第85話 勝てばよかろうなのだァァァァッ!!

 恭介がイベントエリアに戻って来ると、そこは日本チームのゴーレムが集まっている場所だった。


『恭介さん、お疲れ様。リュージュでぶっちぎりだったね』


『お疲れ様です。すごかったです』


『恭介君半端ないねー。日本でもリアルタイムで見てたけどヤバいわー』


「ただいま。初心者しかいなかったんだから、あれぐらいできて当然だ」


 他国のパイロット達が聞いていたとしても、それは誰も否定できない事実だ。


 ゴールした者から順番にイベントエリアに戻って来るのだが、恭介の他に帰って来れたのはF国のマダムFとA国のキャプテンA、C国のリチョーだけだった。


 キャプテンAのブリキドールとリチョーのモノティガーはボロボロであり、どうにか完走した気配がした。


『はい、生還者は以上だね。全体向けの結果を発表するよ』


 フォルフォルがコメントした直後、恭介達のコックピットのモニターに個人向けレーススコアとは別の画面が表示される。



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レーススコア(第3回代理戦争・カオスビーチ)

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1位:トゥモロー(日本/リュージュ/17分26秒)

2位:マダムF(F国/エンジェル/32分45秒)

3位:キャプテンA(A国/ブリキドール/35分50秒/中破)

4位:リチョー(C国/モノティガー/36分22秒/中破)

5位:ティータイム(E国/マッドクラウン/記録なし/死亡)

6位:コサック(R国/ジャックフロスト/記録なし/死亡)

7位:アイツ(D国/ライカンスロープ/記録なし/死亡)

8位:メジェオ(EG国/アンダーテイカー/記録なし/死亡)

9位:ロナール(BR国/スイーパー/記録なし/死亡)

10位:ブディズム(IN国/キュクロ/記録なし/死亡)

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備考:死亡者全てギミックとモンスターにやられたので物的財産は没収済

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 (簡単に死に過ぎじゃないか? こんなんじゃすぐにデスゲームが終わるぞ)


 大して難しく感じなかったレースで6人のパイロットがなくなったため、恭介はこの調子なら今回のデスゲームもさっさと終わりそうだと感じた。


『はーい、トゥモローが強過ぎたレースはここまでにして、ホテルオブテラーで走るパイロットをランダムでコースに飛ばすね』


 フォルフォルがそう言った瞬間、心の準備もできないままに晶が乗るニンフが転送されてしまった。


 転送の際に生じた光で目を瞑ってしまった晶だったが、目を開けるようになって見えたのは不気味な洋風のホテルの中だった。


 既にスタート位置にいた晶だが、当然ながら順位は10位だ。


「んー、誰が出場してるか知りたいんだけどなー」


 晶がそう呟いた直後、コックピット内のモニターにレース参加者の情報が映し出された。



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レース参加者(第3回代理戦争・ホテルオブテラー)

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1位:アイシス(EG国/キュクロ/風)

2位:インテル(BR国/モノティガー/土)

3位:ベンガルガル(IN国/マッドクラウン/土)

4位:コイツ(D国/エンジェル/水)

5位:ボルシチ(R国/ニトロキャリッジ/火)

6位:マーリン(E国/ユニコーン/風)

7位:無問題(C国/ジャック・オ・ランタン/火)

8位:バケツアイス(A国/ライカンスロープ/風)

9位:エスカルゴン(F国/アンダーテイカー/土)

10位:ねこまたびたび(日本/ニンフ/水)

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「げっ、マーリンって1期パイロットじゃん」


 晶は今回のレースに紛れ込んでいる1期パイロットの名前を見つけ、嫌そうな表情になった。


 そんな晶の気持ちなんて関係なく、全員の準備ができたところでレース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 レース開始直後、マーリンがギフトを使って全員の順位をあべこべにした。


 それだけではなく、マーリンはユニコーンを馬形態に変形させて周囲のゴーレムに向かって薙ぐようにビームを放った。


「ギフト発動!」


 回避が間に合わないと思った晶は堅牢動盾シールドを発動し、マーリンの攻撃を防いでみせた。


『なんということだ! E国のマーリンが開始早々に6機のゴーレムを撃墜して物的財産を没収! お仲間がなくなった国のみんなは残念! 日本のねこまたびたびはよく防いだね!』


