第82話 麗華ちゃん大勝利!

 返って来た恭介を労った後、今度は自分の番だと言って麗華はソロネに乗ってレース会場にやって来た。


『やあ、次は麗華ちゃんのターンなんだね。今日は何処に挑むつもりなんだい?』


「フォールマウンテンよ。私も一度は代理戦争で使われたコースで走ってみるの」


『経験の幅を広げることは良いことだね。じゃあ、入場門を開くよ』


 フォルフォルは珍しくダル絡みすることなく、入場門を開いてモニターから消えた。


 いつもこれぐらいおとなしくしてくれれば良いのにと思うけれど、フォルフォルにそれを望むのは厳しいだろう。


 麗華がフォールマウンテンに移動したら、そこは天気は風のない曇り空で9機のゴーレムが平行四辺形を描くようにスタンバイしていた。


 既に待機していたゴーレム達は、いずれも第1回代理戦争で恭介と競った種類と同じであり、ゴーレムを構成する鉱物マテリアルが木目鋼ダマスカスに変わっている。


 先頭から順番にベーススナイパー、キュクロ、モノティガー、スイーパー、ブリキドール、ジャック・オ・ランタン、ニトロキャリッジ、マッドクラウン、ライカンスロープと並んでおり、麗華は10位のスタート位置にソロネを移動させる。


 全員の準備ができたところで、すぐにレース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1,GO!』


 ソロネが斜め上方向にスタートダッシュに成功し、一気に1位に躍り出た。


 今日から麗華が操縦するソロネだが、ドミニオンとは違って三対の翼を背中に生やした天使型ゴーレムで、その翼は銃になっている。


 翼の銃はまだ使わず、戦闘航空機の姿に変形して速度を上げている。


 後ろが騒がしくなったけれど、それはお決まりの如く自爆して周囲を巻き込んだニトロキャリッジが原因だったので、麗華は爆風だけ利用してそれ以外の影響が自分には来ないとわかれば放置した。


 フォールマウンテンはスタートしてすぐに勾配が急な上り坂であり、その上り坂はくねくねと曲がっていて障害物もあるが、翼のあるゴーレムならばすいすいと進める。


 山頂から次々に転がって来る岩球をジグザグに躱していく内に山頂に到着し、そこから飛び降りて麗華はソロネのトップスピードを維持しながら2周目に突入した。


「爆発に巻き込まれたのは前回と同じゴーレムね」


 ブリキドールとジャック・オ・ランタン、マッドクラウン、ライカンスロープの4機を見て、麗華はまた巻き込まれたのかと同情した。


 それと同時に木目鋼ダマスカス製のニトロキャリッジの自爆の恐ろしさを感じ、決して巻き込まれてなるものかと思った。


 山頂までの道のりは順調であり、麗華はその途中で6位のベーススナイパーを抜いた。


 4位集団のキュクロとスイーパーは山頂に到着したタイミングで捕捉し、山頂から飛び降りたところで抜き去った。


 キュクロとスイーパーはお互いに攻撃し合いながら落下していたが、麗華のソロネを見て油断しただろう相手に対して同時に銃撃を行って共倒れした。


 麗華はまだ一度も翼竜砲銃ワイバーンランチャーを使っていないけれど、3周目に突入した。


 山頂から転がり落ちる岩球を次々に躱し、山頂がぼちぼち見えたところで麗華は前方に3位のニトロキャリッジを捕捉する。


 (撃てば終わるんだけどな)


