第6章 第2回代理戦争

第51話 限界は超えるためにある。違うか?

 デスゲーム11日目、恭介は朝食を済ませてから早々にレース会場に来ていた。


『ねえ、今日もレースに参加するの?』


「当然だ。明日の代理戦争のために少しでも多くのアイテムを手に入れておきたい」


『勤勉だね。まあ、私はそんな恭介君が好きなんだけどね』


「俺はノーマルなのでそういうのはちょっと…」


『私は神だ。男にも女にもなれるから問題ないよ』


 (そんな設定知ってどうしろってんだ)


 フォルフォルの意外な設定を知らされ、恭介は眉をハの字にした。


 どう返せばこの会話を終わらせられるか考え、レースに逃げることにした。


「あっそ。どうでも良いから入場門を開け」


『ツンデレフラグ立った? とりあえず入場門は開いたよ』


 フォルフォルが変なことを言い出したけれど、恭介はそれをスルーして入場門を通った。


 入場門の先は8番目のコースであるストームデザートだ。


 このコースは酷い砂嵐の砂漠を走ることになっており、視界が悪いだけでなくスピードが遅いと竜巻に巻き込まれて石畳のコースの外に飛ばされてしまう。


 砂丘に突っ込んだり砂の中に引きずり込まれても、すぐに抜け出せればリタイアにはならない。


 しかし、砂に飲み込まれて地中に埋まって動けなくなるとリタイアになる。


 モンスターもトラップも配置されており、一瞬の油断が命取りになる高難易度のコースである。


 ストームデザートからは7機の黒金剛アダマンタイト製ゴーレムが参戦し、1位の座を狙うことになる。


 その内訳だが、イフリートとキャメルパンツァーが3機ずつとドミニオンが1機だ。


 イフリートは恭介が乗っていたゴーレムだが、ストームデザートでは量産機扱いされている。


 空を飛ぶのでもキャタピラで走るのでも行けるから、臨機応変に対応することだろう。


 キャメルパンツァーは駱駝型戦車と呼ぶべきゴーレムだ。


 背中の瘤には様々な武装が仕掛けられており、強風が吹こうとブレない重量があるから砂嵐が吹き荒れる砂漠では安定したレースを見せてくれるに違いない。


 ドミニオンは二対の翼を持ち、ヴァーチャーよりも火力が高いランチャーとビームナイフを装備したゴーレムである。


 遠距離の敵とはランチャーで戦い、接近して来た敵はビームナイフで攻撃する想定だ。


 いつものことながら、シミュレーターでこのコースをどうやって攻略するかは対策済みだから、恭介は静かにレース開始のカウントダウンを待つ。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼は元々乗っていた機体のコックピットからドラキオンのコックピットの中に移った。


『GO!』


 タイミングをピッタリ合わせてスタートダッシュを成功させたが、恭介は1位でスタートしたドミニオンから自分を抜かせまいと妨害を受けた。


 (これが黒金剛アダマント製ゴーレムのレースか)


 そう思いつつ、恭介はドミニオンのビームナイフをするりと躱して先に進む。


 ドミニオンと戦わなかった理由だが、3位以降のゴーレム達が次々に後ろから砲撃を開始したからである。


 仮にドミニオンと競り合ったまま進んでいれば、後ろからの砲撃のどれかが命中するかもしれないので、ドミニオンを無視した訳だ。


 それらの攻撃があまりにも鬱陶しかったようで、ドミニオンは後ろに向かってランチャーを三度続けて発射した。


 その火力は並のものではなく、砲撃が命中した5位のイフリートが爆発した。


 爆風の向こう側から8位のキャメルパンツァーの砲撃が放たれ、爆発にギリギリ巻き込まれていなかった6位のキャメルパンツァーに当たり、こちらもまた爆発した。


 開始早々にイフリートとキャメルパンツァーが1機ずつリタイアしてしまい、残るは6機である。


 後ろの方でごたついている間に、恭介はどんどん2位のドミニオンと距離を離していた。


 (ドラキオンが高速で空を飛べて良かった)