 マーリンが撃墜したのはアイシスとインテル、ベンガルガル、無問題、バケツアイス、エスカルゴンだ。


 1位は堅牢動盾シールドでビームを完全に防ぎ、先に進むことに集中できた晶である。


 その後にボルシチ、マーリン、コイツと続く。


 ホテルオブテラーはお化け屋敷系のコースで、廃業になった巨大ホテル内を幽体のモンスターとギミックを避けて進まねばならない。


 ギミックの例を挙げるならば、シャンデリアが天井から落ちて来たり、ソファーがゴーレムに向かって飛んで来たりする。


 ニンフを操縦する晶は、あらゆる角度から調度品が飛んでくるのを躱すのでいっぱいいっぱいで、後ろから追いかけて来るゴーレムを気にする余裕はなかった。


「あー、鬱陶しいなー」


 普段よりも晶の声に焦りが出ている。


 その後ろでコイツの撃った銃弾をマーリンが躱し、それがボルシチのニトロキャリッジに命中して爆発した。


『ヒャッハー! D国のコイツの撃った銃弾がR国のボルシチを仕留めたぜぇぇぇ! ボルシチの物的財産はコイツに引き継がれた! おめでとう!』


 フォルフォルのアナウンスが終わった瞬間、マーリンは急停止してコイツを先に行かせてビームで撃ち抜いた。


『ヒュ~、やるじゃん! E国のマーリンがD国のコイツを仕留めて物的財産を掻っ攫ったよ! トゥモローがいないとマーリンの弱い者虐めが捗るね!』


 このアナウンスを聞いて晶は嫌な予感しかしなかった。


「やだー、もう僕とマーリンしかいないじゃないですかー」


 うんざりした様子でそんなことを言っている間に、晶もマーリンも2周目に突入した。


 その時、運が晶に味方をした。


 ゴーストやファントム、レイスが晶達の進路妨害のために現れたのだが、そろいもそろって晶をスルーしてマーリンを狙ったのだ。


 ホテルオブテラーにおいて、モンスターが最優先で襲うのは敵ゴーレムを仕留めた数が多いゴーレムである。


 1位なのにスルーされたおかげで、晶はマーリンが邪魔なモンスターを倒している内に差をつけていく。


 落ち来たり飛んで来たりする調度品は最小限の動きで躱し、晶はいよいよ3周目に突入する。


 マーリンも3周目に突入したところで、自分のレースを妨害するモンスターの数が更に増えていく。


「わーお、野蛮なパイロットに優しくないコースだね。恭介君の真似をしといて良かったよ」


 マーリンの搭乗するユニコーンに群がるモンスターの数をモニターで見て、晶は恭介のようにレース中に武器による攻撃しない選択をして良かったと思った。


 3周目からはラップ音や割れる窓ガラス、突き破られる壁と言った要素も増えていったが、晶は回避することに専念して先に進んだ。


 マーリンも追い上げて来たけれど、なんとか晶はゴーレム1機分の差をキープして1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は日本のねこまたびたび&ニンフだぁぁぁぁぁ!』


 フォルフォルが晶が1位であることを宣言し、ニンフの足元に魔法陣が現れてニンフを光が包み込む。


 イベントエリアに転送されている間、晶はコックピットのモニターレーススコアが表示されたことに気づいてそれに目を通す。



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レーススコア(第3回代理戦争・ホテルオブテラー)

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走行タイム:33分44秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:8人

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総合評価:A

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×50

ぶっちぎりボーナス:アップデート無料チケット(食堂)

ギフト:堅牢動盾シールドLv4(up)

コメント:勝てばよかろうなのだァァァァッ!!

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「含みのあるコメントだね。僕が一体どんな汚い手を使ったって言うんだい?」


『晶君もなかなか小狡いじゃないか。敢えてマーリンを攻撃せずに逃げたことで、次のバトル部門をE国にヘイトが溜まった状態で行えるんだから』


「うわー、そんなこと考えてないのにー(棒)」


『私、君と仲良くなれる気がするよ』


 フォルフォルの仲良くなれそう発言が聞こえた後、光が収まって晶はイベントエリアに帰還した。

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