第73話 濡れるッ!

 晶にニンフの設計図を渡したら、感激した晶が恭介に抱き着こうとしたので沙耶がその首根っこを引っ張って阻止した。


 そんな一幕はさておき、昼食後に恭介はリュージュに乗ってレース会場にやって来た。


 フォルフォルがしょんぼりした表情でコックピットのモニターに現れる。


『恭介君に残念なお知らせがあるんだ』


「残念なお知らせ?」


『現在用意してあるコースが次のスカイスクレイパーで最後なんだ』


「なん…だと…?」


 恭介にとってレースは娯楽でもあったため、今日のコースを走り終えたら明日以降新しいコースはないと知らされてショックを受けた。


『まさかここまであっさりと攻略されると思ってなかったんだよね。今、新コースを鋭意建設中だから待っててね。第3回代理戦争後には実装できるようにするから』


「そうか…」


『そんなにがっかりしないでよ。いや、がっかりしてくれるってことは、それだけ私の用意したコースを楽しんでもらえてるってことなのかな。お詫びと言ってはなんだけど、今回限定でレースの報酬は豪華になってるから、少しの間我慢してね』


「わかった。入場門を開いてくれ」


 ここでごねても結果は変わらないとわかっているから、恭介は無駄なことをせずにおとなしく受け入れた。


『はーい。今日こそ武器を使ってくれることを期待してるよ』


「それは敵次第だ」


 恭介はリュージュを操作して入場門を通過した。


 入場門の先は9番目のコースであるスカイスクレイパーだ。


 夜空に輝く星にも届きそうな高層ビル群が乱立するコースで、様々なギミックやモンスターがパイロットの邪魔をする。


 当然のことながら、レースに参戦する7機のゴーレムは全て黒金剛アダマンタイト製だ。


 その内訳はソロネが1機、ペンドラゴンとナイトシーカーが3機ずつだ。


 ソロネは三対の翼を背中に生やした天使型ゴーレムで、その翼は銃になっている。


 翼は有線式で伸びたり角度を変えられたりするから、攻撃パターンはドミニオンとは比べ物にならない。


 両手に武器を持たず、無数の目玉模様の車輪をモチーフにした盾が備え付けられている。


 おまけに変形機能もあり、戦闘航空機の姿になることも可能だ。


 ペンドラゴンは天騎士型ゴーレムであり、豪華な装備でとにかく見栄えが良い。


 王道の片手剣と盾を使うスタイルだから扱いやすく、GBOでも多くのパイロットがペンドラゴンを操作している。


 ナイトシーカーはペンドラゴンとは対照的で、癖のあるゴーレムだから玄人向きだ。


 装備しているデフォルト武器が蛇腹剣であることもそうだが、空を飛べない代わりにワイヤーを射出して立体的に素早く動ける。


 まるで忍者だなんてレビューを書く者もいるようなゴーレムである。


 (麗華がソロネの設計図を欲しがりそうだな)


 恭介はそんなことを思いつつ、スタート位置までリュージュを移動させる。


 シミュレーターで対策は済ませているから、恭介は静かにレース開始のカウントダウンを待つのみだ。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


