第86話 前例踏襲ばかりじゃつまらないでしょ?

 晶がイベントエリアに戻って来ると、恭介の時と同じように日本チームが集まっている場所だった。


『晶、お疲れ。マーリンがイキってたけど逃げ切ったな』


「お疲れ様です。大変でしたね」


『お疲れ様です。生還してくれてよかったです』


『ありがと~。ギフトもレベルアップしたし収穫のあるレースだったよ』


 すぐにマーリンとユニコーンもイベントエリアに戻って来て、各国からヘイトを集めていた。


『ご存じの通り、生還者は以上だよ。全体向けの結果を発表するね』


 フォルフォルがコメントした直後、恭介達のコックピットのモニターに個人向けレーススコアとは別の画面が表示される。



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レーススコア(第3回代理戦争・ホテルオブテラー)

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1位:ねこまたびたび(日本/ニンフ/33分44秒)

2位:マーリン(E国/ユニコーン/34分11秒)

3位:コイツ(D国/エンジェル/記録なし/死亡)

4位:ボルシチ(R国/ニトロキャリッジ/記録なし/死亡)

5位:エスカルゴン(F国/アンダーテイカー/記録なし/死亡)

6位:アイシス(EG国/キュクロ/記録なし/死亡)

7位:無問題(C国/ジャック・オ・ランタン/記録なし/死亡)

8位:ベンガルガル(IN国/マッドクラウン/記録なし/死亡)

9位:バケツアイス(A国/ライカンスロープ/記録なし/死亡)

10位:インテル(IN国/モノティガー/記録なし/死亡)

