第62話 誰にも俺の邪魔はさせない

 500万ゴールドを払った結果、ホームがどうなったのか恭介と麗華は調べてみた。


 第1回デスゲームまでは存在しなかった医務室とトレーニングルームが増設されており、いずれもver.5までアップデートされた状態だった。


 医務室にはあらゆる薬があり、診療台で全身スキャンをした後に症状に合わせた薬が投与される。


 この時点で地球の技術を超えているのは間違いない。


 トレーニングルームはありとあらゆるマシンのあるジムであり、運動不足の解消にはもってこいの施設と言えた。


「これで服が自由に買えたら衣食住はばっちりだね」


「ショップチャンネルに服やアクセサリー、ゲームとかが追加されてたぞ」


「すごっ!? 日本より暮らしやすいじゃん!」


 (そうやって俺達を繋ぎ止めるつもりなんだろうな)


 麗華がびっくりしている横で、恭介はフォルフォルのやり方に心の中で苦笑した。


 次回のデスゲームに参加してもらうからには、恭介と麗華にコンディションをばっちりにしてもらわねば困ると思ったのだろう。


「麗華、ちょっと良いか?」


「どうしたの?」


「俺はこれからレースしに行く。大金を使って所持金が心許ないから、また集めて来るわ」


 恭介はここで稼ぐと言う言葉を使わなかった。


 その言葉で昨日の会談での池上の発言を麗華が思い出し、精神的に不安定になっては困るからだ。


 本当なら麗華の傍にいてあげた方が良いとわかっているのだが、ホームの購入で大金を使ってしまって所持金が心許ないのは事実だ。


 フォルフォルが完全に自分達を手放す気はないのなら、次回のデスゲームに備えて所持金を増やしておいた方がいざという時に選択肢を増やせる。


 麗華もそんな事情を理解しているからこそ、恭介を引き留めることはしなかった。


 引き留めたい気持ちはあっても、それを我慢して笑顔で恭介を見送る。


「頑張ってね」


「おう。行って来る」


 恭介は格納庫に移動し、リュージュのコックピットに乗り込んで転移門ゲートをくぐってレース会場に向かった。


『やあ、恭介君は本当に勤勉だね。今日は何処に挑むつもりなんだい?』


「フォールマウンテンだ。挑めるようになってたのは知ってるからな」


『そっか。じゃあ、入場門を開くね』


 フォールマウンテンは第1回代理戦争のレース部門で選定されたコースだ。


 実はデスゲーム6日目からあのコースが解禁されていたのだが、一度走行したコースを走るよりも新しいコースを走りたかったので後回しにしていた。


 しかし、今は手っ取り早く金を貯めたいと思っていたし、昨日はシミュレーターで新しいコースの予習もできなかったから、丁度良いのでフォールマウンテンに挑むことを決めたのだ。


 恭介がフォールマウンテンに移動したら、そこは相変わらず天気は曇り空で9機のゴーレムが平行四辺形を描くようにスタンバイしていた。


 (へぇ、競うゴーレムの種類はあの時と同じなのか)


 既に待機していたゴーレム達は、いずれも第1回代理戦争で恭介と競った種類と同じだった。


 もっとも、フォールマウンテンを走ると決めた時、そこで競うゴーレムを構成する鉱物マテリアルは木目鋼ダマスカスだと記されていたから、当時の彼らよりもこれから勝負する者達の方が強敵なのは間違いないのだが。


 先頭から順番にベーススナイパー、キュクロ、モノティガー、スイーパー、ブリキドール、ジャック・オ・ランタン、ニトロキャリッジ、マッドクラウン、ライカンスロープと並んでおり、恭介は10位のスタート位置にリュージュを移動させる。


 全員の準備ができたところで、すぐにレース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はリュージュのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移動した。


『GO!』


 タイミングをピッタリ合わせてスタートダッシュを成功させたため、恭介は早々に1位に躍り出た。


 その背後では、またしてもニトロキャリッジがスタートダッシュに失敗し、豪快に自爆していた。


 ところが、驚くべきことに自爆したはずのニトロキャリッジが傷一つない状態で3位まで順位を上げていたのだ。


 (マジか。ここでは敵もギフトを使えるのかよ)


 R国のマトリョーシカのように、復活を前提とした自爆戦法を使ったニトロキャリッジをモニターで見つけ、恭介は苦笑するしかなかった。


 通常のコースとは違う条件で解禁されたコースなのだから、当然何かしら特殊な要素はあるだろうと思っていた。


 それが対戦相手のギフトの使用だとわかり、恭介はさっさとレースを終わらせようと速度を上げる。


 フォールマウンテンはスタートしてすぐに勾配が急な上り坂であり、その上り坂はくねくねと曲がっていて障害物もあるから、翼を持たないゴーレムにとっては移動が楽ではない。


 ドラキオンにとっては大して苦労しないとわかっていたから、山頂から次々に転がって来る岩球をジグザグに躱してすぐに山頂に到着する。


 山頂から先は道が途切れて飛び降りるだけだから、恭介はドラキオンのトップスピードを維持したまま飛んで2周目に突入した。


 スタートライン付近にはブリキドールとジャック・オ・ランタン、マッドクラウン、ライカンスロープの残骸が残っており、恭介は2周目に入ったタイミングで彼等が脱落していたことを知った。


 (木目鋼ダマスカス製だとニトロキャリッジの自爆もこんな派手になるのか。恐ろしいな)


 まるでブラストキャリッジの爆発みたいだと思いつつ、すぐに頭を切り替えてレースに集中する。


 山頂までの道のりは順調で、山頂から飛び降りるタイミングで6位のベーススナイパーと5位キュクロ、4位のスイーパーを抜き去り、恭介は3周目に入った。


 岩球をスルスルと躱し、山頂までもう少しという地点で3位のニトロキャリッジと2位のモノティガーが争っているのを捕捉した。


「誰にも俺の邪魔はさせない」


 トップスピードのドラキオンが突っ込めば、それによる風圧でモノティガーとニトロキャリッジが両側に弾かれてドラキオンが通るのに十分なスペースができる。


 恭介はそのスペースを通り抜けて山頂から飛んだ。


 前回のレースでは達成できなかったけれど、今回は全員を周回遅れにしてゴールラインを通過できた。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 恭介はフォールマウンテンからさっさと脱出し、レース会場前に戻ってから黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 それによって自動的にリュージュのコックピットに戻って来ると、モニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・フォールマウンテン)

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走行タイム:13分25秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:9人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×60

ぶっちぎりボーナス:ベースゴーレム

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv10(stay)

コメント:3機目のベースゴーレムだよ。上手く使ってね

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 ぶっちぎりボーナスとコメント欄を見て、恭介はモニターでコソコソしているフォルフォルに訊ねる。


「パイロットは俺と麗華だけだぞ? どういうことだ?」


『いずれ必要になると思うんだ。今はそれだけ伝えとくよ』


「ちゃんと答える気はないんだな?」


『まあね。ベースゴーレムは既に格納庫に送ってあるよ。周辺設備も特別に格納庫にセットしたから上手く使ってね』


 それだけ言ってフォルフォルはモニターから消えた。


 3機目のゴーレムは誰が使うのかわからないが、いつまでもレース会場にいたってしょうがない。


 恭介は疑問を解決できないまま、転移門ゲートを通って格納庫に戻った。

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