第65話 お前、首が多いな! そんなにいらないだろ!? 首置いてけ!

 4戦目の相手はモンスターの頭蓋骨をヘルムとして被り、腰蓑をつけたアンタイオスと呼ばれる巨人だった。


 右手には特大の棍棒を握っており、恭介の乗るドラキオンを見て好戦的な笑みを浮かべる。


「精々俺を楽しませてくれよな!」


 (アンタイオスが出たのは予定通りだ。問題ない)


 恭介はアンタイオスの言葉なんて気に留めず、アンタイオスの大振りの攻撃を躱し、ラストリゾートを太刀からボーラに変形させて投げる。


 投げられたボーラはアンタイオスの両足を絡め取り、大振りでバランスを崩したこともあってアンタイオスはうつ伏せに転んだ。


 アンタイオスというモンスターには厄介な特性がある。


 その特性とは、地面に足が着いている限りダメージを受けても無限に回復するというものだ。


 地上戦ではいくら普通に攻撃しても回復されてしまうから、アンタイオスと戦う時はアンタイオスの足を地面に着けさせないようにする必要がある。


 転んだアンタイオスからボーラを回収し、恭介はラストリゾートを鎖鎌に変形させて鎖分銅をアンタイオスの右脚に巻き付ける。


 それから、ドラキオンをその場で横に回転させることにより、鎖で右脚を拘束したアンタイオスを振り回した。


 ドラキオンの出力が並のゴーレムを遥かに凌ぐものだからこそ、アンタイオスはドラキオンの回転数が増えるにつれて体が浮いていく。


「離せぇぇぇぇぇ!」


「良いぜ」


 鎖鎌を使ったジャイアントスイングを受けたことはなかったようで、アンタイオスは恭介がラストリゾートを鎖鎌からビームランチャーに変形させたことで上空に放り出された。


 空中に放り出されたアンタイオスには、地面に足が着いている時のような回復力はない。


 だからこそ、恭介はビームランチャーからビームを連射してアンタイオスの体を両脚から徐々に穴だらけにした。


 投げられた時に棍棒も手から落としてしまったため、アンタイオスはビームから身を守るものがなかったので、あっさりと光の粒子になって消えた。


『アンタイオス=サン、オタッシャデー!』


「フォルフォル煩い。ハウス」


『ワン! じゃない!』


「とにかく黙って」


 コックピットのモニターに現れたフォルフォルが煩かったから、恭介はさっさとモニターから消えるように言った。


 フォルフォルは恭介にとって想定外のノリツッコミで応じたが、5戦目の相手として目の前に現れたヒュドラに意識を向けている恭介の邪魔をすることは避け、それ以上ボケずにモニターからいなくなった。


「お前、首が多いな! そんなにいらないだろ!? 首置いてけ!」


 恭介はラストリゾートを太刀に変形させてから、ドラキオンを高速で移動させてヒュドラの首を左端から順番に切断していく。


 GBOにおけるヒュドラは青い鱗に覆われた水属性のモンスターであり、水属性のブレスや毒を使って攻撃する。


 ヒュドラと言えばその再生能力が特徴的だが、それはGBOでもヒュドラの特性として盛り込まれている。


 1つの頭を斬り落とすと傷口から2つの頭が再生するため、ヒュドラは攻撃を受けていない頭から水属性のブレスや毒を吐いて反撃するのだが、ドラキオンを攻撃する頭がどんどん増えていく。


 しかし、恭介が左側の頭ばかり斬り落としていくから、ヒュドラのバランスがどんどん左側に傾いてしまう。


 これこそ恭介の狙いだ。


 3分も経たずにヒュドラは左側に増え過ぎた頭の重さのせいで、バランスを取れなくなって転んだ。


 転んでヒュドラの頭が横並びになったところで、恭介はラストリゾートをビームランチャーに変えてビームを放つ。


 (上手に焼けました♪)


 ビームが命中した頭は消し飛んでしまい、その熱のせいで傷口から頭が再生することはなかった。


 それがどういう結果を齎すかと言えば、頭部のない首が左側に偏ったヒュドラの完成である。


 その上、一度転んでしまうと再生して増え過ぎた首のせいで左側が重く、ヒュドラはなかなか起き上がることができない。


 必死に水属性のブレスや毒を吐き、恭介にこれ以上の攻撃をさせてなるものかと抵抗するけれど、シミュレーターを使って立てた計画通りに進んでいる今、恭介の操縦するドラキオンにヒュドラの攻撃は全く当たらない。


