第92話 シミュレーション通りに進まない。だから人生は面白いんじゃないか

 恭介が戻って来るのと入れ替わるようにして、麗華はソロネに乗ってレース会場に向かった。


『麗華ちゃんもデイリークエスト狙いかな?』


「そうよ。ストームタワーに挑むわ」


『ストームデザートじゃなくてストームタワーなの?』


「ええ。シミュレーターで試してみたけど、ストームタワーの方が良い成績を出せたからね」


 ストームデザートは通常のコースであり、ストームタワーはイベントコースだ。


 コースの難易度からすればストームタワーの方が厳しいように思うのだが、麗華はストームタワーで良い成績を出せたからそっちにすると告げた。


 フォルフォルとしてはどちらを走ってもらっても構わなかったが、聞き間違えて違うコースに案内したなんて恭介に知られたらどんな報復をされるかわからないので、コース名を確認したのだ。


『そっか。エキサイティングなレースを楽しみにしてるよ』


 フォルフォルが入場門を開き、麗華はソロネを操縦してその中に入った。


 恭介が挑んだ時のように、入場門を通った先には先頭から順番にスフィンクス、アラクネ、イフリート、リャナンシー、メビィ、ブラストキャリッジ、ケット・シー、ラセツ、パワーが並んで待機していた。


 ソロネが位置に着いたことにより、麗華の耳にレース開始のカウントダウンが届く。


『3,2,1,GO!』


 この時、必然と偶然の出来事が同時に発生した。


 必然の出来事とは、ケット・シーがゴーレムの順番をシャッフルしたことだ。


 それに対して偶然の出来事とは、ブラストキャリッジがスタートダッシュに失敗して爆散したことである。


「うっ!?」


 麗華はレース開始と同時に斜め上に飛んでいたものの、スタート位置をシャッフルされた時に背後で大爆発が起きたせいで予期せぬ方向に飛ばされてしまった。


 それでも、シミュレーターでブラストキャリッジがスタートダッシュに失敗するパターンを想定していたため、どうにか麗華は両腕の盾で大爆発から機体を守ることに成功した。


 もっとも、黒金剛アダマンタイト製ブラストキャリッジの大爆発の威力は伊達ではなく、両腕の盾は蜘蛛の巣状に罅が入り、それぞれあと一度攻撃を防げるかどうかというレベルで耐久度が落ちている。


 十分に準備していた麗華ですらこの有様だから、準備をしていない他のゴーレム達にも甚大な被害が出ていた。


 何も損傷せずにいられたのはスフィンクスだけで、パワーは二対の内一対の翼を失っている。


 それ以外のゴーレムについては、マシな部類で破片が残るぐらいで、酷くて破片すら残っていない被害状況だ。


「うぅ、酷い目に遭ったわ」


 空中で軌道修正を行い、麗華は一足先に頂上に続くスロープを進んでいた。


 ストームタワー内は吹き曝しだから、コースのどこでも嵐による強風や雷の影響を受けやすい訳だが、今はまだ強風だけなので三対の翼があればソロネは安定した飛行を維持できる。


