第87話 悪く思わないで下さいね
転送された沙耶が初めて見たものは、広大な草原だった。
『コレクト&ビルド、始め!』
フォルフォルの宣言と同時に、ザントマンのモニターの右上に制限時間がカウントダウン形式で表示される。
メイン部分にはマップと複数のアイコンが映し出されており、必要な情報は全てモニターに出ていた。
中心にある白三角アイコンが自分であり、沙耶は草原の西寄りの中央にいることを理解した。
「麗華さんと離れてるのは心細いですね。
昨日、沙耶は手に入れたザントマンの設計図を使ってキュクロからザントマンに乗り換えた。
また、どうにか
恭介のように初めての代理戦争から
それでも、ザントマンもボムスター零式もこの時点では優秀だから、沙耶は不安な気持ちを振り払って近くにいたコボルドの群れに接近する。
「ドロップアイテムを置いてって下さい」
ボムスター零式を群れの中心に振り下ろせば、爆発に巻き込まれて周囲の個体も倒せた。
コックピット内のサイドポケットに目録で手に入れた
「まさか、5階層までのモンスターじゃ
GBOにおいて沙耶は(゚д゚)というネタ感の強いパイロットネームだが、検証班の一員として認められるぐらいには賢く行動力もある。
ただし、恭介や麗華と比べるとパイロットスキルは高くないから、インプより強いモンスターと遭遇した時に勝てるか心配である。
そんな時、フォルフォルのアナウンスが聞こえて来た。
『ピンポンパンポーン。速報が入ったから伝えるね。たった今、A国のアイアムマンが日本の福神漬けを襲撃して返り討ちにされたよ。アイアムマンの物的財産は福神漬けに引き継がれた。やったね!』
「流石麗華さんです。というか、麗華さんを襲撃とかアイアムマンは馬鹿ですね」
既に二度の代理戦争を生き延びた1期パイロットの麗華を襲うなんて、沙耶からすれば自殺行為としか思えない。
仮にモンスターを倒した隙を狙ったのだとしても、麗華が乗るソロネのスペックに勝てるゴーレムなんて恭介しか持っていないだろう。
それにもかかわらず、なんで襲撃なんてしたのか不思議だと思うのは当然のことだ。
昨日の打ち合わせでは、バトル部門に参加する場合に沙耶と晶は恭介か麗華とできるだけ早く合流するようにと言われていたため、沙耶はモニターを操作して東側にいる麗華と合流すべく、草原の東に向かった。
しかし、簡単に合流させてくれるほど現実は甘くない。
「あれは確かサファギンですね。しかも複数体。恭介さん達の話じゃタワー7階層で出て来るはずでしたが、既出とはそういうことでしたか」
沙耶はコレクト&ビルドのルールの文言を思い出し、既出のモンスターがパイロットの誰かにとってなのだと理解した。
そうなると、タワーの15階層までのモンスターも当然出て来るし、下手をすれば恭介と麗華が倒したコロシアムのモンスターまで出て来てしまう。
真剣に合流しなくてはいけない理由ができたので、沙耶はサファギンの群れに接近し、ボムスター零式で殴りかかる。
幸いなことに、
「
サファギンのドロップアイテムを確認し、沙耶はドロップする鉱物マテリアルの法則を一部理解した。
まだ自分は遭遇していないため、コロシアムのモンスターが何をドロップするかわからないし、タワーに出て来るモンスターだって設計図をドロップするかもしれない。
だとしても、自分ならどこまでのモンスターを倒せるのか調べつつ、少しでも麗華に貢献するのがコレクト&ビルド勝利の道筋だと沙耶は判断した。
その時、再びフォルフォルのアナウンスが沙耶の耳に届いた。
『ピンポンパンポーン。速報だよ。F国のムッシュがE国のブリブリテンとR国のホースマンの襲撃に成功したよ。ブリブリテンとホースマンの物的財産はムッシュに引き継がれた。やったね!』
「E国に続いてF国の1期パイロットもイキりますか。そうですか」