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備考:E国のマーリンが8ヶ国潰して小銭を稼いだよ♪

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 なんともやらしい備考欄の使い方だ。


 帰って来て早々にマーリンはヘイトを集めているというのに、さらにヘイトを稼ぐ手伝いをするなんてフォルフォルは性格が悪い。


『あれれ~? おっかし~ぞ~。レース部門が終わっただけで、半数のパイロットを失った国がいる~。バトル部門で残りのパイロットに課せられた責任は重大だね♪』


 パイロットの残りは日本が4人、E国とF国、A国、C国が3人ずつ、その他が2人ずつだ。


 これから始まるバトル部門で全員脱落してしまう国があるかもしれない訳で、それをわかっててプレッシャーをかけるフォルフォルは本当に性格が悪いと言える。


 もっとも、満面のゲス顔でプレッシャーをかけるフォルフォルを見て、その性格を悪くないと言う者はいないだろうが。


『さーて、バトル部門のテーマもサイコロを振って決めるよ』


 フォルフォルが指パッチンしたら24面ダイスが突然現れ、それを放るのと同時にフォルフォルが歌い出す。


『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』


 お決まりのネタの後で24面ダイスが止まった時、その面に記されていた文字はコレクト&ビルドだった。


『テーマ決定! コレクト&ビルドだよ! やったね!』


 コレクト&ビルドのルールがそれぞれのコックピットのモニターに映し出される。



 ・戦場には既出のモンスターがおり、倒して設計図や鉱物マテリアルを集める

 ・集めた設計図と鉱物マテリアルを使い、制限時間が過ぎたらゴーレムを造る

 ・他国のパイロットが集めた設計図を殺して奪うのは問題なし

 ・回収に使える時間は1時間あり、ゴーレムを造れなかったら失格

 ・造ったゴーレムによってポイントが高い程順位も高い

 ・スタート位置はバラバラで国別にまとまることはない

 ・味方は同じで他国のパイロットは色違い、モンスターは色も形も違うアイコン

 ・ゴーレムのサイズはタワー探索時と同じ



 レース未参加の全パイロットが8つのルールを確認したところで、参加者が乗るゴーレムの足元に魔法陣が現れる。


『いってらっしゃーい』


 フォルフォルの声が聞こえた後、イベントエリアが光に包み込まれた。


 光が収まって麗華が目にしたのは広大な草原だった。


『コレクト&ビルド、始め!』


 フォルフォルの宣言と同時に、ソロネのモニターの右上に制限時間がカウントダウン形式で表示される。


 メイン部分にはマップと複数のアイコンが映し出されており、必要な情報は全てモニターに出ていた。


 中心にある白三角アイコンが自分であり、麗華は草原の東側にいることを理解した。


 それと同時に、麗華はすぐ近くにカルキノスがいたので顔を引き攣らせた。


「なんでコロシアムのモンスターまでいるのよ!」


『えっ、ルールを読んでなかったの? 戦場には既出のモンスターがいるって書いてあったでしょ?』


「既出ってコロシアムも含むの!? 今までの代理戦争じゃタワーで出て来たモンスターしか出て来なかったじゃない!」


『前例踏襲ばかりじゃつまらないでしょ?』


 フォルフォルは第3回代理戦争でレース部門を2回に増やした。


 1人目は任意で参加者を決められるようにして、2人目はランダムで決めたおかげで恭介一強のレースだけでなく、マーリンというスパイスが加わったレースも実現した。


 既にレース部門において第2回までの代理戦争とは違っている部分があるのだから、バトル部門だって違う部分があってもおかしくないだろう。


 しかも、フォルフォルはルールを破っている訳ではない。


 コロシアムで恭介達が戦ったモンスターだって、デスゲーム全体では既出にカウントされるべきなのだ。


 つまり、今回についてはフォルフォルの言い分に筋が通っている訳で、その変化を加えた理由が退屈にならないようにと言うエゴだとしても、麗華の異議は却下された。


「あぁ、もう、やるしかないわね」


『頑張れ♪ 頑張れ♪』


「失せなさい」


『はーい』


 これ以上麗華を怒らせると不味いと判断し、フォルフォルはモニターから姿を消した。


 麗華は気持ちを切り替え、モニターで捕捉したカルキノスとの戦闘を始める。


 カルキノスは口元でブクブク泡を溜め、麗華の乗るソロネに向かって細かい泡をジェット噴射した。


 麗華はそれを左腕に付属する盾で防ぎ、三対の翼の銃口から弾を一斉に発射した。


 それらの銃弾が攻撃中のカルキノスの口に命中し、カルキノスの攻撃が中断された。


 その隙に麗華は接近して翼竜砲銃ワイバーンランチャーを撃った。


 カルキノスは両腕の鋏を盾にしたのだが、ビームを防ぐには強度が足りずに破壊され、鋏が壊れた衝撃で後ろにひっくり返った。


「さよなら」


 三対の翼の銃口から銃弾を一斉に発射し、麗華はカルキノスにとどめを刺した。


 カルキノスのドロップアイテムがコックピットサイドポケットに転送され、麗華はそれを手に取って設計図カードであることを確認した。


「ふーん。キングクラブの設計図か。倒したモンスターの強さに比例するみたいね」


 キングクラブとは機械蟹に変形可能な人型ゴーレムだ。


 水陸両用で防御に長けたゴーレムではあるものの、使う者が限られている。


 何故なら、機械蟹に変形した時の動き方がカサカサと動くのでパイロットの間では台所の悪魔なんて二つ名で呼ばれている。


 麗華がカルキノスを倒して油断したと思ったのか、急接近するゴーレムがいた。


「気づいてたわ。バイバイ」


 三対の翼の銃口がそのゴーレムに向き、一斉に発射された銃弾のどれかがコックピットを撃ち抜いて爆発した。


『ピンポンパンポーン。速報が入ったから伝えるね。たった今、A国のアイアムマンが日本の福神漬けを襲撃して返り討ちにされたよ。アイアムマンの物的財産は福神漬けに引き継がれた。やったね!』


 フォルフォルの速報により、麗華がA国のアイアムマンを殺したことが周知された。


 この速報を聞いたパイロット達はどう思うのだろうか。


 福神漬けに人の心はないと非難するのか。


 もしくは、アイアムマンに馬鹿なことをしたものだと嘲笑うのか。


 第2回代理戦争の後、池上に言われた代理戦争は大きな収入源というフレーズが頭に浮かび、麗華は不快な気分になった。


「代理戦争なんてなくなれば良いのに。いや、それを言うならデスゲームもか」


『そんなこと言わないでよ。デスゲームがなかったら恭介君と会えなかったでしょ?』


「そうとも限らないわ。だって私、恭介さんと同じ会社に内定してたんだもの」


『でも、同じ部署に配属されるとは限らないよね。同じ会社に所属できたとしても、会ったことのない社員がいるって人も当然いる。麗華ちゃんのリアルラックはしょぼいから運任せじゃ厳しい。はい、論破』


「失 せ ろ」


『あっはい』


 早口でまくし立てたフォルフォルのせいで余計に嫌な気分になり、麗華は早くコレクト&ビルドを終わらせて恭介に会いたいと思った。

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