第88話 ピンポンパンポーン。残念な速報が入っちゃったよ

 沙耶がキマイラから逃げ切った頃、麗華はデーモンが召喚した11階層~14階層のレアモンスターを順番に倒し終えたところだった。


「手間かけさせないでよね」


 ミミックを倒して護衛がいなくなったデーモンにそう言ってから、麗華は三対の翼の銃でデーモンを狙撃した。


 デーモンの回避ルートを6発の銃弾で絞り込み、翼竜砲銃ワイバーンランチャーでデーモンの腹に大きな風穴が開き、それが原因でデーモンは倒れた。


 それと同時に、ソロネのコックピット内にあるサイドポケットにアイアンが送られて来た。


 この時には麗華もドロップの法則に気づいていた。


「デーモンと取り巻きが落としたアイアンのおかげで、アイアンはゴーレム1機分造れるようになった。後は設計図次第かしら? いや、それもコロシアムのモンスターが鉱物マテリアルをドロップすれば変わるか」


 麗華がそこで思考を一旦中断したのには理由があった。


 モニター上で沙耶が自分に接近していることに気づいたからだ。


 今は周囲にモンスターもいないので沙耶を迎えに行き、ソロネのスペックもあって1分とかからずに沙耶のザントマンと合流できた。


「沙耶さん、お疲れ様。合流できましたね」


『はい、どうにか助かりました。途中で止むを得ずF国のムッシュにモンスタートレインしてしまいましたから、恨まれてると思います』


「2期パイロット虐めをしてるんだから因果応報じゃないですかね。ちなみに、何をトレインしちゃったんですか?」


『キマイラです』


 沙耶がタワーの6階層以上で出て来るモンスターの群れを擦りつけたと思ったが、実際にはコロシアムに出て来るキマイラをトレインしたと聞いて麗華は沙耶を労う。


「よく無事に逃げられましたね。大変だったでしょうに」


『トレイン先がムッシュじゃなかったら駄目でした。あいつは恭介さんや麗華さんとの戦闘にビビってスフィンクスで参戦してましたから。キマイラがいつでも倒せる私から興味を失い、守りの硬いスフィンクスを狙うようになったんです』


「ま、まあ、とにかく無事で良かったです。でも、すみません。ちょっと無茶しないと駄目かもしれません」


『無茶ですか? どういった無茶でしょうか』


 無茶と聞いて沙耶は冷や汗が流れるのを感じた。


 多分、麗華が考えている無茶は自分にとってかなりハードなことであることを未来幻視ヴィジョンを使わずとも察したのだ。


「コロシアムに出て来るモンスターを狩ります」


『そうですか…。そうなっちゃいますか…』


「11階層~15階層のモンスターを倒せばアイアンが手に入るので、先程ゴーレム1機分手に入れましたところです。ついでにカルキノスとも戦ったので、キングクラブの設計図もあります。これでアイアン製キングクラブは造れますが、まだ上を目指すとなると」


『コロシアムのモンスターをもっと倒す必要がある訳ですね』


 麗華が途中で区切った言葉に沙耶が続いた。


「その通りです。仮にムッシュがキマイラを相手に粘り勝ちしたとして、その戦闘でドロップしたアイテムが私のドロップした物よりも悪いとは限りません」


『であれば、いますぐキマイラを横取りしに行きますか? キマイラのドロップアイテムをムッシュに渡さずに済みますよ』


「前回の戦いで降参宣言してますから、おそらく私に挑もうとはしないでしょう。しかし、沙耶さんに降参した訳じゃないので仕返しされるかもしれませんよ? モンスタートレインしたんですし」


『…横取りは止めましょう』


 沙耶が提案した横取りは麗華にとって悪い案ではないのだが、自分が危険な目に遭うかもしれないと判断して沙耶は提案を取り下げた。


 2人はそれぞれモニターでモンスターを探し、今いる場所から南の方に強い反応を見つけて移動することにした。


 移動中にフォルフォルのアナウンスが麗華達の耳に届く。


『ピンポンパンポーン。残念な速報が入っちゃったよ。BR国のカッカオとバッジョがネメアズライオンに食い殺されちゃった。それとD国のドイチュはコカトリスに啄まれて死んじゃった。BR国とD国はパイロットが全滅しちゃったね。テレビの前のBR国民とD国民諸君、資源の奪い合いに勤しんでね♪』


 (やっぱりフォルフォルは最低ね)


