第64話 ギッタンギッタンにしてやるよぉぉぉ!

 ホームに来て14日目、恭介は目を覚ました。


 隣には眠りについた時にはいなかったはずの麗華がいたため、彼女の姿を見て寝ぼけた頭が驚きによって覚醒する。


「あれ? 昨日寝た時はいなかったから、夜中にこっちに来たのか」


 驚きはしても寝ている麗華を起こさぬように、恭介の声はボリュームが小さめである。


 恭介が起きたことに誘引されたのか、麗華も目が覚めたらしく眠い目を擦ってゆっくりと上体を起こした。


「おふぁよ~」


「おはよう。まさか寝込みを襲撃されるとは思わなかったぞ」


「…ごめんね。嫌な夢を見ちゃったから、つい」


 そう言われてしまうと、冗談交じりに言っていた恭介の顔が真面目なものに変わる。


「昨日、ゴーレムに乗ったのは無理をしてたんじゃないか?」


「ううん、違うの。夢の中で見ず知らずの女が次のデスゲームでこのホームに来て、稼げない私の居場所なんてないからって言って私から恭介さんを奪ったの」


 (奪うなんてワードが出て来るあたり、俺への依存度が上昇してるらしいな)


 麗華から部屋に来た理由を聞き、恭介は状況が悪い方向に進んでいるように感じた。


 ゴーレムに乗ったこと自体は問題なかったようだが、次のデスゲームでパイロットが増えるとフォルフォルから聞かされたことに加え、池上の資源を稼げという発言から麗華は夢の中で自分がお払い箱にされたようだ。


