね。さてはそんなに落ち込んでないな?」
一言もそんなことは口にしていなかったので、麗華がそれぐらいの冗談を言えるぐらいにはテンションが戻って来たのだと恭介は判断した。
『落ち込んでたよ! ちょっと恭介さんにわがままを言えそうだったから言っただけ!』
「やれやれだぜ。できる範囲のわがままにしてくれ」
『やったね!』
なんだかんだで恭介は麗華に甘かった。
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