 恭介がそんな風に思ったのは、石畳のルートにびっしりと並んで行進するデザートスコーピオンの群れを見つけたからだ。


 デザートスコーピオンは殻が硬く、群れによる行進を真正面から排除するのは骨が折れる。


 ドミニオンのライフルやキャメルパンツァーの砲撃でも倒せるけれど、まとめて一列全て貫通させることは難しく、ゴーレムの動きを鈍らせる針を飛ばして来るから射線上でじっとしているのは悪手である。


 では、石畳を外れて砂の上を走れば良いと思うかもしれないが、デザートスコーピオンの群れが現れる辺りの砂はとても沈みやすくなっている。


 ゴーレムが歩く度に砂の中に沈んでしまい、やがて砂の中に埋まってしまうか動きが鈍ったところでデザートスコーピオンの針に当たって身動きが取れなくなる。


 それゆえ、石畳を進むデザートスコーピオンを砂地に無理矢理退けるか、高速で空を飛んでデザートスコーピオンを無視するのがこのエリアの正解なのだ。


 (今度は竜巻か)


 デザートスコーピオンの群れを華麗にスルーした後、恭介の前に竜巻が現れて近付いて来る。


 だが、恭介は既にトップスピードに突入して風のバリアを纏っており、竜巻を迂回して先に進むことでタイムロスを防いだ。


 2周目に入ってしばらくすると、デザートスコーピオンの群れを蹴散らした後らしきキャメルパンツァー2機を見つけた。


 (かなり苦戦してたようだな)


 ドミニオンとイフリート2機は空を飛べるから、デザートスコーピオンの群れを無視して進んだようだが、キャメルパンツァーは空を飛べないので地道に戦っていたらしい。


 恭介が追い抜いた瞬間に容赦なく仕込んでいた武装を一斉掃射したが、恭介はキャメルパンツァー2機の攻撃をあっさりと躱して進んで行く。


 キャメルパンツァー2機を周回遅れと置き去りにしてから、3周目にもうすぐ入るタイミングで前方に絶賛戦闘中の3位のイフリートと4位のイフリートを捕捉した。


 同じスペックのゴーレムだから、滅多なことで決着はつかない。


 恭介の搭乗するドラキオンの接近で注意力が散漫になり、お互いの攻撃がそれぞれのスラスターを破損させて墜落していく。


 どちらも飛行モードからキャタピラによる陸戦仕様にチェンジしたけれど、それではドラキオンに速度で敵うはずない。


 結果として、3周目に突入すると同時に恭介はイフリート2機を追い抜かした。


 ストームデザートでは、ゴーレムが1機でも3周目に突入すると難易度が跳ね上がる。


 砂嵐が激しくなるだけでなく、砂の波が発生してゴーレムを飲み込もうとするのだ。


 レースの邪魔をするモンスターについても、デザートスコーピオンの群れから別のモンスターに変わる。


 早速、砂の波が不規則に連続して進行方向とは逆に押し寄せる。


 それを高く飛んで躱していると、5つ目の波を超えた先でドミニオンがデザートシャークに噛みつかれているのを目撃した。


 (ご愁傷様だ、ドミニオン)


 デザートシャークがドミニオンに夢中になっている間にその場を通過し、恭介はまたしても武器を使わず1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 恭介はストームデザートから脱出し、レース会場前に戻ってから黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 それによってゴーレムを乗り換えた後、コックピットのモニターに映し出されたレーススコアを確認し始める。



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レーススコア(ソロプレイ・ストームデザート)

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走行タイム:32分38秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×4枚

   資源カード(素材)100×4枚

   40万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×40

ぶっちぎりボーナス:タロウフレームの設計図

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv10(stay)

コメント:ギフトの限界突破については現在審議中だから待っててね

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「限界は超えるためにある。違うか?」


『恭介君がさっさとギフトをLv10にしちゃうから大急ぎで審議してるよ。タロウフレームの設計図を手に入れたんだし、あれが作れるはずだ。今はそっちで我慢しといてね』


「しょうがないな。明日の代理戦争に間に合っただけ良しとするか」


 モニターに現れたフォルフォルの発言に対し、恭介は納得した姿勢を見せて格納庫に帰還した。

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