第53話 俺は無茶しないよ。俺はね

 デスゲーム12日目の代理戦争当日、朝食を取って準備万端な恭介と麗華は各々のゴーレムに搭乗した。


「麗華、行くぞ」


『うん!』


 代理戦争が開催される日だけ転移先にイベントエリアが追加されるので、恭介達はイベントエリアを選択して恭介達は転移門ゲートをくぐった。


 今回も前回と同様に全ての参加国が同時に転移門ゲートから移動して来た。


 前回は日本の総合優勝だったから、ハンデとして他所の国を先に招いて同盟を結ばせるなんてことがあってもおかしくないと考えていた恭介だが、どうやらその心配はなさそうだ。


 その心配を察知したらしく、フォルフォルがコックピットのモニターに現れて恭介に話しかける。


『安心して良いよ。前回日本が圧倒的だったからと言って、他の9ヶ国が同盟を結びやすくするとかはしないから。戦場での交渉は止めないけど、少なくともイベントエリアではそんなことができないようにしてるよ』


「ふーん、律儀に難易度調整をしないって約束を守ってくれてるのか」


『そうだよ。私は約束を守る神なのさ。踏み倒すのは簡単だけど、そんなことをしたら恭介君になんて罵られるかわからないからね』


「少なくとも三流神さんりゅうしんとか自称神(笑)とかって呼ぶかな」


『君は本当に恐れ知らずだね。まあ、そんなところが気に入ってるんだけどさ』


 それだけ言ってフォルフォルがコックピットのモニターから消え、今度は全員の前にホログラムとして現れる。


『モニターの前のみんな〜、デスゲームのゲームマスターのフォルフォルだよ~。こ~んにちは~!』


 教育番組の歌のお兄さんやお姉さんを想起させる挨拶をするフォルフォルに対し、各国のパイロットが困惑する。


『あれれ~? 聞こえなかったのかな〜? それじゃあもう一度だね〜。こ~んにちは~!』


『『『…『『こ~んにちは~!』』…』』


 繰り返しやっても誰も返事をしないと思ったらしく、どこからともなく複数人の返事をする声がイベント会場内に響いた。


 パロディネタをするためならば、今回もフォルフォルは技術の無駄遣いを惜しまないつもりらしい。


『まったく、君達がハート○ン軍曹ネタは不評だったから万人受けしそうなネタにしたのに、乗ってくれないなんて寂しいね』


 (これから下手すりゃ殺し合いさせられるってのに、誰がフォルフォルのために乗るんだ?)


 恭介が思っていることがフォルフォルを除くこの場の総意である。


『しょうがないから、真面目に代理戦争の説明を始めるよ。ルールが一部追加され変わったから、改めて紹介するね』


 フォルフォルが説明した代理戦争の内容をまとめると以下の通りになる。



 ・代理戦争は参加国のパイロットが5,10,15のように5階層突破毎に開催される

 ・例外として代理戦争で一度でも総合優勝した国が突破した場合はノーカウント

 ・もしも1ヶ月以上新たに5階層が突破されなければ、代理戦争が強制開催される

 ・代理戦争はGBOと変わらずバトル部門とレース部門がある

 ・バトル部門では毎回別のテーマで戦いが行われる

 ・レース部門は各国1名が代表して参加する

 ・レース部門は毎回違うコースで行われる

 ・報酬は部門毎に用意されており、実績によって按分される

 ・他国のパイロットを仕留めるとギフト以外全ての物的財産を引き継げる



 追加されたルールは2つ目に記されたもののみだった。


 これが日本と他9ヶ国の差が開き過ぎないようにする緩和措置である。


 ぶっちゃけてしまえば、日本の行動を制限するためだけに追加されたルールと言っても過言ではない。


『次はバトル部門とレース部門のどちらからやるか決めようか。ルーレットスタート!』


 フォルフォルがそう言った直後、8等分で赤いバトルと青いレースのマスが交互に配置されたルーレットのホログラムが現れてそれが回り出した。


 徐々にスピードが落ちていき、止まったマスは青いレースのマスだった。


『ということで、今回の代理戦争もレース部門から先に始めるよ。やったね!』


 笑顔のフォルフォルが指パッチンしてルーレットが消えて24面ダイスが現れ、今度はレース部門で走るコースの選定が始まる。


 サイコロを上に放り投げてからフォルフォルが歌い出す。


『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』


 (今回はちゃんとサイコロでやるんだな)

