第63話 私は悪くねぇっ! 私は悪くねぇっ!!
格納庫に戻った恭介は、コックピットから出てすぐに涙目の麗華に抱き着かれた。
「恭介さん、私を見捨てないで!」
「え? どゆこと?」
麗華を見捨てるなんて考えていなかったから、彼女の発言に恭介は困惑した。
そんな恭介に対し、麗華は新しく増えたベースゴーレムを指差して話を続ける。
「あのベースゴーレム、私の代わりを呼ぶんでしょ!?」
「違うぞ? あれはフォールマウンテンのぶっちぎりボーナスだ」
「え?」
「だから、フォールマウンテンのぶっちぎりボーナス。俺もなんでベースゴーレムが報酬として渡されたのかよくわかってないんだ」
「な、なんだ、そうだったんだね…」
麗華は自分が見捨てられてしまうと勘違いしていたことを知り、脱力して膝から崩れ落ちた。
「おいおい」
「ごめん、体がから力が抜けちゃって」
咄嗟に恭介が支えて大丈夫かと言外に訊ねれば、麗華は力なく笑って応じた。
(不味いな。麗華の精神がまた不安定になってる。フォルフォルめ、余計なことをしやがって)
実際のところ、レースやタワー探索等の報酬はフォルフォルが事前に組んだ計算式によって自動的に算出されて与えられる。
したがって、フォルフォルが意図的に麗華のメンタルを攻撃した訳ではないのだが、そもそもデスゲームに巻き込んだ元凶がフォルフォルなのだから、全く悪くないとは言えまい。
恭介とくっついてから少し経ち、麗華は自分で立てるようになった。
「早とちりしちゃってごめんね」
「麗華は悪くない。悪いのはフォルフォルだ」
『私は悪くねぇっ! 私は悪くねぇっ!!』
誤解だと訴えたいならば、ネタに走らず真面目に訴えるべきなのだが、フォルフォルの行動原理はふざける方を優先してしまった。
これではフォルフォルが悪くないと思う者はいないだろう。
恭介に冷ややかな目を向けられれば、フォルフォルは現時点で答えられる範囲で答える。
『いずれ必要になるはず。今はそれだけしか言えないの。バイバイ!』
ネタバレ厳禁だと言わんばかりに濁して答え、フォルフォルは格納庫のモニターから姿を消した。
「あくまで俺の予想だけど、ゴーレムを乗り換えて戦ったりできるんじゃないかな」
「確かに。そう考えることもできたね。ううん、むしろそう考える方が自然なのに私がネガティブになっちゃってたのか」
「あんまり考え過ぎるな。面倒事を考えるのは俺の仕事だ」
「むぅ、それって私を馬鹿にしてない? 馬鹿は黙って従えみたいな」
(まだ思考がネガティブなまま戻らないか)
恭介は困ったように笑い、麗華を優しく抱き締めた。
「そんなことないさ。麗華は疲れてるんだよ。無理せず休んでくれ」
「だ、大丈夫だから! 私、ヴァーチャーに乗るよ! 午後はコロシアムに行く!」
麗華はこれ以上恭介のお荷物になりたくなかったし、自分が役に立つんだとアピールしたかった。
それゆえ、ヴァーチャーに乗って戦うと宣言したのだ。
恭介には麗華が意地を張っているように見えたが、ここで麗華を強引に休ませた時に麗華の心が折れてしまいそうな気がした。
だから首を縦に振った。
「わかった。シミュレーターで予習してから午後に挑もう」
「うん!」
恭介が自分が戦えると信じてくれたことが嬉しかったらしく、麗華は笑顔で頷いた。
その後、恭介と麗華はそれぞれの自室でシミュレーターを使い、午後のコロシアムに備えて予習した。
昼食を取って休んでから、2人はそれぞれのゴーレムに乗り込んでコロシアムに向かった。
ここで恭介達がタワー探索を選ばなかった理由を捕捉しておこう。
コロシアムよりも難易度が低いことを考えれば、タワー探索を優先して行った方が効率的に稼げる。
そうしないのはタワーの11階層以上がロックされており、それは第2回デスゲームが始まるまで解かれないとわかったからだ。
その事実はシミュレーターで試しに11階層のモンスターと戦おうとした際、フォルフォルが2人に知らせていた。
それはさておき、今日のコロシアムの空は曇天で気持ちの良いものではなかった。
「フォルフォル、マルチプレイ用の入場門を開いてくれ」
『良いよー』
フォルフォルが開いた入場門を通ってみれば、中央の舞台とそこに続く通路以外が水で満たされていた。
恭介と麗華が舞台に到着するや否や、水中からバシャッと音を立てて上半身が馬で下半身が魚の青いモンスターが現れた。
