第58話 どうしたの? まだ戦い足りないの?

 パワーが爆発してすぐにフォルフォルのアナウンスが始まる。


『ピンポンパンポーン。速報が入ったからお知らせするね。A国のワイルドレディが日本の福神漬けを襲って返り討ちにされたよ。徐々にゴーレムの機能を奪う福神漬けはえげつなかったし、死を予感したワイルドレディの命乞いはみっともなくて笑っちゃったよ。ワイルドレディの物的財産は福神漬けに引き継がれた。やったね!』


 恭介はアナウンスを聞いてすぐに口を開く。


「フォルフォル、しれっと麗華のメンタルを揺さぶらないでくれる?」


『えぇ? 善か悪かは主観によって変わるっていう正義へのアンチテーゼを意識してもらおうと私なりに考えたのに』


「余計なことはするな」


『あっはい』


 恭介の声色が危険域まで冷たくなったことに気づき、フォルフォルはおとなしくモニターから消えた。


 それから恭介は麗華に連絡を取る。


「麗華、大丈夫か?」


『…大丈夫。それよりもミッションをクリアしようよ。恭介さんが追い上げてくれたんだもの。失敗するのは勿体ない』


「そうだな。麗華の力を俺に貸してくれ」


『私の? わかった。何をすれば良い?』


 今は麗華にあれこれ考えさせてはいけない気がして、小惑星コロニーを破壊するために麗華の力が必要だから力を貸してくれと言った。


 そうすることで、麗華は雑念を払って自分の考えた作戦に従事するだろうと思って言ってみたが、恭介の予想通りの返事が彼女から貰えた。


 恭介は手に入れたイベント専用アイテムを使った作戦を聞き、自分に与えられた役割を理解した。


 チーム間ではアイテムの受け渡しが自由にできるから、恭介は麗華に作戦に必要なアイテムを渡した。


 手分けして現在のマップから適切な場所にドリルを設置し、小惑星コロニーのあちこちに穴を開けていく。


 できた穴に爆弾を設置した後、いくつもの穴で創り出された陣形の中心に残った爆弾をまとめて設置する。


 これで準備が整ったから、恭介は麗華に合図を送る。


「始めてくれ」


『了解。ギフト発動』


 麗華は金力変換マネーイズパワーを発動し、10万ゴールドをコストに次の一撃を強化した。


 そこにウインドブースターを重ねて使用することで、麗華の一撃がどんどんロマン砲として昇華されていく。


『ぶっ飛べ!』


 ランプオブカースから放たれた弾丸が設置された爆弾に命中した途端、モニターが爆発の光で一時的に塞がれるぐらいの衝撃が発生した。


 恭介も麗華も十分に距離を取っていたから平気だったけれど、宇宙戦艦の主砲並みの威力の弾丸によって生じた衝撃は小惑星コロニー全体を揺らした。


 モニターに外の様子が映し出された時には、進捗率が70%から100%まで一気に伸びていた。


『しゅぅぅぅりょぉぉぉ! スコア発表をはぁじめるよぉぉぉぉぉ!』


 フォルフォルがコロニーフォール終了を宣言すると、恭介達の足元に魔法陣が現れてイベントエリアに転送された。


 転送中にコックピットのモニターにバトルスコアが表示され、恭介はすぐにその確認を始める。



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バトルスコア(第2回代理戦争・コロニーフォール)

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貢献率:40%

モンスター討伐数:109体

ゴーレム撃墜数:1機

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×6枚

   資源カード(素材)100×6枚

   60万ゴールド

ゴーレム撃墜ボーナス:黒金剛アダマンタイト×60

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv10(stay)

コメント:やっぱりドラキオンは使ってもらえなかったか

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 (どう考えてもドラキオンは過剰戦力だろ)