『GO!』


 タイミングをピッタリ合わせてスタートダッシュを成功させたが、恭介は1位でスタートしたソロネから自分を抜かせまいと集中攻撃を受けた。


 だが、恭介はそのパターンをシミュレーターで経験済みだったので、あっさりとそれを躱して1位をキープする。


 ソロネが恭介に執着して攻撃すれば、3位以下のゴーレムがこのチャンスを逃してなるものかとソロネを集中攻撃する。


 その攻撃はソロネの両腕に備え付けられていた盾が回転して吸い込んでいき、ソロネ本体に当たることはなかった。


 2位以下が戦っている隙に、恭介はトップスピードに入ってスカイスクレイパーを進む。


 ビルの窓ガラスを破って銃撃されても、トップスピードのドラキオンには全く当たらない。


 警官を模したポリスマトンも射撃を開始するけれど、追尾攻撃でもしない限りただドラキオンが進むだけでその攻撃を避けてしまう。


 恭介が2周目に入った時、スカイスクレイパー全体が停電する。


 これは誰かが2周目に入った時にそうなる仕様であり、2周目は星の光だけが光源になるので1周目に比べて視界が悪くなるのだ。


 更に赤外線のセンサーが張り巡らされ、それに触れたゴーレムがいるとスカイスクレイパーの迎撃ギミックの難易度が跳ね上がる。


 (悪いが巻き込まれてくれ)


 頑張れば掻い潜って進むこともできるけれど、面倒だから恭介は赤外線センサーに触れても構わず直進した。


 その瞬間、スカイスクレイパー全体に警報が轟き、コース内にいる全てのゴーレムに数の暴力と表現すべき銃弾が放たれる。


 恭介はトップスピードに到達したドラキオンの風圧で弾丸を防ぐから問題ないが、それ以外のゴーレム達にとっては大問題だ。


 2周目を終えるまでの間に、ペンドラゴン3機とナイトシーカー3機が蜂の巣にされた姿で見つかっており、残るは恭介とソロネだけになった。


 3周目に恭介が突入したことで、スカイスクレイパーの難易度が更に上がる。


 スカイスクレイパー上空に夜空を覆い尽くす程の大型戦艦が現れ、無差別に爆弾を投下するようになるのだ。


 あまりにも多くのギミックのせいで、3周目はポリスマトンも容赦なく巻き添えにされている。


 (ソロネ、見つけたぞ)


 ソロネは慎重に赤外線センサーを避けながら飛んでいたが、無差別の爆弾投下とギミックによる銃撃でそろそろ両腕の盾でも対処しきれなさそうに見えた。


 それゆえ、恭介はソロネにとどめをさすように赤外線センサーを突っ切り、恭介を狙った銃撃でソロネを巻き添えにして走行不能にした。


 スカイスクレイパーはとにかく速く飛ぶのが攻略法なので、恭介はありとあらゆる方向から攻撃されまくっていたが、それらを置き去りにしてゴールラインを通過した。


 銃撃も爆撃もゴールした瞬間にぴたりと止み、恭介の耳にフォルフォルのアナウンスが届く。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 恭介はスカイスクレイパーからレース会場前に戻り、それから黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 ゴーレムを乗り換えた後、コックピットのモニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・スカイスクレイパー)

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走行タイム:29分52秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×50

ぶっちぎりボーナス:ゴーレムチェンジャー

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv14(up)

コメント:恭介君は武器を使わないレースを……強いられているんだ!

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「フォルフォル、別に強いられてないから」


 恭介はフォルフォルのコメントに対して冷静に言葉を返した。


『そうなの? じゃあ、なんでそんな頑なに使わないのさ?』


「使わなくても勝てるから。それだけだ」


『濡れるッ!』


「わざわざ顔を作ってまでネタに走らなくて良いから。それより、ゴーレムチェンジャーの説明よろしく」


 フォルフォルが全力でボケに走っても、恭介は容赦なく流して自分の質問をぶつける。


 ぞんざいな扱いをされているフォルフォルだが、レースで楽しませてもらったのは事実なので上機嫌のまま答える。


『使えば操縦するゴーレムを乗り換えられるよ。ただし、自分に所有権があるゴーレムだけだね』


「じゃあ、今ならリュージュとアシュラを自由に乗り換えられるってこと?」


『正解。別に消耗品でもないから、言ってしまえば代理戦争でも使えるね』


「ふーん。ありがたく使わせてもらうわ」


『この時、私は第3回代理戦争が荒れることを確信した』


「変なナレーション入れるな」


 フォルフォルにツッコんだ後、恭介は転移門ゲートを通って格納庫に戻った。

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