「ケルピーが来たぞ。麗華、作戦通りに頼む」
『任せて!』
ケルピーは見た目通りの水属性で、恭介の操縦する火属性のリュージュとは相性が悪い。
だからこそ、ケルピーとの戦闘でのキーマンは麗華だと言える。
これは麗華がネガティブな思考から脱却するためには丁度良い敵だと思い、恭介はケルピーを踏み台と捉えているのだ。
恭介が立案した作戦だが、麗華をメインアタッカーにして恭介はヘイトを稼ぐ避けタンクをするものである。
ケルピーはゴーレムの色から恭介を最初に狙って水の弾丸を連射する。
(そんな攻撃に当たるかよ)
恭介はリュージュを機械竜の姿に変形させ、ケルピーの攻撃を器用に躱していく。
その隙を突くようにして、麗華がランプオブカースでケルピーに攻撃を仕掛ける。
麗華が放った銃弾はケルピーの顎に当たり、追加のランダム効果は麻痺だったようだ。
「ヒヒィン?」
体がビリビリと痺れて動きが鈍ったことに気づき、自分の狩りを邪魔した麗華にケルピーはターゲットを変えた。
「何処見てる? お前の相手は俺だぞ」
恭介はリュージュの口からビームを放ち、それをケルピーの鬣に命中させた。
属性的な相性は悪くとも、ただの銃弾と比べればビームの方が威力は強い。
すぐにヘイトを稼ぎ直し、ケルピーの注意は自身の鬣を焦がした恭介に向いた。
「ヒヒィン!」
麻痺の効果が切れた途端、ケルピーは水中に潜って自分が出せる最高速度で移動した。
それに伴ってコロシアム内の水が荒れて波を形成し、ケルピーが恭介の乗るリュージュを飲み込まんと波に乗って突撃する。
恭介は竜人型の姿に戻り、すれ違いざまに
「ヒヒィィィィィン!」
尻尾を斬られた痛みにケルピーは絶叫し、
更に言えば、恭介がケルピーを斬ったのは舞台の真上だったため、泳ぐための尻尾を失ったケルピーはバランスを崩して舞台の上に落ちた。
『まな板の上のケルピーね!』
麗華はここぞとばかりにランプオブカースで連射し、脚や胴体、目を射抜いていく。
数撃った内のいくつかで爆発の追加効果も発生し、質もそこそこ高いが量による攻撃でケルピーの体力を削り切った。
ケルピーが光の粒子になって消えれば戦闘が終わったと判定され、そのスコアが恭介達の乗るゴーレムのモニターに表示された。
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コロシアムバトルスコア(マルチプレイ)
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討伐対象:ケルピー
部位破壊:両目/鬣/両前脚/尻尾
討伐タイム:8分51秒
協調性:◎
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総合評価:S
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報酬:30万ゴールド
資源カード(食料)100×3
資源カード(素材)100×3
ファーストキルボーナス:
ノーダメージボーナス:エレメントコンバーター
ギフト:
コメント:在庫になってる魔石を処分できて良かったね
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(使わない魔石をいくら持っててもしょうがないからありがたい)
恭介が感謝したのはノーダメージボーナスのエレメントコンバーターだ。
これは魔石の属性を選択した属性に変換できる消耗品であり、一度に最大300個の魔石の属性を変換可能なのだ。
火属性と風属性の魔石は消費しても、水属性と土属性の魔石は増え続ける一方だから、それらを消費する属性の魔石に変換できるのはありがたいのである。
『恭介さん、エレメントコンバーターを貰えたよ!』
「お疲れ様。俺も貰えたぞ。これで余りまくってた魔石を変換できるな」
『うん! やったね!』
今日は連戦する準備をしていなかったため、コロシアムでの戦闘はここまでにして恭介達は格納庫へと帰還した。
コックピットから出て来た麗華の表情に自信が戻って来たのを見て、恭介が裏ミッションに成功したとこっそりガッツポーズをしたのはここだけの話だ。
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