第46話 もうちょっと苦戦しよ? 運営からのお・ね・が・い♡

 帰還した恭介がコックピットから出て来ると、麗華は笑顔で出迎える。


「恭介さんおめでとう! 今日のレースはすっごいハラハラしたけど最高にクールだった!」


「お、おう。ありがとう」


 最高にクールなんて感想は生まれて初めて言われたものだから、恭介は少し戸惑いつつ麗華に応じた。


 麗華は恭介が手に持っている物について話したそうにしていることに気づき、やってしまったと反省した。


「ごめんね。私だけすっかり興奮しちゃってた」


「いや、俺の出たレースを評価してもらえるのは嬉しかったぞ。ただ、最高にクールだなんて初めて言われたから驚いたんだ」


「あはは、ごめんね。ところで、手に持ってるそれは何?」


 質問された途端、今度は恭介のテンションが上がる。


「よくぞ聞いてくれた! これは設計図合成キットだ!」


「それが!? ドラームドの設計図を完成させたレアアイテム!?」


「正解!」


「すご~い! 恭介さんのラック半端ない! 良いなぁ~」


 これまでのタワー探索において、恭介は全ての宝箱を見つけて来た。


 そのラックの影響がこんなところにも出るなんてと麗華は羨ましがった。


 もしかしたら、恭介を拝めば御利益があるのではと思ったらしく、麗華は恭介を拝み始める。


「麗華、何やってんの?」


「私もレアアイテムを手に入れられますように」


「俺は神じゃないぞ?」


「わかってるけど拝んで効果があったら儲けものでしょ?」


 こう言われてしまえばそれ以上何も言えず、恭介は麗華の気が済むまで拝ませた。


 それから、気持ちを切り替えて恭介達は各々のゴーレムに搭乗し、転移門ゲートを通ってコロシアムへと向かう。


 コロシアムの空は青く晴れ渡っており、恭介と麗華は久し振りに外に出た気がした。


「晴れた空か。太陽まであるぞ」


『太陽を見るのは久し振りね。ここの太陽ってどうなってるのかしら?』


『これは疑似太陽だよ。太陽によく似た物体だけど本物じゃない。コロシアムは天候という新たな要素が加わる。天候を味方に付ければ楽ができるかもしれないから上手く使ってね』


 フォルフォルは麗華の質問に答えてから、入場門を開いていつでも中に入って良いぞと2人に入場を促した。


 恭介達は促されるままに入場門を通り、その先で挑戦者を待つモンスターを見つける。


 そのモンスターは全身が赤くて獅子と山羊と蛇の頭を持ち、胴体は獅子で背中から蝙蝠の翼を生やし、尻尾は蛇のものだった。


「これがキマイラか。GBO時代じゃ戦ったことがないから、麗華に負担をかけたらすまん」


『大丈夫。戦闘は私が頑張るから。それに、シミュレーターで準備したんだもの。勝つよ』


「そうだな。絶対に勝とう」


 準備もせず情報もないまま戦うのは危険だけれど、恭介達にはシミュレーターがあるから情報もあれば模擬戦で戦った経験もある。


 勝てる条件は十分にあると言って良いだろう。


「ガォォォォォ!」


「メェェェェェ!」


「シャァァァァ!」


 獅子と山羊、蛇の頭のそれぞれが恭介と麗華を警戒して吠え、2人の操るゴーレムよりも高く飛び上がる。


「蛇は俺がやるから山羊を任せた」


『了解!』


 シミュレーターで模擬戦をした限りでは、3つの頭それぞれが自立している。


 GBOで倒した経験のある麗華によれば、先に両脇の山羊と蛇の頭を潰すのがポイントらしい。


 仮に中央の獅子の頭を先に攻撃しようとすれば、山羊と蛇の頭がそれを邪魔する。


 だったら先に山羊と蛇の頭を潰してしまえという訳だ。


 獅子の口が横薙ぎに火を吐き出すが、恭介がイフリートの機能を活用してその火を吸収する。


「チャージをしてくれてありがとよ!」


「ガォン!?」


 獅子の頭はまさか自分のブレスが防がれるとは思っていなかったらしく、そんな馬鹿なと言いたげな表情をしていた。


 山羊の頭と蛇の頭も目をパチパチさせて驚いていたため、恭介はその隙に蛇の頭を斬り落とさんと蛇腹剣を振るう。


 キマイラは木目鋼ダマスカス製の武器でようやく傷つけられるような硬さであり、聖銀ミスリル製だからといって一撃で切断できるような硬さではない。


 ところが、今のイフリートは獅子の頭のブレスを吸収したおかげでパワーアップしているから、聖銀ミスリル製の蛇腹剣だからと油断していた蛇の頭があっさり切断されてしまった。


