第45話 勝手に走ってどうぞ

 デスゲーム9日目の朝、恭介は朝食後のコーヒーを飲みながら麗華に話しかける。


「俺は今日もレースしに行くぞ。麗華はどうする?」


「止めとく。パワーならエキサイトプールでも戦えると思うけど、シミュレーターでの成績が安定しないの。もうちょっと安全マージンが確保できたら挑むわ」


「了解。それなら、俺が帰ってきたらコロシアムに挑もうか」


「うん。コロシアムの報酬次第ですぐに挑めるようになるかもしれないし」


 麗華と認識を共有できたので、恭介はコーヒーを飲み干して立ち上がる。


 麗華に見送られてレース会場にやって来たところで、フォルフォルがコックピットのモニターに現れる。


『コロシアムに専念しないの?』


「タワー探索では11階層以上に行けないが、レースは別にそんな制限がないだろ?」


『まあね。それにしても、恭介君はいつになったら武器を使ってくれるのかな?』


 恭介の言い分は正しいから、フォルフォルは頷きつつずっと気になっていることを訊ねてみた。


「俺が武器を使うのはそれに値するレベルの相手が現れた時だ」


『俺が武器を使うのはそれに値するレベルの相手が現れた時だ(キリッ)』


「ネタ扱いすんな。さっさと入場門を開け」


『はーい』


 新しい名言だと思って真似するフォルフォルに対し、恭介はジト目を向けてコースに案内しろと告げた。


 フォルフォルも恭介を怒らせると怖いとわかったから、超えてはならないラインを見極めておとなしく入場門を開いた。


 イフリートを操縦して入場門を通った先には、7番目のコースであるデンジャラスシティがあった。


 このコースはモンスターが出て来ない代わりに、銃火器のギミックや地雷、爆弾が大量に仕掛けられているビル街だ。


 常に銃弾が何処かで発砲されており、他の競争相手と同じぐらい警戒しなければならない。


 スタート位置には既に7機の聖銀ミスリル製ゴーレムが待機している。


 デンジャラスシティで競うゴーレムの内訳だが、アラクネとスフィンクスが3機ずつとヴァーチャーが1機だ。


 アラクネは上半身が女型で下半身が蜘蛛のゴーレムであり、立体機動が得意なゴーレムだ。


 ワイヤーを蜘蛛糸のように射出して移動することもできるから、デンジャラスシティのようにビル街では活躍できることだろう。


 スフィンクスは防衛に特化した猫獣人型ゴーレムであり、魔石のエネルギーを消費して常に球体状のバリアを機体の周りに展開している。


 二足歩行も四足歩行も可能だが、バリアにエネルギーを割いている分速度はあまり出ない。


 デンジャラスシティでギミックによって退場させられないようにするなら、手堅くスフィンクスを使うのが良いだろう。


 ヴァーチャーは左右二対の翼を持ち、銃剣を持ったゴーレムだ。


 パワーよりもスリムなボディであり、火力と速度のバランスの取れた機体である。


 シミュレーターでデンジャラスシティをどう攻略するかは対策済みなので、恭介はイフリートをスタート位置まで移動させてレース開始のカウントダウンを待つ。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はイフリートのコックピットからドラキオンのコックピットの中に移動した。


『GO!』


 タイミングをピッタリ合わせてスタートダッシュを成功させると、恭介は早々に1位に躍り出た。


 デンジャラスシティでは順位が高ければ高い程銃火器ギミックで攻撃されていくから、スタートダッシュを決めないのがセオリーだ。


 しかし、恭介はドラキオンのスペックを信じてスタートダッシュを決めてみせた。


 当然ドラキオンを狙うギミックは多いのだが、恭介は風圧によって生じたバリアで躱さずとも済む銃弾の軌道を変え、躱さなければならない種類の弾丸だけ的確に躱していく。


 2位のヴァーチャーは恭介が飛んで行った軌跡を追いかけるのだが、恭介が風圧で軌道を逸らした弾丸が近くの地雷に命中し、その爆発で安全なルートを遮られてしまう。


 少しでも減速すれば、嵐の如く激しい銃弾にやられてしまうのがデンジャラスシティだから、ヴァーチャーは爆発を迂回して先に進もうとする。


 そこに後続のアラクネ3機が現れ、ワイヤーでヴァーチャーを拘束しようとする。


 後ろで2位~5位が争っているのを放置して、恭介は今日も今日とて1位を独走する。


 設置された爆弾の爆風に加え、軌道を逸らして爆発した地雷の爆風でトップスピードを超えることにより、シミュレーターで練習したよりも短いタイムで2周目に突入する。


 (スフィンクス発見。安定してるけど鈍いな)


 6位~8位のスフィンクスを捕捉すると、恭介はそれらを盾にして通常なら選ばないルートを進む。


 一瞬でもスフィンクスのバリアを盾にできれば、更なるタイム短縮が可能なのだ。


 恭介がそのルートを選ばないはずがないだろう。


 現在、恭介の乗るドラキオンを狙う銃火器はスタート時の倍以上だ。


 他のゴーレムを周回遅れさせたゴーレムがいると、デンジャラスシティのギミックはそのゴーレムを最優先で排除しようとするからである。


 それでも、恭介は並々ならぬ集中力でギミックを躱して活かす。


 もう少しで3周目に突入するタイミングで、1機のアラクネの爆散した破片を見つけ、前方には倒壊したビルに巻き込まれて動けなくなっているもう1機のアラクネもいた。


 2位のヴァーチャーと3位のアラクネは、お互いに邪魔だと思っているようでギミックを避けつつ攻撃し合っている。


 そこに絶賛ヘイト集中状態の恭介が合流すればどうなるか。


 答えは簡単だ。


 今までにない物量の銃弾を捌き切れず、ヴァーチャーもアラクネも蜂の巣になって撃墜された。


 これで余計に恭介を狙う銃火器が増えてしまい、爆発によってビルが倒壊してドミノ倒しまで起きる。


 (ビルがこっちに倒れて来たか! いや、ドラキオンなら行ける!)


 高層ビルが倒れて来てしまい、あと少しでゴールラインに続くルートを塞いでしまいそうになっていた。


 だが、恭介はドラキオンのスペックを信じて減速せずに進む。


 少しでも躊躇して減速すれば間に合わなかっただろうが、トップスピードを維持したまま進んだことで恭介は高層ビルが完全に地面に触れる前にゴールできた。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黄色い弾丸、トゥモロー&ドラキオンだぁぁぁぁぁ!』


 恭介は危険なコースから早々に脱出し、レース会場前に戻ってから黄竜人機ドラキオンをキャンセルした。


 それによって自動的にイフリートに乗り換えた後、コックピットのモニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・デンジャラスシティ)

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走行タイム:28分14秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×3枚

   資源カード(食料)50×1枚

   資源カード(素材)100×3枚

   資源カード(素材)50×1枚

   35万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×35

ぶっちぎりボーナス:設計図合成キット

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv9(up)

コメント:ド迫力のレースをありがとう! 私も走りたくなって来た!

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 (勝手に走ってどうぞ)


 フォルフォルのコメントに対して恭介が塩対応なのは、ぶっちぎりボーナスで手に入れた設計図合成キットが原因だ。


 GBO時代、瑞穂サーバーのゴーレムレース第1回大会と第2回大会で手に入れたアダマントタンクとドラゴイルの合成図は、タワー探索中に手に入れた設計図合成キットでドラームドの設計図になった。


 ドラームドの設計図にもう1つ別のレアアイテムを使うことで、ドラキオンの設計図になるのだが、今はそれを置いておこう。


 とりあえず、恭介はGBO時代にお世話になったアイテムを手に入れたため、そっちに注意が向いているのである。


 自分のメッセージがスルーされていると気づき、フォルフォルはイフリートのモニターに現れる。


『私のコメントを無視しないで!』


「そんなことより設計図合成キットの方が大事」


『あっはい』


 真顔の恭介にぴしゃりと言われてしまえば、フォルフォルはおとなしくモニターから消えた。


 まだレアアイテムを手に入れた興奮は収まらないが、麗華をこれ以上待たせると心配させてしまうので、恭介は転移門ゲートを通って格納庫に帰還した。

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