第77話 僕、犬派じゃないから容赦なく攻撃しちゃうよ!

 時は恭介と麗華が13階層に移動した直後まで遡る。


 沙耶と晶はタワーの3階層に来ていた。


 昨日は恭介からの選別のおかげで、2階層まで楽に踏破できた。


『良いなぁ。ボムスター零式が使えて良いなぁ』


「何を言ってるんですか。晶さんだってニンフの設計図を貰ったじゃないですか。キュクロと交換します?」


『や~だよっ。ニンフは僕にぴったりだからって、恭介君からプレゼントしてもらったんだもん』


「なんだか記憶を捏造してませんか?」


『そんなことないってば』


 沙耶の声に疑いが込められていたため、晶は鋭いなと心の中で思いつつ否定した。


 沙耶は今、ゴーレムをベースファイターからキュクロに変えて武器はボムスター零式を装備している。


 土属性ということで、黄色いキュクロだから○クらしさがやや弱い。


 火属性ならばシャ○専用○クだし、水属性ならばグ○に、風属性ならば量産型○クに見える。


 武器もモーニングスターだから、それが余計に○クらしさを損ねている。


 その一方、晶は水属性のニンフを操縦している。


 銃とブーメランを上手く使えなければ、ニンフの性能を活かせているとは言えない。


 それゆえ、晶は頑張って使いこなせるように研鑽を積んでいる。


 残念ながら、沙耶も晶もゴーレムを構成する鉱物マテリアルはカッパーだから、まだタワー探索では一撃でも喰らったら無視できないダメージを負ってしまう。


 だとしても、恭介のおかげで他の2機パイロットよりもアドバンテージがあるのは間違いないので、沙耶達は早く青銅ブロンズを手に入れようとタワー探索に勤しんでいる訳だ。


 さて、沙耶達がいる3階層は1階層や2階層と異なり、内装は白い鉱物が多めに含まれた岩の洞窟である。


 先へと進む沙耶と晶を妨害するように、小柄で犬に似た頭部を持つ、毛むくじゃらなコボルドが群れをなして現れた。


『僕、犬派じゃないから容赦なく攻撃しちゃうよ!』


 晶はよくわからない宣言をして銃撃を開始する。


「私はどちらかと言えば犬派ですが、コボルドは可愛くないのでれます」


 沙耶も晶の発言に応じつつ、晶の射線に入らないように敵に接近してボムスター零式を振るう。


 恭介や麗華に比べ、操縦しているゴーレムもそうだが実力も劣っているから、1つの戦闘に時間がそこそこかかる。


 (゚д゚)とねこまたびたびというパイロットネームは掲示板ではそこそこ有名だけれど、それぞれ検証班だったりイロモノとして知られているだけだ。


 パイロットとしての技量はぶっちゃけ並だから、恭介達のようにサクサク探索を進められる訳ではない。


「ふぅ、やっと倒せましたね」


『そだね~。弓矢で狙って来る個体が地味に厄介だったよ』


「そうですね。短剣を持った個体は接近するしかないから問題ありませんでしたが、ちょろちょろ逃げながら矢を放たれると面倒でしたね」


『弓矢を持つコボルドはお姉さんにまっかせなさ~い!』


 晶の頼りになるんだかならないんだか微妙な発言に対し、沙耶は冷静にツッコミを入れる。


「お姉さんじゃなくてお兄さんですよね? リアルじゃ一人称は僕ですし、無理にGBOのキャラを引っ張らなくても良いじゃないですか」


『チッチッチ。甘い、甘いよサーヤ。僕はお姉さんを演じることで強くなる、ような気がする。だからGBOのキャラを引っ張り続けるのさっ』


「ような気がする程度でネカマプレイ続けるのは止めてもらえません? はっきり言って鬱陶しいです」


『サーヤ、僕への対応はもっと飴多めが良いな。じゃないと僕、サーヤに虐められてるって恭介君に報告しちゃうぞ?』


「…そこで恭介さんを引っ張り出すのは止めて下さい。恭介さんと私は今、関係性が非常に微妙なんですから。というか、そんな手段を選ぶだなんて性格悪いですね」


『よく言われる☆』


 沙耶は額に血管が浮かぶ程イラっとしたが、晶と仲違いしてもメリットはないから深呼吸して怒りを抑え込んだ。


 それから、少し離れた壁に罅があるのを見つけて晶に指示を出す。


「晶さん、雑談はここまでにしてあの壁を撃ち抜いて下さい。何かありそうです」


『ほほいのほい!』


 晶が沙耶の指示で罅に銃弾を命中させたところ、壁が崩れてその奥にはコボルドが6体隠れているのを見つけた。


「3体ずつで良いですか?」


『OK』


 コボルドの攻撃にも慣れて来たからか、2人は先程の戦闘よりも時間をかけずに倒せた。


 そんな時、晶の背後から黒装束を纏ったコボルドシーフが現れ、手に持ったナイフで切りかかる。


『危なっ!?』


 ナイフがギリギリ届くかどうかというところで、晶はブーメランを間に挟み込んで奇襲を防いだ。


 その直後に銃を連射すれば、コボルドシーフはすぐに晶から距離を取った。


「死角からの不意打ちとは嫌な奴ですね」


 沙耶はボムスター零式を振るい、コボルドシーフにそれを掠らせた。


 ボムスター零式の追撃効果は掠っただけでも発動するから、掠ったけど大したダメージにはならなかったと油断した瞬間に掠った背中が爆発した。


 予想外のダメージでうつ伏せに倒れてしまい、そこを晶が銃で連射する。


『躾のなってない犬はメッ!』


 メッと𠮟るレベルではない量の銃弾を浴びせれば、コボルドシーフは光の粒子になって消えた。


「お疲れ様でした」


『お疲れー。まったくもう、ニンフのエロエロボディがコボルドシーフを発情させちゃったのかな?』


「ゴーレムに発情するモンスターなんていないと思いますけど」


『ドラゴンカーセックスって言葉があるぐらいだから、ゴーレムに発情するモンスターがいてもおかしくはないと思う』


「仮にいたとしたら、晶さんみたいに業が深いのでしょうね」


 沙耶はニンフのコックピットに乗っている晶にジト目を向けた。


 GBOは男女ともに遊べるゲームではあるが、男性パイロットの方が多い。


 男性と女性の比率は7:3であり、男性が多いこともあって時折しょうもない下ネタが飛び出すこともある。


 だからこそ、沙耶は顔を赤らめることもなければキレたりもせず、またしょうもないことをと言いたげなジト目を向けるだけだった。


 くだらない話はそこまでにして、沙耶達は3階層の探索を再開する。


 恭介からトラップゾーンがあることは聞いていたため、落ちていた石を投げてトラップを作動させてから先へ進んだ。


 時にはそのトラップを利用してコボルドを倒すことで、晶の銃弾を節約することもできた。


 そして、昇降機の前にコボルドソルジャーが双剣を構えて待機しているのを見つけた。


「コボルドソルジャーを倒したら午前は終わりです。頑張りましょう」


『そだね。張り切っていこー』


 コボルドソルジャーが先に動いたが、最初に狙ったのは晶のニンフだった。


『また僕? コボルドって女型ゴーレムを見るとリビドーが爆発しちゃうの?』


「馬鹿言ってないで迎撃しますよ。遠距離攻撃を潰すのは戦術の基本じゃないですか」


 晶の発言にやれやれと首を振りつつ、沙耶はコボルドソルジャーにボムスター零式を振るう。


 直感的に触れたら不味いと思ったらしく、コボルドソルジャーはボムスター零式に触れないように大きく躱した。


『僕を襲いたいんじゃなかったの?』


 そんなことを言いながら、晶は避けた先を狙って銃弾を連射する。


 更にブーメランも投げて回避先を誘導すれば、コボルドソルジャーの脚が銃弾に撃ち抜かれて転んでしまう。


「悪く思わないで下さいね」


 転んで隙だらけのコボルドソルジャーを攻撃する際、沙耶はほんの少しだけ罪悪感を抱いたようだ。


 だとしても、らなきゃられるのは自分だから、容赦なくボムスター零式でとどめを刺した。


 3階層を踏破し、沙耶達は昇降機で4階層に移動してからタワーを脱出した。


 それと同時にコックピットのモニター画面にタワー探索スコアが表示される。



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タワー探索スコア(マルチプレイ)

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踏破階層:3階層

モンスター討伐数:46体

協調性:◎

宝箱発見:設置なし

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総合評価:S

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報酬:青銅ブロンズ25個

   2万5千ゴールド

   資源カード(食料)10×2

   資源カード(素材)10×2

ギフト:未来幻視ヴィジョンLv2(stay)

コメント:恭介君達みたいにもっと私を楽しませておくれ

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「なかなか無茶を言いますね」


『どしたー? サーヤのコメント欄もフォルフォルが煽って来たのー?』


「そんなところです。それよりもお昼にしましょう。お腹が空きました」


『うん。腹が減っては戦ができないよね』


 沙耶達は転移門ゲートを通って格納庫に戻り、さっさとゴーレムを整備してから食堂に向かった。

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