第78話 それはね、日本人がクレイジーだからだよ

 昼食を済ませて食休みを終えた後、沙耶と晶は午後の探索を始めるべくタワーに移動した。


『ふーん、青銅ブロンズ製になったんだね』


「そうです。これで探索が少し楽になるでしょう」


『いやいや、そもそも君達は恭介君達から武器と設計図を貰ってるじゃないか。1期パイロットがいない国なんて、まだ1階層でひーひー言ってるところもあるんだからね?』


「流石にそれは持ってますよね? 相手はスライムですよ?」


 いくらなんでも最弱代表のスライムを相手に苦戦する者なんていないだろうと沙耶は言ったが、フォルフォルはチッチッチと指を横に振る。


『ところがどっこい、苦戦してるんだなぁ。沙耶ちゃん、ゲームとリアルは別物なんだよ。1期パイロット達はすぐに順応したけど、2期パイロットの中にはへっぴり腰な所を襲われてすっかりビビってるパイロットもいるんだから』


「それはおかしいです。日本は恭介さんと麗華さんがいるから、他国と比べてパイロットの質を落としたって言ってましたよね? なんで私や晶さんが順応できて、他国のパイロットに順応できないんでしょうか?」


『それはね、日本人がクレイジーだからだよ』


「どういう意味です?」


 いきなりクレイジー扱いされたのなら、沙耶だってそんなことないと反論したくもなる。


『日本人のGBOに対する情熱は他国に比べものにならないってことさ。君達レベルだって他国のサーバーでプレイしたら、検証班だとかイロモノってことを抜きにしてそこそこ有名になれるよ』


『サーヤ、早く行こー。青銅ブロンズ製のニンフの使い心地を確かめたいからさー』


『ね? 他国のパイロットなんて資源に余裕がないから一生懸命頑張ってるけど、君達は恭介君達のおかげで余裕があるから気楽じゃないか。デスゲームに巻き込まれて気楽って時点でクレイジーでしょ』


