第57話 祖国って言えばなんでも正当化されると思うなよ

 誰にも襲われることなく、恭介は黙々と小惑星コロニーの破壊作業を進める。


 ドリルを打ち込んだことにより、モニターに映る進捗率が21%から26%に上昇したところでフォルフォルのアナウンスが聞こえて来た。


『ピンポンパンポーン。たった今情報が入って来たよ。C国の海王がEG国のクレオパトラを襲撃して殺したよ。クレオパトラの物的財産は海王に引き継がれた。ったね!』


 (なんかやったねのニュアンスが違った気がする)


 フォルフォルがパイロットを煽るのは呼吸と同じぐらい普通だから、恭介はそのアナウンスを聞いてなんとなく違いに気づいた。


 それよりも、C国の海王が弱い者虐めを始めたことは問題だろう。


 小惑星コロニーの破壊はできるどうかわからないが、やってみるだけの価値はある。


 ところが、海王はレースで機体を損傷したアマゾネスとクレオパトラを立て続けに襲い、彼女達がレースでゲットした資源を横取りしている。


 大金を狙わずに足元の小銭を拾うのは堅実かもしれないが、そのやり方が他人を蹴落とすものなら褒められたものではない。


 それが祖国のためだと大義名分を振りかざしてのものならば、余計にたちが悪いと言えよう。


 既に今回の代理戦争で3人も殺めた海王だから、弱い者虐めを終えたら小惑星コロニーの破壊作業を始めるとは思えない。


 だからこそ、恭介はモニターに映し出すマップの範囲を拡大して海王らしき反応を探した。


 その過程で麗華が誰かと交戦中であることがわかった。


 (おいおい。麗華は誰と戦ってるんだ?)


 灰色のアイコンは死んだパイロットを意味しており、そのすぐ近くにいた赤いアイコンは麗華ともう1つの赤いアイコンが戦っている所に向かい始めていた。


 (海王の奴、麗華達の戦いに割り込んで漁夫の利を得るつもりか? やらせないぞ!)


 恭介はリュージュを速く移動できる機械竜の姿に変形させ、海王のラセツと麗華達が戦う地点を直線で結んだ位置の間に割り込む。


 自分に急接近するゴーレムが現れたことに気づかない海王ではないから、臨戦態勢で目の前で竜人型に戻ったリュージュに勝負を仕掛ける。


 ラセツは鬼人型ゴーレムであり、両手に軍刀を装備した二刀流スタイルがデフォルトだ。


 しかし、海王が操縦するラセツが持つのは二振りの軍刀ではなく、二振りの柳葉刀だった。


『日本のトゥモローか。祖国のために資源置いてけ』


「祖国って言えばなんでも正当化されると思うなよ」


『祖国を悪く言うものは許さん!』


「祖国じゃなくてあんたが悪いって言ってんだよ!」


 接近して剣舞を放つ海王に対し、恭介は冷静に動きを見て鶏蛇斧槍コッカベルテで防ぐ。


 鶏蛇斧槍コッカベルテの機能には、刃に触れた部位から石化して脆くさせるというものがある。


 それを利用し、恭介は海王の使う二振りの柳葉刀を着実に石化させて脆くした。


 武器同士が衝突する際、それらを構成する鉱物マテリアルのレアリティが高い程硬いから、恭介の鶏蛇斧槍コッカベルテによって脆くなった柳葉刀はどちらも刃が欠けてボロボロになった。


 刃を失った柳葉刀なんてただのガラクタだ。


 どうしようもなくなった海王は柄だけになった武器を捨て、グルグルパンチをしながら突撃し始める。


『ト゛ゥモ゛ォ゛ロ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!』


子供ガキの喧嘩かよ」


 海王の突撃を躱して背後に回り込み、恭介は鶏蛇斧槍コッカベルテを全力で振り下ろす。


 鉱物マテリアルの差でバターのように斬れてしまい、左右真っ二つになるのと同時に爆発した。


『ピンポンパンポーン。速報が入ったからみんなに教えてあげるね。たった今、漁夫の利を狙おうとしてたC国の海王が日本のトゥモローに阻止されたよ。武器を壊された後のグルグルパンチをあっさり躱され、トゥモローがバッサリと斬り捨てたのは見事だった。海王の物的財産はトゥモローに引き継がれた。C国に殺されたパイロットのみんな、仇を取ってもらえて良かったね!』


 フォルフォルのアナウンスが終わった時には、リュージュのコックピットのサイドポケットには目録にまとめられた海王の全ての物的財産とイベント専用アイテムが転送されて来た。


