第7章 インターミッション
第61話 夕べはお楽しみでしたね
デスゲーム13日目、恭介は身動きが取れない状態で目を覚ました。
隣を見ればスヤスヤと眠っている麗華の顔があり、恭介の頭は覚醒し始める。
(まさか本当に一緒に寝てしまうことになるとは…)
昨日、ナショナルチャンネルで池上という配慮に欠ける女性閣僚の発言により、麗華の精神が一気に不安定になった。
それは拉致されてからずっと我慢して来た気持ちを爆発させ、麗華を独りにできない状況にしてしまったのだ。
恭介は麗華が泣き止んでから離れようとしたのだが、麗華が無言で首を横に振って離さない。
仕方なく、恭介は麗華とその後一緒に過ごした訳だ。
時間をかけて麗華は心を落ち着かせられたのだが、いざ寝る時になって麗華は枕を持って恭介の私室を訊ねて来た。
自分だけで寝るのが怖いと言い出したのである。
付き合ってもいない男女が一緒に寝るのはいかがなものかと思ったが、恭介は麗華の不安そうな顔を見て断るに断れなかった。
過去に会社で働いていた時、精神的に病んで休職した社員を目にする機会があったのだが、その社員と麗華が同じ表情をしていたのだ。
この状態で麗華を突き放せば、間違いなく麗華は生ける屍のようになると思って恭介は首を縦に振った。
寝ぼけてうっかり麗華が嫌がるところを触ってはいけないと徹夜するつもりだったけれど、昨日は第2回代理戦争があって恭介も疲れていた。
それゆえ、恭介は爆睡してしまって目が覚めたのが今という訳だ。
目を覚ました恭介が身動きの取れない状態にある理由だが、それは麗華が恭介を抱き枕にして寝ていたからである。
安心した顔で寝ている麗華を振り解いて起こしてしまうのは忍びなく感じ、今の恭介にできることは麗華が自然に起きるまでおとなしくしていることだった。
あれこれ考えること数十分後、麗華はゆっくりと目を覚ました。
起きた時になんで自分と恭介が一緒に寝ているんだと叫び出すことはなく、ホッとした表情で微笑んだ。
「恭介さん、おはよう」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん。恭介さんは私の安心毛布だったみたい」
「俺は毛布じゃないぞ」
「もう、わかってて言わないでよ」
麗華は恭介が毛布ではないとわかっているし、恭介も麗華が自分を毛布扱いしている訳ではないとわかっている。
ただ、このやり取りで麗華の精神状態を確認しただけだ。
もしも麗華が恭介に自分の発言を否定されて取り乱すようならば、麗華の精神状態は一晩経ってなおよろしくないと言える。
ところが、麗華は取り乱さずに微笑んだままだから、自分を抱き枕にしたことで最低限の落ち着きを取り戻せたのだろうと恭介は判断した。
「シャワー浴びて来る。食堂で集合ね」
「わかった」
麗華がそう言って私室に戻ったため、恭介も起きてシャワーを浴びてから食堂に向かった。
食堂でのんびりと朝食を取った後、2人がコーヒーを飲んで食休みしていると食堂のモニターが勝手に電源をONになってフォルフォルが姿を現す。
フォルフォルは恭介と麗華の距離が昨日までよりも近いことに気づき、アホ毛をレーダーのように立たせた。
『夕べはお楽しみでしたね』
「朝っぱらから適当なこと言うな」
『そうなの? 麗華ちゃんは顔が真っ赤だけど?』
「え?」
抱き枕にされただけだと思っていたが、フォルフォルの発言を聞いて隣の麗華を見てみたら、確かに彼女の顔は真っ赤だった。
『あれれ~? おっかしいぞ~。違うならなんで麗華ちゃんの顔は真っ赤なのかな? かな? 私は昨晩、麗華ちゃんがこっそり何をし』
「煩い!」
「麗華!? それは駄目だ!」
麗華はフォルフォルがここぞとばかりに踏み込んでくるから、手に持ったマグカップをモニターに投げつけようとして恭介に止められる。
食堂のモニターを壊したところで、
その上、フォルフォルは揶揄って来るだけではなく情報も齎してくれる。
今もフォルフォルがただ麗華を揶揄いに現れただけではないだろうと思い、恭介は麗華のマグカップをテーブルに置かせた。
それから、恭介は改めてフォルフォルに話しかける。
「フォルフォル、まさか揶揄うためだけに現れた訳じゃないだろ? 用件はなんだ?」
『恭介君は動じないねぇ。実は、第1回デスゲームが終了することを伝えに来たんだ』
「ちょっと待て。第1回だと?」
『流石は恭介君。頭の回転が速くて助かるよ。第1回があったんだもの。第2回があって当然じゃないの』
「それはフォルフォルの言い分であって、俺達にとっては当然じゃないぞ」
