第93話 シナリオ通りです

 時は恭介がホテルオブテラーに挑んでいるタイミングまで遡る。


 沙耶と晶はそれぞれリュカオンとニンフに乗り込み、転移門ゲートを通ってレース会場にやって来た。


 沙耶のゴーレムがザントマンからリュカオンになっている理由だが、昨日の代理戦争で行われたコレクト&ビルドで提出したゴーレムの設計図をプレゼントされたからだ。


 ザントマンよりもスペックが高いなら、沙耶が使わないはずないだろう。


『君達もレースかい? 恭介君達もそうだけど日本人は勤勉だね』


「日本人はって他国のパイロットは違うんですか?」


『転送した資源カードの量が少なくて政府が暴言を浴びせ、そんなこと言うなら知らないってキレてボイコットしてるパイロットもいるよ。勿論、デイリークエストが解禁されたから、それで少しでも追いつくんだって躍起になってるパイロットもいるけどね』


「デイリークエスト? その説明はまだ聞いてないですね。キリキリ吐いて下さい」


 沙耶はジト目を通り越した冷徹な視線をフォルフォルに向け、どうして大事そうなことを黙っていたんだと咎めた。


『まあまあ。これからちゃんと説明するから。昨日の代理戦争で1期パイロットと2期パイロットの差が開き過ぎてたことが私達の中で問題だって話になったんだ。それで、無償で手助けするのは良くないから、デイリークエストをクリアしたらボーナスを貰えるようにしたんだよ』


『フォルフォル、質問させて。デイリークエストは1期パイロットにもあるの?』


 晶の質問は沙耶も気になるところだった。


 2期パイロットだけが受けられるならば、デイリークエストの恩恵は大きいと言える。


 しかし、1期パイロットも受けられるとすれば差は縮まらないだろう。


『2期パイロットをこれ見よがしに贔屓することはできないから、1期パイロットにもデイリークエストはあるよ。でも、2期パイロットのクエスト難易度は1期パイロットのそれよりも低めだよ』


「そうですか。では、今日のクエスト内容はなんですか?」


『まだ走行したことのないコースでレースをすることだよ。だから、君達がレース会場に来たタイミングまで待って説明したんだ。タワー探索を優先するつもりだったら、それを止めて話すつもりだったんだ』


「…怪しいけど今は置いておきましょう。フォルフォル、マルチプレイでトゥームレイクに挑みます。入場門を開いて下さい」


『は~い』


 フォルフォルが入場門を開けば、沙耶も晶も自らのゴーレムを操縦してその中に進んだ。


 今の今まで恭介も麗華も触れなかったが、レースにはマルチプレイも用意されている。


 恭介達がマルチプレイを選ばなかったのは、マルチプレイだと同じ国のパイロット同士も対戦することになるからだ。


 特に恭介の場合、黄竜人機ドラキオンで毎回ぶっちぎりボーナスを狙っているから、マルチプレイをすれば麗華の心を折ってしまいかねない。


 報酬も大して変わらないのなら、ソロプレイを選ぶべきなのだ。


 それでは何故、沙耶と晶がマルチプレイを選んだのか。


 それはA評価やB評価しか得られない場合、マルチプレイの方がコストパフォーマンスに長けているからだ。


 お互いのレースを眺めて待っているよりも、レースを同時にやった方が時間を短縮できる。


 昨日の代理戦争で弱い者虐めを行ったマーリンとムッシュに対抗するためには、沙耶も晶も時間を有効に使わなくてはならないと考えてのことだ。


 それはさておき、沙耶と晶の前には6機のゴーレムが既に位置に着いていた。


 沙耶が7位の位置に着き、晶が8位の位置に着いたのは指定されたからで2人の優劣は関係ない。


 ソロプレイの時は7機いた敵のゴーレムが6機になった訳だが、減ったゴーレムはマッドクラウンである。


 ニトロキャリッジが危険だから、マッドクラウンよりもニトロキャリッジに消えてほしかったのだけれど、沙耶の願いはフォルフォルには届かなかった。


 トゥームレイクに挑むゴーレムはいずれもアイアン製だから、沙耶と晶の乗るゴーレムと鉱物マテリアルのレアリティは変わらない。


 それだけニトロキャリッジの爆発は侮れないのだ。


 全てのゴーレムが位置に着いたため、カウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 スタートの合図で沙耶も晶もゴーレムを発進させたが、両者ともニトロキャリッジから距離を取るように自分のゴーレムを動かした。