 

 前回と比べれば元ネタに近づいたけれど、使うサイコロが普通の物ではなく24面ダイスだから元ネタそのものではない。


 24面ダイスに配置されたコース名は、いずれも恭介にとって初見だった。


 やはり、フォルフォルがわざわざ代理戦争のために用意したコースのようだ。


 動きが完全に止まった時、サイコロの面に記されていた文字はストームタワーだった。


『やったね! 第2回代理戦争のレース部門はストームタワーで開催だよ! レース部門に参加するパイロットを1分で決めてね!』


 フォルフォルはそう言うけれど、どの国も1分なんて必要としていない。


 日本以外はパイロットが1人しかいないし、日本だって恭介が出ることは事前に決めているからだ。


 10秒とかからずに、レース部門に参加するパイロットが以下の通りにそれぞれのコックピットのモニターに表示された。



  日本:トゥモロー(リュージュ/火)

  A国:ワイルドレディ(パワー/風)

  BR国:アマゾネス(アラクネ/水)

  C国:海王(ラセツ/土)

  D国:ベルリナー・ヴァイセ(リャナンシー/風)

  E国:マーリン(ケット・シー/水)

  EG国:クレオパトラ(スフィンクス/土)

  F国:ムッシュ(メビィ/風)

  IN国:カーリー(イフリート/火)

  R国:チェルノボーグ(ブラストキャリッジ/火)



 (R国はあれか? 爆発が大好きなのか?)


 第1回代理戦争の際、R国のマトリョーシカがニトロキャリッジを操縦していたが、今回はチェルノボーグがその上位互換とも呼べるブラストキャリッジを操縦すると知れば、恭介はR国のプレイヤーは爆発大好きと思ってしまっても仕方あるまい。


 それはそれとして、恭介の操縦するリュージュについて触れておこう。


 リュージュとは設計図合成キットを使い、サイバードレイクとタロウフレームの設計図を合成して造れるようになったゴーレムだ。


 翼を生やした竜人型の姿がベースだが、変形して機械竜の姿にもなれるゴーレムである。


 GBO時代にリュージュを使っているパイロットは少なかったけれど、変形して竜の姿になることが知られて有名になったから、各国のパイロット達は間違いなく恭介とリュージュを警戒しているだろう。


 余談だが、恭介のリュージュは黒金剛アダマンタイト製である。


 一般的には10階層のタワー探索を終えたところで必要になる鉱物マテリアルではなく、木目鋼ダマスカス製でも十分オーバーキルなのだ。


 そんな鉱物マテリアルでちゃっかりリュージュを構成しているので、他国のゴーレムとのスペックの差は広がるばかりだろう。


 おそらく、イベントエリアにいる日本以外のパイロット全員が、恭介のゴーレムが黒金剛アダマンタイト製だとは思っていないに違いない。


 もうすぐ転移が始めるというタイミングで、麗華が恭介に通信を使って話しかける。


『くれぐれも無茶しないでね』


「俺は無茶しないよ。俺はね」


『R国のブラストキャリッジには近づいちゃ駄目だよ。危ないから』


「そりゃ近付きたくないさ。動く火薬庫みたいなもんんだし。だが、レースのスタート位置は俺が決められないからなぁ」


『あぁ、それは確かにしょうがないか…』


 麗華は恭介が何を言いたいのか理解したため、彼女の声のトーンが落ちる。


 レースのスタート位置は総合的にこのデスゲームの進捗状況を考慮した順番だと決まっているから、チェルノボーグが日本とA国に続いて進捗率が高ければ、ブラストキャリッジが8位スタートになってしまう。


 こればかりは恭介達にはどうしようもできない問題と言えよう。


『さて、準備も整ったことだしレース参加者をコースに移動させるよ』


 フォルフォルがそう告げた瞬間、レースに参加するゴーレムの足元に魔法陣が展開され、その直後に魔法陣が光って恭介はストームタワーへと転移された。


 イベントエリアには麗華だけが残され、恭介が無事にこの場所に戻って来てくれることを祈った。


 ヴァーチャーのコックピットの中には手を組んで祈る麗華の姿があり、それをニヤニヤと見ているフォルフォルの姿があるのを彼女は知らない。

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