第10章 デイリークエスト

第91話 馬じゃない。ドラキオンだ

 ホームに来て21日目、恭介は目を覚ました。


 (知らない天井だ)


 恭介がそんな風に思った理由は天蓋付きベッドのせいだ。


 昨日、アップデート無料チケット(フリー)を使って私室をver.7にしたところ、ダブルベッドが天蓋付きダブルベッドに変わってしまった。


 そのせいで見慣れて来た天井ではなく、天蓋を寝起きに見てネタっぽい感想が思い浮かんだのである。


 麗華は恭介の隣で安心した様子で寝息を立てていたが、それは恭介を抱き枕にしていたからだろう。


 恭介がめざめてから10分程経過し、麗華も目を覚ました。


「おふぁよ~」


「おはよう。ぐっすり寝られたみたいで良かったよ」


「うん。恭介さんのおかげだね」


「そりゃ良かった」


 恭介は麗華の頭を優しく撫でてから起き上がる。


 2人は身支度を整えてから食堂に移り、朝食を取ってから食休みにコーヒーを飲んだ。


 そのタイミングでフォルフォルがモニターに現れる。


『グッドモーニング! 昨晩は天蓋付きベッドでハッスルしたかい?』


「開口一番でそれかよ。相変わらずゲスだな」


「最低」


『おぉふ。最近、君達のジト目が癖になって来た気がするよ。実は、第3回代理戦争が終わったことで新しいコンテンツを解禁することになってね。それを知らせるために来たんだ』


 フォルフォルもなんだかんだでちゃんと仕事はしているらしく、デスゲームに参加するパイロット達を飽きさせないように色々と工夫しているようだ。


待機室パイロットルームの掲示板以外に大きな変更点があったのか?」


『あるんだよ。昨日の時点ではまだ準備が整ってなかったから言えなかったけど、君達がベッドの中でイチャイチャしてる時に整ったのさ』


「いちいち下世話な発言すんな。それで、何ができるようになったんだ?」


『デイリークエストだよ』


 デイリークエストとは世のゲームではよくあるものだったが、GBOにおいては存在しなかった。


 デイリークエストなんてなくてもロボット好きはGBOをプレイしたからである。


「デイリークエスト、ねぇ。タワー探索やレース、コロシアムとも違うのか?」


『いや、その3つに含まれるよ。条件をクリアすることでボーナスが増えるのさ。デイリークエストは1期パイロットと2期パイロットで違うから、そこだけ注意しといてね』


「そうか。ちなみに、今日のクエストは何か教えてくれ」


『今日はレースだね。初めて走るコースで評価A以上を獲得することだよ』


「なるほど。2期パイロットの救済策って訳だ」


『正解。今のままじゃ次回の代理戦争がつまらなくなりそうだからね』


 なんで今更デイリークエストなんて導入するのか疑問に思っていた恭介だが、今日のクエスト内容を聞いて納得した。


 恭介にとってデイリークエストは簡単にクリアできるものだったから、これがどうして導入されたのかすぐに理解できた。


 1期パイロットと2期パイロットの差を埋めるためには、多少のテコ入れが必要だ。


 ナーフはしないと宣言した以上、フォルフォルは恭介に苦言を呈されない範囲で2期パイロットの強化策を実行に移した。


 難易度調整に該当するけれど、昨日の代理戦争で恭介はレースで満足できなかっただろうから、異議を申し立てられることはないと考えたのである。


 とりあえず、恭介は食休みを終えてリュージュに乗り込みレース会場に向かった。


「フォルフォル、ホテルオブテラーに挑む」


『だよね。知ってた。いつでもどうぞ』


 フォルフォルに入場門を開いてもらったら、恭介はリュージュを操縦してその中に進む。


 不気味な洋風ホテルがコンセプトのホテルオブテラーに移動し、恭介は10位のスタート位置に着いた。


 マーリンが操縦していたユニコーンだけが黒金剛アダマンタイト製であり、それ以外のゴーレムは木目鋼ダマスカス製だから、晶が挑んだ時よりも難易度は上がっている。


 昨日の内にシミュレーターで対策済みだから、恭介は静かにレース開始のカウントダウンを待つ。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