 翼竜砲弾ワイバーンランチャーで撃ったならば、その火力で間違いなくニトロキャリッジは爆散する。


 角度的にはまだ見えていないが、恭介が以前挑んだレースでは2位のモノティガーと大して離れていなかった。


 それならば、ニトロキャリッジの爆発で間接的に倒すこともできるだろうが、麗華はホームの待合室パイロットルームでこのレースを見ているだろう恭介の目を気にしていた。


 自分が嬉々として敵を狩る様子を見せてしまうと、折角付き合うことができたのに恭介に怯えられてしまうのではと思っているのだ。


 代理戦争でもない限り、ゴーレムを破壊しても生きているパイロットを殺す訳ではない。


 そのように理解しているからこそ、麗華は精神的ストレスを負うことなくゴーレムを撃てるのだが、恭介の前では野蛮さを感じさせないようにしようとしている。


 こんな風に考えるようになったのは、間違いなくフォルフォルが野蛮だなんだと麗華を揶揄ったことが影響している。


 ソロネが山頂に着いた時、ニトロキャリッジが丁度飛び降りたところだった。


 ところが、ニトロキャリッジは飛び降りる時に2位のモノティガーに追いつきたいと思って無理に速度を上げたため、落下の途中で爆発してしまった。


 その爆風が同じく落下中のモノティガーを地面に叩きつけ、どうにか着地したもののコックピット内でパイロットが感じた揺れはモノティガーの操縦を一時中断させる程だった。


 モノティガーが止まっている隙にソロネが抜き去り、麗華はレースで初めて全員を周回遅れにした状態でゴールできた。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ソロネだぁぁぁぁぁ!』


「やったわ! 遂に非殺生ボーナスとぶっちぎりボーナスゲットよ!」


 喜ぶ麗華はフォールマウンテンから脱出し、レース会場前に戻ってからモニターに映し出されたレーススコアを確認し始める。



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レーススコア(ソロプレイ・フォールマウンテン)

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走行タイム:15分9秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:9人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×60

ぶっちぎりボーナス:アップデート無料チケット(待機室パイロットルーム

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv9(stay)

コメント:麗華ちゃん大勝利!

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『やったね! 麗華ちゃん大勝利!』


 突如モニターに現れたフォルフォルは、ピンク色のロングヘアーのヅラを被ってキャピキャピしながらそう言った。


 フォルフォルの外見にイラっとしたため、折角良い気分だったのに麗華の視線は冷たいものに早変わりである。


『やだなぁ、そんな目で見るなんて。興奮するじゃないか』


 麗華はフォルフォルを無視して格納庫に帰還した。


 コックピットから出て来た麗華を恭介が出迎える。


「お疲れ様。遂に全員周回遅れにしたな」


「うん。それに恭介さんみたいに誰も攻撃しないで周回遅れにしたよ」


 ドヤ顔を披露する麗華を見て、恭介は一瞬驚いたもののすぐに微笑んだ。


「そうだな。でも、無理に真似しなくて良いんだぞ。麗華には麗華のスタイルがあるだろうから」


「だよね。今日は余裕があったから真似できたけど、ストームタワーとかストームデザート、スカイスクレイパーだったら絶対に真似できないと思う。恭介さんすご過ぎ」


「レースは得意だからな」


「レースでしょ。宝箱探しやバトルだってすごいんだもん」


 麗華がどんどん褒めて来るから、なんとなく恥ずかしくなって恭介は話題を変える。


「俺のことは良いんだよ。それより、ボーナスの方はどうだった?」


「あっ、そうだった。待機室パイロットルームの無料アップデートチケットを貰えたよ。アップデートしないと」


 恭介は麗華と共に待機室パイロットルームに移動し、麗華に待機室パイロットルームをver.5にアップデートをしてもらった。


 アップデートにより、壁に設置されたモニターで待機室パイロットルームのデザインを自由に模様替えできるようになった。


 ずっと同じ場所にいると飽きてしまうから、こういった心遣いは地味にありがたいものだ。


 とりあえず、待機室パイロットルームのデザインを日替わりに設定してみた。


 その作業を終えた時、フォルフォルがモニターにアップで現れる。


『パンパカパーン! 日本の(゚д゚)とねこまたびたびがタワーの5階層に到達したよ! 明後日は第3回代理戦争に決定!』


 フォルフォルの発表により、恭介と麗華はやっぱりあの2人が2期で最初の5階層到達者になったかという表情になった。


『あれ~? リアクション薄いよ~? もっとテンション上げてYO!』


「うざい」


「鬱陶しい」


『まったくもう、そこはE国のマーリンやF国のムッシュみたいにオーバーリアクションをしてよ~。あっちの分身達によれば、ガタガタ震えて無様に降参させてくれって泣いたらしいよ』


 ニコニコした顔で割と酷いことを言うフォルフォルに対し、恭介も麗華も溜息しか出なかった。

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