第68話 信じられるか? これでもまだ付き合ってないんだぜ…

 恭介が帰還した後、麗華もドミニオンに乗ってレース会場に移動した。


 ドミニオンの設計図は75万ゴールドであり、麗華が全額支払ってもまだ余裕のある値段だった。


 それゆえ、恭介からの援助を受けずに設計図を購入し、構成する鉱物マテリアルも黒金剛アダマンタイトにしたドミニオンが今の麗華の相棒なのだ。


『麗華ちゃん、恭介君にレースでアピールできるよう頑張ってね』


「煩い。どうせならそのゲスな笑みを止めて普通に応援しなさいよ」


『そんなことできる訳ないだろ。私は私のために目の前にある愉悦を見て笑うって決めてるんだ』


「最低ね。さっさと入場門を開きなさい。話してる時間が勿体ないわ」


『そうだよね。早く帰って恭介君とお話したいんだもんね! どうぞどうぞ!』


 キレられる前にフォルフォルはモニターから姿を消しており、ドミニオンの正面には入場門が開いていた。


 不快な気分になった麗華だが、気持ちを切り替えて入場門を通った。


 その先にはゴロゴロマウンテンが広がっており、険しい山道の麓には既に7機のゴーレムが待機している。


 ゴロゴロマウンテンで競うゴーレムは、ユニコーンが3機とニンフとパワーが2機ずつでその全てが聖銀ミスリル製だ。


 ユニコーンとニンフ、パワーはいずれもドミニオンと比べればスペックは低く、機体を構成する鉱物マテリアルでも麗華が勝っている。


 その上、ゴロゴロマウンテンについてはシミュレーターで昨晩予習済みだから、麗華はドミニオンをスタート位置まで移動させてレース開始のカウントダウンを待つ。


『3,2,1,GO!』


 スタートの合図が聞こえるのと同時に全力で飛び出し、ドミニオンはスタートダッシュに成功する。


 ところが、パワーの片割れもスタートダッシュに成功したらしく、1位がパワーで麗華は2位になった。


 ゴロゴロマウンテンは前半が上り坂で後半が下り坂だから、前半は空を飛べるゴーレムが有利なのでもう1機のパワーとニンフ2機が麗華の後ろについて来る。


 すぐに銃撃戦が始まり、坂の上から次々に転がって来る岩を減速せずに躱しながら銃撃する展開になった。


 そうしている内に後方からユニコーン3機も追いついて来て、それぞれ角からビームを発射して麗華達を撃ち落とそうとする。


 ニンフの1機がビームに貫かれて爆発し、ユニコーンが危険だと判断したもう1機のニンフが後ろのユニコーンを攻撃した。


 ブーメランを事前に投げ、銃でブーメランの戻って来る軌道に誘導するやり方でユニコーン1機を走行不能にした。


 それで気が緩んでいると判断したのか、3位のパワーがそのニンフに接近して錫杖を突き出し、ニンフのコックピットを破壊してレースから脱落させた。


 これでレースに残っているのは残り5機だ。


「見えた! ここだわ!」


 麗華には幻の軌跡が見えた。


 それは麗華の今までの銃撃に裏付けられた経験則によるものであり、ランプオブカースから放たれた銃弾は吸い込まれるようにパワーの頭部に命中した。


 モニターに映る映像は頭部のカメラがなければ見えない。


 麗華がそれを撃ち抜けば、ほとんど同率1位だったパワーは転がり落ちて来る岩に吹き飛ばされていった。


『フォルフォルは言った。片方のパワーを撃墜したのなら、もう片方のパワーも撃墜しちゃいなよと』


「黙ってなさい」


 名言風に余計なことを言うフォルフォルに対し、麗華はバッサリと斬り捨てた。


 フォルフォルに構っていて機体を傷つけられたなんてことになれば、恭介に失望されてしまうと思ったからである。


 1位のまま麗華は半周した目印になる山頂を通過し、トップスピードで急降下する。


 山頂から下って行くと岩球が後ろから迫るのがゴロゴロマウンテンだが、ドミニオンのトップスピードには全然及ばない。


 そのおかげで麗華は特に邪魔されずに2周目に突入した。


 2周目の上り坂もそろそろ終わりが近づいて来た頃、ユニコーン1機が大破して動けなくなっていた。


 更に少し先にもユニコーン1機が大破していた。


 どうやらユニコーン同士で競い合っていたようで、戦っている最中に岩球が衝突してしまったらしい。


 現時点でレースに残っているのは麗華のドミニオンとパワーの2機だけだ。


 一度差がついてしまえば、機体のスペックもあってよっぽどのことがなければ順位は変わらない。


 これから先の展開は、麗華がパワーを周回遅れにできるかどうかという点で注目されるだろう。


 半周が終わって下り坂に入っても、麗華の視界の先にパワーはいない。


 パワーも自分を邪魔するゴーレムがいなくなったおかげで、減速せずに走行できているようだ。


 3周目に入った麗華だが、やはりパワーの姿は見えないままだった。


 結局、ゴールするまでタイムトライアルのように黙々と走り続けることになり、ゴールを通過したことでフォルフォルのアナウンスが彼女の耳に届いた。


『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ドミニオンだぁぁぁぁぁ!』


「予習通りに走れたのは良いけど、あと1機周回遅れにできたらぶっちぎりボーナスが貰えたのに」


 パワーに追いつけなかったことが悔しかったが、それでも昨日設計図を手に入れたドミニオンのおかげでこのレースは余裕で1位になれたと感謝した。


 コースから離れて退場し、麗華はレース会場前でコックピットのモニターに映ったレーススコアを確認する。



-----------------------------------------

レーススコア(ソロプレイ・ゴロゴロマウンテン)

-----------------------------------------

走行タイム:28分52秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:66回

他パイロット周回遅れ人数:6人

-----------------------------------------

総合評価:A

-----------------------------------------

報酬:資源カード(食料)100×2枚

   資源カード(素材)100×2枚

   20万ゴールド

戦闘勝利ボーナス:魔石4種セット×20

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv8(stay)

コメント:麗華ちゃんは戦闘勝利ボーナスを貰ってこそだよね

-----------------------------------------



「フォルフォルってば本当にムカつくわね」


『そんなこと言ったってしょうがないじゃないか』


「黙れ」


『はーい。麗華ちゃんが恭介君のことばっかり考えてるから、私はクールに去るよ』


「う せ ろ」


『あっはい』


 フォルフォルはふざけ過ぎて怒られたため、モニターから急いで姿を消した。


 麗華は格納庫に戻ってコックピットから出ると、恭介が麗華を出迎えた。


「麗華、お疲れ様」


「ただいま。ありがとう。でも、パワーを追い抜かせなかったのは悔しかったな」


「欲張らなくて良いんだ。麗華が怪我しないで帰って来てくれるだけで俺は十分だから」


「恭介さん…」


 麗華は恭介が自分の身を案じてくれていると知って嬉しくなり、恭介に抱き着いた。


 そのタイミングでフォルフォルが格納庫のモニターに現れる。


『信じられるか? これでもまだ付き合ってないんだぜ…』


 シリアスな声で言っているものの、フォルフォルは下世話そうな笑みを必死に堪えているので台無しだった。


 麗華はフォルフォルの存在をスルーしており、恭介がモニターに向かって口パクで消えろと伝えた。


 フォルフォル的にはもっと見ていたかったけれど、ここで更なるちょっかいをかけて麗華がキレてしまえば、恭介と麗華のイチャイチャする時間が減ってしまう。


 それは望まない展開だったので、今回は恭介の伝えた通りにフォルフォルがモニターから姿を消した。


 その後、満足した麗華が恭介から離れると同時に訊ねる。


「恭介さん、今日の午後は本当に休むの?」


「休もう。午前中にゴーレムの調整を済ませたら、午後は自由時間にする。毎日ゴーレムには乗ってた訳だから、腕が落ちてないことはわかってる。丸一日じゃないけど休む時はちゃんと休もうぜ」


「そっか。じゃあ、午後はトレーニングルームで運動しようよ」


 麗華のまさかの発言に恭介は目を点にする。


「休むって意味知ってる?」


「そんな筋肉痛になる間で鍛えるつもりはないってば。ゴーレムに乗ると座りっぱなしだから、適度に体を動かした方が良いと思って」


「なるほど。そう言うことなら付き合おう」


「つ、付き合う!?」


 付き合うというフレーズに麗華が反応してしまったので、恭介は困ったように笑った。


「一緒に体を動かすって意味だ」


「あぁ、そうだよね。うん、わかってたよ」


 本当はちょっと期待していたのだが、麗華は恭介が恋愛に対してまだ前向きになれないだろうと思ったから、これ以上変な空気にならないようにこの話題を切り上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る