第44話 歓迎するよ。手荒な方法でな

 それぞれのゴーレムに搭乗し、恭介達は転移門ゲート経由でタワーに向かった。


 魔法陣に乗って10階層に移動すると、そこは5階層と同様にスタートから広間になっており、ボスモンスターのレッサーデーモン2体が待ち構えていた。


 レッサーデーモンはインプが進化した姿であり、全身が黒く、尖った耳と充血した目、蝙蝠の翼、鉤のある長い尻尾といった特徴は変わらない。


 身体的特徴で変わったところと言えば、膨れていた腹が引っ込んで身長が伸びたところだろう。


 武器もインプとは異なり、片方は何かの骨を削って作られた槍を握っており、もう片方はホブゴブリンの頭蓋骨と背骨で作られたメイスを握っている。


 レッサーデーモン達は恭介達を視界に捉えて臨戦態勢に入り、2体の足元を中心とした紫色の魔法陣が発生する。


 その魔法陣からは6階層以上で出て来たモンスターの混成集団が現れ、10階層は一気にモンスターハウスへと変わってしまった。


 レッドキャップとサファギン、ハニワン、シルクモスがレッサーデーモンを囲み、恭介達は数的不利に追い込まれる。


 この事態はシミュレーターで体験済みだから、恭介も麗華も慌てたりしない。


「シミュレーターで練習した通りにやるぞ」


『了解』


 恭介は蛇腹剣を振るって真っ先にシルクモス達を倒して回り、麗華は双犬銃《

オルトロスガン》でハニワン達を掃討した。


 まずは自分達の属性的に相性が良い敵から倒したのである。


 種族は違えど敵に味方を倒されて黙っていることはないから、レッドキャップ達は麗華を狙い、サファギン達は恭介を狙って接近する。


 恭介達は背中合わせに戦っていたが、お互いに相性が悪い敵とそのまま戦うなんてやり方は選ばず、くるりと半回転してお互いの位置を入れ替えた。


「歓迎するよ。手荒な方法でな」


『蜂の巣にしてあげる』


 レッドキャップ達は恭介の蛇腹剣によって一刀両断され、サファギン達は麗華の双犬銃オルトロスガンによって次々に蜂の巣にされた。


 取り巻き全てを倒した時、2人に隙が生じると思っていたのだろう。


 レッサーデーモンとインプの思考は変わっておらず、今がチャンスだと思ってメイスを持った個体が恭介を襲い、槍を持った個体が麗華を襲った。


「油断する訳ないだろ?」


『考えが甘々』


「「ナンダト!?」」


 (片言でも喋れたのか)


 拙くとも喋れる分、進化してインプよりは賢くなっているようだ。


 恭介はそんなことを思いつつ、頭上からメイスを振り下ろして来たレッサーデーモンの攻撃を蛇腹剣で応じた。


 聖銀ミスリル製の蛇腹剣が10階層のボスモンスター如きの武器に負けるはずなく、そのレッサーデーモンはあっさりと武器ごと真っ二つにされて消えた。


 麗華を襲っていたレッサーデーモンだが、双犬銃オルトロスガンの連射に対して槍を自分の前で高速回転させて弾丸を防ごうとした。


 しかし、木目鋼ダマスカス製の弾丸だってレッサーデーモンの武器を壊すには十分だから、あっという間に耐久度がなくなって壊れた。


 それでも、連射された時から逃げることを考えていたこともあり、レッサーデーモンは何発か喰らっていても倒れずに距離を取っていた。


「麗華の攻撃から生き延びるとはね」


『仕留め切りたかったなぁ』


 麗華の迎撃でかなりダメージは入っていても倒し切れなかったから、レッサーデーモンも馬鹿ではないらしい。


 再びレッサーデーモンの足元を中心とした紫色の魔法陣が発生し、レッドキャップジェネラルとサファギンモンク、シャッコウ、モスマンが1体ずつ現れた。


 レッサーデーモンは自身の攻撃に失敗した時、魔法陣で6階層から9階層の昇降機を守るモンスターを召喚する。


 その行動自体はシミュレーターで把握していたため、先程麗華が仕留め切りたかったと言った訳だ。


「レッドキャップジェネラルとモスマンは俺がやる」


『私はサファギンモンクとシャッコウね。任せて』


 すぐに役割分担を済ませ、恭介と麗華は各々が対応すべきモンスターに攻撃を始める。


 属性的に相性が良いモスマンとシャッコウを素早く倒し、レッドキャップジェネラルとサファギンモンクを倒した時、レッサーデーモンは頭を抱えた。


「モウダメダァァァ!」


『ギフト発動』


 麗華は金力変換マネーイズパワーを発動し、1万ゴールド払ってからレッサーデーモンを撃ち抜いた。


 胸のあたりに大きな穴が空き、レッサーデーモンの体が光の粒子になって消えた。


 コックピットのサイドポケットに戦利品が転送されたのを確認し、恭介は麗華に声をかける。


「お疲れ様。麗華が戦ってた奴は少し面倒だったけど、概ね打ち合わせ通りできたな」


『そうね。シミュレーターではあんな個体は出なかったのに。フォルフォルが不良品を使わせたのかしら?』


「どうだろうな。あいつが特殊個体だったのかもしれないぞ」


『それなら特殊個体のデータもシミュレーターにインストールしてほしいね』


 やるべきことはやり終えたから、恭介と麗華は昇降機で11階層に移動してから魔法陣でタワーを脱出する。


 それと同時に、タワー探索スコアが2人の乗るゴーレムのモニターに表示された。



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タワー探索スコア(マルチプレイ)

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踏破階層:10階層

モンスター討伐数:73体

協調性:◎

宝箱発見:設置なし

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総合評価:S

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報酬:5万ゴールド

   資源カード(食料)10×1

   資源カード(食料)5×1

   資源カード(素材)10×1

   資源カード(素材)5×1

ボスファーストキルボーナス:アップデート無料チケット(私室)

特殊個体キルボーナス:アップデート無料チケット(格納庫)

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv8(stay)

コメント:特殊個体を引き当てるなんて運が良いね

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 (キルボーナスが貰えるなら特殊個体が出て来るのも悪くないな)


 自分の予想がタワー探索スコアで正しいとわかると、キルボーナスが貰えることを喜ぶ一方で気になることも出て来たからフォルフォルを呼ぶ。


「フォルフォル、シミュレーターで特殊個体と戦えるようにならないのか?」


 デスゲームの運営として、ゲームに関わる質問を無視するフォルフォルではないから、恭介に呼ばれてすぐにモニターに現れた。


『私室ver.5のシミュレーターなら特殊個体のデータもインストールされるよ。恭介君は今回のボーナスでver.5になるから戦えるようになるね。麗華ちゃんは2回アップデートしないとだね』


「やっぱり意図的に特殊個体のデータが遮断されてたのか」


『そりゃなんでもかんでもすぐに教えられないよ。ゲームにならないもん』


 フォルフォルの言い分は納得できなくとも理解はできたので、恭介はひとまず帰還したらさっさと私室をアップデートしようと決めた。


「麗華、私室をver.5までアップデートできるか?」


『なんとかね。無料アップデートチケットが手に入ったから、ver.4にするのにお金を使って、ver.5にするのはチケットを使えばお金は足りるかな』


「そうか。じゃあ、帰って作業に入ろう」


『うん』


 恭介達は格納庫に帰還し、それからすぐに待機室パイロットルームへと移動した。


 2人の私室をver.5にした後、恭介は格納庫をver.4にアップデートして、麗華は食堂をver.7にアップデートした。


 麗華が特殊個体キルボーナスで手に入れたのは、恭介とは異なりアップデート無料チケット(食堂)だったため、格納庫と食堂が一度ずつアップデートされた訳だ。


 ver.4になった格納庫では、内装を好きな戦艦のものに変えられるようになり、ゴーレムの作成と修理に必要な鉱物マテリアルの使用量が15%カットされるようになった。


 ver.7になった食堂では、一日三食しか出なかった今までとは異なり、一日に一度だけ食事とは別にスイーツが食べられるようになった。


 これには麗華も大喜びである。


「パフェにプリンアラモード、クレープまである!」


「みたらし団子とかカステラまであるのか。レパートリーが多いな」


 訂正しよう。


 恭介も静かに喜んでいる。


 何はともあれ、恭介達は明日から第2回代理戦争が終わるまで11階層以上には挑めないから、私室ver.5でシミュレーターに追加されたコロシアムのモンスターとの模擬戦を行い、明日に備えることにした。

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