フォルフォルは主催者だから、次のデスゲームを開催すると簡単に言えるかもしれないが、参加させられた恭介達からすれば冗談では済まない。
『そうは言っても良いの? 参加しないと日本が資源不足で滅んじゃうよ?』
「あんな国、滅んだって構わない」
『あちゃー。昨日のナショナルチャンネルで見限っちゃったかー』
「知ってるならくだらない脅しなんてするな」
ナショナルチャンネルというワードを聞いた途端、麗華が恭介の手を握り出す。
その手は震えており、恭介はフォルフォルに対してなんてことをしてくれたんだと怒りを込めた視線を向ける。
『麗華ちゃんの精神が不安定になっちゃったのも承知してるよ。だが敢えて言おう! 君達が第2回デスゲームに参戦するのは決定事項であると!』
「お前の面の厚さはタ○ンページか?」
『忘れてるかもしれないから言っておくけど、私って神よ? フォルフォルの皮を被った神だよ? ゆえに、君達の心情に関係なく手放したりしないし、パイロットとして巻き込む人数も増やすよ』
(あぁ、このクソッタレ。麗華の状況が悪化するじゃねえか)
フォルフォルに喋らせれば喋らせる程、麗華の精神状態が悪化しかねない。
訊き出すべき情報だけさっさと訊き出し、話を終えるために恭介は頭を回転させる。
「今回のデスゲームが終わりなら俺達は解放されるんじゃないのか? 流石に終わってすぐ第2回を始めようなんて言わないだろ?」
『そうだね。まあ、君達には楽しませてもらった。だから、君達を日本に戻してから今日を含めて3日間のお休みをあげるよ。その間に私達は次のデスゲームの準備を済ませておく』
「次のデスゲーム開催は日本、いや、全参加国に知らせたのか?」
『勿論だよ。私が今説明しているように、私の分身が全参加国に知らせてるよ』
そこまで話を聞いて恭介は苦虫を嚙み潰したような表情になった。
「フォルフォル、お前マジで嫌がらせが得意だな。その状況で俺達が帰ってみろ。ちっとも休めないじゃないか。それがわかってて発表しやがったな?」
『まあね。全参加国同時中継で次回のデスゲームのお知らせをしてるけど、どの国も阿鼻叫喚って表現が相応しいパニック状態だね☆』
とても晴れやかな笑顔でゲスな発言をするフォルフォルに対し、恭介は交渉を始める。
「俺達が日本に帰ったら、間違いなく監視が付く。下手したら軟禁生活を強いられるだろう」
『ふむふむ』
「それで次回のデスゲームでのパフォーマンスが落ちたとしたら、フォルフォルは満足できるのか?」
『ふーん。何が望みかな? 世界の半分?』
シリアスな話題を進んで壊しにかかるのがフォルフォルである。
そんなフォルフォルにツッコまず、恭介は交渉を続ける。
「このホームを引き続き俺達に使わせろ。日本に帰っても碌な生活ができないだろうから、せめてここを有効利用したい」
『なるほどねー。使わせてあげても良いけど、無料って訳にはいかないかな』
「そうか。だったら、俺はゴーレムに乗らない」
『え!? それは困る! 本気で困っちゃうから考え直して!』
デスゲームという舞台において、恭介は間違いなく主役級のパイロットだ。
主役のいない舞台なんて駄作以外の何物でもないので、フォルフォルはぐぬぬと唸ってから恭介に譲歩を迫る。
『そのホームは最新鋭の技術でできてるんだ。いくらなんでも無料で渡す訳にはいかないんだよ。施設を拡充するから500万ゴールド払って。本当はその倍額が適正価格だけど、楽しませてもらったお礼に出血大サービスするから!』
フォルフォルは必死だった。
出血大サービスなのは事実だが、恭介がそれでゴーレムに乗って第2回デスゲームに参加してくれるなら安い出費だと割り切って頼んでいる。
その一方、恭介はこれ以上ごねてもフォルフォルとの関係が悪化すると考えており、この辺りが落としどころだと判断した。
「麗華、100万ゴールドだけ負担してくれないか? 400万ゴールドは俺が払うから」
「良いよ。私のお金、恭介さんの自由にして」
麗華は恭介が自分のことも考えてホームを確保してくれていると悟り、恭介に100万ゴールドを託した。
恭介と麗華が500万ゴールドをテーブルに並べると、それが一瞬にして消えてフォルフォルが一仕事終えた表情になる。
『ふぅ、交渉成立だね。今からそのホームは君達の物だ。探検して名前も自由に決めて良いよ。それじゃあ、私は次のデスゲームの準備に戻るからバイバイ』
これ以上の条件変更は受け付けないと言外に伝え、フォルフォルはモニターから消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます