第52話 辛辣辛辣ゥ!
恭介と入れ替わるようにして、麗華もヴァーチャーに乗ってレース会場にやって来た。
『まさか麗華ちゃんまで代理戦争前日にレースに挑むなんてね。惚れた男の真似をしたいのかな?』
「煩い。エキサイトプールに行くから入場門を開きなさい」
『エキサイトプールは簡単なコースじゃないんだよ? 本当に良いの?』
「大怪我して明日の代理戦争に参加できるか心配だからレースに出るなって? お断りよ」
『やれやれ。麗華ちゃんはしょうがないなぁ』
コックピットのモニター上ではフォルフォルがやれやれと首を振り、麗華のリクエストに応じて入場門を開いた。
麗華はどうせフォルフォルは自分を見世物としか思っていないとわかっているから、不快な気分のまま入場門を通ってエキサイトプールに移動した。
エキサイトプールでは、既に
巨大レジャーランドのプールがモチーフにしたエキサイトプールだから、飛べるか水中仕様の機体でなければ、水に触れると速度が落ちる。
麗華は風属性のヴァーチャーで参戦しているから、属性的な相性でジョーズマンやセイレーンを相手にしても困ることはないだろう。
シミュレーターで何度も練習した今、麗華は自分のヴァーチャーなら問題なくレースで戦えると自信を持っている。
スタートラインは陸と水中の両方にかかっていたため、麗華はヴァーチャーを外側にある陸地のスタート位置まで移動させてから、レース開始のカウントダウンを待つ。
『3,2,1,GO!』
スタートの合図が聞こえるのと同時にかっ飛ばし、ヴァーチャーはスタートダッシュに成功する。
それでも、ジョーズマンやセイレーンが1機ずつスタートダッシュに成功していたため、麗華は3位に留まった。
先へ進むゴーレム達を邪魔するべく、グサダーツの群れが前方から次々にゴーレム達を襲う。
1位のジョーズマンと2位のセイレーンは水中から襲われ、3位の麗華は水面から一直線に弾丸の如く飛び出すグサダーツを受け流して1位と2位との距離を詰めていく。
あともう少しで追いつきそうなのに追いつかない状況が続き、麗華は最初のアクセルリングを視界に捉える。
(ここで追い抜いてやるわ!)
麗華は最初のアクセルリングの中心を潜り抜け、精密な操縦で次々にアクセルリングを通過して加速していく。
水上のアクセルリングはどんどん飛び込み台の上へと続いていき、麗華のヴァーチャーが飛び込み台を高速で通過した。
ノーミスだったおかげで限界速度のまま上空を移動し、水やモンスターに邪魔されずに2周目に入るが、その時に1位は3機のゴーレムが横並びになっていた。
(流れが私に向いて来たわ)
そんな風に麗華が思った理由だが、エキサイトプールというコースはゴーレムが1機でも2周目に入ると水中のコースが進行方向とは逆に流れるプールになる。
2位のゴーレムが2周目に入れば、それが進行方向と同じ流れに変わり、それ以降は奇数の順位のゴーレムが2周目に入ると逆方向の波になり、偶数だと進行方向の波に変わる。
つまり、1位集団の3機が2周目に入った今、プールの流れは進行方向とは逆になっている。
それは水中を進むジョーズマンとセイレーンにとって不利に働き、空を飛べるヴァーチャーが単独1位になったのだ。
水面から飛び出すグサダーツの群れさえ躱せれば、1位のゴーレムにとってこのレースはただのタイムアタックである。
デスゲーム7日目に恭介が見せた動きを模倣し、アクセルリングを連続してくぐることで一時的に限界を超えた速度に到達した。
その間に何度か水の流れが前後に切り替わったが、麗華は既に飛び込み台から飛んで3周目まであと少しというところだった。
麗華が3周目に入ると、流れるプールに大波が等間隔で発生するようになる。
その大波は奇数の順位のゴーレムが3周目に突入すれば、進行方向とは逆向きに生じ、偶数の順位のゴーレムが3周目に入れば、今度は進行方向と同じ方向に大波が発生する。
変化はそれだけに留まらず、誰かが3周目に入った瞬間にコース全体にクビレグリンが出現し、水中も上空も問わずゴーレムの進行を妨害し始めた。
クビレグリン自体が暴れるようなことはなく、あくまで水の流れに流された動きをするだけだから、よく観察すれば躱せる。
(ここで一気に差をつける!)
ヴァーチャーはドラキオンのように風圧のバリアを纏える程のスピードは出せないが、それでもしっかりとシミュレーターで予習した麗華はクビレグリンの妨害に引っ掛からずに進めた。
前方で8位のジョーズマンがクビレグリンに捕まっているのをスルーし、麗華はそのままアクセルリングをくぐる。
クビレグリンが現れたことにより、アクセルリングをくぐり抜け続ける難易度は上がってしまったけれど、麗華はどうにかして全てのアクセルリングをくぐり抜けてみせた。
そのおかげで7位と6位のゴーレムを周回遅れにできて、ヴァーチャーは飛び込み台から一時的に限界速度を超えたまま飛ぶ。
空を飛べるヴァーチャーを邪魔するものは存在せず、麗華はそのままゴールラインを通過した。
『ゴォォォル! 優勝は傭兵アイドル、福神漬け&ヴァーチャーだぁぁぁぁぁ!』
「予習通りに走れたわね」
前回のレースと比べてかなり余裕があったから、麗華はヴァーチャーの性能とシミュレーターの存在に感謝した。
早々にコースから離れて退場すると、レース会場前でコックピットのモニターに映ったレーススコアを確認する。
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レーススコア(ソロプレイ・エキサイトプール)
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走行タイム:20分03秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:0回
他パイロット周回遅れ人数:3人
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総合評価:A
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報酬:資源カード(食料)100×2枚
資源カード(素材)100×2枚
20万ゴールド
非殺生ボーナス:魔石4種セット×20
ギフト:
コメント:麗華ちゃんが非殺生ボーナスを貰うなんて明日は何か起きるね
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モニターに現れたフォルフォルがアワアワした様子になっているのを見て、麗華は額に青筋を浮かべる。
「本当にフォルフォルは私の癇に障ることしか言わないわね」
『だって麗華ちゃんがあまりにも麗華ちゃんらしくないことをするんだもん』
「だもんとか似合わないこと言わないでよ。気持ち悪い」
『辛辣辛辣ゥ!』
フォルフォルは麗華にツン100%の対応をされてなお、麗華をおちょくるだけの余裕があった。
「まさかと思うけど私に優しくしてもらえると思った?」
『してよ! こんなにも私は愛嬌のある見た目なんだから!』
「フォールンゲームズのマスコットを乗っ取ってるだけでしょうが。というか言動がムカつくのよ。ゲーム的に言えば好感度はマイナスを軽く突破してるわ」
『そうだよね。麗華ちゃんは恭介君のヒロインになりたいんだもんね』
「だ ま れ」
『あっはい』
フォルフォルは麗華への対応について全く学習しておらず、彼女から放たれた並々ならぬ怒気を感じてモニターから消える。
余計なことを言って怒らせるぐらいなら、最初から言わなけば良いのに言ってしまうあたり、フォルフォルはかなり業が深い存在のようだ。
フォルフォルが消えたことで冷静になり、麗華はふと自分が明日の代理戦争で変なフラグを立てていないだろうかと心配になった。
隙あらばすぐにネタに走るフォルフォルが主催者の代理戦争ならば、麗華が非殺生ボーナスを貰った記念に余計なことをしでかさないとも限らない。
もっとも、そんな心配をしたところで代理戦争は元々難易度が高くて危険なイベントだから、どんなレースやバトルになっても対応できるように恭介と対策を練るしかないのだが。
やるべきことはやり終えたので、麗華は
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