 沙耶はフォルフォルの言い分に反論できなかった。


 とりあえず、晶に急かされたこともあって沙耶は魔法陣で4階層に移動した。


 午後は4階層に挑む訳だが、先程晶が言ったように今日の午前の探索までで青銅ブロンズの数が集まったため、今の沙耶達のゴーレムはそれぞれ青銅ブロンズ製だ。


 白い洞窟の内装は3階層と変わらず、現れるモンスターがコボルドからグレムリンに変わる。


 グレムリンはいずれもスパナ型メイスを装備しており、このメイスがゴーレムに触れると、ランダムでゴーレムにデバフがかかってしまう。


 その効果はメイスが触れなければわからないので、触れられた後にどうにかするか、それとも触れられないように戦うしかないのだ。


 グレムリンが3体現れ、キュクロとニンフを見て悪そうな笑みを浮かべる。


「「「キシシ」」」


「晶さん、迎撃お願いします」


『あいよ!』


 晶がニンフを操作して銃による迎撃を始め、グレムリン達は自分達にない飛び道具で攻撃されて慌てて避ける。


 避けた先にブーメランを投げれば、それが1体のグレムリンの額に命中して倒れた。


『おぉ、青銅ブロンズ強い!』


「まずは1体」


 晶が青銅ブロンズのありがたみを実感していると、沙耶も銃弾を躱すことに集中している個体の側面にボムスター零式をヒットさせた。


 ぶつかった衝撃でよろけた後、追加の爆発でグレムリンは倒れた。


 味方がいなくなって自棄になったらしく、残った1体はニンフに向かってメイスを投げた。


『当たらないよー』


 グレムリンを馬鹿にするような動きで晶がメイスを避け、丸腰になったところに沙耶のボムスター零式が当たって残った1体も倒れた。


 戦利品を回収したところで、一息つこうとしたら通路の奥からグレムリンが4体現れた。


「「「「キシシ」」」」


「晶さん、もう一度迎撃お願いします」


『あいよー』


 倒し方は先程の戦闘と同じで、晶の迎撃でグレムリン達があたふたしたところを沙耶が仕留めていくスタイルだ。


 晶の撃った銃弾が当たれば儲けものであり、先程よりも少し時間はかかったがメイスをぶつけられることなくグレムリン4体を倒すことに成功した。


 今度は後続の敵が現れなかったので、沙耶達は通路の先へと進んだ。


 最初は一本道だったけれど、少し進んだだけで十字路に着いた。


 左右の通路からグレムリンの群れが現れたため、沙耶と晶は来た道を戻ってグレムリン達を一本道におびき寄せた。


 4体ずつ来ていたから集まって8体になってしまったけれど、沙耶と晶はグレムリンを倒し慣れて来たおかげで10分かからずに倒せた。


「ふぅ、お疲れ様です」


『お疲れー。3階層よりもモンスターと遭遇するペースが上がってない?』


「私もそう思います。ですが、ちゃんと捌けてるので私達も強くなってますよ」


『まあね』


 晶も沙耶の言う通りだと思ったから、泣き言を言わずに気合を入れ直した。


 十字路に戻ったところで、今度は正面からグレムリンの群れがやって来た。


 その数は6体であり、倒した後で沙耶達は真ん中の道を選んで進んだ。


 厳しい道を選べば昇降機に辿り着けるという希望的観測であるが、GBOにおいてはそれで大体なんとかなる。


 逆にモンスターの少ない楽な道を選べば、その分だけ距離が遠かったり罠が多かったりするのがGBOである。


 真ん中の道はグレムリンが次々に現れるが罠は少なめだ。


 道幅は狭めでゴーレムが2機横に並ぶのがギリギリだろう。


 Y字路に到着したところで、沙耶と晶は止まった。


『恭介君の話によれば、4階層の隠し部屋を通るとショートカットできるらしいね』


「隠し部屋がこの辺りにないか探してみましょう」


 壁や地面を叩いて調べる作業を始めてから7分後、晶がブーメランで叩いた壁が地面に沈んでいき、ゴーレム1機分しか幅がない隠し通路が現れた。


『ビンゴ』


「やりましたね。早速入ってみましょう」


 隠し通路の奥は広間であり、その中心には宝箱があった。


 しかし、それを守るようにバールを持って仁王立ちするグレムリンパワードがいた。


「ギシシッ」


 グレムリンパワードはグレムリンよりも野太い声で笑った後、バールを振りかぶって晶に突撃し始める。


『僕って罪なお姉さんだね。モンスターがこぞって僕を狙うんだ』


「馬鹿なこと言ってないで迎撃して下さい」


『は~い』


 沙耶に注意されたので、晶は真面目にグレムリンパワードを迎撃する。


 驚くべきことに、グレムリンパワードはバールを自分の前で回転させて銃弾を防いだ。


「無駄に芸達者ですね」


 グレムリンパワードに気づかれぬように迂回して近付いた沙耶は、死角からボムスター零式を敵の背中にぶつける。


 殴りつけられた影響でグレムリンパワードはバランスを崩し、追加で生じた爆発で転倒した。


『じゃあいつ撃つの? 今でしょ!』


 自問自答ネタを口にしつつ、晶は追い打ちだと言わんばかりに銃を連射してグレムリンパワードを蜂の巣にした。


 グレムリンパワードが光の粒子になって消えたのを確認し、晶は沙耶に確認する。


『宝箱開けて良い!?』


「どうぞ。隠し通路を探し当てたのも晶さんですし」


 複数人でプレイするゲームで揉める原因となるのはアイテムや報酬の分配だ。


 ここで揉めると人間関係が悪化するから、沙耶と晶は予め宝箱は先に見つけた者が手にするという取り決めをしていた。


 今回は晶が隠し通路を探し当てたので、宝箱は晶が開けるという解釈である。


 宝箱の中身は1万ゴールドと青い魔石5個であり、宝箱から得られるものとしては少ない部類だったが、何も得られないよりは絶対に良い。


 宝箱の確認を終えた後、広間の先にある通路の向こうに昇降機を見つけ、それを守るべくグレムリンボマーの姿を2人は見つけた。


「キシッ」


 クリムゾンボマーは素早く手に持った爆弾を投げて来たため、晶はここがギフトの使いどころだと判断する。


『ギフト発動』


 その言葉を口にした時、晶は沙耶よりも前に出ていた。


 彼のギフトは堅牢動盾シールドだから、クリムゾンボマーの投げた爆弾の影響を完全に遮断してみせた。


 その一方、沙耶は爆発によって生じた煙の中に飛び込んでいた。


 彼女もギフトの未来幻視ヴィジョンを発動しており、クリムゾンボマーの動きを把握したからこそ突撃したのだ。


 煙の中でクリムゾンボマーの頭部を狙ってボムスター零式を全力で振るえば、クリムゾンボマーは頭がひしゃげて追加の爆発で力尽きた。


 沙耶達は戦利品回収を済ませ、昇降機で5階層に移動してからタワーを脱出した。


 脱出と同時に、タワー探索スコアがコックピットのモニター画面に表示される。



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タワー探索スコア(マルチプレイ)

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踏破階層:4階層

モンスター討伐数:51体

協調性:◎

宝箱発見:○

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総合評価:S

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報酬:青銅ブロンズ25個

   2万5千ゴールド

   資源カード(食料)10×2

   資源カード(素材)10×2

ギフト:未来幻視ヴィジョンLv3(up)

コメント:やるじゃん。2期パイロットも日本が5階層に一番乗りだね

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 沙耶はコメント欄の文字を見てグッと拳を握った。


 恭介や麗華には敵わないけれど、評価してもらえることは嬉しかったようだ。

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