第47話 わーい、なんだかとっても嫌な予感がするぞー

 麗華のパワーが聖銀ミスリル製になってから、午後の準備を済ませて昼食を取った。


 食休みが終わり、恭介と麗華はそれぞれのゴーレムに乗り込んでコロシアムへと出発する。


 コロシアムは午前と同様に快晴であり、恭介達のコックピットのモニターにはフォルフォルが現れる。


『午後もコロシアムとは勤勉だね』


「まあな。フォルフォル、俺からコロシアムについて質問だ」


『質問? なんでもは答えられないけど答えられる範囲で答えるよ』


 全て答えたらゲームにならないから、フォルフォルはネタバレにならない範囲で恭介の質問に答えるつもりだ。


 恭介も全部答えてくれるとは思っていないから、それで構わないと思って質問し始める。


「そんな面倒な質問じゃないさ。質問は3つだ。1つ目だが、コロシアムで戦うモンスターってタワー探索じゃ出て来ない奴か?」


『コロシアム限定のモンスターもいれば、タワーでこの先出て来るモンスターもいるよ』


「2つ目は、ソロプレイとマルチプレイで出現するモンスターが違う理由についてだ」


『同じモンスターが出るって面白くないじゃん。だから変えた。もしかして、コロシアムのソロプレイに興味があるの?』


 恭介がレース以外にも積極的なことは嬉しいので、フォルフォルは期待を込めて質問した。


「あるぞ。3つ目の質問だ。コロシアムバトルスコアって連戦する場合は挑戦を終了する時に一括で見ることは可能か?」


『できるよ。コロシアムに挑む前に私に言ってくれればね』


「そうか」


 訊きたかったはずの質問なのに、自分が答えたら淡泊な反応をする恭介を見てフォルフォルは不安を感じる。


『何か企んでる?』


「さあね」


『わーい、なんだかとっても嫌な予感がするぞー』


 フォルフォルにとって恭介は興味深い人物だ。


 依怙贔屓するつもりはないけれど、全参加者の中で目が離せない人物は誰かと問われればフォルフォルは必ず恭介だと答えるだろう。


 そんな彼が何か企んでいるならば、近い内にとんでもないことが起きそうだと思うのは当然である。


 恭介は自分が今考えていることを麗華に伝えていない。


 フォルフォルに監視されている以上、伝える過程でフォルフォルにバレてしまうからだ。


 実行前にバレてしまうと対策されてしまう可能性があるので、恭介はその時まで計画を口にすることはない。


 麗華も恭介の計画を邪魔したいとは思っておらず、むしろ応援するために話を逸らす。


『フォルフォル、そろそろコロシアムへの入場門を開いてよ』


『それもそうだね。ここでいつまでもだべってたって仕方ないか。はい、どうぞ』


 入場門が開いたところで、恭介と麗華は各々のゴーレムを操縦してその中に入った。


 そこに待ち構えていたのは蛇の頭が尻尾にある巨大な鶏だった。


「コカトリスだ。強酸性の毒液と羽根に気を付けろ」


『わかった!』


 コカトリスには気を付けるべき点が2つある。


 1つ目は、触れると金属すら熔かす強酸性の毒液だ。


 GBOにおいてパイロットが生身で戦闘を行うことはないから、コカトリスは神経毒や麻痺毒を使わずに強酸性の毒液を吐き出す。


 鉱物マテリアルのレアリティが高ければ高い程、その毒液に対する耐久力は強くなるけれど、じわじわと熔けるのは間違いないからできれば触れたくないものである。


 2つ目は、風に乗せて敵に飛ばす羽根だ。


 この羽根の付け根に触れてしまうと、命中部位が石化して脆くなってしまう。


 つまり、GBOの設定を引き継ぐこのデスゲームにおいて、コカトリスはパイロット泣かせのモンスターと言えよう。


 コカトリスは恭介達を視界に捉え、翼を広げて鳴き始める。


「コォケコッコォォォォォ!」


「気持ち良く鳴いてるところ悪いが、とっくに昼だぞ」


「コケッ!?」


「隙あり!」


 マジでかと驚くコカトリスに対し、恭介は蛇腹剣で刺突を放つ。


 蛇腹剣による刺突は横薙ぎや振り下ろしとは異なり、間合いの外から刃が伸びるので初見殺しだ。


 隙を突かれたコカトリスは慌てて後ろに飛ぶが、蛇腹剣が刺さってダメージを受けた。


「コケェェェ!」


 よくもやってくれたなとコカトリスは怒り、蛇腹剣に向かって強酸性の毒液を吐き出す。


 勿論、攻撃した後で武器を狙われる可能性は予測していたから、恭介は素早く蛇腹剣を元の長さに戻して毒液に触れないようにした。


『私のことを忘れちゃ困るわね』


 恭介がヘイトを稼いでいる間に、麗華はコカトリスの右側から双犬銃オルトロスガンを連射する。


 背後に回らなかったのは、尻尾である蛇の頭がこちらを見ていると攻撃を躱されると思ってのことだ。