 麗華はフォルフォルのアナウンスを聞いて不愉快な気分になった。


 第3回デスゲームが開催されるかわからないが、仮にそれが開催されるまでBR国民とD国民は食料と素材を得る手段を失ってしまった。


 そうだとしても、資源の奪い合いを推奨するなんてどうかしてると思うのは平和を好む者にとって自然だろう。


 とりあえず、麗華と沙耶は南にいるであろうネメアズライオンの討伐に向かった。


 麗華達がネメアズライオンに遭遇した時、そこには先客がいた。


 先客と言っても、食い散らかされていて動かないがらくたになっているのだが。


『ピンポンパンポーン。また残念な速報だよ。EG国のセットンとホルホルスがネメアズライオンに食い殺されちゃった。それとR国のミサイルマンがコカトリスに啄まれて死んじゃった。EG国とR国もパイロットが全滅しちゃったね。テレビの前のEG国民とR国民諸君、血沸き肉躍る資源の奪い合いを楽しんで!』


 状況説明はフォルフォルのアナウンスのおかげで済んだけれど、コメントの内容が酷くて麗華も沙耶もアナウンスの度に不愉快な気分になってしまう。


「沙耶さん、気持ちを切り替えましょう。戦闘に集中しなければ、ネメアズライオンにやられますよ」


『…わかりました。もう大丈夫です』


 沙耶の準備が整ったため、麗華はセットンとホルホルスのゴーレムを漁るネメアズライオンに対して翼竜砲銃ワイバーンランチャーのビームを放つ。


 ギリギリ射程圏内という位置から発射したので、ビームがネメアズライオンに届くまで少しだけ時間を要した。


 そのせいでネメアズライオンが攻撃されたことに気づき、慌てて躱したことでビームが脇腹を掠る程度の怪我で済んだ。


「ガォォォォォン!」


 傷つけられて怒ったネメアズライオンはソロネに駆け寄り、その鋭い爪で攻撃する。


 ところが、麗華の操縦するソロネが空に逃げたことで爪による攻撃は空振りに終わった。


 麗華は避けるのと同時に三対の翼の銃を発射し、ネメアズライオンに連続でダメージを与える。


「ガォン!?」


 黒金剛アダマンタイト製の銃弾というだけでも硬さで負けているのに、土属性で風属性の銃弾には相性でも不利なネメアズライオンだから、受けたダメージは決して少なくない。


 ネメアズライオンのヘイトは完全に麗華が稼いでおり、沙耶はネメアズライオンに後回しにされている。


 この状況にちょっぴり悔しさを感じるけれど、深追いして反撃されたら避けられないから、沙耶は周辺の警戒に従事する。


 麗華がネメアズライオンとの戦闘に集中している所を狙い、ちょっかいをかけて来る敵がいないとも限らないからだ。


 2期パイロットの中では沙耶も上位の実力者なので、コレクト&ビルドにおいては麗華とムッシュ以外に勝てる自信がある。


 だからこそ、沙耶は自分に割り振られた役割だけに集中すれば良い。


 戦闘の話に戻るが、ネメアズライオンは麗華になんとか一撃でも与えてやろうと必死に攻撃を繰り返すけれど、麗華は回避と三対の翼の銃による銃撃をワンセットで行うから、次第にネメアズライオンの動きが鈍って来る。


 (そろそろ仕上げの時間ね)


 モニターに映る制限時間も残り僅かだと気づき、麗華はネメアズライオンとの戦闘を終わらせようと翼竜砲銃ワイバーンランチャーを構えた。


 ソロネの動きが止まれば、体がボロボロな状態でも一撃入れられるはずとネメアズライオンは攻撃を仕掛けるが、それは麗華が誘っているだけだ。


 射線に入ったネメアズライオンに対し、麗華はビームを発射してネメアズライオンを倒した。


『ピンポンパンポーン。またまた残念な速報だよ。IN国のラドンイとラトリヴが漁夫の利を狙ってたんだけど、F国のムッシュの策略でキマイラに殺されたよ。MPKでは物的財産は引き継がれないから、ラドンイとラトリヴの物的財産は私が回収した。さあ、テレビの前のIN国民諸君、供給が止まった資源を奪い合う醜い毎日を存分に楽しんでね♪』


「最低の気分だわ」


『同感です。ネメアズライオンとの戦い、お疲れ様でした。周囲に敵はいません』


「警戒ありがとうございます。リュカオンの設計図が手に入りました」


『キングクラブよりも上等ですね。流石です』


 沙耶が麗華を労った直後、タイムアップを告げるブザーが草原に鳴り響いた。

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