『GO!』


 ユニコーンがギフトを使い、全ゴーレムの位置がシャッフルされるが恭介は関係ないと言わんばかりにスタートダッシュを決めた。


 ドラキオンのスペックならば、すぐにユニコーンの射程圏外まで移動できると判断してのことだ。


 実際、ユニコーンは周囲のゴーレムを変形して発射したビームで仕留めていたけれど、ドラキオンに当てることはできなかった。


 シャンデリアが天井から落ちて来たり、ソファーがゴーレムに向かって飛んで来たりするけれど、そんなギミックでは恭介のドラキオンに傷一つ付けられない。


 あっさりと2周目に入った恭介は、スタート地点でキュクロとモノティガー、エンジェル、アンダーテイカーが走行不能な状態になっているのを見つけた。


 (走れなくなったのは4体だけか。案外生き残ったものだな)


 そんな風に思っていたが、少し進んだ所で爆散したニトロキャリッジの残骸とその爆発に巻き込まれたマッドクラウンを見つけた。


 生き残りは恭介のドラキオンを除いて3機だ。


 ゴーストやファントム、レイスが2周目から現れるはずなのだが、スタート直後にはしゃいだユニコーンの進路妨害を優先して恭介の前に現れない。


 落ち来たり飛んで来たりする調度品の数は、昨日観戦していた時よりも明らかに増えているが、それでも恭介はすいすいと躱して先に進む。


 2周目もそろそろ終わりという頃合いで、前方にジャック・オ・ランタンとライカンスロープがモンスターの群れを交えて3位争いをしているのが見えた。


 2機のゴーレムに霊体のモンスター達が集まっているところからして、ニトロキャリッジを破壊したのはジャック・オ・ランタンかライカンスロープのどちらかなのだろう。


「退け! 邪魔だ!」


 トップスピードのドラキオンは風を纏っており、その風圧でジャック・オ・ランタンもライカンスロープもドラキオンには近づけなかった。


 それどころか、吹き飛ばされた隙にモンスター達に集られてしまい、仲良く走行不能になってしまった。


 恭介が3周目に突入したことで、ラップ音や割れる窓ガラス、突き破られる壁と言った要素も増えていった。


 前方には大量の霊体モンスターに纏わりつかれ、増えたギミックによって思うように進めないユニコーンの姿があった。


 ユニコーンはドラキオンの接近に気づいて速度を上げたが、ドラキオンに接近されてその風圧に弾かれる。


 その上、纏わりつく霊体モンスターのせいで視界が悪く、曲がり角に気づけなくてそのまま壁に衝突してしまった。


 (うわっ、あれは痛いわ)


 ユニコーンの中にいるだろうNPCパイロットに同情しつつ、恭介はそのまま1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 恭介はホテルオブテラーからレース会場前に戻り、それから黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 リュージュのコックピットに戻って来た後、モニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・ホテルオブテラー)

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走行タイム:23分7秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:9人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×60

ぶっちぎりボーナス:設計図合成キット

デイリークエストボーナス:黒金剛アダマンタイト×60

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv17(up)

コメント:恭介君の愛馬は狂暴です

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 (馬じゃない。ドラキオンだ)


 フォルフォルのコメントに対して恭介は心の中でツッコんだ。


 リュージュのモニターにはツッコミを期待するフォルフォルが出現し、目を輝かせている。


『恭介君の愛馬は狂暴です』


「わざわざ言わんでよろしい。ちゃんと読んだ上でスルーしてるんだから」


『そんな! もう私に飽きちゃったの!? あんなに一緒だったのに!』


「別にフォルフォルと俺は付き合ってないんだから、紛らわしいことは言わないでくれる? それに付き合いはやっと3週間ぐらいだから」


『しょぼーん』


 フォルフォルは肩を落としたけれど、なんだかんだで恭介にダル絡みして満足したのか仕方ないねと言いたげな笑みを浮かべてモニターから消えた。


 報酬の確認も済ませてやるべきことは終えたから、恭介は麗華の待つ格納庫に戻った。

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