 それが嫌な夢であることは間違いないし、頼れるのが恭介だけの今、麗華が恭介に甘えたくて私室に入ったことも頷ける。


 ちなみに、恭介が寝る時に私室の鍵を閉めなかったのはこういう時に備えてのことだ。


 麗華が不安になった時、自分の部屋に入れなくてパニックになるのは不味いと考え、鍵をかけずに寝ていたのである。


 実際のところ、そのように配慮してすぐに想定していた事態が起きたので、恭介の考えは正しかった。


 起きてしまえば麗華は元気になったため、一度分かれて着替えてから食堂で朝食を取った。


 それから、恭介は事前に麗華に伝えていた通り、リュージュに乗ってコロシアムへと向かった。


 コロシアムに到着したら、フォルフォルがニヤニヤしながらコックピットのモニターに現れる。


『恭介君、麗華ちゃんに夜這いをかけられて嬉しい? 嬉しいよね?』


「無駄口を叩くなフォルフォル。それよりも、コロシアムに挑戦する。前回の続きから5連続で戦うんでよろしく」


『はーい』


 フォルフォルが入場門を開けば、恭介はリュージュを操ってその中に入った。


 そこに待ち構えていたのは、ディオメデホースと呼ばれる赤い眼を光らせた黒い馬だった。


 普通の馬よりもずっと大きく、軽トラックよりも大きいのは間違いない。


「ギフト発動」


 その瞬間、恭介はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移動した。


 そして、ラストリゾートを斬馬刀に変形させて素早く横薙ぎを放った。


 結果として、ディオメデホースが嘶くよりも先にその首が落ちてそのまま光の粒子になってしまった。


 体の色の通り、ディオメデホースは属性を持たないモンスターだ。


 属性攻撃ができない代わりにタフなのだが、斬馬刀に変形させたラストリゾートはディオメデホースを狩るのにピッタリな武器だったこともあり、あっさりと1戦目が終わった。


『やだー、今回も初戦は瞬殺じゃないですかー』


 フォルフォルがドラキオンのコックピットのモニターで嘆いていると、ディオメデホースだった光の粒子が消えて枝分かれした立派な角を持つ黄色い牡鹿が現れた。


「次はケリュネディアーか」


「ケリュゥゥゥン!」


 ケリュネディアーが鳴いた直後、ドラキオンの足元から岩の棘が飛び出した。


 恭介は高度を上げることでそれを躱し、ラストリゾートを斬馬刀からマシンガンに変形させる。


「踊ってもらうぞ」


 そう言った次の瞬間、恭介が構えたラストリゾートから凄まじい勢いで弾丸が次々に放たれる。


 弾丸が連続して当たることで角が折れ、ケリュネディアーは怒りの声を上げた。


「ゲリュア゛ア゛ア゛!」


 前脚を高く上げてから地面に叩きつけると、地面が罅割れてケリュネディアーの両脇に岩の大剣が現れた。


 それがドラキオンに向かって高速で射出される。


「その程度じゃ追いつかないさ」


 恭介の操縦でドラキオンはするりと大剣を躱し、そのままケリュネディアーに接近した状態でマシンガンを連射した。


 至近距離から弾丸を何発も体に撃ち込まれてしまえば、ケリュネディアーも力尽きてその場に倒れた。


『あぁ、魔法と突進で遠近両方いけるはずのケリュネディアーが…』


 フォルフォルが嘆いている間に、ケリュネディアーが光の粒子になって消えた。


 本来であれば、それと入れ替わるようにしてケルベロスが現れるはずだった。


 ところが、現れたのは3つの上半身を1つの下半身で支える重装歩兵の姿をした有翼巨人である。


『サプラァァァァァイズ! ゲリュオンが来たぁぁぁぁぁ!』


 (サプライズを引き当てちゃったか。それでもやるっきゃないが)


 三つ首の犬であるケルベロスを相手にするよりも、三面六臂の有翼巨人を相手にする方が厄介だ。


「牛を奪ったのはお前かぁぁぁ!」


「奪ってなくても首置いてけぇぇぇ!」


「ギッタンギッタンにしてやるよぉぉぉ!」


 (理不尽な奴とジャイ○ンみたいなこと言ってる奴がいるぞ)


 それぞれの頭に意思があるとわかり、恭介はラストリゾートをマシンガンからビームランチャーに変形させる。


 数撃って仕留めるのではなく、強烈な一撃をお見舞いするつもりなのだ。


 空を飛んでゲリュオンと距離を取り、恭介はジャイ○ンっぽいことを口にした中央の頭を狙ってビームランチャーを発射する。


 その反動で少し後ろに移動させられたが、恭介はバランスを崩したりはしなかった。


 発射の瞬間に砲身をブラさなかったおかげで、ビームがゲリュオンの右の頭を消し飛ばした。


「「弟よぉぉぉ!」」


 (痛みは三兄弟で別々に感じるのか。勉強になったよ)


 シミュレーターで予習していない敵との戦闘なので、恭介はゲリュオンの特徴を知って冷静に次の攻め手を考える。


 ビームランチャーにしたラストリゾートの攻撃は、最初よりもゲリュオンを警戒させた。


 恭介が構えて撃つふりをすれば、ゲリュオンは素早く盾で頭を守る。


 右の頭を消し飛ばされたのが余程怖かったようだ。


 だがちょっと待ってほしい。


 2本の左腕で中央と左の頭を守っているならば、胴体ががら空きになるのは当然だ。


 それゆえ、恭介は照準を胴体にずらしてからビームランチャーを発射する。


 ズドォンと轟音を響かせながら放たれた砲撃は、ゲリュオンの胴体に向かって伸びていく。


 しかし、ゲリュオンは咄嗟に狙われているのが胴体だと気づき、2つの盾を重ねて自分の体を守った。


 2つの盾は砲撃を受けてその熱で熔けてしまい、一撃で使い物にならなくなってしまった。


 これ以上防御しても無駄だと悟り、ゲリュオンは攻めに転じる。


「喰らえやゴラァ!」


「持ってけ泥棒!」


 フリーになった2本の左手で右の頭がコントロールしていた剣と盾を拾い、ゲリュオンはそれをドラキオンに向かって投げつけた。


 遠距離攻撃の手段は投擲しかないから、2本の右手に握る剣はキープしつつ、反対側の2本の手で拾った武器を投げた訳だが、投擲専用の武器でなければ恭介がそれらを避けるのは容易い。


 避けた後にラストリゾートをビームランチャーから太刀に変形させ、それを素早く振り下ろす。


「「ぐぁぁぁぁ!」」


 恭介が斬ったのは左肩から生えた腕3本だ。


 鎧で守っていても、ドラキオンのラストリゾートが変形した太刀はそれをあっさりと斬ってしまったため、ゲリュオンの中央の頭と左の頭が絶叫した。


 痛みに怯んでいる隙を突き、胴体をばっさりと斬るように右から左に太刀を振れば、ゲリュオンの上半身と下半身がズレた。


 太刀に付着した血を恭介が振り払った時には、ゲリュオンの体が光の粒子に変換されて消えた。


『逆サプラァァァァァイズ!』


「喧しいわ!」


 フォルフォルは自分の仕掛けたサプライズが打ち破られ、逆に自分が驚いてしまった。


 それはわかるけれど、コックピット内で大声を出されれば恭介にとっては不快なだけだから、恭介も声のボリュームを上げてツッコんだ。


 流石に連続してサプライズが起きることはなく、光の粒子になって消えたゲリュオンの次に現れたのはシミュレーターで予習した敵であり、それはバーバリアンと呼ぶべき見た目の巨人だった。

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