 恭介は心の中で冷静にツッコんだ。


 レース部門でもバトル部門でも、ドラキオンを出すまでもなく戦えていたのだから当然だろう。


 恭介がスコアの確認を終えると、生還可能な全てのゴーレムと共にイベントエリアに戻って来ていた。


 ホログラムのフォルフォルが恭介達の前に現れて喋り始める。


『お疲れ様。見ててとても愉快なコロニーフォールだったよ。それじゃ、バトル部門全体結果を発表しよう』


 フォルフォルがそう言った直後、恭介達のコックピットのモニターに個人向けとは異なるスコアが表示される。



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バトルスコア(第2回代理戦争・コロニーフォール)

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1位:トゥモロー&福神漬け(日本/81%)

2位:マーリン(E国/10%)

3位:ムッシュ(F国/9%)

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死亡者:アマゾネス(BR国)

    クレオパトラ(EG国)

    海王(C国)

    ワイルドレディ(A国)

報酬:アップデート無料チケット(フリー)

コメント:共通報酬を前回と同じく用意したから有効に使ってね

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 (設備投資って地味に高いからありがたいね)


 恭介はどの施設にも使えるアップデート無料チケットが手に入って喜んだ。


 ショップチャンネルで高額の買い物をすることもあるから、このチケットがあるのとないのでは所持金の使い道が変わって来るからである。


 各国が報酬を貰ったところで、フォルフォルが代理戦争の締めの挨拶を始めようとした。


 その時、E国のマーリンとF国のムッシュが恭介と麗華に通信を繋いだ状態で口を開く。


『『ちょっと待ってほしい』』


 当然、コックピット内で喋った内容はフォルフォルにも届くから、ホログラムのフォルフォルがその理由を訊く。


『どうしたの? まだ戦い足りないの?』


『違う、そうじゃない』


『代理戦争にこれ以上参加したくない。日本と戦っても勝てるビジョンが見えない。降参させてくれ』


『その通りだ。今回の戦争でわかった。次に戦えば必ずこちらが死んでしまう。降参させてほしい』


 マーリンとムッシュの声からは、本当に恭介や麗華と戦いたくないという気持ちが滲み出ていた。


 彼等の立場からすればそう思うのも無理もない。


 ゴーレムのスペックは明らかに差を付けられており、代理戦争がない期間のタワー探索やレース、コロシアムでの実績も突き放される一方だ。


 自分のペアは前回の代理戦争で死んでおり、この先どうやって日本と戦えば良いんだと嘆きたくなる気持ちも頷ける。


 それでも、フォルフォルはできれば生存する国が1つになるまで戦ってほしいから、2人に条件を提示してみる。


『それなら、次はE国とF国の連合チームが日本と戦うのはどうだい? 数で言えば2対2だろう?』


『仮にも今まで敵と戦って来た者に背中を預けろと? 随分と無茶を言うじゃないか』


『マーリンの言う通りだ。それに資源の取り分の問題が発生する。E国とF国を賄う資源を私達が集めるなんて、ノルマが2倍になるだけじゃないか。マーリンも私も力が足りないから降参すると言ってるのに、なんで更なる苦行を増やされなければならないんだ』


 マーリンもムッシュも今回ばかりは自分の意思を曲げないつもりらしい。


 フォルフォルはこのデスゲームがつまらない終わり方をするのは嫌だから、なんとか続けてもらおうと食い下がる。


『君達には愛国心がないの? 君達が戦いを放棄すると言ったら、国で待つ者達は嘆き悲しむことになるよ?』


『ハッ、馬鹿なことを言うな。その国に帰れなくなるだろうから降参してるんだろうが』


『そうだそうだ。そもそも、命を懸けず私達の戦果を待つ者達に何を言われようと、自分が確実に死ぬ未来に比べれば大したことないだろう』


 愛国心を持ち出してみても、マーリンとムッシュはブレたりしなかった。


 想定外の事態にフォルフォルもすぐには結論が出せなかったため、フォルフォルは持ち帰って今後の対応を決めることにした。


『仕方ないから今日は解散! 今後のことについては後日連絡するからそれを待つように!』


『恭介さん、帰ろう。疲れちゃった』


「そうだな。帰ろう」


 この場でごねても結果は変わらないと判断し、恭介と麗華は転移門ゲートをくぐって格納庫に戻った。

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