「そろそろ斬り飽きたな。終わりにしよう」


 ドラキオンをヒュドラの上空に移動させた後、恭介はラストリゾートをマシンガンに変えてヒュドラを蜂の巣にした。


 ヒュドラの体が光の粒子になって消え、5連戦が終わったからドラキオンのモニターにコロシアムバトルスコアが表示される。



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コロシアムバトルスコア(ソロプレイ)

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討伐対象:①ディオメデホース②ケリュネディアー

     ③ゲリュオン④アンタイオス⑤ヒュドラ

部位破壊:①鬣②目(左右)/角③右頭部/左腕×3

     ④顔/脚<左右>⑤首×33

討伐タイム:38分54秒

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総合評価:S

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報酬:100万ゴールド

   資源カード(食料)100×10

   資源カード(素材)100×10

ファーストキルボーナス:アシュラの設計図

            黒金剛アダマンタイト×100

サプライズ撃破ボーナス:コピーパイロットプログラム

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv10(stay)

コメント:もう恭介君だけで良いんじゃないかな

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 (サプライズもあったせいでボーナスがすごいことになってる)


 前回5連戦した時は、サプライズが発生しなかったからファーストキルボーナスとノーダメージボーナスが追加されただけだった。


 ところが、今回はサプライズ撃破ボーナスまでついて来たから、恭介の戦果がすごいことになっていた。


 モニターでフォルフォルがジト目でこちらを見ていることに気づき、恭介はそんな目で見るぐらいならサプライズなんて仕掛けなければ良いのにと思った。


 それはそれとして、GBO時代には存在しなかったコピーパイロットプログラムのカードとは何か気になり、フォルフォルに訊ねてみることにした。


「フォルフォル、コピーパイロットプログラムって何?」


『使用したパイロットの思考をトレースするプログラムのことだね。恭介君が使ってコックピットにこのカードを差し込めば、恭介君の分身が恭介君の操縦スタイルを真似してゴーレムを勝手に動かしてくれるよ』


「これを使って今あるベースゴーレムをコロシアムとかタワー探索に挑めるのか?」


『挑めるよ。手に入れたアイテムを使うのは自由だからね』


「…そうか。使い道を考えてみよう」


『そうだね。面白くなりそうだから使ってみて』


 フォルフォルはニヤニヤしながらそう言った。


 引っ掛かるところはあったが、恭介はギフトを解除してコロシアムの挑戦を終了し、転移門ゲートを通って格納庫に帰還した。


 恭介がコックピットから出て来ると、麗華が微笑みながら出迎える。


「恭介さん、お帰りなさい。サプライズを引き当てちゃったのに5連戦だなんてすごかったね」


「あれは予想外だった。でも、そのおかげで手に入ったアイテムは充実してるぞ」


「何を手に入れたの?」


 麗華から受けた質問に対し、恭介はゲットしたアイテムを全て答えた。


 それを聞いて麗華が恭介に縋るように抱き着く。


「恭介さん、私を見捨てないで! 恭介さんのパートナーは私! コピーパイロットになんか譲らないわ!」


 (…しまった。フォルフォルがニヤニヤしてたのはそういうことだったのか)


 恭介の想定では、コピーパイロットプログラムも使って3機のゴーレムでコロシアムに挑むつもりだった。


 つまり、戦力を純増させられると考えていたのだ。


 その一方、精神が不安定な麗華はコピーパイロットプログラムを使うことで、それが自分の代わりになってしまうと考えたらしい。


 麗華の誤解を解くため、恭介は麗華を抱き締めてはっきりと答える。


「安心してくれ。麗華の代わりにコピーパイロットプログラムを使おうなんて考えてない。純粋に戦力を増やそうと考えてたんだ。コロシアムに3機で挑んでも構わないとフォルフォルから言われたからな」


「…なんだ、良かった」


「俺が麗華を見捨てる訳ないだろ? 信用してくれよ」


「うん。ごめんね。まだちょっとネガティブ思考が抜けなくって」


 麗華が困ったように笑い、恭介はまだ麗華が本調子に戻るには時間がかかりそうだと思った。

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