 ニトロキャリッジはスタートダッシュに成功したが、他にも気を抜けない要因があったからだ。


 その要因はズドンという音を出したゴーレムにある。


 バトルタンクがニトロキャリッジを狙って砲撃し、着弾するのと同時に周囲のゴーレムを爆発に巻き込む作戦を選ぶことはシミュレーション通りである。


 ニトロキャリッジが爆散し、近くにいたスロットマンとケンタウロスが爆発に巻き込まれて走行不能になった。


 (シナリオ通りです)


『その不敵な笑み、計画通りだとか思ってない?』


「思ってません。女性の表情を盗み見るなんて本当にゲスですね」


『最近みんな私のことをディスり過ぎじゃないかな?』


「レースの邪魔です。消えて下さい」


『はーい』


 フォルフォルの邪魔が入ったが、沙耶はリュカオンを狼形態に変形させてスピードアップする。


 口にはボムスター零式の柄を咥えており、沙耶は目の前を走るジャックフロストにそれをぶつける。


 背後から一撃喰らえば、ジャックフロストのバランスは崩れた。


 そして、ボムスター零式の追撃で爆発してジャックフロストは転倒した。


 (先に行きます)


 転倒したジャックフロストは沙耶と晶に抜かれた後、後ろからやって来たバトルタンクに砲撃されて沈黙した。


 これでレースに残っているのは1位のアークエンジェルと2位のリュカオン、3位のニンフ、4位のバトルタンクとレース開始時の半分になった。


 トゥームレイクでは常にラップ音や不気味な声が聞こえ、パイロットの集中を削ぐようになっている。


 しかも、アンデッド型モンスターがゴーレムのレースを邪魔するものだから、ホラーが苦手なパイロットにとってはホテルオブテラー同様に走りたくないコースだろう。


 幸いなことに、沙耶も晶もホラーは特に苦手でもなんでもないので、聞こえる音は無視して1位のアークエンジェルを追いかける。


 2周目も終わりというところでアークエンジェルが作戦を変更し、沙耶をライフルで狙って来た。


「蹴落とす気ですか。そうですか」


 沙耶は絶対当たってなるものかと気合を入れ、アークエンジェルの攻撃を避け、時にはうろうろしているアンデッド型モンスターを壁にした。


『僕のことを忘れちゃ困るよ』


 今までおとなしくしていた晶だったが、ほとんど横並びなのに沙耶ばかり狙うアークエンジェルに思うところがあったらしく、ランプオブカースで狙撃した。


 晶の腕前は麗華には劣るため、3回撃った内の1回がアークエンジェルの左翼に命中した。


 バランスを崩して失速したアークエンジェルに対し、射程圏内に入ったことから沙耶がボムスター零式で殴りつけてアークエンジェルは走行不能になった。


 3周目に入り、レースの展開は沙耶と晶の1位争いに変わった。


 同じ陣営であることから、お互いに武器を使って1位の座を奪い合うような真似はせずに純粋なスピード勝負である。


 ニンフは飛べるが、リュカオンはライカンスロープの上位互換と呼べるスペックであり、僅かではあるけれどリュカオンの方が先にゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は(゚д゚)&リュカオンだぁぁぁぁぁ!』


 二つ名がない分、ゴールのアナウンスが若干寂しかった。


 レースが終わったため、沙耶はトゥームレイクから脱出してレーススコアを確認する。



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レーススコア(マルチプレイ・トゥームレイク)

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走行タイム:24分46秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:21回

攻撃回数:38回

他パイロット周回遅れ人数:6人

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総合評価:A

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報酬:資源カード(食料)100×1枚

   資源カード(素材)100×1枚

   10万ゴールド

戦闘勝利ボーナス:魔石4種セット×10

デイリークエストボーナス:木目鋼ダマスカス×30

ギフト:未来幻視ヴィジョンLv4(up)

コメント:なんか物足りないね。スター性が足りない

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「放っておいて下さい。余計なお世話です」


『サーヤ、聞いて! フォルフォルが酷いの!』


「私に対するコメントも酷いですよ。ふざけたフォルフォルです」


 どうやら沙耶だけではなく、晶も不愉快にさせるコメントをしたようだ。


 2人はワンツーフィニッシュを決めたにもかかわらず、ムッとした表情のまま格納庫に戻った。

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