 今は具現化できないからサラッと目を通してみると、海王が自力で集めた物とは別にベルリナー・ヴァイセやアマゾネス、クレオパトラの所持品と思しき物まであった。


 じっくり読み込んでいる場合ではないから、恭介は目録をサイドポケットに戻して麗華に合流することにした。


 (麗華が無事だと良いんだが)


 スペック的には麗華のヴァーチャーに勝てるのは自分のドラキオンとリュージュぐらいだとわかっていても、戦場では何が起きるかわからない。


 それゆえ、恭介は麗華と合流するべく北へと向かう。


 恭介が麗華のいる地点に向かうと、彼女はパワーと銃撃戦を行っていた。


 (麗華が戦ってたのはやっぱりワイルドレディだったか)


 麗華がそこそこ長い時間戦っていたため、恭介はその相手がA国のワイルドレディだと予想していた。


 E国のマーリンやF国のムッシュが相手ならば、ここまで戦闘が長引くと思っていなかったからだ。


 恭介の接近に気づき、麗華が彼に通信を繋げる。


『恭介さん、ワイルドレディは私がやるから』


「…了解」


 麗華がその手を血で染めてしまうのは避けたかったけれど、彼女の声には覚悟が感じられた。


 それを無視してワイルドレディを横取りすれば、麗華が自分の力を軽んじられたと思うことだろう。


 麗華のプライドを傷つける訳にもいかないので、仕方なく恭介は頷いて少し離れた場所で小惑星コロニーの破壊作業を再開し始める。


 海王のラセツを倒した際、海王が持っていたイベント専用アイテムを具現化し、全ての爆弾を地面にセットした。


 そして、機械竜の姿に変形してからあるだけのウインドブースターをリュージュに使い、上空から魔石のエネルギーを消費してビームブレスを放った。


 それが設置した爆弾に命中した結果、威力マシマシだったこともあって元々の小惑星コロニーの3分の1ぐらいが砕け散った。


 実際、恭介のモニターには進捗率が32%から65%まで急激に伸びたのが見て取れたため、その目測は間違っていなかった。


 残り時間は52分であることを考えると、破壊するペースは数字だけ見れば順調だと言えよう。


 問題を挙げるならば、ワイルドレディが麗華の作業を邪魔しているせいで破壊作業をしているのが恭介とマーリン、ムッシュしかいないということだろう。


 そうだとしても、先程の大爆発に巻き込まれて倒れたモンスターも少なくなく、リュージュのコックピットのサイドポケットには新たにイベント専用アイテムが転送されていた。


 これらを使えば、足りない人手をカバーできる可能性は十分にある。


 恭介の一撃で進捗率が大幅に伸びたことは、ミッションの達成を可能にできるかもしれないと現在生存するパイロット全員に希望を持たせた。


 その影響でA国のワイルドレディの動きに変化が生じた。


 少し前までは麗華を討って日本を弱体化させようとしていたが、今は恭介達がミッションをクリアするまで生き延びられるように時間稼ぎするようになったのだ。


 ミッションをクリアした時に生存していれば、パイロット達に資源が与えられる。


 それはおそらく貢献度によって按分されるだろうが、ミッション失敗で実入りがないよりもずっとマシである。


 そんな身勝手な考えが気に食わなくて、麗華のワイルドレディを攻撃する勢いが増す。


 保有する魔石に余裕があることもあり、弾を惜しまずにガンガン攻撃している。


 ヴァーチャーとパワーではヴァーチャーの方が優れており、麗華のヴァーチャーは武器も含めて聖銀ミスリル製だ。


 麗華が本気で敵を討ちに行けば、次第にワイルドレディの機体に麗華の撃った銃弾が当たり始める。


 左脚、右腕、右足首、左上の翼、右上の翼とどんどん撃ち抜かれて機能しなくなっていく。


 更にランプオブカースの効果が発揮され、右脚の付け根に命中した弾丸によって石化が始まるとワイルドレディは自分の死が間近に迫っていると悟って恭介と麗華に通信を繋げる。


『降参する! どうか命だけは助けて! 私が死んだら祖国は滅んでしまうの!』


 恭介にも通信を繋げたのは、麗華を止めてくれるかもしれないと僅かな可能性に賭けてのことだ。


 だが、現実はワイルドレディに都合良く進まない。


 恭介は沈黙を守り、麗華がワイルドレディの発言にキレる。


『都合の良いことを言うな! くたばれ!』


 麗華の怒りの一撃がパワーのコックピットを貫通し、それが原因でパワーが爆発した。

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