「ガォッ!?」


「メェッ!?」


 こんなに簡単に蛇の頭が切断されるのは予想外だったのか、獅子と山羊の頭が驚きの声を上げた。


「油断大敵よ」


 麗華は双犬銃オルトロスガンで狙いを定め、切断された蛇の頭の方を見ていた山羊の両目を撃ち抜いた。


「メェェェェェェェェェェ!」


 両目を撃ち抜かれた山羊が絶叫し、その叫び声がコロシアムを振動させる。


「大口開けるなんて馬鹿ね」


 大きな声を出すには当然口を大きく開けなければならない。


 外皮が硬いならば、柔らかい体の内側に攻撃を当てれば良い。


 つまり、絶叫して大口を開けている山羊の頭は格好の的であり、麗華は惜しみなく双犬銃オルトロスガンを連射した。


 その結果、山羊の口内に入った全ての弾丸が外側まで突き破り、山羊の頭は機能しなくなった。


 初めて現れた敵に強者としてマウントを取りたかったキマイラだが、既に山羊と蛇の頭部を破壊されて残ったのは獅子の頭だけだ。


 属性的に相性が良いから、キマイラは麗華のパワーに向かって火を吐く。


「やらせないから」


 恭介がイフリートを操縦し、麗華とキマイラの間に割って入る。


 イフリートはキマイラのブレスを吸収できるから、攻撃は通じないしイフリートをパワーアップさせてしまうしで踏んだり蹴ったりである。


 キマイラとの戦闘で両脇の頭を破壊できたら、次に行うべきは翼を破壊することだ。


 頭部を失い、機動力も失えばキマイラなんて頑丈な火を吐く獅子でしかない。


 恭介は吸収したブレスで強化した状態でキマイラの背後に回り込み、蛇腹剣を素早く振るってその両翼とついでに尻尾も切断した。


「ガォォォォォ!?」


 翼を斬られて空を飛べなくなり、キマイラは地面に墜落した。


『ギフト発動!』


 麗華は金力変換マネーイズパワーを発動し、5万ゴールド払ってから墜落したキマイラを連結した双犬銃オルトロスガンで撃ち抜く。


 キマイラの体が硬いことを考慮し、いつもの5倍のゴールドをコストにして過去一番に強力な一撃を放てば、撃ち抜かれたキマイラの体が光の粒子になって消えた。


 コロシアムではスコア発表の際にまとめて支払われるから、戦利品がコックピットのサイドポケットに転送されない。


 戦闘が終わったと判定され、そのスコアが恭介達の乗るゴーレムのモニターに表示された。



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コロシアムバトルスコア(マルチプレイ)

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討伐対象:キマイラ

部位破壊:頭(山羊・蛇)/翼(左右)/尻尾

討伐タイム:7分36秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:30万ゴールド

   資源カード(食料)100×3

   資源カード(素材)100×3

ファーストキルボーナス:聖銀ミスリル×60

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×30

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv9(stay)

コメント:もうちょっと苦戦しよ? 運営からのお・ね・が・い♡

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 (その願いは聞く訳にはいかないな)


 コメント欄はサラッと読んで斬り捨て、恭介は麗華に話しかける。


「麗華、お疲れ様。ギフトで頑張ってくれたけど、レベルは上がったか?」


『うん! 金力変換マネーイズパワーがLv6になったよ!』


「おぉ、そいつは上々だ。ファーストキルボーナスは確認した?」


聖銀ミスリルでしょ!? 確認したよ! 運が私にも回って来たわ!』


 キマイラ戦の報酬は、麗華にとってかなりありがたいものだったようだ。


 ゴーレムを構成する鉱物マテリアルはワンランク上にできるし、ギフトレベルも上がった。


 金力変換マネーイズパワーで支払った分よりも多くのゴールドが貰えたから、収支で言えば完全にプラスだ。


 この結果に麗華が喜ばないはずはない。


 自分にとってめぼしい報酬はなかったけれど、麗華が満足する報酬を得られたなら良かったと思えるぐらいには恭介は心が広かった。


 コロシアムでは連戦することもできるが、麗華のパワーを調整する必要があるので恭介達は格納庫に帰還した。

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