 強風だけに注意すれば良いエリアを抜け、麗華は地面に穴が開いたり棘が飛び出したりし始めるゾーンに入った。


 それだけに留まらず、スロープの上から黒金剛アダマンタイト製の球が等間隔で転がり落ちて来るから、空を飛べるゴーレムだとしても低空飛行をしてはいけない。


 ところが、厄介なことに強風が横向きではなく上から地面に叩きつけるように向きを変えた。


 もしもスラスターの出力が足りなければ、低空飛行を余儀なくされて数々の罠に対処しないといけなかっただろう。


 下向きに吹く強風に抗い、ソロネがストームタワーの頂上に到着した。


 その瞬間、頂上にある避雷針に雷が落ち、麗華の視界を光が覆う。


「なんなのよもう!」


 避雷針は雷が落ちた時にギミックが作動させ、タワー内部でランダムに爆発が生じるようになっている。


 それゆえ、雷が麗華の乗るソロネに落ちることはないのだが、少しの間だけ雷のせいで麗華は視覚に頼らず操縦しなければならなかった。


 視界がクリアになった時には目前に穴が迫っており、麗華はスピードを調整してから飛び降りる。


「まったく、シミュレーターで体験した時よりも酷いことばかり起きるわね!」


『シミュレーション通りに進まない。だから人生は面白いんじゃないか』


「人外が人生を語るな!」


 自分の愚痴に決め顔で応じるフォルフォルにムカつき、麗華はそのムカつきをフォルフォルにぶつけた。


『確かに私は人外だけど神様なんだ。もうちょっと敬ってほしいものだね』


「だったらレースの邪魔をするな!」


『ごめんねごめんね~!』


 2周目に入るのと同時に、フォルフォルは麗華を煽るように謝ってモニターから消えた。


 落雷のギミックがあちこちで作動しているのもそうだが、今度は乱気流がソロネを襲う。


 欲張らずに姿勢を制御することに集中して飛んでいると、落雷のギミックで生じた爆発に巻き込まれたらしいパワーの破片が上から下に落ちていくのが見えた。


 (残るはスフィンクスだけか。はっ、駄目よ。無理せず抜けそうなら抜くぐらいに思いましょう)


 スフィンクスのスピードを考慮すれば、追いつける可能性は十分にある。


 そこで欲張れば足元を掬われかねないから、麗華は焦る気持ちを静めて前方に見える罠をしっかりと躱していく。


 安全マージンを取って棘や黒金剛アダマンタイトの球を避けていたのだが、その時にまたしても麗華を不運が襲う。


 偶然、落雷のギミックがスロープを転がり落ちる黒金剛アダマンタイトの球に命中し、球が爆散したのである。


「嘘でしょ!?」


 麗華は翼竜砲銃ワイバーンランチャーと三対の翼の銃を一斉に発射し、それでも消し飛ばせなかった破片は両腕の盾で防いだ。


 機体は無事だったけれど、両腕の盾は今の事故のせいで粉々に砕けてしまい、次は盾で防ぐことはできなくなった。


 頂上に着いた麗華は、雷による視界不良を嫌がり加速してから穴を飛び降りた。


 飛び降りている間にトラブルは発生せず、3周目に突入してからは乱気流を凌いで大量の罠がたっぷり仕掛けられている辺りまで順調に進んだ。


「見つけた」


 麗華は前方にスフィンクスを見つけ、このスピードなら抜けると思った。


 落雷のギミックで爆発が起きても、スフィンクスにぴったりとくっ付いている黒金剛アダマンタイトが盾になっており、スフィンクスは無傷だった。


 そんなスフィンクスを盾として利用した後、麗華はスフィンクスを抜き去った。


 後ろからスフィンクスの攻撃があったけれど、密度が薄ければ余裕で躱せるので、麗華は華麗に避けてスフィンクスを置き去りにした。


 これで全てのゴーレムを周回遅れにできたから、後は無事にゴールするだけだ。


 頂上まで焦らずに進み、麗華は頂上の穴から一直線に飛び降りてゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ソロネだぁぁぁぁぁ!』


「はぁ。どっと疲れたわね…」


 麗華はストームタワーから早々に脱出し、レース会場前に戻ってから大きく息を吐き出した。


 それから、コックピットのモニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・ストームタワー)

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走行タイム:25分55秒

障害物接触数:11回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:23回

他パイロット周回遅れ人数:9人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×60

ぶっちぎりボーナス:ケルブの設計図

デイリークエストボーナス:黒金剛アダマンタイト×60

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv9(stay)

コメント:麗華ちゃんのハードラックっぷりは見てて面白かったよ

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「フォルフォルはムカつくけどケルブの設計図が出たのは当たりね」


『そんな冷たいこと言わねえで下さいよ姉御ぉ』


「誰が姉御よ。何その三下キャラ」


『麗華ちゃんとの距離感がまだ掴めてないから、今回はちょっと下っ端っぽく振舞ってみたんだ。どうかな?』


「鬱陶しいだけね。止めてちょうだい」


『はーい』


 フォルフォルがモニターから消えた後、麗華は格納庫に帰還した。


 今回のレースはハラハラする展開だったため、コックピットから出て来た麗華は恭介に無事で良かったと抱き締められて機嫌を良くしたことを補足しておこう。

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