 最初の数発だけ着弾し、コカトリスは痛みを堪えながら飛んで銃弾を躱し始める。


 躱すだけでは駄目だと思ったようで、コカトリスは麗華のパワーに向かって方向転換する。


 毒液を吐き出すモーションが見えたタイミングで、恭介は蛇腹剣を振り下ろす。


「コケェェェェェ!」


 今にも毒液を吐き出すという時、コカトリスが涙を流して絶叫した。


 その原因は恭介の蛇腹剣がコカトリスの尻尾を切断したからだ。


 それも蛇腹剣を蛇の頭にグルグル巻きにし、全力で引き抜いたことで同じ部位が何度も斬られたのだから、傷口に集中砲火するようなものである。


 怒ったコカトリスは翼をバサバサと揺らし、抜けた羽根を突風に乗せて恭介の乗るイフリートに向けて一斉に発射する。


 射線から外れることで、恭介は羽根による石化を回避した。


 それが悔しかったらしく、コカトリスはもう一度翼をバサバサと揺らし、抜けた羽根を突風に乗せてイフリート目掛けて一斉に発射する。


 恭介は先程と同じように射線から外れて躱したのだが、通り過ぎたはずの羽根を乗せる突風の向きが変わり、それがイフリートを追いかけ始めた。


「うわっ、追尾パターンか!」


 シミュレーターで追尾するパターンがあることは知っていたから、恭介はイフリートに羽根の付け根が当たらないように逃げることに専念する。


 突風を操る場合、コカトリスはその操作にかなり集中するので、それが隙になるのは言うまでもない。


『折れなさい!』


 連結した双犬銃オルトロスガンを構え、麗華が強烈な一撃を放った。


 彼女が狙ったのはコカトリスの嘴だ。


 死角からの狙撃がクリーンヒットし、コカトリスの嘴がバキッと音を立てて折れ、その痛みでバランスを崩してコカトリスは転倒した。


「ゴゲェ!?」


 コカトリスは嘴を折られた痛みでコントロールが疎かになり、恭介を追尾する突風が止んだ。


 追尾攻撃が終われば、恭介も反撃を開始する。


 蛇腹剣を素早く振り抜き、立ち上がったコカトリスの左翼を切断する。


「ゴゲェェェ!?」


『バランスを取らないとね』


 麗華が右翼を狙って狙撃し、その一撃が右翼に大穴を開けて機能しなくさせた。


「終わりだ」


 恭介が蛇腹剣をコカトリスの首に巻き付け、それを引くことでコカトリスの首を切断した。


 首を斬られても生きていられるようなタフさはないから、コカトリスの体が光の粒子になって消えた。


 戦闘終了後、恭介達の乗るゴーレムのモニターにコロシアムバトルスコアが表示された。



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コロシアムバトルスコア(マルチプレイ)

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討伐対象:コカトリス

部位破壊:嘴/翼(左右)/尻尾

討伐タイム:10分51秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:30万ゴールド

   資源カード(食料)100×3

   資源カード(素材)100×3

ファーストキルボーナス:鶏蛇斧槍コッカベルテ

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×30

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv9(stay)

コメント:恭介君のラックは異常だ。古事記にもそう書いてある

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「古事記に俺が載ってる訳ないだろ」


『良いツッコミですねぇ』


「喧しい」


 鶏蛇斧槍コッカベルテ双犬銃オルトロスガンと同様にモンスターの名前を冠した武器であり、刃に触れた部位から石化して脆くさせるハルバードだ。


 GBOにおいて、低確率でモンスターの特徴が反映された武器がドロップすることがあるのだが、恭介はコロシアムのファーストキルボーナスでその低確率を引き当てた。


 蛇腹剣も良いが、GBO時代にハルバードを使っていたこともあったので、恭介は次から鶏蛇斧槍コッカベルテを使うことにした。


 それはさておき、連戦する準備はしていなかったため、恭介と麗華はコロシアムを出て格納庫に帰還した。


 キマイラとコカトリスは今までに遭遇したモンスターよりもずっと強いし、報酬もタワー探索より豪華なものだった。


 したがって、この2体を倒しただけでも今日の戦果は十分だと判断し、この後はそれぞれの自由時間とした。

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