第54話 レースは同じレベルの者でしか成立し得ない。フォルフォル学んだ

 光が収まった時、恭介達10人のレース参加者はストームタワーのスタートラインに並んでいた。


 先頭はEG国のクレオパトラが乗るスフィンクス。


 2位はBR国のアマゾネスが乗るアラクネ。


 3位はIN国のカーリーが乗るイフリート。


 4位はD国のベルリナー・ヴァイセが乗るリャナンシー。


 5位はF国のムッシュが乗るメビィ。


 6位はR国のチェルノボーグが乗るブラストキャリッジ。


 7位はE国のマーリンが乗るケット・シー。


 8位はC国の海王が乗るラセツ。


 9位はA国のワイルドレディが乗るパワー。


 10位は日本の恭介トゥモローが乗るリュージュ。


 (ブラストキャリッジと距離があって良かった)


 R国が目の前だったら困ると思っていたため、恭介はチェルノボーグの操縦するブラストキャリッジが6位の位置にいたことを喜んだ。


 全員の準備ができたところでレース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1』


 開始の合図の前に6位のニトロキャリッジが光る。


 (不味い!)


『GO!』


 スタートの合図が聞こえたのと同時に恭介はリュージュを斜め上に飛ばせた。


 そのはずがどういう訳か6位のブラストキャリッジと位置が入れ替わっていた。


 位置が入れ替わっていたのは1位のケット・シーだけであり、それ以外は全員ランダムに位置が入れ替わっていた。


 そして、幸か不幸か元々はリュージュを狙って放たれていた貫通弾がブラストキャリッジに命中し、大爆発が起きた。


『おぉっとこれは面白い幕開けだぁぁぁ! A国のワイルドレディの攻撃がE国のマーリンの仕業でR国のチェルノボーグに命中したぞぉぉぉ! ブラストキャリッジが爆散し、9位のリャナンシーと8位のアラクネに損傷を与えたぁぁぁ!』


 順位がランダムに変わったのはマーリンのギフトによるもので、そのせいでD国のベルリナー・ヴァイセとBR国のアマゾネスは巻き添えを喰らったと言って良いだろう。


 恭介は6位の位置から爆風を利用してスピードを上げ、A国のパワーとF国のメビィと2位争いをしている。


 メビィは他のゴーレムとは異なり、主砲と副砲を装備したドローンと表現すべき姿をしており、両手両足ないという点では他のどのゴーレムと比べても異質と言える。


 (お前達の相手をしている暇はない)


 恭介はパワーとメビィからの攻撃をスイスイと躱しつつ、先を進む1位のケット・シーを追いかける。


 ストームタワーは巨大な螺旋スロープのコースを上がっていき、最後に頂上から地上まで飛び降りて1周が終わる。


 厄介なのはタワーが吹き曝しであり、ストームタワー内に嵐による強風や雷の影響を受けやすいことだ。


 今はまだ、強風だけだからコースの位置取りさえ間違わなければ問題ない。


 強風でパワーとメビィの放った銃弾はまともに飛んでおらず、そんなことをしている間に恭介が単独2位になっていた。


 1位のケット・シーは比較的軽いゴーレムなので、強風によって思うように進めていないようで恭介のコックピットのモニターにはケット・シーの姿が映っていた。


 それでも、ケット・シーばかりに注意してはいられない。


 何故なら、同率争いをしているパワーとメビィが後ろから銃撃して来ているからだ。


 (折角の攻撃だ。利用させてもらおう)


 恭介はパワーとメビィの銃撃を利用することで、1位のケット・シーの走行を妨害し始めた。


 強風のせいでポジション取りがシビアなケット・シーに対し、パワーとメビィの銃撃でそれを邪魔したのだ。


 そうなれば、ケット・シーがふらついてまともに走れなくなるから、その隙に恭介はケット・シーを抜いて1位に躍り出た。


『日本のトゥモローの策略が決まり、1位と2位が逆転したぁぁぁ! 利用されたワイルドレディとムッシュは涙目不可避ぃぃぃ!』


 フォルフォルの実況はわざと恭介にヘイトを集めるかのようだった。


 そのつもりがあろうとなかろうと、恭介がこのレースのキーマンであることは間違いないから狙われることに変わりはない。


 恭介が強風に影響されず進んで行くと、今度は地面に穴が開いたり棘が飛び出したりし始める。


 それだけでなく、上の方から鉄球が等間隔で転がり落ちて来る。


 するりするりと鉄球を躱していき、恭介は遂にタワーの頂上にやって来た。


 タワーの頂上には避雷針が設置されており、雷が落ちた場合にはギミックが作動してタワー内部がランダムに爆発するようになっている。


 頂上の穴から飛び降りて恭介が2周目に突入した時、落雷があってストームタワーの数ヶ所で爆発が起きた。


『ざぁんねぇぇぇん! EG国のスフィンクスが爆発によって生じた穴から落ちてしまったぁぁぁ! 6位から9位に転落だぁぁぁ!』


 雷のせいで順位に変動があったらしく、恭介は自分が2周目に突入してから雷が落ちる頻度が増したのを爆発音で感じ取った。


 実際のところ、恭介の認識通りでストームタワーでは誰かが2周目に入った時から落雷の回数が増えるから、ストームタワーの難易度は上昇する。


 それに巻き込まれた者が早速現れた。


『6位のイフリートが落雷からの爆発に巻き込まれてリタイアしたぁぁぁ! このレースで2人目の脱落者はIN国のカーリーだぁぁぁ!』


 雷からのランダムな爆発により、最後までレースを捨てなければ少しでも順位が上がる可能性が増した。


 これでまだリタイアしていない国のパイロット達はやる気になった。


 機体のスペックに関係なく戦えるのなら、やる気が出るのは当然だろう。


 (あとどれぐらい周回遅れにできるかね)


 恭介はドラキオンを使わずに自分がどこまでできるか試してみるつもりだから、このままギフトを使わずに走行する。


 爆発や落とし穴、棘、鉄球を躱して頂上に到着したところで、恭介は穴を落下している途中のスフィンクスを捕捉した。


 リュージュが飛び降りた時にスフィンクスは焦ってしまったらしく、着地に失敗してしまった。


『EG国のクレオパトラが痛恨のミス! 日本のトゥモローに追いかけられてることに気づいて焦って着地に失敗したぁぁぁ!』


 (別にレースじゃ積極的に攻撃したりしないんだから落ち着けよ)


 恭介はクレオパトラの乗るスフィンクスを無視し、そのまま3周目に突入した。


 その瞬間、ストームタワーに吹き込む風の勢いが増した。


 恭介はリュージュをまともに動かすのに消費するエネルギーが増えたことを知り、フォルフォルの設計したストームタワーが実に性格の悪いコースだと思った。


『なんということだぁぁぁ! 開始早々の爆発に巻き込まれてエンジンの不調気味だった7位のリャナンシー、突風に押し出されて一番下まで落とされたぁぁぁ! ゴーレムが大破してレース復帰は絶望的だぁぁぁ!』


 D国のベルリナー・ヴァイセが乗るリャナンシーの落下は、恭介もモニター越しに見ていた。


 機体が万全の状態ならば耐えられたはずの突風でも、ブラストキャリッジの爆発に巻き込まれて損傷した状態では耐えられなかったようだ。


 (恨むならE国のマーリンを恨め)


 心の中でそう言った後、恭介は自分の走行を妨害するギミックを躱す作業に集中し、頂上から最後のダイブに入る。


 高速でダイブすることで、6位のアラクネを抜かした恭介が1位でゴールラインを通過した。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&リュージュだぁぁぁぁぁ!』


 フォルフォルが恭介の優勝を宣言した直後にリュージュの足元に魔法陣が現れ、それが光って恭介はイベントエリアへの転送が始まった。


 転送中に恭介はコックピットのモニターに表示されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(第2回代理戦争・ストームタワー)

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走行タイム:26分53秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:5人

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総合評価:A

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報酬:資源カード(食料)100×5枚

   資源カード(素材)100×5枚

   50万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×50

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv10(stay)

コメント:レースは同じレベルの者でしか成立し得ない。フォルフォル学んだ

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 (そう思うなら最初から代理戦争に巻き込まないでほしいね)


 恭介が心の中でコメントした直後に光が収まり、彼はイベントエリアに戻って来た。

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