マーリンとムッシュの行動には共通点がある。
それは2期パイロットにしか勝負を挑まないという点だ。
恭介と麗華に勝てず、降参すると言った2人だからなのか、自分が生き残ることを優先している。
ただし、それだけだと自国民から非難されてしまうから、代理戦争では他国の2期パイロットを積極的に殺して物的財産を奪っている。
奪った財産の中に資源カードがあれば、それをスキャンして資源を国に転送できる。
資源さえ送ればとりあえず文句も言わなくなるはずと考えてのことだから、マーリンもムッシュも黒い思考の持ち主なのだろう。
沙耶が東にいる麗華と合流するべく向かっていると、困ったことにタワーでは見たことのないモンスターがいた。
しかも、そのモンスターは他国のゴーレムにのしかかり、火を吐いてとどめを刺すところだった。
『ピンポンパンポーン。残念な速報が入ったよ。なんとC国のハオハオがキマイラに襲撃されて焼き殺されちゃったんだ。さよなら』
「最悪ですね。コロシアムのモンスターじゃないですか」
アナウンスでキマイラと呼ばれたモンスターが正面にいて、ハオハオを殺した今、熔けた金属塊に興味はないと次の獲物を探していた。
そして、沙耶の乗るザントマンを見つけたのだ。
「ガォォォォォ!」
「メェェェェェ!」
「シャァァァァ!」
獅子と山羊、蛇の頭のそれぞれが沙耶を殺してやるとして吠え、ザントマンよりも高く飛び上がる。
「まったく、冗談じゃないですよ!」
沙耶は全力で逃げ始めた。
自分じゃキマイラに勝てる実力がないとわかっているからだ。
東に向かいたいところだが、キマイラをトレインして麗華と合流する訳にはいかないから、沙耶は北に向かった。
北に向かって逃げる沙耶を見て、キマイラは彼女の乗るザントマンを追いかけるつもりになったらしい。
逃げるザントマンに向かって火を吐くキマイラだが、沙耶がキマイラの攻撃パターンを把握しているから上手く躱してなかなか当たらない。
そうしている内に、自分よりも弱いパイロットを狩っている途中のムッシュと遭遇した。
『ピンポンパンポーン。速報だよ。F国のムッシュがD国のソイツをの襲撃に成功したよ。ソイツの物的財産はムッシュに引き継がれた。やったね! でも、この場を借りて言わせてもらおう! ムッシュ、後ろぉぉぉぉぉ!』
フォルフォルがそう言った時、沙耶の乗るザントマンがムッシュを追い越した。
その後ろからはキマイラが迫って来ており、ムッシュは慌てて逃げ出す。
「ガォン?」
「メェ?」
「シャア?」
キマイラのいずれの頭もムッシュに興味を示していた。
何故なら、ザントマンなんてキマイラにとってはいつでも始末できる取るに足らない存在だからだ。
第2回代理戦争の際はメヴィに搭乗していたムッシュだが、今回の代理戦争ではスフィンクスに乗り換えており、今は防御に重きを置いている。
これはどの道速度で恭介に敵わないから、守りを固めてやろうと判断してそうなった。
スフィンクスの変形で大きな猫の姿になっており、ムッシュはキマイラの攻撃を次々に防ぐものだから完全にヘイトを奪っていた。
「すごいですね。結果的にはモンスタートレインをしてしまいましたが、ムッシュが食い止めてくれたので助かりました」
そう言いながら、沙耶は進路を東に変えて進む。
キマイラはムッシュのスフィンクスに夢中で沙耶のザントマンのことをすっかり忘れてしまったらしい。
3つの頭のいずれの目もザントマンを気にしておらず、今は新しく手に入れたスフィンクスという玩具に夢中なようだ。
「悪く思わないで下さいね」
沙耶はどうにかキマイラの勢力圏から脱出し、ようやく一息つくことができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます