第74話 帰ったら怖かったって恭介君に抱き着くんでしょ? お見通しだよ
恭介が無事に帰って来てくれたことが嬉しくて、麗華はコックピットから出て来た彼に抱き着いた。
「無事で良かった」
「ちゃんとシミュレーターで練習したから問題ないさ」
「それでも見てて怖かったんだからね? なんなのあの怒涛の銃撃と爆撃? GBOのレースじゃあんなに殺意の高いレースってなかったよね?」
「まあな。俺が色々ギミックを無視したからあそこまで派手になった訳だけど、確かにGBOと比べて殺意は高いと思う」
麗華に質問された恭介は苦笑しながら応じた。
正直、ぶっちぎりボーナスを狙わなければもっと安全にレースを終えることができたから、余計な心配をかけてしまったことに罪悪感を覚えたようだ。
麗華は自分もこれからレースにチャレンジする予定だったから、恭介を抱き締める力を強める。
「恭介さん、ちょっとだけ勇気を分けて」
「無理にデンジャラスシティに挑まなくたって良いんだぞ?」
「ううん。私だって1期パイロットだもの。それに恭介さんのパートナーなんだから、少しでも恭介さんに追いつきたいの」
「…そうか。麗華、無事に帰って来てくれ。俺が望むのはそれだけだ」
「約束する。安全第一だね」
下手なことを言えば死亡フラグが立つ気がして、恭介はとにかく麗華が無事に帰って来てくれれば順位なんて何位でも良いと告げた。
麗華も恭介が自分の帰りを待っていてくれると改めて理解したので、絶対に自分が死んで恭介が悲しむことのないように気を引き締めた。
ドミニオンに搭乗し、麗華はレース会場までやって来た。
そのタイミングでフォルフォルがモニターに姿を見せる。
『恭介さん、ちょっとだけ勇気を分けてって言った時にチューしちゃえば良かったのに』
「煩い。そこまでの踏ん切りがつかなかったのよ」
『あれだよね、もう恭介君への好意を隠そうともしないよね』
「仕方ないじゃん。フォルフォルのせいで私にプライバシーなんてないんだもの。どう隠そうとバレてるなら、取り繕うのが無駄だって思っただけよ」
フォルフォルはやっと麗華が正直になったので、ニヤニヤするのを隠さない。
『麗華ちゃんの肉食女子力が3上がった♪』
「うざい。さっさと入場門を開きなさい」
『は~い』
麗華はフォルフォルが開いた入場門を通り、デンジャラスシティに向かった。
ドミニオンを操縦して入場門を通った先には、既に7機の
ヴァーチャーが1機とアラクネとスフィンクスが3機ずつだから、ゴーレムを構成する鉱物マテリアルでもゴーレムのスペックでも、麗華のドミニオンの方が上だ。
問題はこのコースに大量に仕掛けられている銃火器のギミックや地雷、爆弾だろう。
恭介がスカイスクレイパーで経験したものよりはマシだとわかっていても、常に銃弾が何処かで発砲されており、他の競争相手と同じレベルで警戒しないといけないのは厄介だ。
それでも、麗華だってシミュレーターでちゃんとデンジャラスシティは予習しているから、安全マージンは確保したつもりで挑戦している。
麗華はドミニオンをスタート位置まで動かし、レース開始のカウントダウンを待つ。
『3,2,1,GO!』
ドミニオンはスタートダッシュに成功したが、ヴァーチャーとアラクネ3機もスタートダッシュに成功しており、麗華はスフィンクス3機を追い抜いた5位スタートとなった。
前を走るアラクネは、ワイヤーを蜘蛛糸のように射出して移動することもできるから、デンジャラスシティと相性が良い。
それでも、スペックの差が物を言うから距離はどんどん縮まり、前にいた3機が麗華の射程圏内に入った。
「私は容赦しないわ」
狙いを定めてランプオブカースで攻撃すれば、4位のアラクネが伸ばしたワイヤーに命中し、アラクネは自分を支えるワイヤーを失って地面に落下した。
運が悪いことにそこには地雷が仕掛けられており、そのアラクネは走行不能になった。
これは不味いと思って逃げ出す2位と3位のアラクネだが、麗華が射出したワイヤーを撃ち抜いて次々に地面に落下した。
3位のアラクネは落下中に姿勢制御に失敗し、背中から落ちたところをギミックに銃撃されて爆発した。
2位のアラクネは着地には成功したものの、すぐ近くに埋められていた地雷がギミックによって銃撃され爆発して走行不能になった。
「ヴァーチャー、首を洗って待ってなさい」
『悪魔や。悪魔がおるで』
「気が散るから黙りなさい」
麗華にこれ以上茶々を入れ、万が一にも麗華の操縦を邪魔したと知られれば恭介に何を言われるかわからないので、フォルフォルはおとなしくモニターから消えた。
デンジャラスシティでは順位が高ければ高い程銃火器ギミックで攻撃されていくから、1位のヴァーチャーは当然だが密度の濃い銃撃で狙われている。
そこに後ろから麗華の銃撃まで加われば、ヴァーチャーは非情に苦しい展開を強いられることになる。
勿論、ヴァーチャーだってやられっ放しで良いとは思っていないので、麗華の追い上げるスピードを落とさせようと反撃する。
1位と2位の銃撃戦が始まるが、ドミニオンとヴァーチャーの距離は徐々に詰まっていく。
2周目に突入したところで、麗華達を狙う銃火器の数が増える。
そのせいで麗華は避けることに専念せざるを得なくなり、ヴァーチャーも攻撃を止めて回避に集中した。
着々と距離は詰まっていき、3周目に突入した時にはドミニオンがヴァーチャーと並んだ。
前方には6位~8位のスフィンクスが見えて来たため、麗華はそれらを盾にして通常なら選ばないルートを進む。
一瞬でもスフィンクスのバリアを盾にできれば、更なるタイム短縮が可能なのは恭介のレースを見て理解している。
スフィンクス3機を利用して追い抜くと、麗華ドミニオンを狙う銃火器のギミックが更に増えた。
他のゴーレムを周回遅れさせたゴーレムがいると、デンジャラスシティのギミックはそのゴーレムを最優先で排除しようとするからだ。
2位に転落したヴァーチャーは、なんとか逆転しようと必死に追い上げた。
しかし、安全だがスピードの遅いスフィンクス3機を追い抜いた直後、自分を狙う銃火器が増えてその数を避け切れずに被弾してしまった。
自分を追いかけるヴァーチャーが蜂の巣にされてしまえば、麗華は回避に専念して進むだけで良い。
集中した状態をキープし、弾丸をギリギリで回避したり地雷の爆発を避けたり大変だったけれど、どうにか1位でゴールした。
『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ドミニオンだぁぁぁぁぁ!』
「はぁぁぁ…。かなり危なかったわ」
麗華は危険なコースからさっさと脱出し、レース会場前に戻ってから大きく息を吐いた。
それから、コックピットのモニターに映ったレーススコアを確認し始める。
-----------------------------------------
レーススコア(ソロプレイ・デンジャラスシティ)
-----------------------------------------
走行タイム:36分48秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:93回
他パイロット周回遅れ人数:6人
-----------------------------------------
総合評価:A
-----------------------------------------
報酬:資源カード(食料)100×3枚
資源カード(素材)100×3枚
30万ゴールド
戦闘勝利ボーナス:魔石4種セット×30
ギフト:
コメント:帰ったら怖かったって恭介君に抱き着くんでしょ? お見通しだよ
-----------------------------------------
『麗華ちゃん、まさかチャンスは逃さないよね?』
「そのゲス顔を止めなさい」
『えぇ? 酷いなぁ。これが私のデフォルトだよ?』
「それなら元々ゲスなだけね。さっさと失せて」
『恭介君によろしく~』
煽るだけ煽った後でフォルフォルはモニターから消えた。
たくさんの銃火器から銃撃されて怖かったのは事実だったから、麗華は格納庫に帰還してから恭介に甘えた。
フォルフォルにその展開を予想されていたことはムカついたけれど、恭介に抱き着いた時にリラックスできたため、麗華の機嫌は寝るまでずっと良かったと補足しておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます